初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

93話

「……ん」
「お、やっと来たか、聡太!」

 国外に出ると──何故か勇輝がいた。
 いや、勇輝だけじゃない。
 セシル隊長も川上先生も、剣ヶ崎もいる。

「お前ら……何やってるんだ?」
「んや、なんかセシル隊長が頼みがあるんだってよ」
「セシル隊長が、俺に……?」

 セシル隊長が頼みとは珍しい。
 今もまだ悩んでいるように眉を寄せているセシル隊長に近づき、聡太は不思議そうに問い掛けた。

「セシル隊長、頼みって?」
「…………すまない、ソータ。一度、『イマゴール王国』に戻ってくれないか?」
「『イマゴール王国』に? 急にどうしたんだ?」
「その、だな……エクステリオン様が、お前に会いたがっているのだ」

 エクステリオン……確か、『イマゴール王国』の国王だ。
 聡太たちが異世界召喚された時、国王は『地精国』に行っており、その後聡太は『大罪迷宮』の深下層に落ちたため、聡太とエクステリオンは出会っていない。
 この前『イマゴール王国』に戻った時も、国王に出会う事なく国を出た。

「……理由は?」
「エクステリオン様に、こう言われたのだ。ソータという勇者は『十二魔獣』を討伐しているが、他の勇者は目立った戦果を上げていない……とな」
「けど、剣ヶ崎がレオーニオを討伐……してないのか。まあでも撃退したし、一応の戦果は上げただろ」
「それを、嘘と思われるかも知れない。だから……頼む、ソータ。お前がエクステリオン様に、トウマが単独で『十二魔獣』を撃退したと伝えて欲しいのだ」

 ……なるほど。どうやら、エクステリオンは勇者の事を良く思っていないらしい。
 それも当然だろう。自分が他国に行っている間に、グローリアが勝手に召喚したのだから。
 そんな奴らが、目立った戦果も上げずにいれば──

「……ただ飯を食わせて、寝る場所を与えるだけになるもんな」
「理解が早くて助かる……頼めるか、ソータ」
「……一つだけ聞かせてくれ」
「なんだ?」
「セシル隊長は、なんでそこまで俺らの事を気に掛けてくれるんだ?」

 聡太の質問に、セシル隊長はさも当然のように答えた。

「俺は、お前らが好きだからな」

 ニカッと笑うセシル隊長の姿に、聡太は苦笑を見せた。

「……あんた、マジで勇輝に似てるよな」
「そうか?」
「ああ……」

 ──道理どうりで、あんたを嫌いになれないわけだ。
 喉まで出かかった言葉を飲み込み──別の言葉を口にした。

「わかった。『イマゴール王国』に行こう」
「……すまない、助かる」

 セシル隊長に笑みを見せ、話を聞いていた五人に視線を向けた。

「悪い。『リーン大海』に行く前に、『イマゴール王国』に行くぞ」
「ソータ様が決めた事なら」
「おー? おー! よくわかんないけど、わかったー!」
「……まあ、別に良いですけどぉ」
「ウチも構わないわ」
「うん、もちろんいいよ〜」

 五人の返事を聞く──と同時、聡太の背中が思い切り叩かれた。

「いっ──?!」
「久しぶりに聡太と一緒に行動できんだな! いつぶりだ? 『大罪迷宮』に行ったっきりだから……かなり前だよな!」

 嬉しそうに笑いながら、勇輝が何度も聡太の背中をバシバシと叩く。

「て、めぇコラ勇輝……! 自分の力を理解しろよ……!」
「あ? なんて?」
「ぶん殴るぞこの筋肉ダルマが……!」
「な、何怒ってんだよ……?」

 痛みに顔を歪める聡太を見て──アルマクスとフォルテは、驚いたように目を見開いた。というのも、てっきり躊躇ちゅうちょなく反撃するかとするかと思っていたからだ。
 だが……聡太は勇輝を睨み付けるだけで、手を出そうとしない。
 友人にも冷たいのかと思っていたが──どうやら違うようだ。

「聡ちゃん、みんなと一緒に『イマゴール王国』に行くの〜?」
「まあ、そうだな」
「……なら、ちょっと雪乃と雫の所に行ってくるね〜?」
「ああ」

 氷室と水面の元に駆けて行く火鈴を見て──聡太たちは、『イマゴール王国』へ向かって歩き始めた。

────────────────────

「……なんか、変な感じだな」
「あ?」
「いや、こうして聡太と一緒に見張りをする日が来るとは思ってなかったからよ」

 聡太と向かい合って座る勇輝が、焚き火を見ながらどこか懐かしむような表情を浮かべる。

「……言われてみれば、そうだな。国外でお前らと一緒に夜を迎える日が来るとは、思ってなかったな」

 聡太の太ももを枕にして眠るハルピュイアの頭を撫で、聡太もまた懐かしむように瞳を細めた。

「……その『獣人族ワービースト』は、随分ずいぶんと甘えたがりなんだな」
「ハルピュイアだ。いい加減、名前覚えろよ」
「……できるだけ努力する」
「じゃあ、俺と一緒にいる『黒森精族ダークエルフ』の名前は?」
「……………」

 嘘だろ覚えてないのかよ。

「お前なぁ……」
「こ、これから覚えるから問題ないだろ?」
「……お前、今までミリアの事どうやって呼んでたんだよ……」
「嬢ちゃんって呼んでたんだが……」
「嬢ちゃんってお前……ミリアの方が年上だぞ?」
「えっ」

 寝袋に入って眠るミリアを見て、勇輝が驚愕に目を見開く。

「ミリアは30過ぎの年上だ。『森精族エルフ』は長寿な種族だし、不思議な話でもないだろ」
「30過ぎって……じ、じゃあ、その『獣人族ワービースト』は?」
「コイツは14。ミリアが特殊なだけだ」

 ……まあ、他にも年齢不詳の奴はいるのだが。

「……何をジロジロと見てるんですぅ?」

 目を閉じて座っていたアルマクスが、聡太の視線に気づいてゆっくりと瞳を開いた。

「んや。お前って何歳なんだ?」
「……女性に年齢を聞くのは失礼だって教えてもらわなかったんですぅ? というか、ボクがアナタ方より年上に見えますかぁ?」
「この前、俺の事をガキって言ってただろうが」
「へぇ……よく覚えてますねぇ」

 どこかバカにしたように笑い、アルマクスがのらりくらりとした調子で続ける。

「お察しの通り、ボクはアナタたちより年上ですよぉ」
「……いくつなんだ?」
「あっはぁ……いくつに見えますぅ?」

 ……いくつに見えるか?
 聡太たちよりも年上なのは確実。さらに言えば、31歳のミリアよりも知識があり、頭の回転速い。
 だとすれば、ミリアよりも年上の可能性もある。
 という事は──

「40とか?」
「『血結晶技巧ブラッディ・アーツ』、『紅弾バレット』」
「おっと──」

 真っ暗な夜空に紅色の魔法陣が浮かび上がり──そこから、紅色の結晶で作られた弾丸が射出される。
 対する聡太は『黒曜石の短刀』と『白桜』を抜き──寝ている人たちが起きないように、全ての弾丸を打ち落とした。しかも、座ったままの状態で。
 多少の金属音が響いたが──誰も起きていない。

「いきなり魔法使うなよ。ハピィが起きたらどうするんだ」
「……アナタ、本当にボクを怒らせるのが上手ですねぇ?」
「お前がいくつに見えるとか聞くからだろうが。つーか別にお前が50歳でも100歳でも驚きはしねぇよ」
「喧嘩売ってるんなら買いますけどぉ?」

 【大罪技能】を持つ勇者と『紅眼吸血族ヴァンパイア・ロード』が睨み合い──冗談で済む空気ではないと察した勇輝が、慌てた様子で声を上げた。

「あ、あ! わかったわかった! 19歳とかだろ? 違うか?」
「……残念ですけど、そこまで若くはないですよぉ」
「マジで? いやーめちゃくちゃ若く見えるけどな!」

 勇輝の言葉で機嫌を直したのか、アルマクスが殺気を収めた。
 鬼龍院 勇輝。人生一のファインプレーである。

「んで? 結局何歳なんだ?」
「……27ですよぉ」
「なんだ……てっきり、30は過ぎてると思ってたんだけどな」
「『二重・紅弾ツヴァイ・バレット』」
「『魔反射』」

 再び魔法陣が浮かび上がり、先ほどよりも強固で速い弾丸が射出される。
 紅色の弾丸が聡太に当たる──直前、不透明の壁が現れ、弾丸を夜空へと跳ね返した。

「二重強化を使うなよ。危ないだろうが」
「アナタ、喧嘩売ってるんですよねぇ?」
「頼むから落ち着け!」

 勇輝の声を聞き、両者が不満そうにしながら殺気を収めた。

「……何なんだよコイツら……」

 いるだけで寿命が縮むような感覚に、思わず勇輝は大きくため息を吐いた。
 この後も、聡太とアルマクスが何度も衝突し合い、そのたびに勇輝が何とか場を収め。
 ──夜はゆっくりとけていった。

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