初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

84話

「──剣ヶ崎!」
「鬼龍院……みんな」

 剣ヶ崎が勇者一行いっこうの姿を見つけ──どこか、罪悪感を感じたかのように目を伏せた。
 ……【技能】に呑まれていたとはいえ、自分は仲間たちに襲い掛かったのだ。何よりも早く、まずは謝罪を──

「討魔」
「光……」
「……そう、いつもの討魔ね。安心したわ」
「う、うん! さっきまでは怖かったけど……いつも通りに戻ったなら、良かった!」

 破闇のホッとしたような表情と、小鳥遊の心底嬉しそうな笑みを見て──剣ヶ崎の瞳に、涙が浮かんだ。
 ──嫉妬に狂い、誰よりも強くなってやると決めた自分勝手なボクの事を……心配してくれるのか。

「……みんな、すまなかった。自分の心に負け、ボクは……みんなに襲い掛かってしまった」

 謝罪を口にする剣ヶ崎が、深く頭を下げた。

「これからの戦いで、罪滅ぼしをさせてほしい! もう二度と、みんなを襲わないと誓う! だから──」
「何を言ってるの、討魔?」

 破闇が剣ヶ崎に歩み寄り、美しい微笑を見せた。

「謝罪なんて要らないわ。それより……あなたに何もなくて、良かった」
「っ……」

 破闇の言葉に、剣ヶ崎がポロポロと涙を流し始める。
 そんな二人の横を通り抜け……セシル隊長が、火鈴に話し掛けた。

「カリン、あの『十二魔獣』は?」
「……ごめんなさい。逃げられました」
「そうか……いや。とにかく今は、誰もられなかった事を喜ぼう」

 落ち込む火鈴に、セシル隊長が優しい笑みを見せる。

「……ソータ様……」

 勇輝に背負われる聡太に近づき……ミリアが、ポツリと言葉を漏らした。

「……申し訳ありません、ソータ様……体を無理に動かしてまで加勢に来てくださったのに……あの『十二魔獣』を、倒せませんでした……」

 グッと、ミリアが拳を握り締める。

「……ソータ様がいつも通りだったら……レオーニオも、ルナマナも……討伐する事ができたのでしょうね……」

 結局、自分は聡太がいないと何もできない──と、ミリアが自虐的な笑みを浮かべる。

「……あー……あのよぉ、そこまで落ち込む必要はねぇんじゃねぇの?」
「……………」
「まあ何つーか……聡太なら、お前らが無事で良かったって言うだろ。無理して戦ってケガする方が、聡太は怒ってたと思うぞ?」

 そんなミリアを見て、勇輝が不器用な慰めの言葉を掛けた。

「嬢ちゃんがいなけりゃ……獄炎が『十二魔獣』の衝撃波をモロに食らったあの瞬間、オレらは全滅してたしな。安心しろって。もしも聡太に何か言われても、オレがどうにかしてやるからよ」
「……ふふっ、ありがとうございます。でも、大丈夫です──ソータ様が私に怒る前に、私がソータ様を怒りますので」

 ──無理をして加勢に来た事、忘れていないからな?
 静かに怒りの炎を燃やすミリアに、勇輝がやれやれと肩をすくめた。

「よし……今日はこのまま野宿だ。明日になったら『妖精国』で食料を買い、『イマゴール王国』へ引き返すぞ」

 セシル隊長の言葉に、全員が力強く頷き──

「──やっと見つけましたよぉ」
「おー! 見つけたー!」

 上空から聞こえた声に、勇者たちが警戒と共に顔を上げた。
 そこには──血色の瞳を輝かせる『吸血族ヴァンパイア』と、ハーピー種の『獣人族ワービースト』が。

「……あの『獣人族ワービースト』は……」
「大丈夫ですよ、セシル隊長。あたしたちの仲間です」
「森の中から殺気が無くなったんで、ハピィと一緒に来たんですけどぉ……どうなりましたかぁ?」

 軽やかに着地するアルマクスが、こちらに近付きながら問い掛けてくる。
 火鈴とミリアが顔を見合わせ……聡太を加勢に行かせた事については後で説教する事にしたのか、何があったのかを話す──直前。

「『吸血族ヴァンパイア』、だと……?!」

 驚愕の声を漏らすセシル隊長──その言葉の意味を理解した全員が、アルマクスに驚愕の視線を向けた。
 その視線が不愉快だったのか──アルマクスがスッと瞳を細め、全身から殺気を放ち始める。

「その目はなんですかぁ? ボクが生きていたらダメなんですぅ?」
「……いや、ごめんね。そういうつもりで見ていたんじゃないんだ。ボクの名前は剣ヶ崎 討魔。キミは?」

 アルマクスの殺気を受け流し、剣ヶ崎が流れるような動作でアルマクスへ手を差し出した。
 その際、爽やかな笑みを浮かべるのを忘れない。
 アルマクスがギロッと瞳を動かし、剣ヶ崎を睨み付けた。

「……なんですか、アナタぁ? ボクに喧嘩売ってるんですぅ?」
「そんなつもりは全くない。何か気にさわったかな?」

 首を傾げる剣ヶ崎に、アルマクスが凄まじい殺気を向ける。
 その殺気は──先ほどの『十二魔獣』に匹敵するほど、冷たくて濃い。

「アルマく〜ん? どうしたの〜?」
「……いえ、何でもないですよぉ。それで、『十二魔獣』らしき化物は殺せたんですかぁ?」

 殺気を収め、アルマクスが火鈴に視線を向ける。

「ごめんね〜……途中で別の『十二魔獣』が乱入してきて、逃げられちゃった〜」
「……へぇ……別の『十二魔獣』が……」
「これで、合計八匹の『十二魔獣』に遭遇した事になるんですね……」

 実際に討伐した『十二魔獣』は、テリオン、パルハーラ、フェキサー、ハルバルドの四匹。
 遭遇したが逃げられてしまった『十二魔獣』は、ポーフィ、ディティ、レオーニオ、ルナマナの四匹。
 それぞれの『十二魔獣』との死闘を思い出し、ミリアが疲れたような表情を見せる。
 ──と、土御門が眉を寄せ、森の奥へと視線を向けた。

「──あァ……?」
「虎之、介……どうした、の……?」
「……なンかァ、焦げ臭くねェかァ?」

 土御門の言葉に、全員が森の奥へと目を向ける。
 ──うっすらとだが、森の奥が明るい。
 首を傾げる一同──と、原因に気づいたのか、火鈴とミリアが大声を上げた。

「ほ、炎! 剣ヶ崎くんの炎!」
「え? ボクの炎?」
「先ほどあなたがレオーニオに放った炎の斬撃です! あれが『フェアリーフォレスト』の木に燃え移ってるんです!」

 ザワッと、静かな森が一気に騒がしくなる。

「オイ雫ゥ!」
「ん……! 了、解……!」
「剣ヶ崎も行くぞォ! てめェが原因で森が燃えてンだァ、責任取りやがれェ!」
「あ、ああ!」

 【水魔法適性】を持つ水面と、【全魔法適性】を持つ剣ヶ崎を連れ、土御門が森の奥へと駆けて行く。

「……ねぇ、アルマくん」
「なんですぅ? あ、ソウタがアナタたちの所に行ったのは、ボクがハピィに足止めされてたからで──」
「違うよ〜……なんだか剣ヶ崎くんに、すっごい殺気を向けてたでしょ〜? なんでかな〜って思って〜」

 先ほどのやり取りを思い出したのか、アルマクスがあれの事かと話し始める。

「あぁ……ボク、あんな感じの人が苦手なんですよぉ」
「苦手〜……?」
「はいぃ。なんて言いますかねぇ……ボクが大嫌いだった『吸血族ヴァンパイア』にそっくりなんですよぉ。話し方も、雰囲気も、笑顔もぉ……思い出すだけでイライラしますぅ」

 苛立ちを瞳に乗せ、剣ヶ崎が消えた方向を睨み付ける。
 ──この後、『フェアリーフォレスト』の炎を消す作業は、明け方まで続いた。

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