初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

83話

「──ァアアアアアアアアアアッッ!!」

 首を掴まれるレオーニオが、地面に向けて衝撃波を放った。
 瞬間──地面が爆発し、火鈴が吹き飛ばされる。

「くっ……! ほんと、よく頭が回る『十二魔獣』だね〜……!」

 思わずレオーニオから手を離してしまった火鈴が、レオーニオを睨み付けて鋭い牙を剥き出しにする。

「──カリン!」
「……ミリアちゃん」

 火鈴の後を追い掛けて来たミリアが、息を切らしながらレオーニオと向き合った。

「ガァッ! ルァッ! オオオオオオルァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「カリン。わかっていると思いますが、あえて言います。ここは森の中です。私の魔法やカリンの炎を使えば──」
「わかってるよ〜……森を焼いた犯罪者として生きたくないなら、あたしの炎は使っちゃダメって事でしょ〜?」
「そういう事です」

 聡太なら……別にこの世界で生きるつもりはない。全て終わったら元の世界に帰るのだから、森が燃えようとどうでもいいだろ──とか言いそうだが。

「じゃあ、あたしがピンチになったら【守護魔法】をお願いね〜」
「はい」
「オオオァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 雄叫びを上げ、レオーニオが火鈴に向かって突っ込んだ。
 両腕を鞭のようにしならせ、風を斬りながらレオーニオの剛爪が放たれ──

「甘いッ!」

 レオーニオの剛爪を、火鈴の剛爪が正面から弾き返した。
 ──先ほどよりも早い。
 両腕を弾かれ、バンザイの状態になるレオーニオ──その無防備な腹部に、火鈴が剛爪を振り抜く。

「はあああああああああああッッ!!」

 、慌てた様子で距離を取ろうとするが──火鈴の剛爪が振るわれる方が早い。
 火鈴の剛爪がレオーニオの腹部を斬り裂き──返り血が火鈴の顔を赤く染める。
 ──浅い。
 レオーニオが咄嗟に後ろに飛んだ事で、火鈴の剛爪はレオーニオの腹部の皮を撫で斬った程度のダメージしか与えられていない。

「……何もない所を足場にする能力と、口から衝撃波を放つ能力か〜……」

 聞いた話だと、聡太が今まで遭遇した『十二魔獣』も、強力な能力を持っていたとか。
 目の前にいる《全てを壊す魔獣レオーニオ》の能力は──火鈴の言った二つだろう。

「ガルルルルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 レオーニオが地面に着地し──間髪入れずに火鈴へ飛びかかった。
 再び火鈴が剛爪を構え──火鈴の目の前で、レオーニオが急激に方向を変えた。
 虚空を蹴る能力──火鈴の背後に回り込むレオーニオが、火鈴に剛爪を振るう。

「──調子にッ、乗るなッ!」

 火鈴が思い切り地面を踏み込み──地面がめくれ上がった。
 地面が火鈴の姿を覆い隠し、土片に襲われるレオーニオが反射的に顔を手で守る──と。

「──ふッ!」

 火鈴が土煙から飛び出し、レオーニオが顔面を掴んだ。
 翼を打って勢いを付け──レオーニオの頭を地面に叩き付ける。

「ガオッ──!」
「ふぐっ?!」

 火鈴の腹を蹴り飛ばし、レオーニオが追撃を逃れた。
 蹴りの威力に顔を歪め、遠くまで蹴り飛ばされた火鈴。
 素早く起き上がったレオーニオが、火鈴に襲い掛かる──のではなく。

「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「はっ──」

 標的を、いきなりミリアへ変えた。
 口を大きく開き──ミリアに向けて衝撃波を放つ。

「ミリアちゃんッ!」
「『第四重フィーア──」

 迫る衝撃波に対し、ミリアが四重強化の【守護魔法】を発動しようと──して。
 ──ミリアの目の前に、黒髪の少年が現れた。

「──【増強】ッ! 『パワード』ッ!」

 筋力強化の【技能】を使用し、さらに自身のパワーを底上げする【光魔法】を発動。
 迫る衝撃波を正面から見据え、腰を落として右手の美しい盾を前に出し──

 ドッ──オオオオオオオンンンッッ!!

「うっ──おおおおおおおおおおッ!」

 凄まじい衝撃が響き、地面に亀裂が走る。
 だが──少年は、衝撃波を受け切った。

「……あなたは……」

 身体中に浮かぶ紫色の紋様。紫紺に染まる両目が凄まじい覇気を放っており、左腕に刻まれている模様が異様に強く輝いている。
 左手には美しい剣を、右手には美しい盾を持っており、体を美しい鎧で包んでいる。まさに勇者と呼ばれるに相応しい見た目だ。

「……ミリアさん……だったよね? 久しぶりに会えて色々と話したいけど、少し退がっててもらえるかな?」

 爽やかな笑みを浮かべ、剣ヶ崎がそれとなく注意を促す。
 ──色々と、話したい?
 これで出会うのは二回目なのに、色々と話したい? え、これ、どういう事? ナンパされてるの?
 困惑するミリア──その肩に、火鈴の手が置かれた。

「気にしないでいいよ〜。剣ヶ崎くんは、誰にでもこういう接し方だからね〜」
「あ、はい」

 そんな会話を交わす──と、レオーニオが剣ヶ崎に飛び掛かった。
 剛爪を振り抜かれ、剣ヶ崎が吹っ飛ぶ──はずだった。

「──この程度かい?」

 聖盾で剛爪を受け止め、剣ヶ崎が柔らかな笑みを見せる。
 ──ゾクッと、レオーニオの背中に寒気が走った。
 いや……レオーニオだけではない。
 剣ヶ崎の笑顔を見た火鈴とミリアも、その笑顔に恐怖を覚えた。
 この男──なんて冷たく笑うんだ。

「光を傷付けたんだ──キミだけは、絶対に許さない」
「ルァッ──アアアアアアアアアアガァァァァァァァアアアアアアアアアアッッ!!」

 レオーニオが口を大きく開き、衝撃波を放つ──前に、剣ヶ崎がレオーニオの顎を下から蹴り上げた。
 強制的に口が閉じられ、レオーニオの衝撃波が不発に終わり──

「『精霊憑依』ッ!」

 剣ヶ崎が大きく叫び──その体が、灼熱の炎に包まれる。
 左腕には風が、右腕には水が宿り──まるで、精霊と複雑に融合したかのような姿になった。

「ウンディーネッ!」
『はーい♡ いつでもいいですわー♡』
「『ウルディ・ウィップ』ッ!」

 右腕を覆う水が形を作り出し──水の鞭が放たれた。
 水鞭がレオーニオの足に絡み付き──レオーニオの自由が奪われる。

「ガオッ──ォォオオオオオオオオオンンンッッ!!」

 剛爪を連続で振るい、水の鞭を斬り裂こうとするが──すり抜ける。
 拘束から逃れるには、剣ヶ崎をどうにかするしかない──そう判断したのか、レオーニオが剣ヶ崎に向けて剛爪を振り抜いた。

「──遅いッ!」

 頭を下げて剛爪を避け、剣ヶ崎が聖剣を振り──レオーニオの体が、深々と斬り裂かれる。

「ルオッ──!」

 間違いなく致命傷──だがレオーニオは剛爪を振るう。
 対する剣ヶ崎は聖剣と聖盾で剛爪を受け止め──

「オオオオオオオオオオガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 レオーニオが、地面に向けて衝撃波を放った。
 ──このままだと、こちらが深手を負う。
 剣ヶ崎が水鞭を解除し、その場から大きく飛び退いた──瞬間、再び地面が爆発。
 飛び散る地面が、凄まじい勢いを持った散弾となって放たれる。

「──『第二重ツヴァイ・魔障マジック結界・バリア』っ!」

 剣ヶ崎の前に緑色の結界が現れ──土の散弾を防いだ。

「スゴい魔法だ……ミリアさん。キミの魔法は、みんなを守る優しい魔法なんだね」
「あ……はい」
「うん──じゃあボクは、みんなの剣になろう」

 ボタボタと血を流し、八つの瞳でこちらを睨み付けるレオーニオ──と、剣ヶ崎が聖剣を高々とかかげた。

「──シルフ、サラマンダー」
『おう、いつでもいいぜっ!』
『……良いだろう。思う存分、使うが良い!』
「ああ──『スピリット・ブレイド』ッ!」

 ──剣ヶ崎の聖剣が、赤い炎で包まれる。
 どんどん大きくなる炎──と、風が吹き荒れ、炎が巨大化。
 炎が少しずつ形を成し──やがて、巨大な炎の剣となった。

「食らえ──【斬撃】ッッ!!」

 剣ヶ崎が聖剣を振り下ろし──炎の斬撃が放たれる。
 超速で迫る斬撃を前に、レオーニオが逃げようとするが──間に合わない。
 全てを燃やし斬る斬撃が、レオーニオを真っ二つにせんと──

「──あー!」
「え──?」

 突如、幼い子どもの声が聞こえた。
 火鈴とミリアが視線を向けると──そこには、白髪青目の少女が。

「危ないよ!」
「ルオッ──」

 その少女とは別に、誰かの声が聞こえた──瞬間、レオーニオがいた所を炎の斬撃が走り抜けた。
 地面を溶かし、空気を焦がした炎の斬撃は──だが、獲物を仕留める事ができていなかった。

「……キミ、何者だい?」

 炎の斬撃からレオーニオを逃がした少年に、剣ヶ崎が聖剣の切っ先を向ける。
 ──白髪青目の少年が、レオーニオの手を握っている。おそらく、レオーニオを引っ張って『スピリット・ブレイド』から逃がしたのだろう。

「え、え? 双子……?」
「さすがお兄ちゃん! レオーニオが無事だよ!」
「でしょでしょ! 全く、これだから『下位魔獣』は困るよね!」

 先ほどいきなり大声を上げた少女と、レオーニオを『スピリット・ブレイド』から逃がした少年──その声も、外見も、話し方も、何もかもがそっくりだ。
 唯一違うのは──少女と思わしき方の髪が、少しだけ長いという所だろうか。

「あ! ねえねえお兄ちゃん! あの人、わたしたちの事が知りたいみたいだよ!」
「ほんとだね! じゃあ、名乗っちゃおっか! ぼくたちの名前!」

 レオーニオを背後に隠し──少年と少女が、明るい声で名乗りを上げた。

「「──ぼくわたしたちの名前は《共に生ける魔獣ルナマナ》! ほんとは『竜人族ドラゴニュート』を滅ぼすつもりだったけど、失敗したからこっちに来たの!」」
「『十二魔獣』……!」

 少年少女の名乗りと、ミリアの言葉を聞いた剣ヶ崎と火鈴が、警戒心を深めて身構えた。

「よしよし! じゃあレオーニオを助けることもできたし、帰ろうかお兄ちゃん!」
「そうだね! 任務は失敗しちゃったけど、レオーニオを助けたから褒めてもらえるよね!」
「逃がすと思ってるの〜?」
「悪いけど、キミたちが『十二魔獣』というのなら逃がしはしない」
「いやだよ! わたしたち、ケガしたくないもん!」
「そうだよ! ぼくたち、痛いの嫌いだもん!」
「「だから──」」

 ルナマナがつま先で地面を蹴り──ルナマナの足元に、オレンジ色の紋様が浮かび上がった。

「「逃げるね!」」
「逃がさない──!」
「待て──!」

 火鈴と剣ヶ崎が、ルナマナに向かって飛ぶが──それより先に、ルナマナがレオーニオの手を握ってオレンジ色の紋様を踏んだ。
 瞬間──ルナマナの体が、まるで何かに押し出されたかのように吹き飛ぶ。

「速い!」
「クソッ……!」

 ──ここで逃がしたら、今までの苦労がムダになる。
 絶対にここで仕留めるべく、火鈴と剣ヶ崎がその後を追いかける──と。

「「【衝印しょういん】!」」

 ──火鈴と剣ヶ崎の足元に、オレンジ色の紋様が浮かび上がる。
 急に止まる事ができず、火鈴と剣ヶ崎がオレンジ色の紋様を踏み──二人の体が、まるで何かに押し飛ばされたかのように吹っ飛んだ。

「うわ?!」
「なっ──?!」

 どうにか受け身を取り、顔を上げるが──もうルナマナとレオーニオの姿はない。

「逃げられちゃったか〜……」
「……とりあえず、みんなの所に戻ろう。それで、古河が起きたら……ここであった事を話そう」

 聖剣を鞘に収める剣ヶ崎が、来た道を引き返し始める。
 火鈴が【竜人化】と【暴食に囚われし飢える者】解き……ミリアと共に、その後を追った。

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