初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

57話

「ぅ、あ……?」

 ──全身が、まるで何かに締め付けられているかのように痛い。
 目を覚ました火鈴は、全身を襲う筋肉痛に顔をしかめた。

「起きたか、火鈴……大丈夫か?」

 ベッドの左側に腰掛けている聡太が、読んでいた本から目を外し、火鈴に視線を向ける。

「聡、ちゃん……? 聡ちゃん──聡ちゃん?!」
「起きて早々騒がしい奴だな……」
「ご、ごめんねっ、なんか、その……」
「気にすんな。あれは……まあ、そういう【技能】だからな。つーか、初めてなのに【大罪技能】から正気に戻るの早かったな?」

 聡太の言葉に──火鈴が首を傾げる。

「そうか……【大罪技能】も知らないんだったか……なあ火鈴、【技能】に呑まれてる間に、誰かと会わなかったか?」
「う、うん。ルーシャって人に会ったよ~」

 ルーシャ……ユグルの話だと、確か──『暴食』の『大罪人』だったはずだ。
 間違いない。火鈴に発動していた【暴食に囚われし飢える者】は【大罪技能】だ。

「……そ、聡ちゃん」
「ん?」
「その……【大罪技能】って~……?」
「……俺も、そこまで詳しいってわけじゃないんだが──」

 仰向けの状態の火鈴に、聡太がユグルから聞いた情報を話し始める。
 【大罪技能】とは『大罪人』が使っていた特殊な【技能】で、火鈴が会ったルーシャという人物は『暴食』の『大罪人』である事。
 その『大罪人』の隠れ家を、今の人たちが『大罪迷宮』と呼んでいる事。
 聡太自身、知っている情報が少ないため、そんなに多くの事を教える事はできないが……知っている事は全て教えた。

「ん、ん~……?」
「まあ、そういう反応になるよな」

 何も知らない火鈴に、一気に説明すれば……当然、こういう反応になる。

「……体の調子はどうだ?」
「筋肉痛がスゴいけど~……動けなくはないかな~」
「そうか……明日の朝、ここを出発するぞ。準備しとけ」
「う、うん──え?」
「……なんだよ」

 キョトンと、聡太を見つめる火鈴。
 火鈴が何を聞きたいのか察した聡太は、ガリガリと乱暴に頭を掻きながら──どこかムスッとした顔で、続けた。

「あの勝負に勝ったのは、お前だ。ルールを無視して魔法を使ったし、木刀じゃなくて普通の武器を使ったし……何より、お前の攻撃を何回も食らった。ルール的に言えば、間違いなく俺の負けだ」
「でも……」
「俺は嘘をくが約束は破らない。俺の負け、お前の勝ちだ。こんな勝利の仕方は不服か?」
「……………」
「付いて来ないなら、別に付いて来なくてもいい。だが、付いて来るなら──相応の覚悟を持って、付いて来い。お前の自由だ、好きにしろ」

 ふん、と鼻を鳴らし──聡太の手に柔らかな感覚。
 見ると、火鈴の手が、聡太の手を優しく握っていた。

「……付いて行くに、決まってるでしょ~?」
「あれだけボコボコにやられたのにか?」
「うん」
「……普通、俺の事が嫌いにならないか?」
「嫌いになんて、なるわけないでしょ~?」
「……変な奴だな、お前」
「そうかな~?」

 ヘラヘラとした態度を崩さない火鈴の姿に、聡太がため息を吐いた。
 ただ──そのため息は、呆れというより、安堵が含まれているように感じられる。

「……嫌われてないなら、よかった」
「ん~?」
「何でもない。それより……動けそうか?」
「うん。大丈夫だよ~」
「よし……んじゃ、飯でも食いに行くか?」

 そこまで話して──ふと、火鈴は窓に目を向けた。
 カーテンが閉められており、外の様子は見えないが……明るさから考えるに、日は落ちているだろう。

「ぇ……今、何時~?」
「元の世界の時間感覚で言うなら……午後の七時くらいかな」
「……あたし、どれくらい寝てたの~……?」
「六時間くらいだな……そういや火鈴、『ステータスプレート』持ってるか?」
「あ、うん。持ってるよ~」

 モゾモゾと起き上がり、尻ポケットから『ステータスプレート』を取り出して聡太に手渡した。
 素早く『ステータスプレート』に目を通し──スッと、聡太が瞳を細める。
 何か変な事でも書いてあったか? と、火鈴が『ステータスプレート』を覗き込み──首を傾げた。

====================

名前 獄炎ごくえん 火鈴かりん
年齢 16歳
職業 勇者
技能 【言語理解】【爪術“極致”】【竜化】【部分竜化】【竜人化】【気配感知“広域”】【炎魔法適性】【暴食に囚われし飢える者】

====================

 ──“極致”と“広域”。
 おそらく、【暴食に囚われし飢える者】の発現により【技能】のレベルが上がったのだろう。

「う~ん、と……何か、色々と変わってるね~」
「……こうして見ると、お前【技能】多すぎじゃねぇか?」

 俺は【憤怒に燃えし愚か者】を合わせても五つしかないのに──と、どこか不満そうだ。

「にしても……“厄災竜やくさいりゅう”か……」
「や、“厄災竜”……って、なに~?」
「これ見ろ」

 そう言って、聡太が火鈴に紙切れを手渡した。
 そこには──こう書かれてある。

『【言語理解】【爪術“神域”】【竜化“厄災竜”】【部分竜化“厄災竜”】【竜人化“厄災竜”】【気配感知“神域”】【炎魔法適性】【暴食に囚われし飢える者】』

「え~っと……これは~?」
「【暴食に囚われし飢える者】が発動してる時のお前の【技能】だ。ミリアに思い出して書いてもらった」
「……この“厄災竜”って~?」
「それがわかんねぇから、ずっと本を読んでたんだよ」

 火鈴が起きるまで読んでいた本を持ち、表紙を見せた。
 ──『厄災竜について』と書かれている。

「よくわからないが……厄災竜ってのは、かなり昔に棲息していたドラゴンらしい。最近は全然姿が見えないから、寿命で死んだって言われてるみたいだけど」
「……ん~……? なんであたしの【技能】の横に、“厄災竜”って載ってるんだろ~……?」
「さあな」

 『ステータスプレート』を火鈴に返し、聡太がベッドのふちから腰を上げた。

「とりあえず、飯に行こう。今日は朝から何も食べてないから、腹が減ってしょうがねぇ」
「そうだね~……それじゃ、行こっか?」
「ああ」

────────────────────

「……あ、ソータ様!」

 食堂に行くと──ミリアとハルピュイアがいた。
 その近くには勇輝がいる。どうやら、何かを話していたようだ。

「おう聡太! 来るの遅かったな!」
「火鈴がずっと気絶してたからな」
「ん~……聡ちゃん、ごめんね~? 迷惑かけて~……」
「……別に、迷惑じゃねぇから安心しろ。後で氷室と水面にも会いに行ってやれ、あの二人、かなり心配してたからな」
「うん……そうするよ~」

 そういや、他の勇者はどこにいるんだろうか──と、クイクイとローブの袖を引っ張られる感覚。
 見ると、ミリアが何か言いたそうな表情で聡太を見上げていた。

「その……どうなりました?」
「どうなりましたって……火鈴の事か?」
「はい」
「……連れて行く。火鈴が、そう望んだからな」
「これからよろしくね~、ミリアちゃん、ハピィちゃん」

 苦笑混じりの聡太の言葉と、ひらひらと気楽な感じに手を振る火鈴の姿に、ミリアが驚いたように目を見開いた。

「おー! よろしくー、カリンー!」
「つ、付いて来られるんですか……? あれだけソータ様に痛い目に遭わされて……?」
「……その言い方だと、俺が好きで痛め付けたみたいだからやめろ」

 まあ実際、ボコボコに痛め付けたのは聡太なので、何も言えないのだが。

「とりあえず、飯食おうぜ! オレも腹が減っちまってよ!」
「……? 食ってないのか?」
「んあ。久々に聡太と一緒に食おうと思ってな。この二人と一緒に待ってたんだよ」
「そうか……悪いな、ミリア、ハピィ」
「オイ、オレにもなんか一言あんだろ?」
「デカイ図体に似合わず女々しいな、勇輝」
「んだとこの野郎?! わざわざ待っててやった幼馴染みに何て事を言いやがる?!」

 騒がしい勇輝を無視して、火鈴を追って食堂の奥へと向かう。

「はぁ……相変わらず変わんねぇな、聡太は」
「……それは、どういう意味でだ?」
「昔と変わらず、良い奴だなって思ってよ」
「……なんだそりゃ」
「んや……この二人から話を聞いたんだけどよ、『十二魔獣』から『獣人族ワービースト』と『地精族ドワーフ』を救ったんだって?」

 ちら、とミリアに視線を向けると──え、話したらダメでしたか? と怯え始めた。
 別に、話しても問題はないのだが……その言い方だと、まるで聡太が自分から『獣人族ワービースト』と『地精族ドワーフ』を救ったかのように思われる。

「それは語弊がある。『十二魔獣』と戦った結果、『獣人族ワービースト』と『地精族ドワーフ』を救った事になっただけだ」
「どうだかなぁ……」
「俺の性格は、お前が一番よく知ってるだろ?」
「ああ。な」

 ニイッと笑う親友に、聡太が深々とため息を吐いた。

「……気持ち悪」
「お前ホントに口悪いな?! オレ以外の奴だったらマジで誤解されるぞ?!」
「聡ちゃ~ん。早くおいでよ~」
「ん、今行く」
「オイ無視すんなよ!」

 優しい幼馴染み二人と、心から信用できる二人の仲間。
 聡太は久しぶりに──心の底から、食事が楽しいと思った。

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