初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

52話

「──い、いません! 火鈴、どこにもいません!」

 広間に戻ってきた氷室の切羽詰まったような声に、セシル隊長が眉を寄せた。
 ──火鈴がいない。
 聡太に続き、火鈴までも──と、広間にいた生徒と先生の表情が強張こわばる。
 ──もしかしたら、一人で『大罪迷宮』へ向かったのかも知れない。
 最悪の事態を想定し、セシル隊長が『大罪迷宮』へ行く準備をしろと言おうと──して。

「──ただいま~」

 気の抜けた声と共に、中庭に繋がっている方の広間の扉が開けられ──火鈴が姿を現した。

「カリン! お前はまた勝手に──」

 そこまで言って──火鈴の隣に立っている者に気づいたのか、セシル隊長が言葉を止めた。
 頭から膝下まである長い真っ白なローブに、赤い模様の描かれたお面。ローブに付いているフードを深く被っているため、髪色すらもわからない。

「……カリン。ソイツは誰だ」

 本能的に白い何者かの強さを感じたのだろう。セシル隊長が剣を抜き、【威圧】を発動させる。
 ビリビリと張り詰める空気……と、そんな空間に、可愛らしい声が響いた。

「あ、あの……なんでこんなに敵意を向けられてるんですか……?」
「んー? なんか怖い人がいるー」

 白い何者かの背後に、二人の少女が立っている。
 白髪褐色肌の『黒森精族ダークエルフ』に、水色の髪のハーピーのような『獣人族ワービースト』だ。
 キョロキョロと辺りを見回し、落ち着かない様子の『黒森精族ダークエルフ』に対し、にこにこと場に合わない笑みを浮かべている『獣人族ワービースト』の姿は……警戒心を削がれるような、微笑ましい雰囲気を持っている。

「……相変わらずの【威圧】……さすがだな、セシル隊長」
「俺を知っているのか? いや……それより……」

 何故、俺の【威圧】を受けて、平然としていられる?
 声から察するに、白い者はおそらく男だろう──そう思い、警戒をますます深め、セシル隊長が剣を構えた。
 白い男の腰に、真っ黒な鞘がぶら下げてある。だが、白い男は武器を構えようとしない。
 舐められている、と感じたセシル隊長が、白い男に向かって飛び掛かる──直前、震えたような声が聞こえた。

「聡……太…………?」

 勇輝の喉から、掠れた空気が漏れ出す。
 そして……一歩、勇輝が白い男に歩み寄った。
 勇輝の発した言葉を理解したその場の全員が、白い男に目を向け……白い男が、フードとお面を取った。

「顔も体格もわからないのに、俺ってわかるのか……さすが勇輝……いや、さすが俺の親友だな」

 黒髪に黒目。観念したような笑みを浮かべている少年──聡太だ。

「久しぶりだな、みんな……元気そうで、何よりだ」
「「「古河?!」」」
「「「「「「「古河君?!」」」」」」」

 聡太の姿を見て、生徒と先生が大声で名前を呼んだ。
 手を小さく挙げ、軽い感じで歩み寄る聡太……と、いきなり勇輝が走り出した。
 一切速度を落とす事なく聡太に飛び付き──聡太と勇輝が、床を転がった。

「いっ──?! お、お前いきなり……」
「聡太……! よかった……! 本当によかった……! ゴメンっ、ゴメンな……! 助けに行けなくて、ゴメンなぁ……!」

 勇輝に抱き付かれる聡太が、バツの悪そうな表情を浮かべた。
 何故だろう。隣のミリアと火鈴の視線が痛い。ハルピュイアは何が起きているかよくわかってなくてニコニコ笑っている。
 とりあえず離れろと、勇輝の頭をぺしぺしと叩いた。だが、勇輝はまったく離れようとしない。

「……むぅ……」
「聡ちゃん……」
「な、なんだよお前ら」
「ハピィもぎゅーってするー!」
「するな! ああクソっ、一回離れろ! 勇輝!」

 勇輝の頭を押し退け、抱き付いてくるハルピュイアを振り払う。
 恥ずかしそうに離れる勇輝と、不満そうなハルピュイア……と、和やかな雰囲気の広間に、穏やかではない声が響いた。

「そ、そこで止まれッ!」
「貴様には、入国許可を出していないぞ!」
「そこにひざまずけ! 両手を上げろッ!」
「そこの『森精族エルフ』と『獣人族ワービースト』もだ! 大人しく言う通りにしろ!」
「ちょ、ちょっと。この人たちはあたしが連れて来た──」

 バタバタと広間に入ってきた騎士たちが、剣や槍を構えながら聡太を睨みつけた。
 何やら切羽詰まった様子の騎士たちに、火鈴が誤解を解こうと口を開くが──その前に、広間に殺気が満ち溢れた。

「……お前ら、誰に向かって話してるんだ? 殺すぞ?」

 セシル隊長の【威圧】すらも上回る殺気……原因は聡太だ。
 殺気に当てられた騎士たちが、恐怖のあまり腰を抜かし……直接殺気を浴びていない勇輝たちも、その殺気の濃さに息を呑んだ。

「……【技能】なんか使わなくても、コツさえ掴めば【威圧】程度の覇気……俺にだって出せる」

 完全に怯えてしまった騎士たちに冷たい視線を向け、聡太がグローリアに向かって歩みを進めた。
 びくびくしていたミリアも聡太に続き……ハルピュイアは楽しそうに広間の様子を眺めている。

「古河君……本当に、古河君なんですね……?」
「はい……久しぶりですね、先生」

 恐る恐る手を伸ばす川上先生が、聡太の腕に触れた。
 そして……感極まったように泣き出した。
 その場に座り込み、次から次に溢れ出す涙を拭いながら、何度も何度も聡太の名前を呼ぶ。

「……つーかよォ、ソイツらァ何者なンだァ? 見た感じィ、古河の仲間かァ?」

 川上先生の横に立ち、土御門がミリアたちを鋭い目で睨んだ。
 その目には、わずかだが敵意が含まれている。二人の強さを本能的に感じているのだろう。

「初めまして。私はミリア・オルヴェルグと言います」
「ハピィはハルピュイア・イリスー! 金髪のお兄さん、何だか獣臭いねー!」
「あァ? ……てめェ、わかンのかァ……?」
「何となく獣みたいな臭いがするよー! ……でも、『獣人族ワービースト』じゃないよねー? 不思議ー!」

 きゃっきゃっと笑うハルピュイアを見て、土御門が数歩後ろに下がった。
 そして……二人の自己紹介を聞き、生徒の中で最もマジメな男が自己紹介を返した。

「ミリアさんにハルピュイアさんだね。ボクは剣ヶ崎 討魔。古河と同じく勇者だ」

 爽やかな笑みを浮かべ、流れるような動作で手を差し出した。
 差し出された手と、聡太の顔を交互に見て……二人が聡太の背後に隠れる。
 ピシッと剣ヶ崎の笑顔が固まり……どこか責めるような目で聡太を睨んだ。

「少し黙りましょう討魔……久しぶりね、古河君」
「ふるっ、古河くん! わ、私の事、覚えてる?!」
「相変わらず苦労してそうだな破闇……覚えてるに決まってるだろ、小鳥遊」
「自覚のない暴走人間のせいでね……でも、あなたが生きててくれて、本当によかったわ」
「わぁ……! 本当に古河くんだ!」

 破闇と小鳥遊が聡太に近づき、心底嬉しそうに笑った。
 そんな破闇と小鳥遊を見て、生徒全員が聡太の周りに集まり始める。

「だけど、古河が生きてて本当によかった! みんな力を合わせて、元の世界に帰れるように頑張ろう! 力を貸してくれるよな、古河!」

 もう一度手を差し出し、剣ヶ崎が聡太に握手を求める。
 対する聡太は……首を横に振った。

「……悪いけど……協力はできない」

 申し訳なさそうにうつむく聡太の言葉に、全員がざわめき立った。

「な、なんでだ?! こうして戻って来てくれたのは、ボクたちと共に『十二魔獣』を討伐するためじゃないのか?!」
「違う……俺がここに来たのは、生きてる事を伝えるためだ。別にお前らと協力するために来たわけじゃない」
「協力できないのには、何か理由があるの?」

 いつも通りを装う破闇が、目を細くしながら問い掛ける。

「……単純に、お前らが足手まといになるからだ」
「なんだと?! 古河、それはどういう意味だ?!」
「そのままの意味だっての……今の俺は『十二魔獣』を単独で相手にできるぐらいの力を持っている……ここにいるミリアとハピィもだ。俺は、コイツらと『十二魔獣』を殺す。そして、お前らを元の世界に帰す……だから、協力はできない」
「だからって……! だからって、協力しないなんて、おかしいだろう?!」
「お前の物差しで語るな。文句があるなら……るか?」

 聡太の体から、殺気が溢れ出す。
 味わった事のないレベルの殺気を向けられ、剣ヶ崎が気圧けおされたように顔を引きつらせるが……唇を引き締め、聡太に一歩近づいた。

「どうしても協力できないと言うなら……力くでも、引き留める」
「……へぇ……変わったな、剣ヶ崎」
「ボクは、みんなが大切だ。古河が迷宮の下層に落ちたあの日……ボクは誓ったんだ。キミを見つけて、連れて帰る。みんなで生きて、みんなで戦って……そして、みんなで日本に帰るんだ。だから……ボクは、キミを止める」

 聖剣を構え、剣ヶ崎が聡太と向かい合った。
 他の生徒たちも剣ヶ崎と同じ気持ちなのか、誰も剣ヶ崎を止めようとしない。
 心底めんどくさそうにため息を吐き……くるりときびすを返して、聡太たちが広間の出口に向かい始めた。お前に付き合う気はないと、態度で表している。

「待て古河! くそ──【斬撃】ッ!」

 剣ヶ崎の声を聞き、聡太がゆっくりと振り返った。
 剣ヶ崎が聖剣を振り下ろし、聖剣から斬撃が放たれる光景が目に入る。
 急所を外すようにして迫る斬撃……対する聡太は、『紅桜』を抜いた。
 お面を被り、迫る斬撃に刀を合わせ──それだけで、斬撃が冗談のように霧散した。

「なっ、に……?!」
「……言っただろ。お前らじゃ足手まといだって……お前ら程度、数秒あれば皆殺しにできる」

 白いお面で顔を隠す聡太が、刀を収めながら殺気を放つ。
 気圧けおされたように身を固める剣ヶ崎……と、剣ヶ崎と並ぶように、破闇と土御門が身構えた。

「ごめんなさい、古河君……でも、あなたにはここに残ってほしいの」
「今回ばかりは剣ヶ崎に同意だなァ……古河にゃァわりィがァ、力尽くでも引き留めるぜェ」
「……破闇に土御門、それに剣ヶ崎が相手か……」
「俺も同じく、だな……古河は、俺たちに無くてはならない存在だ……何をしてでも、ここに残ってもらう」

 破闇と土御門に続き、生徒全員がそれぞれの武器を構えて身構える。
 さすがの聡太も、勇者一行の相手はなかなか骨が折れる……殺すのなら簡単だが、殺してはならない。手加減をして相手をしなければならない。

「……ソータ様」
「俺だけだと苦戦しそうだ……手を貸してくれ」
「もちろんです!」
「はーい! ハピィ頑張るー!」

 聡太の言葉を聞き、ミリアとハルピュイアが身構えた。

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