初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

44話

 空を飛ぶ蒼炎の龍が、同じ場所で旋回している。
 『剛力』を使って『アーダンディルグ』の外壁を飛び越え──壁の上に着地して、【気配感知“広域”】を発動させた。
 直径一キロの範囲内にあるモンスターの気配は──およそ一万。
 さすがに俺たち三人だけじゃ無理があるかな──そんな事を思いながら、聡太は脚力を爆発させた。

「──ソータ様!」
「ソータソーター!」

 蒼龍の飛んでいた所には──ミリアとハルピュイアがいた。
 『アーダンディルグ』の近くに『黒森精族ダークエルフ』がいるが──構っている余裕はないのか、今の所『地精族ドワーフ』がミリアに攻撃する様子はない。

「悪い、遅くなった……状況はどうだ?」
「ソータ様の言う通り、モンスターの大群が攻めて来ました……狙いは、おそらく──」
「この国だよな……」

 聡太の言葉に、ミリアが力強く頷く。

「ソータ様、どうしますか?」
「…………ミリアは、どうしたい?」
「私は、ソータ様の考えに従います」
「そうか……ハピィは?」
「おー? おー……ソータが戦うなら、ハピィも戦うー!」

 美しい微笑を浮かべるミリアと、元気に翼をバタつかせるハルピュイアの姿に、聡太がお面の下で苦笑を漏らし──モンスターの大群がいるであろう方向へ顔を向けた。

るぞ。ミリアは【蒼炎魔法】でザコモンスターの殲滅だ。お前の魔法なら……まあ、どんなモンスターでも焼き殺せるだろ」
「わかりました」
「ハピィは……俺と一緒に、リーダー格のモンスターを狩るぞ」
「リーダーかくー?」
「前に俺が倒したミノタウロスみたいな感じのモンスターだ」
「おー。偉そうなモンスターを倒せばいいんだねー? ハピィ、頑張るー!」

 瞳を閉じ、再び【気配感知“広域”】を発動させた。
 迫るモンスターは、聡太たちの向いている方向──北側から迫っている。
 その中に、ミノタウロスのような強者の気配を持つモンスターが何匹かいる。
 ソイツらを殺せば、このモンスターの群れも散るだろう──そう判断した。

「──おい、そこのお前たち! そこで何をしているんだ?!」

 突如聞こえた大声に、聡太はゆっくりと振り向いた。
 そこには──武装した『地精族ドワーフ』の軍隊が。

「なっ……お前、『森精族エルフ』か?!」
「はい?」
「なんで『森精族エルフ』がここに……?!」
「それに、あの褐色の肌……『黒森精族ダークエルフ』じゃないか?!」
「お前ら、何者だ?!」

 一気に騒がしくなる『地精族ドワーフ』を見て、ミリアが若干じゃっかん不愉快そうに眉を寄せた。

「森の田舎者がッ、モンスターの前にお前を殺してやるッ!」
「『森精族エルフ』がここに来るんじゃねぇ!」
「森に帰れッ!」

 ヒートアップする『地精族ドワーフ』の軍隊が、ミリアに武器を向け始めた。
 ミリアを守るようにハルピュイアが翼を大きく広げ、ミリアが手の上に鮮やかな魔法陣を浮かべる──と。

「……『剛力』」

 ──ズウッンンンッッ!!
 地面に亀裂が走り──騒がしかった『地精族ドワーフ』が、一瞬で静まり返った。

「……おい。一度しか言わねぇから、よく聞け」

 右足で地面を踏み込んだ聡太が、聞く者を震え上がらせるように冷え切った声で続けた。

「今からモンスターの大群が来る。正直、お前ら程度じゃどうにもならない数だ」

 言いながら、ゆっくりと『紅桜』を抜いた。

「だが、ここには世話になった鍜冶職人がいる。だからモンスター討伐に力を貸してやる──『雷斬らいざん』」

 緋色の刀身がバチバチと放電を始め──聡太が『紅桜』を横薙ぎに振るい、雷の斬撃を飛ばした。
 『地精族ドワーフ』の足元に斬撃の跡が深々と刻まれ──突然の攻撃に、『地精族ドワーフ』が怖気付おじけづいたように後退あとずさった。

「死にたくない奴は、その線より後ろにいろ。それより前に出るなら……モンスターに殺される覚悟をしておけ」

 有無を言わせぬ覇気を前に、『地精族ドワーフ』は首を縦に振る事しかできなかった。
 苛立ったような視線を『地精族ドワーフ』から逸らし──そのまま『黒森精族ダークエルフ』に向けた。

「お前もちょっとは我慢しろ。ムカつくのはわかるが、これが普通の反応なんだ。いちいち魔法陣を浮かべて対抗してたら、キリがねぇぞ」
「……はい」
「ハピィもだ。俺らが今から戦うのはモンスターだ。『地精族ドワーフ』じゃない」
「……はーい」

 『紅桜』を持っている方とは逆の手で、グリグリとミリアの頭を乱暴に撫でる。
 『地精族ドワーフ』から先に喧嘩を売ってきたのに──と不服そうだったが、聡太に撫でられて機嫌を戻したのか、ふにゃっと表情を崩した。

「もー! ミリアだけズルーい! ハピィもー!」
「わかったわかった」
「えへへー!」

 抱き付いてくるハルピュイアの頭を撫で──ハルピュイアが心地好さそうに目を細め、聡太の手に頭をり寄せる。

「──これからモンスターの大群と戦うというのに、随分ずいぶんと余裕そうだな、若造」
「ひひひひひひっ! なんだよぉ人生楽しんでんじゃねぇかぁ! ボウズぅ、おれにも幸せ分けてくれよぉ!」

 ふと、二人の『地精族ドワーフ』が、地面に刻まれる線を踏み越えて聡太に近づいた。
 その二人の顔を見て──聡太がお面の下で驚愕の表情を浮かべる。

「エルレッドに、エルグボルグ? ここで何やってるんだ?」
「ひっひひひ! ボウズの力を見に来たんだよぉ」
「『十二魔獣』を討伐した、と言っていたからな……ワシはこの目で見た事しか信じん。だからお前さんの戦いを見に来た」
「意味がわかんねぇ……まあ、とりあえず下がってろ。巻き込むかも知れないぞ」
「ひっひひ……あぁ了解だぁ」
「うむ。無理はしないようにな」

 聡太の言葉に従い、エルレッドとエルグボルグが線の後ろへと引き返していく。
 ──ビリビリと、【気配感知“広域”】に突き刺さるモンスターの気配。
 そろそろ、話している余裕はなさそうだ。

「ミリア。とりあえずお前の力を見せとけ」
「はい! ──『蒼龍の逆鱗レイズ・オブ・ドラゴニア』っ!」

 ミリアの真上に蒼い魔法陣が浮かび上がり──そこから、いつもより二回りほど大きな蒼炎の龍が現れる。
 【蒼炎魔法】は二重強化まで操作できる──以前『フォルスト大森林』でそう言っていた。
 膨大な熱を放つ蒼龍が、声帯のない喉で雄叫びを上げ──モンスターの大群に突っ込んで行く。

「ミリア、残りの三重詠唱で【守護魔法】を頼む。『地精族ドワーフ』の事を任せるぞ」
「任せてください! 『第三重ドライ・反射リフレクト結界・ゾーン』っ!」
「さて──行くぞ、ハピィ」
「おっしゃー! 任せろ任せろー!」
「『剛力』」
「【豪脚】っ!」

 ミリアが赤黒い結界を張り──聡太とハルピュイアが足に力を込め、モンスターの大群に向かって駆け出した。

────────────────────

「──うん?」

 地面に座り込むは、遠くの空に現れた蒼炎の龍を見て眉を寄せた。

「おかしいなぁ……『地精族ドワーフ』には魔法適性の【技能】を持つ個体は滅多にいないって聞いたんだけどなぁ……」

 頭から生えている湾曲した一本の角をポリポリと掻き、は不思議そうに蒼龍を見つめる。

「うーん……ま、いっか」

 無邪気な笑みを浮かべて、はゆっくりと立ち上がった。

「──とりあえず、全部殺せばいいんだしね」

 そう言って、は大きく息を吸い込んだ。
 そして──空気を震わせるような雄叫びを上げた。

「──ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!」

 小さな体からは考えられない、巨大な咆哮。
 それに反応したように、近くにいたモンスターが一斉に戦闘体勢に入る。

「ふぅ……さて、どうやって切り抜けるのか楽しみだね」

 大きな角を触りながら、は『アーダンディルグ』への行進を開始した。

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