初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

29話

「──ソータ様、これからどうしますか?」

 まだ太陽が顔を出していない時間。
 ようやく泣き止んだミリアが、ベッドの上から問い掛けてくる。

「とりあえず、腹が減ったな。朝になったら保存食でも食うか」

 上半身裸の聡太が、自分用に買ったバックパックの中を整理しながら答える。ちなみに、上半身に着ていた黒のインナーは洗濯機の中だ。
 ──どうやら、ミリアも夕方頃に眠ってしまったらしい。
 受付の女性が、夕食の用意ができたら呼びに来ると言っていたが……それにも気付かないほど熟睡していたようだ。
 そのため、今の聡太とミリアは腹が減っている。

「ああそれと、今後の目的について話しておくか」
「目的ですか?」
「ああ。まずはこの国で『十二魔獣』に関する情報を集める」

 バックパックの整理が終わったのか、床にバックパックを下ろして続ける。

「『十二魔獣』の情報を得られたとしても、得られなかったとしても、今日中にはこの国を出発して、『イマゴール王国』に向かう」
「『イマゴール王国』にですか?」
「ああ……俺と一緒に召喚された『勇者』の奴らが、俺の事を心配してるかも知れないからな。顔ぐらいは見せておかないと」
「でも……ソータ様の『剛力』を使ったとしても、何日かかるかわかりませんよ?」
「そうだ。だから、今日この国を出発する」

 聡太の脳裏に、勇輝や火鈴の顔が思い浮かぶ。
 ……腹が減っているせいか、無性に火鈴の手料理が食べたい。

「んで、『イマゴール王国』に行く途中に『シャイタン大峡谷』を通る。そこに『大罪迷宮』があるらしいから……そこを攻略するぞ」
「わかりました!」

 任せてくれと言わんばかりの元気な返事に、聡太は苦笑を浮かべた。

「さて……そろそろ洗濯も終わる頃だし、外に出る準備をしとけよ」
「はい!」

────────────────────

「……あ、おはようございます」
「ああ……昨日は夕食に顔を出せなくて悪かったな」

 もうそろそろ受付の女性が起きただろうと判断し、聡太たちは宿の一階に降りてきた。

「それで……ちょっと聞きたいんだが」
「はい、何でしょう?」
「……『十二魔獣』に関する情報って聞いてるか?」
「『十二魔獣』ですか? ……何となく聞いたような気がしますけど、詳しくは……」
「そうか……」

 なら、他の場所で『十二魔獣』の情報を探すか。
 床に置いていたバックパックを背負い、宿を後にしようと──した所で、女性が思い出したように声を上げた。

「あっ。でも、この前ここに来られた方が、『十二魔獣』の事を話されていましたよ」
「どんな内容だったか覚えてるか?」
「……『獣人族ワービースト』と『十二魔獣』がどうとか言っていましたけど……すみません、それ以上はわかりません」
「いや、充分ありがたい。助かる」

 受付の女性にお礼を言って、聡太たちは今度こそ宿を後にした。

「『獣人族ワービースト』……『獣人族ワービースト』か……」
「どうされますか?」
「……『獣国 アルドローリア』って、『イマゴール王国』への道中にあるよな?」
「はい。そうだと思います」

 自分用に買った黒いローブを身に付けたミリアが、隣を歩きながら聡太の言葉を肯定する。
 ならば……『イマゴール王国』に帰る前に、『獣国 アルドローリア』に行って良いかも知れない。
 ちら、とミリアに目を向けると……美しい灰色の瞳と目が合った。
 聡太が何を言いたいのかわかっているのか、楽しそうな笑みを浮かべて無言で頷く。

「……そうか。んじゃ、とりあえず『獣国 アルドローリア』行こう。その後、『シャイタン大峡谷』にある『大罪迷宮』を攻略するぞ」
「わかりました」

 そうこう話している間に、『人国 エルミーナ』から出た。
 ここから『獣国 アルドローリア』までは……まあ、『剛力』を使えば一日ほどで着くだろう。

「どうする? 『剛力』を使って走るか?」
「えっ。あ、あれはちょっと……」
「……嫌なのか?」
「嫌です」

 何故かミリアに却下された。
 仕方がない。なら、普通に歩いて向かうしかない。

「……ミリアは、どう思う?」
「『獣人族ワービースト』と『十二魔獣』……ですか? そうですね……『吸血族ヴァンパイア』と同じく、『十二魔獣』に滅ぼされた……とかですかね」
「……まあ、それ以外考えられないよな」

 聡太もミリアと同じ考えだ。
 ──『十二魔獣』が『獣国 アルドローリア』を壊滅させ、『獣人族ワービースト』を絶滅させた。
 『吸血族ヴァンパイア』を滅ぼした『十二魔獣』だっているのだ。『獣人族ワービースト』が滅ぼされたとしても不思議はない。

「……ん」
「どうしました?」
「んや……【気配感知】になんか引っ掛かった」

 【気配感知“広域”】へと昇華した事により、かなり遠くの気配も認識する事ができるようになった。
 その範囲、半径にして約五百メートル。直径にして一キロ。
 聡太が感じ取った気配──何やら、こちらに向かって真っ直ぐに迫ってきている。
 しかも、速い。このスピードだと、数秒ほどで遭遇するだろう。

「……ミリア、多分モンスターだ。来るぞ」
「はい!」

 聡太がそう言うのとほぼ同時、遠くの空に何かが見えた。
 その何かは真っ直ぐこちらに飛んで迫り──聡太たちの姿を捉えて、動きを止めた。
 赤い鱗に、鋭い牙。生きているかのように動き回る尻尾に、爬虫類のような瞳。
 そう──聡太は、過去にコイツと戦った事がある。

「ドラゴンか……」
「ルルル──ガァアアアアアアアアアアアッッ!!」

 ドラゴンが雄叫びを上げ──その口元に、紅い魔法陣が浮かび上がる。
 対する聡太は……焦る様子もなく、ドラゴンに手を向けた。

「ミリア、念のため、結界の準備をしておいてくれ」
「わかりました!」
「ォォォアアアアアアアアアアッッ!!」

 紅い魔法陣から火の玉が放たれ、空気を焼きながら聡太たちに迫る。

「──『魔反射まはんしゃ』」

 ──聡太の目の前に、半透明な壁が現れた。
 その次の瞬間、火の玉と壁が激突し──火の玉が跳ね返された。

「ルォッ──ァァァアアアアアアッッ?!」

 自分の攻撃が跳ね返された事に驚いたのか、ドラゴンが動きを止め──自身の放った火の玉に激突。
 魔法を跳ね返す魔法、『魔反射』。
 ドラゴンの口元に紅い魔法陣が浮かんだため、もしやと思って使ってみたが……どうやら上手くいったようだ。

「ゴ、ァ──カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 攻撃が跳ね返された事に怒ったのか、それとも攻撃を食らった事に怒ったのか、またはその両方か。
 怒りの咆哮を上げるドラゴンが、一気に急降下し、聡太たちに迫る。
 対する聡太は──不敵な笑みを浮かべて、手を前に出した。

「『嵐壁らんへき』」

 聡太の詠唱に従って、地面に緑色の魔法陣が浮かび上がり──そこから、台風のような暴風が吹き荒れた。
 そのど真ん中に突っ込んだドラゴン。風の刃に斬り裂かれ、身体中から血が噴き出した。

「んでもって──『水弾すいだん』」

 二重詠唱。
 虚空に無数の青い魔法陣が浮かび、そこから水の弾丸が放たれた。
 水の弾丸はドラゴンの体を簡単に貫通し──ドラゴンの鱗までも食い破る。
 悲鳴を上げる間もない猛攻を受け──ドラゴンは、力なく地面に落ちた。

「……あれだけ苦戦したドラゴンが、今ではこの程度なのか……【特殊魔法】ってヤバいな」
「さすがです、ソータ様」
「んや、相性が良かっただけだ……にしても、なんでコイツは襲って来たんだろうな?」

 聡太の疑問に、物知りなミリアが答えてくれる。

「ドラゴンというのは、自分より強い者の肉を食べたがるんです」
「そうなのか?」
「はい。ソータ様の強さを本能的に感じて、食らおうと思ったんでしょうね」

 という事は……前に勇輝たちを襲ったドラゴンは、勇輝たちの事を強いと認識したのだろうか。

「ま、別にどうでもいいか……先を急ぐぞ」
「はい!」

 ドラゴンの死体を放置したまま、聡太たちは『獣国 アルドローリア』へ目指して歩みを進めた。

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