初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
27話
「──いらっしゃいませ!」
冒険者たちを戦意喪失させた聡太たちは──いくつかの店に寄って、宿らしき店にやって来た。
「……一日泊まりたい。いくらだ?」
持っていた袋を床に置き、カウンターに腕を乗せて低めの声で問い掛ける。
聡太としては別に威圧しているつもりは無いのだが……聡太の目付きの悪さが原因だろう。受付の女性が怯えたように小さく悲鳴を上げた。
「ひっ……えっと、そのっ、一人部屋だと銀貨三枚、二人部屋だと五枚ですっ……」
「……それって、一人部屋一つで銀貨三枚って事だよな?」
「は、はい」
「そうか……んじゃ、一人部屋二つで──」
「あ、ソータ様。二人部屋で構いませんよ」
聡太を見上げるミリアが、くいくいとインナーの袖を引っ張りながらそんな事を言う。
「……わかった。じゃあ、二人部屋を頼む」
「ぎ、銀貨五枚になります」
「銀貨五枚……ほらよ」
「は、はい。銀貨五枚、確かに受けとりました。夕食の用意が出来ましたらお呼びしますので、それまでゆっくりとお待ちください」
革袋から銀貨を取り出し、受付の女性に手渡す。
怯えた様子で受け取り、受付の女性が鍵を聡太に差し出した。
「に、二階の一番奥の部屋になります」
「わかった」
無愛想に短く返事をし、聡太が二階への階段をゆっくりと上がっていく。
「一番奥……ここか」
「はい、そうだと思います」
「……つーかお前、二人部屋で良かったのか?」
部屋の鍵を開けながら、フードを深く被るミリアに問い掛ける。
「はい。少しでも安く済む方を選びましょう」
「つってもな……まぁ、お前が気にしないなら別にいいか」
部屋に入り、そのまま部屋の鍵を閉めた。
持っていた袋をベッドの上に投げ置き、ミリアに向かって無言で頷く。
フードを取って良いと判断したミリアが勢い良くフードを脱ぎ──ふぅ、と小さくため息を吐いた。
「うぅ……なんだか髪がモサモサします……」
「しょうがないだろ。人目がある所はフードを被ってもらう予定だからな。どうにかして慣れろ」
「……はい。わかりました」
聡太の言葉に、仕方がないかとミリアが肩を落とした。
「それじゃ、俺は風呂に行ってくる。買った本とか服は袋の中に入ってるから、好きに取っておけ。それと、外には絶対に出るなよ? 誰かが来たら俺を呼べ」
「はい!」
元気に返事をするミリアから白いローブを受け取り、ベッドの上に置いた袋の中から下着を取り出して、聡太は風呂場に向かった。
一応、迷宮内にいる時は着ていた服を破いて体を拭いたりしてはいたが……どうにもムズムズする。
こうして各部屋に風呂があるのは、正直かなりありがたい。
「……おっ……ちょっとゴツくなったか?」
胸当てや膝当てなどを外して、着ていた黒色のインナーを脱ぎ──鏡に映る自分の体を見て、聡太が驚いたように鏡に映る自分の姿を凝視する。
中学時代は剣道部に所属していたため、それなりに運動はしていたが……高校になってからは、体育の授業以外は運動すらしていない。その体育の授業でも、まともに動いていないのだが。
だが──今、鏡に映っている聡太は、異世界に来る前に比べると……まあ、少しはゴツくなっている。
原因は……迷宮で昼夜問わず戦っていたからだろう。というか、それ以外に理由が思い付かない。
「……この傷だけは、治らないな」
聡太の右腕に、二本の黒ずんだ傷跡がある。
──迷宮の深下層に落ちた日。あの忌々しい黒い狼、ダークウルフによって付けられた爪傷の跡だ。
ユグル・オルテールの残してくれた【回復魔法】の魔法陣のおかげで傷は塞がったが──傷跡までは消えないようだ。
「……ま、生きてるだけありがたいけどな」
着ていた服を洗濯機のような物に入れ、魔力を流し込む。
詳しい原理はわからないが──魔力を動力にして洗濯をしてくれるらしい。
ちなみに、『魔道具』ではなく『地精道具』と呼ばれる道具らしい。
かなりの量の魔力を流したため、聡太が離れても動くだろう。
『地精道具』から離れ、聡太は風呂場に足を踏み入れた。
「……さすがに、お湯は入ってないか」
浴槽の中は──空だ。
仕方がないとシャワーを手に取り──魔力を流す。
最初は冷水が出ていたが……少しずつ温度を上げ、やがて温かいお湯が出始めた。
「今までは『アクア・クリエイター』で布を濡らして体を拭いていただけだからな……お湯はマジで助かるな」
思わず笑みを浮かべてそう溢し、頭から一気にシャワーを浴びる。
……さて、今後の事を考えなければならない。
できるのなら、一度『イマゴール王国』に戻りたい。幼馴染みの勇輝や、心優しい火鈴は……もしかしたら、自分の事を心配しているかも知れない。
だが……この国『人国 エルミーナ』から『イマゴール王国』までの距離は、めちゃくちゃ遠い。
『剛力』を使って走っても……それなりに掛かるだろう。
となると──
「……近くにいる『十二魔獣』を殺しながら、『イマゴール王国』に帰るか」
今の所見つかっている『大罪迷宮』は……全部で五つ。
『ユグルの樹海』『シャイタン大峡谷』『迷子の浮遊大陸』『フリード噴火山』『オルフォルド大神殿』……この五つの場所に『大罪迷宮』が存在する事がわかっている。
『大罪人』は七人いたため、『大罪迷宮』も七つ存在すると言われているが……正確な数はまだ調査中なのだとか。
「……『イマゴール王国』に戻る途中で『シャイタン大峡谷』を通るな……」
その時の状況によっては、『シャイタン大峡谷』にある『大罪迷宮』を攻略しても良いのかも知れない。どうせ通り道なのだから。
「ん…………ん?」
ふと、湯気で曇った鏡を見て──聡太は眉を寄せた。
鏡に背中を向け──背中に刻まれる赤い紋様が鏡に映る。
「『大罪人』に刻まれていた紋様にそっくりとか、グローリアは言ってたな……」
……はて。
この紋様、どこかで見たような──
「ああ……そうか」
この紋様は──『憤怒のお面』に刻まれている紋様と同じだ。
『大罪人』……『憤怒のお面』……という事は、聡太の背中に刻まれている紋様は『憤怒』と呼ばれていた『大罪人』の紋様なのだろうか?
「………………じゃあ、他の奴らは……」
勇輝、火鈴、剣ヶ崎、土御門、小鳥遊、破闇──聡太以外の六人にも、紋様が刻まれている。
『強欲』『暴食』『嫉妬』『傲慢』『色欲』『怠惰』──残る大罪も六種類。
どういう理由があって、聡太たちに紋様が刻まれているのかわからないが──偶然の一言で片付ける事はできないだろう。
「……とりあえず、ミリアと相談して『シャイタン大峡谷』に行くか決めるか」
風呂場の外に置いてあったタオルで体を拭き、新品の下着を穿く。
そして……『地精道具』から音がしなくなった。洗濯が完了したのだろう。
「もう終わったのか……かなり早いな」
黒色のズボンを穿き……上半身裸のまま、風呂場を後にした。
「あれ、もう上がられたんですっ──?!」
ベッドに座って本を読んでいたミリア──聡太の姿を見た瞬間、褐色の肌を真っ赤に染めた。
「なっ、なんで上を着てないんですか?!」
「いや……ちょっと背中を見てくれ」
聡太がミリアに背中を向け──赤い紋様を見て、ミリアが驚いたように目を見開いた。
「そ、それは……ソータ様のお面と、同じ……?!」
「やっぱりそう見えるか……念のため、見比べてくれないか?」
ミリアに『憤怒のお面』を手渡し、再び背中を向ける。
「……はい。細かな模様まで、全く同じです」
「って事はやっぱり……」
「あ、あの。その背中の模様は……?」
「この世界に来た時からあるんだ。詳しい事はよくわかっていない」
黒いインナーを着て、ミリアの座っているベッドとは別のベッドに座る。
「……それで、ミリアは何を読んでるんだ?」
「あ、魔法書です。私は【蒼炎魔法】と【守護魔法】しか使えないので……ソータ様のように、もっと生活に役立つような魔法を覚えようかなと思いまして」
「そうか……」
何故だろう。スゴく眠たい。
久しぶりにシャワーを浴びれたからだろうか。それとも、ベッドがあるからだろうか。
──少しも警戒しなくて良い場所に来たからだろうか。
「……ソータ様?」
「悪い。ちょっと寝る。誰かが来たら起こしてくれ……」
「はい。お休みなさい」
「ああ……」
冒険者たちを戦意喪失させた聡太たちは──いくつかの店に寄って、宿らしき店にやって来た。
「……一日泊まりたい。いくらだ?」
持っていた袋を床に置き、カウンターに腕を乗せて低めの声で問い掛ける。
聡太としては別に威圧しているつもりは無いのだが……聡太の目付きの悪さが原因だろう。受付の女性が怯えたように小さく悲鳴を上げた。
「ひっ……えっと、そのっ、一人部屋だと銀貨三枚、二人部屋だと五枚ですっ……」
「……それって、一人部屋一つで銀貨三枚って事だよな?」
「は、はい」
「そうか……んじゃ、一人部屋二つで──」
「あ、ソータ様。二人部屋で構いませんよ」
聡太を見上げるミリアが、くいくいとインナーの袖を引っ張りながらそんな事を言う。
「……わかった。じゃあ、二人部屋を頼む」
「ぎ、銀貨五枚になります」
「銀貨五枚……ほらよ」
「は、はい。銀貨五枚、確かに受けとりました。夕食の用意が出来ましたらお呼びしますので、それまでゆっくりとお待ちください」
革袋から銀貨を取り出し、受付の女性に手渡す。
怯えた様子で受け取り、受付の女性が鍵を聡太に差し出した。
「に、二階の一番奥の部屋になります」
「わかった」
無愛想に短く返事をし、聡太が二階への階段をゆっくりと上がっていく。
「一番奥……ここか」
「はい、そうだと思います」
「……つーかお前、二人部屋で良かったのか?」
部屋の鍵を開けながら、フードを深く被るミリアに問い掛ける。
「はい。少しでも安く済む方を選びましょう」
「つってもな……まぁ、お前が気にしないなら別にいいか」
部屋に入り、そのまま部屋の鍵を閉めた。
持っていた袋をベッドの上に投げ置き、ミリアに向かって無言で頷く。
フードを取って良いと判断したミリアが勢い良くフードを脱ぎ──ふぅ、と小さくため息を吐いた。
「うぅ……なんだか髪がモサモサします……」
「しょうがないだろ。人目がある所はフードを被ってもらう予定だからな。どうにかして慣れろ」
「……はい。わかりました」
聡太の言葉に、仕方がないかとミリアが肩を落とした。
「それじゃ、俺は風呂に行ってくる。買った本とか服は袋の中に入ってるから、好きに取っておけ。それと、外には絶対に出るなよ? 誰かが来たら俺を呼べ」
「はい!」
元気に返事をするミリアから白いローブを受け取り、ベッドの上に置いた袋の中から下着を取り出して、聡太は風呂場に向かった。
一応、迷宮内にいる時は着ていた服を破いて体を拭いたりしてはいたが……どうにもムズムズする。
こうして各部屋に風呂があるのは、正直かなりありがたい。
「……おっ……ちょっとゴツくなったか?」
胸当てや膝当てなどを外して、着ていた黒色のインナーを脱ぎ──鏡に映る自分の体を見て、聡太が驚いたように鏡に映る自分の姿を凝視する。
中学時代は剣道部に所属していたため、それなりに運動はしていたが……高校になってからは、体育の授業以外は運動すらしていない。その体育の授業でも、まともに動いていないのだが。
だが──今、鏡に映っている聡太は、異世界に来る前に比べると……まあ、少しはゴツくなっている。
原因は……迷宮で昼夜問わず戦っていたからだろう。というか、それ以外に理由が思い付かない。
「……この傷だけは、治らないな」
聡太の右腕に、二本の黒ずんだ傷跡がある。
──迷宮の深下層に落ちた日。あの忌々しい黒い狼、ダークウルフによって付けられた爪傷の跡だ。
ユグル・オルテールの残してくれた【回復魔法】の魔法陣のおかげで傷は塞がったが──傷跡までは消えないようだ。
「……ま、生きてるだけありがたいけどな」
着ていた服を洗濯機のような物に入れ、魔力を流し込む。
詳しい原理はわからないが──魔力を動力にして洗濯をしてくれるらしい。
ちなみに、『魔道具』ではなく『地精道具』と呼ばれる道具らしい。
かなりの量の魔力を流したため、聡太が離れても動くだろう。
『地精道具』から離れ、聡太は風呂場に足を踏み入れた。
「……さすがに、お湯は入ってないか」
浴槽の中は──空だ。
仕方がないとシャワーを手に取り──魔力を流す。
最初は冷水が出ていたが……少しずつ温度を上げ、やがて温かいお湯が出始めた。
「今までは『アクア・クリエイター』で布を濡らして体を拭いていただけだからな……お湯はマジで助かるな」
思わず笑みを浮かべてそう溢し、頭から一気にシャワーを浴びる。
……さて、今後の事を考えなければならない。
できるのなら、一度『イマゴール王国』に戻りたい。幼馴染みの勇輝や、心優しい火鈴は……もしかしたら、自分の事を心配しているかも知れない。
だが……この国『人国 エルミーナ』から『イマゴール王国』までの距離は、めちゃくちゃ遠い。
『剛力』を使って走っても……それなりに掛かるだろう。
となると──
「……近くにいる『十二魔獣』を殺しながら、『イマゴール王国』に帰るか」
今の所見つかっている『大罪迷宮』は……全部で五つ。
『ユグルの樹海』『シャイタン大峡谷』『迷子の浮遊大陸』『フリード噴火山』『オルフォルド大神殿』……この五つの場所に『大罪迷宮』が存在する事がわかっている。
『大罪人』は七人いたため、『大罪迷宮』も七つ存在すると言われているが……正確な数はまだ調査中なのだとか。
「……『イマゴール王国』に戻る途中で『シャイタン大峡谷』を通るな……」
その時の状況によっては、『シャイタン大峡谷』にある『大罪迷宮』を攻略しても良いのかも知れない。どうせ通り道なのだから。
「ん…………ん?」
ふと、湯気で曇った鏡を見て──聡太は眉を寄せた。
鏡に背中を向け──背中に刻まれる赤い紋様が鏡に映る。
「『大罪人』に刻まれていた紋様にそっくりとか、グローリアは言ってたな……」
……はて。
この紋様、どこかで見たような──
「ああ……そうか」
この紋様は──『憤怒のお面』に刻まれている紋様と同じだ。
『大罪人』……『憤怒のお面』……という事は、聡太の背中に刻まれている紋様は『憤怒』と呼ばれていた『大罪人』の紋様なのだろうか?
「………………じゃあ、他の奴らは……」
勇輝、火鈴、剣ヶ崎、土御門、小鳥遊、破闇──聡太以外の六人にも、紋様が刻まれている。
『強欲』『暴食』『嫉妬』『傲慢』『色欲』『怠惰』──残る大罪も六種類。
どういう理由があって、聡太たちに紋様が刻まれているのかわからないが──偶然の一言で片付ける事はできないだろう。
「……とりあえず、ミリアと相談して『シャイタン大峡谷』に行くか決めるか」
風呂場の外に置いてあったタオルで体を拭き、新品の下着を穿く。
そして……『地精道具』から音がしなくなった。洗濯が完了したのだろう。
「もう終わったのか……かなり早いな」
黒色のズボンを穿き……上半身裸のまま、風呂場を後にした。
「あれ、もう上がられたんですっ──?!」
ベッドに座って本を読んでいたミリア──聡太の姿を見た瞬間、褐色の肌を真っ赤に染めた。
「なっ、なんで上を着てないんですか?!」
「いや……ちょっと背中を見てくれ」
聡太がミリアに背中を向け──赤い紋様を見て、ミリアが驚いたように目を見開いた。
「そ、それは……ソータ様のお面と、同じ……?!」
「やっぱりそう見えるか……念のため、見比べてくれないか?」
ミリアに『憤怒のお面』を手渡し、再び背中を向ける。
「……はい。細かな模様まで、全く同じです」
「って事はやっぱり……」
「あ、あの。その背中の模様は……?」
「この世界に来た時からあるんだ。詳しい事はよくわかっていない」
黒いインナーを着て、ミリアの座っているベッドとは別のベッドに座る。
「……それで、ミリアは何を読んでるんだ?」
「あ、魔法書です。私は【蒼炎魔法】と【守護魔法】しか使えないので……ソータ様のように、もっと生活に役立つような魔法を覚えようかなと思いまして」
「そうか……」
何故だろう。スゴく眠たい。
久しぶりにシャワーを浴びれたからだろうか。それとも、ベッドがあるからだろうか。
──少しも警戒しなくて良い場所に来たからだろうか。
「……ソータ様?」
「悪い。ちょっと寝る。誰かが来たら起こしてくれ……」
「はい。お休みなさい」
「ああ……」
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