初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

26話

「ちょ、ちょっと待ってくださいソータ様」

 旗をかかげている大きな建物を目指す聡太を、ミリアが呼び止めた。

「なんだ。今日で寝る場所も確保する予定なんだし、急がねぇと日が暮れるぞ」
「それはわかっていますけど……私のバックパックの中身だけで、そんなにお金を稼げるとは思えませんよ?」
「いや。案外そうでもないかも知れないぞ」
「え?」

 少し歩くスピードを落とし、不思議そうにしているミリアに説明を始める。

「あの量の浄化草で銀貨五枚以上の価値があるんなら、お前のバックパックの中にある草は、ほとんどが高価な草って事だろ」
「……そうなんですかね?」
「そもそも『フォルスト大森林』には『森精族エルフ』以外の種族が滅多に立ち入らない。見た感じ、この国の近くには『フォルスト大森林』以外に森は無さそうだし、浄化草とかの需要が高いのかもな」

 そこまで難しい事を言っているつもりはないのだが、ミリアはよくわからないと首を傾げている。

「……まあ簡単に言うなら、この国では『フォルスト大森林』の草が高く売れるかも知れないって事だ」
「なるほど! わかりやすいです!」

 そうこう話している内に、ギルドに着いた。
 グローリアやセシル隊長に聞いた情報では、冒険者がクエストを受ける場所らしい。
 その他の事は……あまり覚えていない。
 というのも、まさかこうしてギルドに来る事になるとは思っていなかったからだ。

「……行くぞ」
「はい!」

 深くフードを被り直すミリアと共に、聡太はギルドの扉を開けた──

「──っ」

 ──ギルドの中にいた者の視線が、一斉に聡太たちへ向けられる。
 全身を刺すような鋭い視線に、ミリアが小さく息を呑んだ。

「何してるんだ? 早く行くぞ」

 鋭い視線を特に気にした様子もなく、グイッとミリアの手を引っ張り、聡太はギルドの奥へと進んだ。
 真っ直ぐにカウンターのような所に向かい、イソイソと働く女性に話し掛ける。

「ちょっといいか?」
「はい! どうかされましたか?」

 作業の手を止め、女性が聡太とミリアに目を向けた。

「ここで買い取りって頼めるのか?」
「素材の買い取りですか? もちろんできますけど……冒険者以外の方からの買い取りは、少々安価で買い取る事になりますよ?」
「わかった。ミリア」
「はい」

 バックパックから取り出した様々な種類の草を見て、女性が驚いたように目を見開いた。

「浄化草に毒消し草。月光草に消臭草。その他、治癒効果の高い薬草です」
「ついでに、モンスターの素材とかな」
「こ、こんなにたくさん……こちらの相場で買い取らせていただきますが、よろしいのですか? 薬屋の方が、もっと高く買い取ってくれると思いますけど……」
「いいんだ。それで、いくらだ?」
「え、ええっと、少々お待ちください!」

 バタバタとカウンターの奥の方に駆けて行き──何やら革袋を持って戻ってきた。

「魔金貨二枚で……どうでしょうか?」
「それで構わない。ああそれと、『ステータスプレート』ってここで作れるか?」
「『ステータスプレート』ですか? 作れますけど……ここで『ステータスプレート』を作られると、職業の欄が冒険者になりますがよろしいのですか?」
「じゃあコイツの分の『ステータスプレート』を頼む。金は買い取りの分から引いといてくれ」
「『ステータスプレート』のお金はサービスしておきますよ。稀少な物を売ってくれたお礼です」

 言いながら、女性がカウンターの下から薄く小さな板と針を取り出した。

「ミリア。『ステータスプレート』に自分の血を付けろ」
「はい、わかりました」

 女性から針を受け取り、ミリアが自身の人差し指に突き刺した。
 プクッと出てきた血の玉を『ステータスプレート』にこすりつけた──瞬間、『ステータスプレート』が淡く光り出した。

「ソータ様」
「ん。見せてくれ」
 
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名前 ミリア・オルヴェルグ
年齢 31歳
職業 冒険者
技能 【蒼炎魔法適性】【守護魔法適性】【鑑定の魔眼】【高速魔力回復】

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「ミリア、これであってるか?」
「はい、全部あってます」
「よし……それじゃ、行くか」
「はい!」

 カウンターの女性に背を向け、聡太たちがギルドを後にした。
 ──その後ろ姿を、何人かの男たちが品定めするような目で見つめていた。

────────────────────

「こうして見ると、ソータ様って普通の冒険者みたいな姿ですね」
「あ? 急にどうしたんだよ」
「いえ……あのギルドにいた冒険者の装備と似ているな、と思いまして」

 すっかりバックパックが軽くなったのだろう。先ほどと比べて軽い足取りになった様子のミリアが、聡太を見上げてそんな事を言った。

「俺、あんな凶悪そうな見た目してるか?」
「装備がですよ? ソータ様の外見は……別に……そんなに怖くはないですから」
「おい。目を逸らすな」
「だ、大丈夫です! 目付きが怖いだけで、他はそうでもないですから!」

 フォローになっていない言葉に、聡太のひたいに青筋が浮かぶ。
 現在の聡太の装備は──黒色のインナーに黒色のズボン。鉄製の胸当てや肘当て、膝当て等を付けている姿は、どこにでもいるような冒険者だ。

「……それよりソータ様。先ほどからどうされたんですか?」
「何がだ?」
「いえ……何だかずっとキョロキョロされているので」
「……ちょっと、な」

 辺りを見回しながら歩く聡太……その姿は、何かを探しているように見える。

「……ん……ミリア、そこを左に曲がるぞ」
「左に……ですか? でも、その先は──」

 何かを言いかけるミリアを無視して、聡太が左に続く道へ進む。
 聡太なら何か考えがあるのだろうと信じ、ミリアもその後に続き──

「……行き止まり、ですよ?」
「……………」
「……? ソータ様、どうされました?」
「……なるほどな……目的は、俺らの所持品ってか?」

 ミリアの問いかけには答えず、聡太がゆっくりと振り返った。

「──よくわかってんじゃねぇか」

 聡太たちの退路を塞ぐようにして、ぞろぞろと男たちが現れる。

「わざわざ逃げ場のない行き止まりに来てくれて助かったぜ……おら、オレらの目的はわかってんだろ? とっととそのバックパックを寄越しな」

 リーダー的存在の男が、剣を抜いて切っ先を向けてくる。
 聡太の隣でミリアが戦闘態勢に入るが──ミリアを制止するように、聡太がミリアの肩をポンと軽く叩いた。

「アホだなお前。何の考えも無しにこんな所に来ると思ってんのか?」
「ああ?」
「俺がお前らを誘い込んだんだよ──ここならお前らを殺しても、外には見えないしな」

 ──ゾクッと。
 聡太の放つ静かな殺気に、男たちが気圧けおされたように顔を引きらせた。
 たったこれだけの殺気でビビるのか──と、バカにしたように笑いながら、聡太が『黒曜石の短刀』を抜いた。

「ほら来いよ。まさか、こんな小さい子どもにビビってんのか?」
「ガキが……! 調子に乗ってんじゃねぇ!」

 男が剣を振りかぶり、聡太に突っ込んだ。
 対する聡太は──ダランと両手を下げたまま、短刀を構えようとしない。
 男の振り下ろす剣が、聡太の体を袈裟斬りにする──寸前。
 パキィン、と甲高い音が路地裏に響いた。

「……ギルドの中で一番強そうだったから、どのぐらい強いのか期待したんだが……この程度か」

 いつの間に短刀を振り上げたのか、退屈そうにそう呟く聡太が、振り上げた状態の短刀を下ろした。
 そして──トスッと、地面に何かが突き刺さった。
 ──それが折れた刀身だと気づくのに、そんなに多くの時間を必要とはしなかった。

「なっ……オレの剣が……?!」
「こんなザコしかいないんなら、『十二魔獣』に滅ぼされそうになってるのも納得だ……行くぞミリア。コイツらにもう用はない」
「は、はい!」

 呆然とする男の横を通り過ぎ、聡太たちは宿を探し始めた。

────────────────────

「オオッッ!! オオォオオオオオオオオッッ!!」

 薄暗い迷宮の中。一つ目の巨人が、目の前の獲物に向けて雄叫びを上げる。
 オーガと比べても引けを取らないその巨腕を振り上げ、己を見上げる小さな獲物に振り下ろし──
 ズンンッッッ!!! と重々しい轟音が迷宮内に響いた。

「オアッ……ガァァァァ……!」

 床にめり込んだ拳をゆっくり引き抜き、今の一撃を避けた獲物に低く唸る。
 飢えるサイクロプスの獲物に選ばれたのは──少女だった。
 黒髪と赤髪が入り混じった不思議な髪に、黒瞳と赤瞳の色違いの瞳オッドアイ
 豊満な体には下着同然の布切れをまとっているだけだが、どこか上品な雰囲気を醸し出している。

「……『赤竜の吐息ドラゴ・ブロア』」

 少女の口から、くれないの炎が放たれる。
 迷宮内を明るく照らしながら迫るそれは、サイクロプスの体をあっという間に包み込んだ。

「ガァッ?! アァッッ!! ォォォォォアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 炎を振り払いながら、サイクロプスが怒りの咆哮を上げた。
 再び腕を振り上げ──その拳が、少女に激突する寸前。

「しつこいよ──【部分竜化】」

 拳を素早く避け、その場から大きく飛び上がった少女が──竜のように変化した右腕で、サイクロプスの喉元を簡単に斬り裂いた。
 サイクロプスは仰向けに倒れ、大きく痙攣したかと思うと……ピクリとも動かなくなった。

「もっと……もっと強くならなきゃ……!」

 全身を返り血に染め、そう小さく呟く少女は、敵を倒したのに焦っているように見える。
 先ほどまでは『人類族ウィズダム』の少女だったはずだが──今の少女の姿は、なんとも歪な化け物だ。
 右腕は肥大化し、表面が赤い鱗に覆われている。その指先からは鎌のように鋭い爪が伸びており、まるで竜の腕のようだ。
 頭からは濁った白色の角、背中からはドラゴンのような翼が生えており──まるで竜と合体したように見える。

「──火鈴!」
「ん……雪乃か〜。どうしたの〜?」
「どうしたのじゃない! 一人で行動しちゃ危ないでしょ! 何やってるの?!」

 青色のローブに身を包む氷室が、火鈴の左手を掴んでブンブンと振り回す。

「何してるって言われても……他のみんなに合わせてたら時間が掛かるから、先に下層への階段を探してたんだよ〜」
「もう! だからって勝手にいなくなったら心配するでしょ?! 火鈴が強くなったのはわかってるけど、もしもスゴく強いモンスターが出たらどうするの?!」
「……ごめん……」

 氷室に引っ張られるようにして、火鈴は来た道を引き返す。

「……それにしても、元に戻らないね」
「何が〜?」
「髪とか眼だよ。古河くんが見たらビックリするんじゃない?」
「……そうだね〜……【部分竜化】解除〜……」

 ──ビキビキと。骨が軋むような鈍い音。
 火鈴の右腕が少しずつ収縮を始め──やがて、元の火鈴の腕に戻った。
 頭から生えていた角や、背中から生えていた翼も消えている。
 数秒を掛けて元の姿に戻った火鈴……だが、髪色や瞳の色だけは元に戻らない。

「セシル隊長は【技能】が影響してるって言ってたよね?」
「うん。よくわからないけどね〜」

 軽く笑いながら、火鈴は元に戻った右腕で『ステータスプレート』を取り出した。

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名前 獄炎ごくえん 火鈴かりん
年齢 16歳
職業 勇者
技能 【言語理解】【爪術そうじゅつきわみ”】【竜化】【部分竜化】【竜人化】【気配感知】【炎魔法適性】

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 この短期間で、新たな【技能】が増えた。
 【爪術“極”】と【竜人化】──どちらも、聡太が迷宮の下層へと落ちてから習得した【技能】だ。

「──む。どこに行っていたんだカリン! 単独行動は控えろとあれだけ言っただろう!」

 火鈴の姿を見つけたセシル隊長が、厳しい怒声を飛ばす。

「ごめんなさい……気をつけます」
「まったく……焦る気持ちはわかるが、一人で動くのは危険だ。お前は確かに強くなった。正直、今のお前は勇者の中で一番強い。だが、だからって単独行動して良いわけじゃない。わかったな?」
「……はい」
「わかったならいい。お前を探しに行った他の奴等が戻ってくるまで、ここで待機するぞ」

 腕を組むセシル隊長の横で、火鈴はとある日を思い出す。
 ──あの日、聡太が下層へと落ちた日。
 今のあたしが、あの日にいたら……聡ちゃんが下層に落ちる事はなかったのだろうか。
 もっともっと真面目に訓練していれば、聡ちゃんと木の化物が1対1で戦う事はなかったのだろうか。
 ……いや。考えるのはやめよう。
 今はとにかく──もっと強くならないと。
 もっと強くなって。もっともっと強くなって。もっともっともっと強くなって。そして、絶対に──

「見つけてみせるからね、聡ちゃん」

 左右非対称の瞳に強い覚悟を宿す火鈴の姿は、まさに『勇者』と呼ぶに相応しい勇気ある者の姿だった。

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