初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
24話
「……は? 今、なんて言った?」
──『フォルスト大森林』から出る道中。
隣を歩くミリアの言葉に、聡太が驚愕したように目を見開いた。
「で、ですから、その……私の年齢は、31歳……です」
褐色の頬を赤らめ、ミリアが恥ずかしそうに顔を伏せる。
31歳って……俺の年齢の倍に近いじゃねぇか。
「……31には見えねぇな」
「えへへ……嬉しいです」
先の尖った耳をピコピコと動かし、嬉しそうに頬を緩める。
「──って、俺が聞きたいのはそういう事じゃないんだよ」
「え? でもソータ様……お前の事を、詳しく教えろって……」
「どんな【技能】が使えるか教えろって意味だ。別に歳とかは聞いてねぇよ」
「あ、そういう事でしたか」
納得したような表情のミリアに、思わず聡太はため息を吐いた。
そんな聡太に気づいていないのか、ミリアは自身が使える【技能】について話し始める。
「そうですね……まず、私は【技能】を4つ持っています」
「4つか……4つって、多いんだよな?」
「はい。それなりには」
聡太の記憶では、『イマゴール王国』で一番多く【技能】を持っている者で4つだったはずだ。
ミリアは、その者と同じ数の【技能】を持っているのか。
「で? その【技能】って?」
「えっと……【鑑定の魔眼】は前に説明しましたよね?」
「ああ」
「では、その他の【技能】についてお話ししますね」
誰かと話すのが楽しいのか、ミリアの顔には常に笑顔が浮かんでいる。
「残りの3つは、【蒼炎魔法適性】と【守護魔法適性】、それに【高速魔力回復】です」
「……【高速魔力回復】は聞いた事があるな。文字通り、魔力が速く回復するって【技能】だよな」
「はい、詳しいんですね」
「……友人にその【技能】を持っている奴らがいてな」
小鳥遊と水面、あと氷室が持っていたような覚えがある。
「そのご友人って……ソータ様と同じ、『勇者』なんですか?」
「ああそうだ。俺なんかよりよっぽどスゲェ【技能】を持ってる奴らだ」
「そうなんですね……ソータ様よりスゴいなんて、一体どんな……」
「……なあ。お前の【蒼炎魔法】と【守護魔法】って、どんな魔法なんだ?」
「どんな魔法って聞かれましても……説明するのが難しいですね」
うーんと唸り、ミリアが顎に手を当てて考えるような仕草を見せる。
「【蒼炎魔法】は【炎魔法】の上位互換と思ってもらえれば。【守護魔法】は……簡単に言うなら、身を守る結界を張る魔法です」
「……【障壁】みたいな感じか?」
「【障壁】みたいに使い勝手が良い魔法ではありませんよ」
「そうなのか?」
「内部から外へ自由に出る事ができるのが【障壁】とするなら……【守護魔法】は、中に入るのも外に出るのも許さない壁、と言った所でしょうか」
バックパックを背負い直すミリアの説明に、聡太は何となく理解した。
要するに、【守護魔法】は身を守る壁。壁だから自由に出入りできないと。
うん、それは理解できる。
【障壁】の内部から外へ自由に出る事ができるのは、未だに理解できないが。
「それに私、『複数術士』なんですよ!」
「俺も『複数術士』なんだけどな」
「えっ……そうだったんですか?」
「ああ。二種類までしか一緒に使えないけどな」
「……『森精族』ならともかく、『人類族』のソータ様が二重詠唱できるなら充分と思いますけど……」
『複数術士』の『人類族』が珍しいのか、ミリアが驚いたように目を見開いている。
「ミリアはその……何重詠唱できるんだ?」
「ふふん。驚きますよ! 五重詠唱です!」
ドヤ顔のミリアが、鼻息荒くそう言った。
──五重詠唱?
それはつまり……五種類の魔法を同時に使う事ができるという事だろうか?
「……ちなみにさ、二重詠唱とか五重詠唱とかできたら、どうなるんだ?」
「先ほどソータ様が言われた通り、異なる種類の魔法を同時に使う事ができたり、魔法の威力を向上させる事ができます」
「へぇ……」
「魔法の威力を向上させるための複数詠唱は難しいですけど……コツを掴めば誰にでもできますよ!」
「……ちなみに、ミリアは?」
「【守護魔法】なら五重強化まで操作できますけど……【蒼炎魔法】は難しくて、まだ二重強化しかできません」
聡太はそれなりに異世界の魔法を理解したつもりだったが……今回のミリアの説明は、どうも理解するのが難しい。
「うーん……実際に見せた方が早いですね。ソータ様、よく見ていてください」
「……おう」
「それでは──『第一重守護結界』」
ミリアの詠唱に従い──聡太たちを囲むようにして、灰色の結界が現れる。
「これが普通の詠唱で作った結界です」
「そうか……それで?」
「二重詠唱すればさらに固い結界に。三重詠唱すればさらに固く──という感じで、魔法自体を強化できるんです」
……何となくだが、理解した。
二重詠唱すればさらに強力に。三重詠唱、四重詠唱すればもっと──といった具合で強力されるという事だ。
そもそも聡太には、二重詠唱で魔法を強化する方法がわからないため、根本的な部分はよくわからないのだが。
「あ──ソータ様! 森を抜けますよ!」
「やっとか……広すぎんだろ、この森……」
さすがはこの世界最大の森と言われている『フォルスト大森林』……森を出ようとするだけで数時間も掛かるとは。
聡太が『イマゴール王国』で読んだ本の中に、『フォルスト大森林』のどこかに『大罪迷宮』があると書かれていた。
この巨大な大森林の中から『大罪迷宮』を探さなければならない──とかならないように、密かに聡太は祈った。
「……ようやく、それっぽい外に出れたな」
大森林を抜けた先は──草原だった。
爽やかな風が聡太の頬を撫で、草花の香りが鼻をくすぐってくる。
「……でも、こっからだ……」
「ソータ様……」
「まだ『大罪迷宮』から出て、【技能】に呑まれて『十二魔獣』を討伐できただけだ……あと十一匹も殺さなきゃいけないし、俺の力が通用しなかったら、また別の『大罪迷宮』に潜って新しい力を身に付ける必要もある。だから──こっからだ」
ニイッと、聡太の口元が不敵に歪む。
その笑みは、赤い空間にいた赤い男にそっくりな笑みで。
「『十二魔獣』を討伐して、元の世界に帰る──もう俺は、殺すのを躊躇わない」
「……………」
「俺は異世界人が大嫌いだ。どんだけ偉い奴であろうと敬う気はないし、そもそも関わる気もない……こんな俺をどう思う、ミリア?」
「……私には関係ありません。私は、私の居場所を守るために戦う。それだけですよ」
聡太の隣に並び立ち、聡太のマネをしてにいっと笑う。
「そうか……とりあえず、ここから一番近くにある国に行って、『十二魔獣』の情報を集めるぞ」
「はい!」
頼もしく元気な返事を聞き、聡太は草原を歩き始めた。
────────────────────
「──ブモォォォォォンンンッッ!!」
全身真っ白、肥大化した四本の腕を持つ化物が、瓦礫の上に立って雄叫びを上げる。
「くそ……くそっ、くそッ!」
「なん、だよアイツ……?! あんなモンスター、今まで見た事ないぞ?!」
「なら答えは1つしかないだろ?! 『十二魔獣』だよ!」
『獣国 アルドローリア』に住む『獣人族』が、吼える化物から逃げようと必死に走る。
──逃げ回る獲物を、化物は逃がさない。
頭部から生えた二本の湾曲した角を近くにいた幼い少年に向け、化物が勢い良く飛び掛かり──
「とりゃあああああああああっ!」
「ブモ──ッッ!!」
化物が少年を惨殺する──寸前、何者かが化物の顔面を蹴り飛ばした。
勢い良くぶっ飛ばされた化物は建物に激突し──だが何事もなかったように立ち上がる。
「──ハピィ!」
「戻って来なさい、ハピィ!」
化物と向かい合うハーピーのような少女を、父母と思われる二人が必死に呼び戻す。
しかし……薄い青色の髪の少女は、威嚇するようにその両腕から生えた青い翼を広げ、戦闘体勢に入った。
「きみ! 早く逃げてー!」
「あ、う、うん! ありがとう!」
ハーピーの少女に礼を言って、襲われそうになっていた少年がその場から逃げ出した。
「今だ! ハルピュイアが時間を稼いでくれている間に逃げろ! オルバさんも、早く逃げてください!」
「なっ……お前、ハピィを置いて行けと言うのか?!」
「ハルピュイアは私たちが連れて行きます! あなたはハーピー種のリーダーでしょう?! ちゃんと他のハーピーをまとめてください!」
「くそ……! ハピィ!」
「任せてー! ハピィ頑張るー!」
少女の父親は悔しそうに唇を噛み……この場は娘に任せる事にしたのか、近くにいた母と一緒に駆け出した。
「ハルピュイア! もう少しだけ時間を稼げるか?!」
「おー!」
「ォォォオオオオオオオオオンンンッッ!!」
少しでも多くの命を救うために、少女は『十二魔獣』に飛び掛かった。
──『フォルスト大森林』から出る道中。
隣を歩くミリアの言葉に、聡太が驚愕したように目を見開いた。
「で、ですから、その……私の年齢は、31歳……です」
褐色の頬を赤らめ、ミリアが恥ずかしそうに顔を伏せる。
31歳って……俺の年齢の倍に近いじゃねぇか。
「……31には見えねぇな」
「えへへ……嬉しいです」
先の尖った耳をピコピコと動かし、嬉しそうに頬を緩める。
「──って、俺が聞きたいのはそういう事じゃないんだよ」
「え? でもソータ様……お前の事を、詳しく教えろって……」
「どんな【技能】が使えるか教えろって意味だ。別に歳とかは聞いてねぇよ」
「あ、そういう事でしたか」
納得したような表情のミリアに、思わず聡太はため息を吐いた。
そんな聡太に気づいていないのか、ミリアは自身が使える【技能】について話し始める。
「そうですね……まず、私は【技能】を4つ持っています」
「4つか……4つって、多いんだよな?」
「はい。それなりには」
聡太の記憶では、『イマゴール王国』で一番多く【技能】を持っている者で4つだったはずだ。
ミリアは、その者と同じ数の【技能】を持っているのか。
「で? その【技能】って?」
「えっと……【鑑定の魔眼】は前に説明しましたよね?」
「ああ」
「では、その他の【技能】についてお話ししますね」
誰かと話すのが楽しいのか、ミリアの顔には常に笑顔が浮かんでいる。
「残りの3つは、【蒼炎魔法適性】と【守護魔法適性】、それに【高速魔力回復】です」
「……【高速魔力回復】は聞いた事があるな。文字通り、魔力が速く回復するって【技能】だよな」
「はい、詳しいんですね」
「……友人にその【技能】を持っている奴らがいてな」
小鳥遊と水面、あと氷室が持っていたような覚えがある。
「そのご友人って……ソータ様と同じ、『勇者』なんですか?」
「ああそうだ。俺なんかよりよっぽどスゲェ【技能】を持ってる奴らだ」
「そうなんですね……ソータ様よりスゴいなんて、一体どんな……」
「……なあ。お前の【蒼炎魔法】と【守護魔法】って、どんな魔法なんだ?」
「どんな魔法って聞かれましても……説明するのが難しいですね」
うーんと唸り、ミリアが顎に手を当てて考えるような仕草を見せる。
「【蒼炎魔法】は【炎魔法】の上位互換と思ってもらえれば。【守護魔法】は……簡単に言うなら、身を守る結界を張る魔法です」
「……【障壁】みたいな感じか?」
「【障壁】みたいに使い勝手が良い魔法ではありませんよ」
「そうなのか?」
「内部から外へ自由に出る事ができるのが【障壁】とするなら……【守護魔法】は、中に入るのも外に出るのも許さない壁、と言った所でしょうか」
バックパックを背負い直すミリアの説明に、聡太は何となく理解した。
要するに、【守護魔法】は身を守る壁。壁だから自由に出入りできないと。
うん、それは理解できる。
【障壁】の内部から外へ自由に出る事ができるのは、未だに理解できないが。
「それに私、『複数術士』なんですよ!」
「俺も『複数術士』なんだけどな」
「えっ……そうだったんですか?」
「ああ。二種類までしか一緒に使えないけどな」
「……『森精族』ならともかく、『人類族』のソータ様が二重詠唱できるなら充分と思いますけど……」
『複数術士』の『人類族』が珍しいのか、ミリアが驚いたように目を見開いている。
「ミリアはその……何重詠唱できるんだ?」
「ふふん。驚きますよ! 五重詠唱です!」
ドヤ顔のミリアが、鼻息荒くそう言った。
──五重詠唱?
それはつまり……五種類の魔法を同時に使う事ができるという事だろうか?
「……ちなみにさ、二重詠唱とか五重詠唱とかできたら、どうなるんだ?」
「先ほどソータ様が言われた通り、異なる種類の魔法を同時に使う事ができたり、魔法の威力を向上させる事ができます」
「へぇ……」
「魔法の威力を向上させるための複数詠唱は難しいですけど……コツを掴めば誰にでもできますよ!」
「……ちなみに、ミリアは?」
「【守護魔法】なら五重強化まで操作できますけど……【蒼炎魔法】は難しくて、まだ二重強化しかできません」
聡太はそれなりに異世界の魔法を理解したつもりだったが……今回のミリアの説明は、どうも理解するのが難しい。
「うーん……実際に見せた方が早いですね。ソータ様、よく見ていてください」
「……おう」
「それでは──『第一重守護結界』」
ミリアの詠唱に従い──聡太たちを囲むようにして、灰色の結界が現れる。
「これが普通の詠唱で作った結界です」
「そうか……それで?」
「二重詠唱すればさらに固い結界に。三重詠唱すればさらに固く──という感じで、魔法自体を強化できるんです」
……何となくだが、理解した。
二重詠唱すればさらに強力に。三重詠唱、四重詠唱すればもっと──といった具合で強力されるという事だ。
そもそも聡太には、二重詠唱で魔法を強化する方法がわからないため、根本的な部分はよくわからないのだが。
「あ──ソータ様! 森を抜けますよ!」
「やっとか……広すぎんだろ、この森……」
さすがはこの世界最大の森と言われている『フォルスト大森林』……森を出ようとするだけで数時間も掛かるとは。
聡太が『イマゴール王国』で読んだ本の中に、『フォルスト大森林』のどこかに『大罪迷宮』があると書かれていた。
この巨大な大森林の中から『大罪迷宮』を探さなければならない──とかならないように、密かに聡太は祈った。
「……ようやく、それっぽい外に出れたな」
大森林を抜けた先は──草原だった。
爽やかな風が聡太の頬を撫で、草花の香りが鼻をくすぐってくる。
「……でも、こっからだ……」
「ソータ様……」
「まだ『大罪迷宮』から出て、【技能】に呑まれて『十二魔獣』を討伐できただけだ……あと十一匹も殺さなきゃいけないし、俺の力が通用しなかったら、また別の『大罪迷宮』に潜って新しい力を身に付ける必要もある。だから──こっからだ」
ニイッと、聡太の口元が不敵に歪む。
その笑みは、赤い空間にいた赤い男にそっくりな笑みで。
「『十二魔獣』を討伐して、元の世界に帰る──もう俺は、殺すのを躊躇わない」
「……………」
「俺は異世界人が大嫌いだ。どんだけ偉い奴であろうと敬う気はないし、そもそも関わる気もない……こんな俺をどう思う、ミリア?」
「……私には関係ありません。私は、私の居場所を守るために戦う。それだけですよ」
聡太の隣に並び立ち、聡太のマネをしてにいっと笑う。
「そうか……とりあえず、ここから一番近くにある国に行って、『十二魔獣』の情報を集めるぞ」
「はい!」
頼もしく元気な返事を聞き、聡太は草原を歩き始めた。
────────────────────
「──ブモォォォォォンンンッッ!!」
全身真っ白、肥大化した四本の腕を持つ化物が、瓦礫の上に立って雄叫びを上げる。
「くそ……くそっ、くそッ!」
「なん、だよアイツ……?! あんなモンスター、今まで見た事ないぞ?!」
「なら答えは1つしかないだろ?! 『十二魔獣』だよ!」
『獣国 アルドローリア』に住む『獣人族』が、吼える化物から逃げようと必死に走る。
──逃げ回る獲物を、化物は逃がさない。
頭部から生えた二本の湾曲した角を近くにいた幼い少年に向け、化物が勢い良く飛び掛かり──
「とりゃあああああああああっ!」
「ブモ──ッッ!!」
化物が少年を惨殺する──寸前、何者かが化物の顔面を蹴り飛ばした。
勢い良くぶっ飛ばされた化物は建物に激突し──だが何事もなかったように立ち上がる。
「──ハピィ!」
「戻って来なさい、ハピィ!」
化物と向かい合うハーピーのような少女を、父母と思われる二人が必死に呼び戻す。
しかし……薄い青色の髪の少女は、威嚇するようにその両腕から生えた青い翼を広げ、戦闘体勢に入った。
「きみ! 早く逃げてー!」
「あ、う、うん! ありがとう!」
ハーピーの少女に礼を言って、襲われそうになっていた少年がその場から逃げ出した。
「今だ! ハルピュイアが時間を稼いでくれている間に逃げろ! オルバさんも、早く逃げてください!」
「なっ……お前、ハピィを置いて行けと言うのか?!」
「ハルピュイアは私たちが連れて行きます! あなたはハーピー種のリーダーでしょう?! ちゃんと他のハーピーをまとめてください!」
「くそ……! ハピィ!」
「任せてー! ハピィ頑張るー!」
少女の父親は悔しそうに唇を噛み……この場は娘に任せる事にしたのか、近くにいた母と一緒に駆け出した。
「ハルピュイア! もう少しだけ時間を稼げるか?!」
「おー!」
「ォォォオオオオオオオオオンンンッッ!!」
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