初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
14話
──『大罪迷宮』、地下十三層。
聡太たち11人と、セシル隊長たち騎士10名は、順調に攻略を進めていた。
十層を越えた辺りから、聡太が魔法を使わなくても周りが見えるほど明るくなってきた。
理由は、発光石という光る石が原因らしい。
「ふぅ……こんなもんか……セシル隊長、まだ先に進むのか?」
「いや……ここから先は我々も足を踏み入れていないからな。今日はここまでして、引き返すとしよう」
「何故ですかセシル隊長!」
セシル隊長の言葉に噛み付く男──引率として付いてきた騎士だ。
「勇者方が一緒にいる今こそ、次の層に足を踏み入れるべきです!」
「…………それも一理あるが、危険だ。引き返すぞ」
「大丈夫ですよセシル隊長! ボクたち、まだまだやれます! 次に進みましょう!」
「いや、だが…………はぁ……俺が危険と判断したら、すぐに引き返すぞ」
「はい! みんな、行くぞ!」
聖剣を掲げ、剣ヶ崎と騎士たちが十四層へと足を踏み入れた。
「……セシル隊長、大丈夫なのか? 勝手に行動させて」
「アイツらも騎士の一員だ。無理だと思えば引き返すと言うだろう」
「……はぁ……行くか」
セシル隊長に続いて、聡太たちも下の層に足を踏み入れ──
十四層に入ってすぐ、十五層へと続く階段があった。
「なんだ、すぐに階段があったじゃないか。早く進むぞ!」
「おい待て! この層のモンスターを駆除してからじゃないと──」
セシル隊長の制止を無視して、騎士たちが十五層へと進んで行った。
──直後。下の層から、絶叫が響き渡った。
「──っ?!」
誰の声か、深く考えなくてもわかった。
10人いた騎士。その内の1人の声だ。
セシル隊長が剣を抜き、聡太たちを置いて下層へと進んで行く。
聡太と勇輝が顔を合わせ……頷き合い、十五層へと進み──
「おいどうした?! しっかりしろ!」
──腹部から血を流す男を見て、思わず聡太は口元を手で覆った。
金属の鎧に風穴が空いており、致命傷である事は誰にでも理解できる。
「せ、しる……たいちょ……」
「セシル隊長、退いてください! “我、全ての者に癒しを与える者。優しき光よ、傷付く者の傷を癒し、安らぎを与えよ”──『ライト・ヒール』!」
小鳥遊の詠唱に従い、男の腹部が淡い光に包まれ──風穴が跡形もなく塞がった。
「お、オイ聡太……あれ……」
「ああ……」
聡太たちがいる十五層は──まるで、闘技場のようになっている。
聡太たちが降りてきた階段と、反対側にある下へと続く階段以外は何もない、円形の部屋だ。
そして──部屋の中央。
そこに、何やら大木が立っていた。
「どう見ても普通の木じゃねぇよな……火鈴、アレに向かって【炎魔法】を撃て」
「う、うん。『ウル・ファイア・ランス』」
「“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』」
辺りに赤い魔法陣が浮かび上がり──炎の槍が放たれる。
大木に向かって真っ直ぐに飛んで行ったそれは──地面を突き破って現れたツルの壁に阻まれ、火の粉となって霧散した。
次から次に地面から現れるツル……その先端は、聡太たちに真っ直ぐ向けられている。
そんなツルの様子を見て、聡太は──何やら、嫌な予感を感じた。
「氷室、水面ッ! 【障壁】を出せッ! 小鳥遊もだッ! 急げッ!」
「「「しょ、【障壁】っ!」」」
若干の戸惑いながらも、【障壁】を展開。
──次の瞬間。地面から現れたツルが、風を斬る音と共に【障壁】に激突した。
「うわ?! なんだ?!」
「チッ……! セシル隊長ッ!」
「ああわかっている! ユキノとシズク、ユウコは【障壁】を維持ッ! その他魔法が使える者は【障壁】内から外に向けて魔法を放てッ! 近接組は、俺たち騎士と共にあのツルを駆除するぞッ!」
「おっしゃあ任せとけッ!」
拳と拳をぶつけ合い、勇輝が己を奮い立たせるように大声を上げた。
隣では剣ヶ崎が聖剣と聖盾を構え、宵闇が槍を握り直している。
破闇が刀を抜き、土御門が目を細めて植物モンスターに視線を向けた。
セシル隊長に並ぶようにして聡太も武器を構え──
「【部分獣化】ァッ!」
先頭を切ったのは土御門だ。
両腕両足を虎のように変化させ──目にも止まらぬ速さで【障壁】を抜け、地面から生えるツルに向かって突っ込んで行く。
土御門が【障壁】から出た瞬間、ツルが勢い良く放たれるが──遅い。
獣のような動きでツルを回避し、大木に向けて剛爪を振り上げ──
「チッ──うるァッ!」
──寸前。ツルが壁のように絡み合い、土御門の行く手を遮った。
そんな事もお構い無しに、土御門が剛爪を振り抜き──バラバラに切断されたツルが宙を舞った。
「総員、トラノスケに続けッ!」
続いて、セシル隊長が【障壁】を抜け、植物の化け物に向かって駆け出した。
──【障壁】。
外から敵が入る事を許さない盾。逆に、内側から外側に出る事は可能という、戦闘を有利に進める事ができる【技能】。
「勇輝、ビビったか?」
「は、はあ?! ビビってねぇよ! 行くぞ聡太!」
「ああ」
【障壁】の外へ一歩踏み出した──瞬間、いくつかのツルの先端が聡太と勇輝を捉えた。
「どわぁあああああああああああッ?!」
「うっせぇぞ勇輝! 舌噛むぞ!」
先ほどのビビってねぇよ! という言葉はどこへやら。情けない悲鳴を上げる親友と共にツルを回避し、大木に向かって駆ける。
ちら、と背後を確認し──剣ヶ崎と宵闇、破闇も【障壁】を抜け出し、木のバケモノに向かって走って来ているのが見える。
だが──騎士たちは全く動こうとしない。最初にやられた騎士の姿を見て、すっかり怯えてしまっているようだ。
つくづく腹の立つ奴らだ──そう思いながら、聡太はツルの壁に向かって刀を振るった。
「──ふッ! しッ!」
「行くぜ! 【増強】ッ!」
「“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』ッ!」
ツルを斬り裂き、そのまま空中に赤い魔法陣を召喚。
放たれる炎槍がツルを焼き払い──大木への道が切り開かれる。
「宵闇君っ!」
「ああ、わかっている」
「「【瞬歩】ッ!」」
破闇と宵闇の姿がブレ──大木の前に瞬間移動。
破闇の刀が木を半分ほど斬り、宵闇の槍が木に大きな風穴を空けた。
「……ふぅ……殺った、のかしら……?」
「手応えあった……仕留めたな」
破闇と宵闇の呟きを聞き、その場にいた全員が安堵のため息を吐く。
──迷宮内が大きく揺れ始めたのは、それと同時だった。
「な、なんだ?! 聡太、何がどうなってんだ?!」
「知るか落ち着け」
地面に亀裂が走り──大木を押し退けながら、ソイツは姿を現した。
木の妖精──目の前に現れたモンスターを見て、そんな印象を受ける。
「……はっ……なるほどな、今からが本番ってか」
モンスターの無機質な瞳を見て、聡太は引きつった笑みを浮かべる。
──先ほどまでは『目』を使っていなかった。おそらく、地面の下から『音』を頼りにツルを操って攻撃していたのだろう。
「─────」
「ヤバッ──お前ら、小鳥遊たちの所まで退けッ!」
モンスターの緑瞳が一番近くにいた聡太を捉え──全方向からツルが放たれる。
対する聡太は一歩も引かず、刀を正面に構えて向かい合った。
「チッ──しぃいいィいいいイいいいあァアアあああああああァああああアああああああああッッ!!」
放たれるツルの雨を、だが一歩も引かずに迎撃する。
刀を振るい、刀を合わせ、頭を下げ、体を転がし、身を傾け、その場から飛び退き、回転し、相殺し、捌き、撃ち落とし──獲物を殺せない事に苛立っているのか、木の妖精が雄叫びを上げた。
「古河っ! ボクも──」
「来るなぁッ!」
普段の聡太からは考えられない大声に、剣ヶ崎の肩がビクッと跳ね上がった。
ほんの一瞬だけ視線を動かし──上の階層から降りて来たのか、先ほどまではいなかったはずのモンスターが後衛組を襲っていた。
小鳥遊と氷室、水面の【障壁】のおかげでケガ人はまだ出ていないようだが──それも時間の問題だろう。
「セシルたいちょぉおおおおおおッッ!!」
「──ッ?! ……わかった。数秒だけ任せるぞッ! 総員、後衛組の援護に行くぞッ! 時間を掛ければ掛けるほど、ソータの生存率が下がると思えッ!」
「チッ……! 古河ァッ!」
「心配すんなッ、んな暇があるならとっとと後衛の奴らを救ってこいッ!」
「……あァ、すぐに戻って来っからァ死ぬンじゃねェぞォッ!」
そう言い残し、土御門が【障壁】の張られている所へ飛び掛かった。
「はぁ……! “燃えろ炎っ! 我が望むは炎の槍ぃッ!”『ファイア・ランス』ッッ!!」
──あのクソ騎士共が勝手に十五層に進まなければ、こんな事にはならなかった。
十四層のモンスターをしっかり駆除して十五層に移動していれば、後衛組がモンスターに襲われる事はなかった。
イライラする。頭が熱い。いや、頭だけじゃない。腕もだ。いや、足も、体も。まるで血液が沸騰してるみたいだ。
ああダメだ。悪い事ばかりが頭をよぎる。
「──総ちゃんっ!」
──ああダメだ。
そんな声で俺を呼ばないでくれよ、りんちゃん。おれイヤだよ。おれ、またりんちゃんと離れ離れになるなんてイヤだよ。
「「「──“全てを灰に帰す爆発よ。今ここに顕現し、その凄まじき力で全てを屠りて、我が敵を討ち滅ぼせ”『エクスプロージョン』ッ!」」」
「なっ──待て、やめろッ!」
切羽詰まったようなセシル隊長の声に、聡太は木の妖精から視線を外し、背後を振り返った。
見れば、ビビって縮こまっていた騎士共の手から、赤黒い光球が3つほど放たれている。
木の妖精に直撃すると思われたソレは──クンッと軌道を変え、地面に激突。
──直後。耳を裂くような轟音が響き渡った。
「あ……ぇ──」
爆発の勢いで地面が吹き飛び──ぽっかりと地面に大きな穴が出来上がった。
その穴の規模は、ほぼ十五層全域と言っても良いだろう。
足場を無くした聡太の体は──重力に従い、下層へと落下していく。
「ソータッ!」
「古河ァッ!」
「聡太っ?!」
木の妖精が下層の地面に激突し──下層の地面を破壊して、さらに下層へと落ちていく。
──聡太の姿は、木のバケモノと共に『大罪迷宮』の底へと落ちていった。
聡太たち11人と、セシル隊長たち騎士10名は、順調に攻略を進めていた。
十層を越えた辺りから、聡太が魔法を使わなくても周りが見えるほど明るくなってきた。
理由は、発光石という光る石が原因らしい。
「ふぅ……こんなもんか……セシル隊長、まだ先に進むのか?」
「いや……ここから先は我々も足を踏み入れていないからな。今日はここまでして、引き返すとしよう」
「何故ですかセシル隊長!」
セシル隊長の言葉に噛み付く男──引率として付いてきた騎士だ。
「勇者方が一緒にいる今こそ、次の層に足を踏み入れるべきです!」
「…………それも一理あるが、危険だ。引き返すぞ」
「大丈夫ですよセシル隊長! ボクたち、まだまだやれます! 次に進みましょう!」
「いや、だが…………はぁ……俺が危険と判断したら、すぐに引き返すぞ」
「はい! みんな、行くぞ!」
聖剣を掲げ、剣ヶ崎と騎士たちが十四層へと足を踏み入れた。
「……セシル隊長、大丈夫なのか? 勝手に行動させて」
「アイツらも騎士の一員だ。無理だと思えば引き返すと言うだろう」
「……はぁ……行くか」
セシル隊長に続いて、聡太たちも下の層に足を踏み入れ──
十四層に入ってすぐ、十五層へと続く階段があった。
「なんだ、すぐに階段があったじゃないか。早く進むぞ!」
「おい待て! この層のモンスターを駆除してからじゃないと──」
セシル隊長の制止を無視して、騎士たちが十五層へと進んで行った。
──直後。下の層から、絶叫が響き渡った。
「──っ?!」
誰の声か、深く考えなくてもわかった。
10人いた騎士。その内の1人の声だ。
セシル隊長が剣を抜き、聡太たちを置いて下層へと進んで行く。
聡太と勇輝が顔を合わせ……頷き合い、十五層へと進み──
「おいどうした?! しっかりしろ!」
──腹部から血を流す男を見て、思わず聡太は口元を手で覆った。
金属の鎧に風穴が空いており、致命傷である事は誰にでも理解できる。
「せ、しる……たいちょ……」
「セシル隊長、退いてください! “我、全ての者に癒しを与える者。優しき光よ、傷付く者の傷を癒し、安らぎを与えよ”──『ライト・ヒール』!」
小鳥遊の詠唱に従い、男の腹部が淡い光に包まれ──風穴が跡形もなく塞がった。
「お、オイ聡太……あれ……」
「ああ……」
聡太たちがいる十五層は──まるで、闘技場のようになっている。
聡太たちが降りてきた階段と、反対側にある下へと続く階段以外は何もない、円形の部屋だ。
そして──部屋の中央。
そこに、何やら大木が立っていた。
「どう見ても普通の木じゃねぇよな……火鈴、アレに向かって【炎魔法】を撃て」
「う、うん。『ウル・ファイア・ランス』」
「“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』」
辺りに赤い魔法陣が浮かび上がり──炎の槍が放たれる。
大木に向かって真っ直ぐに飛んで行ったそれは──地面を突き破って現れたツルの壁に阻まれ、火の粉となって霧散した。
次から次に地面から現れるツル……その先端は、聡太たちに真っ直ぐ向けられている。
そんなツルの様子を見て、聡太は──何やら、嫌な予感を感じた。
「氷室、水面ッ! 【障壁】を出せッ! 小鳥遊もだッ! 急げッ!」
「「「しょ、【障壁】っ!」」」
若干の戸惑いながらも、【障壁】を展開。
──次の瞬間。地面から現れたツルが、風を斬る音と共に【障壁】に激突した。
「うわ?! なんだ?!」
「チッ……! セシル隊長ッ!」
「ああわかっている! ユキノとシズク、ユウコは【障壁】を維持ッ! その他魔法が使える者は【障壁】内から外に向けて魔法を放てッ! 近接組は、俺たち騎士と共にあのツルを駆除するぞッ!」
「おっしゃあ任せとけッ!」
拳と拳をぶつけ合い、勇輝が己を奮い立たせるように大声を上げた。
隣では剣ヶ崎が聖剣と聖盾を構え、宵闇が槍を握り直している。
破闇が刀を抜き、土御門が目を細めて植物モンスターに視線を向けた。
セシル隊長に並ぶようにして聡太も武器を構え──
「【部分獣化】ァッ!」
先頭を切ったのは土御門だ。
両腕両足を虎のように変化させ──目にも止まらぬ速さで【障壁】を抜け、地面から生えるツルに向かって突っ込んで行く。
土御門が【障壁】から出た瞬間、ツルが勢い良く放たれるが──遅い。
獣のような動きでツルを回避し、大木に向けて剛爪を振り上げ──
「チッ──うるァッ!」
──寸前。ツルが壁のように絡み合い、土御門の行く手を遮った。
そんな事もお構い無しに、土御門が剛爪を振り抜き──バラバラに切断されたツルが宙を舞った。
「総員、トラノスケに続けッ!」
続いて、セシル隊長が【障壁】を抜け、植物の化け物に向かって駆け出した。
──【障壁】。
外から敵が入る事を許さない盾。逆に、内側から外側に出る事は可能という、戦闘を有利に進める事ができる【技能】。
「勇輝、ビビったか?」
「は、はあ?! ビビってねぇよ! 行くぞ聡太!」
「ああ」
【障壁】の外へ一歩踏み出した──瞬間、いくつかのツルの先端が聡太と勇輝を捉えた。
「どわぁあああああああああああッ?!」
「うっせぇぞ勇輝! 舌噛むぞ!」
先ほどのビビってねぇよ! という言葉はどこへやら。情けない悲鳴を上げる親友と共にツルを回避し、大木に向かって駆ける。
ちら、と背後を確認し──剣ヶ崎と宵闇、破闇も【障壁】を抜け出し、木のバケモノに向かって走って来ているのが見える。
だが──騎士たちは全く動こうとしない。最初にやられた騎士の姿を見て、すっかり怯えてしまっているようだ。
つくづく腹の立つ奴らだ──そう思いながら、聡太はツルの壁に向かって刀を振るった。
「──ふッ! しッ!」
「行くぜ! 【増強】ッ!」
「“燃えろ炎。我が望むは炎の槍”『ファイア・ランス』ッ!」
ツルを斬り裂き、そのまま空中に赤い魔法陣を召喚。
放たれる炎槍がツルを焼き払い──大木への道が切り開かれる。
「宵闇君っ!」
「ああ、わかっている」
「「【瞬歩】ッ!」」
破闇と宵闇の姿がブレ──大木の前に瞬間移動。
破闇の刀が木を半分ほど斬り、宵闇の槍が木に大きな風穴を空けた。
「……ふぅ……殺った、のかしら……?」
「手応えあった……仕留めたな」
破闇と宵闇の呟きを聞き、その場にいた全員が安堵のため息を吐く。
──迷宮内が大きく揺れ始めたのは、それと同時だった。
「な、なんだ?! 聡太、何がどうなってんだ?!」
「知るか落ち着け」
地面に亀裂が走り──大木を押し退けながら、ソイツは姿を現した。
木の妖精──目の前に現れたモンスターを見て、そんな印象を受ける。
「……はっ……なるほどな、今からが本番ってか」
モンスターの無機質な瞳を見て、聡太は引きつった笑みを浮かべる。
──先ほどまでは『目』を使っていなかった。おそらく、地面の下から『音』を頼りにツルを操って攻撃していたのだろう。
「─────」
「ヤバッ──お前ら、小鳥遊たちの所まで退けッ!」
モンスターの緑瞳が一番近くにいた聡太を捉え──全方向からツルが放たれる。
対する聡太は一歩も引かず、刀を正面に構えて向かい合った。
「チッ──しぃいいィいいいイいいいあァアアあああああああァああああアああああああああッッ!!」
放たれるツルの雨を、だが一歩も引かずに迎撃する。
刀を振るい、刀を合わせ、頭を下げ、体を転がし、身を傾け、その場から飛び退き、回転し、相殺し、捌き、撃ち落とし──獲物を殺せない事に苛立っているのか、木の妖精が雄叫びを上げた。
「古河っ! ボクも──」
「来るなぁッ!」
普段の聡太からは考えられない大声に、剣ヶ崎の肩がビクッと跳ね上がった。
ほんの一瞬だけ視線を動かし──上の階層から降りて来たのか、先ほどまではいなかったはずのモンスターが後衛組を襲っていた。
小鳥遊と氷室、水面の【障壁】のおかげでケガ人はまだ出ていないようだが──それも時間の問題だろう。
「セシルたいちょぉおおおおおおッッ!!」
「──ッ?! ……わかった。数秒だけ任せるぞッ! 総員、後衛組の援護に行くぞッ! 時間を掛ければ掛けるほど、ソータの生存率が下がると思えッ!」
「チッ……! 古河ァッ!」
「心配すんなッ、んな暇があるならとっとと後衛の奴らを救ってこいッ!」
「……あァ、すぐに戻って来っからァ死ぬンじゃねェぞォッ!」
そう言い残し、土御門が【障壁】の張られている所へ飛び掛かった。
「はぁ……! “燃えろ炎っ! 我が望むは炎の槍ぃッ!”『ファイア・ランス』ッッ!!」
──あのクソ騎士共が勝手に十五層に進まなければ、こんな事にはならなかった。
十四層のモンスターをしっかり駆除して十五層に移動していれば、後衛組がモンスターに襲われる事はなかった。
イライラする。頭が熱い。いや、頭だけじゃない。腕もだ。いや、足も、体も。まるで血液が沸騰してるみたいだ。
ああダメだ。悪い事ばかりが頭をよぎる。
「──総ちゃんっ!」
──ああダメだ。
そんな声で俺を呼ばないでくれよ、りんちゃん。おれイヤだよ。おれ、またりんちゃんと離れ離れになるなんてイヤだよ。
「「「──“全てを灰に帰す爆発よ。今ここに顕現し、その凄まじき力で全てを屠りて、我が敵を討ち滅ぼせ”『エクスプロージョン』ッ!」」」
「なっ──待て、やめろッ!」
切羽詰まったようなセシル隊長の声に、聡太は木の妖精から視線を外し、背後を振り返った。
見れば、ビビって縮こまっていた騎士共の手から、赤黒い光球が3つほど放たれている。
木の妖精に直撃すると思われたソレは──クンッと軌道を変え、地面に激突。
──直後。耳を裂くような轟音が響き渡った。
「あ……ぇ──」
爆発の勢いで地面が吹き飛び──ぽっかりと地面に大きな穴が出来上がった。
その穴の規模は、ほぼ十五層全域と言っても良いだろう。
足場を無くした聡太の体は──重力に従い、下層へと落下していく。
「ソータッ!」
「古河ァッ!」
「聡太っ?!」
木の妖精が下層の地面に激突し──下層の地面を破壊して、さらに下層へと落ちていく。
──聡太の姿は、木のバケモノと共に『大罪迷宮』の底へと落ちていった。
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