追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

11 話をしました

 美しい庭園の風景を眺めながら、香り高い紅茶を口にする。
 メイドたちが運んできたケーキやクッキーなどのお茶菓子がテーブルの上に並べられたところで、バートが口を開いた。


「さて、殿下。客人も揃ったことですし、本日のお茶会の本題に入りましょうか」
「ああ。そうだね。バートもここまでお膳立てしてくれてありがとう。ではここからは私から話をさせて頂くよ」
「……なぜ先ほどから私のことをバートと呼びたがるのかもついでに話してくださいね」
「え?ふふ、それは後でね。ではまずは――」




 悪戯っぽい笑みを浮かべていたフリードリヒ殿下は、居住まいを正し、バートに向けていたその視線をわたくしのほうへの向けた。
 笑みは消え、真剣な表情になっている。




「ディアナ=アメティス侯爵令嬢、ユエール王国からはるばるこの国に留学にやってきてくれた君に、我が国の者が礼を欠く振る舞いをしたことについて謝罪をさせてほしい」


 そう言うと、殿下は礼をするように頭を下げた。


「殿下、おやめください!一国の王子がわたくしごときに頭を下げてはいけませんわ」
「いいんだよ。ここは公の場ではないからね。きちんと謝るためにこの場を借りたんだ」


 その様子を見て慌てるわたくしに、顔を上げた殿下はさわやかに微笑む。いや本当に、やめてください。逆に殿下に何かされた訳では無いのに、申し訳ない。


 ちらりとバートのほうに目をやると、平然とした顔をしていた。
 先ほどからの2人のやり取りからすると、殿下がこの場でわたくしに謝罪をすることは決定事項だったのだろう。
 いつの間にか周囲も人払いがされていて、この場にはわたくしたち5人しかいない状況になっている。


「……わかりました。謝罪をお受けいたします」


 そう言うと、「では」と次に口を開いたのは殿下の隣に座るエレオノーラ様だった。


「――わたくしも、あのような者たちをのさばらせてしまったことをお詫びしますわ」


 彼女が頭を下げると、金の巻髪もふわりと風になびいた。


「エレオノーラ様まで…頭を上げてください。わたくしは気にしていません」
「……あの者たちがわたくしの取り巻きだと吹聴して勝手をしていたのは知っていたのですわ。でも関わり合いにならないように放置していたんですの。……時がくれば、しかるべき処置をするつもりでしたのよ。でもそれよりも早く先日のようなことが起きてしまって……」


 眉を下げて申し訳なさそうに話す彼女からは、やはりよくあるテンプレ悪役令嬢のような高圧さは感じられない。
 話を聞く限りでは、あの取り巻きは“自称”ということなのだろう。




「しかも、事もあろうにわたくしのディアナ様に手を出すなんて……!信じられませんでしたわ。わたくし怒りで震えてしまってあの場で正気を保っているのがやっとでした。ユエールの至宝になんてことをしてくれたのかしら!!!」
「え、えーと、エレオノーラ様?」


『わたくしのディアナ様』とかその他もろもろ気になるワードが聞こえた気がしたが、気のせいだろうか。
 彼女は頬を紅潮させ、手に持った扇子をぎゅうぎゅうと握り締めながら声に熱を込める。


「はは、ごめんねアメティス嬢。エレオノーラは君のことになると昔からこうなんだ。全く、妬けるねえ」
「そんな……殿下ったら」


 ……えーと。
 妖艶に微笑む殿下と頬を染めるエレオノーラ様が急に醸しだした意味深な空気にわたくしを含めた残り3人は無言になってしまった。
 両隣にいるアレクとバートから冷気が発生しているのか、非常にひんやりした気分だ。




「殿下。婚約者殿と戯れたいのであれば王城でなさってください」
「そうですね。私もランベルト様の意見に同意します」
「ちょっと、ふたりとも……!」


 紺黒コンビは真顔でそう言い切ると何食わぬ顔でお茶を飲み始めた。
 王族に対してそんな対応をして不敬罪にならないか気を揉んであわあわとしていると、当の殿下本人は可笑しくてたまらないといった様子で笑っていた。


「ごめんごめん。君たちは本当に容赦ないよね。アメティス嬢、困らせてごめんね。大丈夫だよ、バートはいつもこんな感じだから。中断して申し訳なかったけど、先ほどの謝罪には続きがあるんだ。あの者たちのことについてだが――」


 殿下の口から改めて語られたのは、あのご令嬢たちと教師の処遇についてだった。








 ◇




「ディアナ様、あちらへ参りましょう!」


 エレオノーラ様にそう言われて、薔薇が咲き乱れる庭園を散策する。
 しばらく5人で歓談した後、自然な流れでエレオノーラ様に誘われたわたくしは、今はふたりで日傘をさしながらこの庭園をのんびりと歩いている。


「はあ、それにしても感慨深いですわ……ディアナ様とこうして歩いているなんて。わたくし明日からきっと暫く不運が続くのですわね。いえ、それでもいいですわ!」
「……あの、エレオノーラ様……?」


 全く理由が分からないが、先ほどから彼女の言葉の端々にわたくしに対する謎の感情が見え隠れしている。
 わたくしを見る目がやけにうっとりとしていて熱を帯びているように見える。


「あ、申し訳ありません。わたくしまたひとりで突っ走ってしまいましたわ」


 わたしの戸惑いの表情に気付いたのか、エレオノーラ様はそう前置きする。


「ディアナ様は……あの日、わたくしの運命を変えてくれた恩人なのです。ずっと憧れておりました」
「あの日……」
「ええ、以前フリードリヒ殿下と共にユエールを訪れた、あのお茶会の日ですわ」


 やはりあのお茶会の時、フリードリヒ殿下のそばにいたのはエレオノーラ様だったのね。
 そこで何か彼女の運命を変えるような事があった、と。彼女はそう言っているのだ。


(……だけど、心当たりが全く無いわ)


 首を傾けてなんとか思い出そうとするが、やはりあの時の記憶がそんなにない。


「ふふふ、ディアナ様にとっては普通のことだったかも知れませんが、わたくしにとっては色々と衝撃的でしたのよ?高位貴族の令嬢であり、王子の婚約者。わたくしと同じ立場にあった貴女は、わたくしとはまるで異なる振る舞いをしていました。……ディアナ様に会えて、自身を省みることが出来たのは、まさに僥倖でしたわ」


 にっこりと微笑んで、彼女はわたくしの手をとる。


「ずっと、御礼を言いたかったのです。あの日までの高圧的で我儘なわたくしではきっと、今頃殿下に愛想を尽かされていたに違いありません。あのような取り巻きを侍らせて、満足していたことでしょう。そうならなかったのは、ディアナ様のお陰なのです」



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