追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】
10 もうひとり来ました
「やあ、アメティス嬢」
アレクの隣で固まるわたくしを見つけて、朗らかに手を挙げたのは他でもないその殿下だった。気持ちよく晴れた青色の空に、庭園の鮮やかな緑と赤、その中で優雅に微笑む姿は絵画のようだ。
「――ご機嫌よう、フリードリヒ殿下」
フリードリヒ=エンブルク。
エンブルク王国の第1王子で、学院を出た後は立太子することが確実視されている。
彼の人となりは伝聞程度にしか知らないけれど、幼少の頃から非常に聡明で将来は賢王との呼び声が高かったのではなかったか。
婚約者だったサフィーロ殿下がまだソフィア嬢に出会っていない頃――確か、12歳くらいの時だっただろうか。
外遊でユエール王国に訪れたエンブルク王国の御一行様を迎えて、盛大な夜会が開かれたのは。
当然まだ夜会デビューをしていなかったわたくしたちは、その前哨戦とも言える昼間のお茶会に参加していた。
一応自国の第1王子の婚約者としての立場があったので、わたくしも彼に挨拶をした。
(あら、そういえば、フリードリヒ殿下もその時、婚約者と共にいたような……?)
朧げな記憶ではあるが、確かに彼はその時隣に誰かを連れていた。
「殿下も、いらしていたのですね」
深々とカーテシーをした後、にっこりと微笑む。
そしてその笑みは、殿下の隣に立っている黒髪の人に向けたものでもある。
聞いていないのだけれど、という念をついでに込めて見ていると、曖昧に微笑み返してくるバートの横で、殿下が思わずと言った形で吹き出した。
「ふふっ、ごめんね、アメティス嬢。私がバートに無理を言って同席させてもらったんだ」
「まあ、そうなのですか」
「ちょっと、公の場ではなかなか君自身と話が出来ないからね。……それに、君に会いたがっている人が他にもいてね。特別に招待してもらったんだよ」
――わたくしに、会いたい人……?
そんな人がいるのだろうか。エンブルクに?
殿下の口ぶりだと、ディアナ=アメティスとしてのわたくしに用があるような言い回しだ。
不思議に思って首を傾げていると、後ろに控えていたアレクに「とりあえず、座られては?」とガーデンテーブルの一席へと案内された。
殿下やバートもそれぞれ腰掛ける所を見ると、例のもう1人の客人はまだ来ていないようだ。
「あ、そうだ。君も席にどうぞ」
「え?いや僕……私は、従者ですので」
「まあまあ、そう言わず。ね、バートもいいでしょ」
「はい、もちろん」
わたくしを席に誘導したあとはそのまま離れたところに控えようとしたアレクを殿下が引き留める。
これにはアレクも驚いたようで、困惑した表情を浮かべている。
しかし、殿下やバートに言われて断れないと判断したのか、渋々といった顔でわたしの左隣に座ったバートの横に腰掛ける。
円卓になっているテーブルで、殿下とアレクの間に空席がひとつ。
残りの客人はそこに座る予定ということになる。
誰だろう、とテーブルの上に飾られた薔薇の花を眺めていた時。
「来たようだね」
フリードリヒ殿下の声にその方向を見遣ると、見知った姿の御令嬢が侯爵家のメイドに案内されているところだった。
歩みを進めるたびに、輝くばかりの金の巻き髪がふわふわと風に靡く様子は、とても煌びやかで美しい。
「本日はご招待いただきありがとうございます。エレオノーラ=モーゼンでございます」
1度立ち止まり、優雅な礼をする。
そうして顔を上げた美しい少女の凛としたスカイブルーの瞳はわたくしを真っ直ぐに見つめていた。
(なぜかしら?エレオノーラ嬢というと、例のフリードリヒ殿下の婚約者よね)
記憶はうっすらとしているが、例の数年前のお茶会で殿下の隣に立っていた女の子がこのお方ということになるのだろう。
学院に来て早々に裏庭イベントに巻き込まれた時は、見慣れた構図から乙女ゲームならローザさんがヒロインで、エレオノーラ嬢は悪役令嬢ね、とふと考えたりもしたけれど。
わたくしの中では先日の授業でふたりの素晴らしいダンスを見たばかりなので、その印象が強い。
お互いを尊重し合って、信頼しているように見えた。
わたくしがサフィーロ殿下と築くことができなかった確かな関係がそこにあると感じたのだった。
とてもじゃないけれど、"悪役令嬢と彼女を厭う婚約者"という様子には見えなかったわね。
エレオノーラ嬢その人に現在進行形で射抜かれるように見つめられている現状がよく分からない。どうして殿下ではないのだろう。
だけれど、その視線には敵意や冷たいものはなく、どちらかというと熱い視線のような――
「……ディアナさまっ!ようやくお会いできましたわ!わたくし、今日をとても楽しみにしていましたの!たくさんお話ししましょうね!」
金の縦ロールで少し吊り上がったキリッとした瞳を持つ彼女の容姿は、黙っていればわたくしと同じで威圧感があるものだったけれど、彼女は頰を染め、わたくしに花が綻んだような満面の笑顔を向けてくれたのだった。
アレクの隣で固まるわたくしを見つけて、朗らかに手を挙げたのは他でもないその殿下だった。気持ちよく晴れた青色の空に、庭園の鮮やかな緑と赤、その中で優雅に微笑む姿は絵画のようだ。
「――ご機嫌よう、フリードリヒ殿下」
フリードリヒ=エンブルク。
エンブルク王国の第1王子で、学院を出た後は立太子することが確実視されている。
彼の人となりは伝聞程度にしか知らないけれど、幼少の頃から非常に聡明で将来は賢王との呼び声が高かったのではなかったか。
婚約者だったサフィーロ殿下がまだソフィア嬢に出会っていない頃――確か、12歳くらいの時だっただろうか。
外遊でユエール王国に訪れたエンブルク王国の御一行様を迎えて、盛大な夜会が開かれたのは。
当然まだ夜会デビューをしていなかったわたくしたちは、その前哨戦とも言える昼間のお茶会に参加していた。
一応自国の第1王子の婚約者としての立場があったので、わたくしも彼に挨拶をした。
(あら、そういえば、フリードリヒ殿下もその時、婚約者と共にいたような……?)
朧げな記憶ではあるが、確かに彼はその時隣に誰かを連れていた。
「殿下も、いらしていたのですね」
深々とカーテシーをした後、にっこりと微笑む。
そしてその笑みは、殿下の隣に立っている黒髪の人に向けたものでもある。
聞いていないのだけれど、という念をついでに込めて見ていると、曖昧に微笑み返してくるバートの横で、殿下が思わずと言った形で吹き出した。
「ふふっ、ごめんね、アメティス嬢。私がバートに無理を言って同席させてもらったんだ」
「まあ、そうなのですか」
「ちょっと、公の場ではなかなか君自身と話が出来ないからね。……それに、君に会いたがっている人が他にもいてね。特別に招待してもらったんだよ」
――わたくしに、会いたい人……?
そんな人がいるのだろうか。エンブルクに?
殿下の口ぶりだと、ディアナ=アメティスとしてのわたくしに用があるような言い回しだ。
不思議に思って首を傾げていると、後ろに控えていたアレクに「とりあえず、座られては?」とガーデンテーブルの一席へと案内された。
殿下やバートもそれぞれ腰掛ける所を見ると、例のもう1人の客人はまだ来ていないようだ。
「あ、そうだ。君も席にどうぞ」
「え?いや僕……私は、従者ですので」
「まあまあ、そう言わず。ね、バートもいいでしょ」
「はい、もちろん」
わたくしを席に誘導したあとはそのまま離れたところに控えようとしたアレクを殿下が引き留める。
これにはアレクも驚いたようで、困惑した表情を浮かべている。
しかし、殿下やバートに言われて断れないと判断したのか、渋々といった顔でわたしの左隣に座ったバートの横に腰掛ける。
円卓になっているテーブルで、殿下とアレクの間に空席がひとつ。
残りの客人はそこに座る予定ということになる。
誰だろう、とテーブルの上に飾られた薔薇の花を眺めていた時。
「来たようだね」
フリードリヒ殿下の声にその方向を見遣ると、見知った姿の御令嬢が侯爵家のメイドに案内されているところだった。
歩みを進めるたびに、輝くばかりの金の巻き髪がふわふわと風に靡く様子は、とても煌びやかで美しい。
「本日はご招待いただきありがとうございます。エレオノーラ=モーゼンでございます」
1度立ち止まり、優雅な礼をする。
そうして顔を上げた美しい少女の凛としたスカイブルーの瞳はわたくしを真っ直ぐに見つめていた。
(なぜかしら?エレオノーラ嬢というと、例のフリードリヒ殿下の婚約者よね)
記憶はうっすらとしているが、例の数年前のお茶会で殿下の隣に立っていた女の子がこのお方ということになるのだろう。
学院に来て早々に裏庭イベントに巻き込まれた時は、見慣れた構図から乙女ゲームならローザさんがヒロインで、エレオノーラ嬢は悪役令嬢ね、とふと考えたりもしたけれど。
わたくしの中では先日の授業でふたりの素晴らしいダンスを見たばかりなので、その印象が強い。
お互いを尊重し合って、信頼しているように見えた。
わたくしがサフィーロ殿下と築くことができなかった確かな関係がそこにあると感じたのだった。
とてもじゃないけれど、"悪役令嬢と彼女を厭う婚約者"という様子には見えなかったわね。
エレオノーラ嬢その人に現在進行形で射抜かれるように見つめられている現状がよく分からない。どうして殿下ではないのだろう。
だけれど、その視線には敵意や冷たいものはなく、どちらかというと熱い視線のような――
「……ディアナさまっ!ようやくお会いできましたわ!わたくし、今日をとても楽しみにしていましたの!たくさんお話ししましょうね!」
金の縦ロールで少し吊り上がったキリッとした瞳を持つ彼女の容姿は、黙っていればわたくしと同じで威圧感があるものだったけれど、彼女は頰を染め、わたくしに花が綻んだような満面の笑顔を向けてくれたのだった。
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