追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

9 お茶会に招待されました

「我が家へようこそ、ディアナ嬢」


「……本日はお招きいただきありがとうございます」


「さあ、行こうか」


「え、どこへ行くの?ガーデンパーティなのでしょう?侯爵さまたちにもご挨拶をしたいわ」


「父への挨拶は後でいい。どうせ後で茶会にも来る予定だから。それよりも少し来て欲しいんだ」




 ――例の授業から数日。


 あれから何事もなく平和な日々を過ごしていたわたくしは、バートの生家でもあるアドルフ侯爵家のお茶会に招待されていた。
 本当にあの授業以降これといって大きなトラブルもなく、ロミルダさんやクラスメイトとも楽しく授業を受けることが出来た。


 例のトリオをあれ以降見かけることも無かったが、元々クラスが違うし、会う機会が無くて当然だとも思うので気にしないことにした。




 それよりも、と思う。
 先程到着したわたくしは、玄関エントランスで待ち構えていたバートに挨拶をして、次はアドルフ侯爵とご夫人にご挨拶をしようと思っていたのだけれど。




 バートに足早に屋敷内のとある一室に連れて行かれ、その部屋に控えていたメイドたちに囲まれ、あれよあれよという間に着替えや化粧やヘアセットを施され、この屋敷に来た時とは全く異なる装いをしたわたくしが鏡に映っていた。


 いつもと同じ眼鏡とおさげで来ていたが、鏡のわたくしは眼鏡もなく、耳より上の髪はハーフアップ風に緩やかに後ろにまとめられ、下ろされた銀髪がさらりと揺れている。


 落ち着いた色合いのドレスはギラギラとした装飾は一切ないが、光沢のある生地にゆったりとしたドレープ、所々に施されたレースのデザインが洗練された上品さを演出している。とても素敵なドレスだ。




「お客さま、大変お綺麗でございます……!」
「ありがとう。手間をかけたわね」
「いえっ、そんな!滅相もございません」


 なんでこんなことになったのか全く理解出来ないが、メイドさんたちは頑張ってくれていたので御礼を言っておく。


 わたくしを見守るメイドさんたちの後ろの方から「この方だったのね……!」とか「安心したわ」とかいう呟きが聞こえて来たけれど、よく分からないので曖昧に笑っておく。社交辞令スマイルだ。


「では、ランベルト様を呼んで参りますね!」


 ひとりのメイドが嬉々として部屋を出ていく様子を見ながら頷き、わたくしはまた鏡を見る。


 最近外に出る時は"ディア=ヴォルター"だったから、少し違和感がある。
 鏡に映るわたくしは、正真正銘のディアナだ。


(なんだか不思議な気分だわ。こちらに来るときは隠したかった姿だったはずなのに、心なしか落ち着くなんて)


 ドレス、化粧、髪のセット。淑女武装は案外にも防御力が高かったらしい。


 そうしている内にコンコンと扉が叩かれ、わたくしが「どうぞ」と声をかけると、開かれた扉の向こうにはアレクが立っていた。




「――ディアナ様、ようこそいらっしゃいました。主人に代わってお迎えに上がりました」
「アレク!ごきげんよう。あら、あなたもあの眼鏡はやめたのね」
「はい、あれは学園だけにしていますので」


 そう言ってアレクは、その美貌と冷淡さからユエール王国で氷の貴公子と呼ばれていた事を感じさせないほどの優しい笑みを浮かべた。


 今回はあのダサい眼鏡も無いので、元々の美青年の破壊力が凄まじい。
 周りのメイドたちがその笑顔を見て騒ついたように感じる。


「ディアナ様、流石はユエールの至宝ですね。よくお似合いです」
「……アレク?その二つ名は封印してちょうだい。さもないとわたくしもあなたのことを氷の貴公子と呼ぶわよ」
「それは……困りますね」
「おあいこよ。それにしても、こんなに着飾ってわたくしはどこに行けばいいのかしら?」


 眉を下げて困った顔をしているアレクに問いかける。
 彼は表情を引き締めると「こちらです」と言って先を促したため、わたくしは彼に並んで歩き出したのだった。










 ◇


 アレクに連れられて歩くこと数分。
 アドルフ侯爵家の立派な庭園に出て、お茶会の準備がなされているという薔薇園に向かって歩みを進めたところで、視界の奥に鮮やかに咲き誇る赤い薔薇が飛び込んできた。


 そのさらに奥の方を見ると、白いガーデンテーブルが置かれ、その上には食器などのセッティングがなされていることが遠目に分かる。お茶会の場所はあそこなのだろう。




 そう思ってテーブル付近の様子を伺うと、ちらちらと動く黒髪の男性の他に、煌めく金髪を持つ人の姿が見えた。どちらもそれなりに正装をしていることから、貴族の客人なのだということが分かる。


 ――黒髪はバートだとしても、金髪は……


「…………ねえ、アレク」
「どうかしましたか?」
「見間違いじゃなければ……なのだけど、あそこに殿下がいるように見えるわ。まさかそんなはずないわよね?」


 言いながらも歩き続けているため、眼前に見える人の姿はだんだんと大きくなる。


 間違いなく殿下だ、と確信が持てる距離に来た時。


「本日のお茶会は、ご覧のとおり、殿下がいらっしゃっています」


 紺色眼鏡の従者は、そう告げたのだった。



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