追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

7 合同授業を受けました

「え、ダンス実習?マナー実習じゃなくて?」




 全クラス合同の実習のために大広間に向かった経営学クラスの面々はざわついていた。
 特にロミルダさんは、担当教師の言葉を聞いて思わずそう口に出す。


 他のクラスメイトたちも、「どうして急に?」「ダンスはまだ先じゃない?」と口々に話している。


 どうやら、マナー実習だったはずの授業が直前でダンス実習に変わったようだ。
 他のクラスの人たちも驚いてはいるようだから、本当に急な変更だったことが窺える。




 急にダンス?どうしてそんなことが起こるのかしら。
 まあマナー実習の時点でよく分かっていなかったけれど。


 この大広間は、全校生徒での集会などにも使われる広い空間で、もちろん同学年の生徒が全ておさまる程の広さはある。
 だが、ダンスとなると話は別だ。


 今わたくしたちは広間に置かれた長机とそれに付随する椅子に腰掛けている。
 座る位置はクラス毎に固められていて、入って右から特進クラス、普通クラス……と来て一番左に経営学クラスだ。
 そうすると、空いたスペースではとても全員が踊れるようには見えないのだ。
 せいぜい10組程度が踊れるくらいだろう。


「あの、ロミルダさん。この部屋でどうやってダンスを教わるの?とてもみんなが踊れる広さじゃないと思うのだけど」
「うん、踊るのは基本的に特進クラスのお貴族様たちで、わたしたち平民はそれをぼーっと眺めてどの組が素晴らしかったとか感想を書くのよ。先生が何組かピックアップして、その人たちが前に出て踊るの」
「なるほど、そういうことね」
「まあ経営学クラスからは誰も選ばれないから、楽な授業ではあるんだけどね」


 だったら気楽で良いわね。
 そう答えようとした時だった。




「経営学クラスのディア=ヴォルター!前に出なさい」


 茶髪のひっつめ髪に丸ブチ眼鏡をかけた、いかにも神経質そうな雰囲気の女性教師がわたくしの名を呼んだのは。


(あれ……空耳かな?早速呼ばれたような気がするけど)




 状況がよく分からず、隣のロミルダさんを見ると彼女は顔を青ざめさせて無言で頷いている。
 他のクラスメイトを見ても同様の反応が返ってくるため、どうやら空耳ではないらしい。


「早くなさい!皆さんの時間が勿体ないでしょう!」


 教師は目を吊り上げてそうまくし立てる。
 ただ、呼んだものの誰がディア=ヴォルターなのか分かっていないようで、その視線は彷徨っているように見えた。


 そうだろう。わたくしだって貴女に会ったのは初めてだわ。


 ――今度は何なのかしら……。


 諦めに似た気持ちで席を立って、前へと向かう。
 その間、全てのクラスから突き刺さるような視線が降り注いだのを感じた。
 視界の端には、わたくしの姿を見て、何やら口々に話している姿も見える。


 そうしてようやく教師の元に辿り着いたわたくしだったが、先程ロミルダさんに説明された状況と異なる事に気がついた。


 この場に、わたくし以外誰もいないのだ。
 つまり、1人だけでここに立たされている。


「あなたが、ディア=ヴォルターさんね。お話は聞いているわ。ユエール王国からわざわざ留学してきた貴族なのに経営学のお勉強の方を優先されているそうね?」


 教師はわたくしだけに聞こえる声量でそう話す。
 その蔑むような表情に見覚えがあったわたくしは、咄嗟に特進クラスの方を見た。


 するとやはり、例のご令嬢たちが心底楽しそうに微笑んでいた。
 どうやら、この教師と裏で繋がっているらしい。


(なるほど……そういうことね。でもこういうイベントって普通ヒロイン的な人がやられるやつじゃないの?わたくしただの隣国の悪役令嬢なんだけど)


 それも、まだこの国に来てひと月満たないくらいの新参者もいいところ。


 さっきの今で授業内容を変えるような嫌がらせを手配できるなんてなかなかの手腕だ。
 もしかしたら、少し前から企んでいたことだったのかもしれない。
 そう考えると、脳裏にあの水色の少女が浮かんできた。




「……ふん。この状況で、怖気付かないとは度胸だけはあるようね。ではあなたに1曲踊っていただきましょうか」
「!   この曲……」
「あら、お分かりになる?ユエール王国からいらしたという事で、そちらの国の曲を用意しましたのよ。あなたも貴族の端くれならば踊れるでしょう。皆さまに見せて差し上げてくださる?」




 教師の合図で流れて来た曲は、ユエール王国でも難曲と呼ばれるダンスナンバーだった。
 曲のテンポが早く、踊り慣れたペア同士でないと足の踏みつけ合いが起こってしまう。
 かと言って足捌きにばかり気を取られていると優雅に見えない。
 足捌きと姿勢、どちらも両立するのが難しい曲だ。


 正直、サフィーロ殿下とは一度も踊ったことがない。
 というか、わたくしひとりで踊るの?




「先生。ダンスの相手がいないようですが?ご令嬢を1人で踊らせるのですか」




 わたくしの心の疑問に答えるようなその声に、流れていた曲が止まる。
 その時一度ざわめきが巻き起こって、彼がわたくしがいるダンススペースに到着した時にはまた水を打ったように静かになった。




「いつもはペアで踊ると聞いていたのにおかしいですね?隣国からの留学生を1人で踊らせる授業なんて」
「そ、それは……ユエール王国の曲を紹介したかったのです。彼女しか踊れないでしょう」
「――私も踊れるのでちょうどいいですね。ユエール王国にはずっと滞在していましたので。
 ディア嬢、あなたと共に踊る名誉を頂いても?」


 わたくしの元に颯爽と現れた人物は、バートその人だった。

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