追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

6 友人ができました

 成り行きで緑色の髪のクラスメイトと共に食堂に向かう事になったわたくしは、スタスタと前を歩く彼女の背中を追っていた。


 背はわたくしよりも少し低いくらいだろうか。先程は髪の長さだけで判断したが、制服のリボンの色を確認するとやはり黄色だ。




 中庭が見える渡り廊下の中程まで来たところで、わたくしは立ち止まって彼女に声をかける事にした。
 教室からは随分離れたし、ここまで来れば大丈夫だろう。




「あの、先ほどはありがとうございました。助かりましたわ。ここで……」
「あたしもうお腹ペッコペコなんですよ。ヴォルターさんも早くしないとお昼休み終わっちゃいますよ?午後からも講義はあるんだし、早く食べちゃいましょう」


 ほらほら、とわたくしの手を取ってグイグイと引っ張る彼女に気圧されて、結局宣言どおり、共に食事をとる事になったのだった。




 ◇




「あたし、ディアさんと話してみたかったんだ」


 食事が載ったトレイを置きながら、彼女はそう言った。
 彼女の名前はロミルダ=エクハルトというそうだ。
 身分は平民で、商家の出身だという。


 敬語は使わなくてもいい、と言ったら驚きながらも了承してくれた。彼女は敬語が苦手らしい。まるでどこかの護衛のようだと思ってしまった。


 この機会にお互いに名前で呼ぶことにしたのだけれど、こちらの学院に来てからクラスメイトとこんな風に話すことは初めてなので、感慨深いものがある。


(……というか、よく考えたら前の学校でもクラスメイトとこんな風に2人で食事をとるという事はした事がないわね)


 どうやらすっかり1人行動に慣れてしまっていたらしい。


「わたくしと?」


 少しやるせない気持ちになりながら聞き返す。


「ええ。あなた、ユエール王国から来たんでしょう?異国の話も聞きたかったし。それに、さっきの人たちじゃないけど、貴族のお嬢様がわざわざ経営学クラスに留学するのも不思議だなと思ってたから気になってたの」


 ふふ、と無邪気に笑うロミルダさんからは、あの人たちのような悪意は感じられない。
 純粋に疑問に思ったということが伝わってくる。


「最初は貴族さまのお遊びかと思ったけど、あなたすっごく真面目に授業受けてるし、クラスの平民を蔑むようなこともしないでしょ?だから、これはもうお友だちになりたい!って思ってたらあの騒ぎで」
「でも、この国は実力主義で、身分は関係なく重用されると聞いていたけど……。貴族の方が平民の方を責めることは良くあるのかしら?」


 頭に浮かんだのは、先日あの信号機トリオに裏庭で囲まれていたあの少女だ。あの子も平民だった。
 わたくしの問いに、パンにかじりついていたロミルダさんは、神妙な顔をしてそのパンをお皿に戻す。




「うーん。平民の身からしたら、ディアさんみたいな貴族の方が珍しいかな?実力主義な分、それのやっかみも多いみたい」
「なるほど……」


 それは理解出来る気がした。
 能力で敵わないとなった時に、権力でなんとかしようと思う貴族がいてもおかしくはない。
 バートのように、能力が高ければ身分を問わずに雇うといった姿勢が一般的だとは思わない方がいいということね。


 考えごとをしながら食べ進めていると、いつの間にかロミルダさんがわたくしをじっと見つめている事に気がついた。


 どうしたんだろう。何かついているのかしら?


「ロミルダさん?」と声をかけると、何故かびくっと肩を揺らして、姿勢を正した。


「なんか……ディアさんって、所作がすごく綺麗ね。ご飯食べてるだけなのに、見惚れちゃった!やっぱり貴族サマは食べ方も優雅なんだね」
「そ、そうかしら?癖で……」


 なんせ7年間も鬼のように怖い王妃様とマンツーマンで淑女教育を受けていたのだ。
 令嬢モードの時はどうしてもそうなってしまう。


 その反動か、この前のクイーヴとの町歩きでは、堂々と外で買い食いが出来た時の感動が凄まじかった。


「あ、そういえば……」
「どうしたの?」
「よく考えたら、次の講義ってマナー実習だった。しかも全クラス合同の。やっば、さっきの人たちもいるじゃん」
「そんな授業があるのね」
「あー最悪……また特進クラスの貴族サマたちにちくちく嫌味を言われるんだ。ディアさんも気をつけてね。貴族なのにあなたって見るからにいいカモになりそうだから」
「……そうね、ありがとう」


 頭を抱えるロミルダさんからの忠告に素直に頷く。


 もうすでに信号機トリオ彼女たちにはロックオンされている気がするし、特進クラスと合同ということは例のあの人たちも一緒ということだろう。


 思ったよりも身分差に厳しいらしいこの学院で、貴族だらけの特進クラスで平民になってしまったアレクは上手くやっているのだろうか。ふと頭にそんな考えがよぎったけれど、すぐに思い直した。


(同じクラスに殿下もバートもいるのだし、それに何より、アレクがその辺の貴族子息に言い負かされるなんて想像がつかないわね)


「ディアさん、戻ろう。次は大広間だから、絶対に遅れないようにしないと」 
「ええ、分かったわ」


 食べ終わった食器を片付けて、ロミルダさんと共に食堂を出る。
 教室に戻ると、クラスメイトたちから温かく迎えられた。どうやら、経営学このクラスにいながら特進クラスの貴族に立ち向かったところが評価されたらしい。
 今まで貴族の端くれということで遠巻きにされていた部分もあったけれど、今はロミルダさんと共にいるからか皆んなに気さくに話しかけてもらえている。


 こうやって素の自分でクラスメイトと触れ合うことは向こうでは出来なかったことだ。いつも無表情で感情を隠していたのだから。


 怪我の功名ではあるけれど、この学院でやりたかったことのひとつが出来て、わたくしはとても嬉しくなったのだった。



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