追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

5 絡まれました

「ところで嬢ちゃん。"悪役令嬢"ってのはなんだ?セドナから聞いたんだが。あくやく、ってあの悪役だよなぁ?れいじょうは……嬢ちゃんたちみたいなご令嬢のことか?」


 馬車を降りる際、手を貸してくれたクイーヴの手を掴んだところで唐突にそう聞かれた。


 えっと、どう説明したらいいのかしら。


 思わず彼の手を握ったまま固まっていると、走り寄ってきたハンナの手刀でクイーヴの手が叩き落とされた。
 痛そうだわ。




「おかえりなさいませ、ディアナ様。お食事になさいますか?」
「いいえ、あいにくお腹がいっぱいなの。先に湯浴みしたいのだけれど、いいかしら?そして、夜ご飯は今日はもういいわ。あ、でもみんなはしっかり食べてね?」


 何事も無かったかのようなハンナに、わたくしも釣られて返事をする。
 分かりました、と言ってハンナはまた屋敷に戻っていく。きっと先程の指示を料理人に伝えに行くのだろう。


 そうしてその場に残ったわたくしは、クイーヴの方に向き直る。




「悪役令嬢っていうのは、なんていうのかしら……恋愛小説でいうところの、主人公の前に立ちはだかる恋敵の役割なのだけれど。ヒロインの恋路の邪魔をして、嫌がらせをしたりするのよ」
「ふーん?でも嬢ちゃんがその悪役令嬢っていうのはよく分からないな」


 ハンナに叩き落とされた手首をさすりながらクイーヴがそう言う。
 ええ、そうでしょうね。


 悪役令嬢ディアナに転生したものの、特にそれっぽい行動は取っていないもの。元婚約者とその恋人とその仲間たちの間ではそう思われていたようだけれど。


 元が乙女ゲームの世界で、本当は悪役令嬢だったの!なんて話をして誰が信じると言うのだろう。
 セドナの前ではうっかり口を滑らせていたようだ。




「……でも、どうしてそのことを?」
「セドナと話をした時に、その言葉どっかで聞いたことあんなーって思ってたんだけど、今日街をブラブラしてるときにはっきり思い出したんですよ」
「え、そうなの?」
「オレ、この国でも一時期護衛の真似事してたんですよねー、そん時にその家のお嬢さんが言ってたんだった」
「!」


 あースッキリした〜意味は分かんねーけど、と言いながら家に入っていくクイーヴの後を追いかけて、わたくしは詳しい話を聞いたのだった。












 ◇




「ディア=ヴォルター!」


 翌日からまた学園が始まり、今はお昼休み。
 経営学の授業も終わり、ご飯を食べに食堂に行こうと筆記用具を片付けている時だった。


 わたくしの名を呼ぶ声に、クラス全体がざわめく。
 声の主はどうやら教室の入り口にいるらしく、そちらへ視線を向けると、例の信号機トリオがそこで仁王立ちしていた。


 この経営学のクラスは元々貴族が少ないため、クラスメイトは突然の特進クラスの貴族令嬢の登場に驚いて、わたくしと彼女たちを交互に見比べている。


 わたくしは、ふう、とひとつため息をついて静かに立ち上がり、彼女たちの元へと向かう。




「わたくしに、何か御用でしょうか?」
「あなた、本当にこんなクラスにいるのね?よっぽど領地が苦しいのかしら?」
「いえ、そういう訳ではありません。学びたいから学んでいるだけですわ」


 確かに貴族令嬢が通常の淑女教育を受ける機会よりも経営学を優先するという事であれば、よっぽどの状況だと推測出来るだろう。
 お嫁に行くのは諦めて領地経営に専念すると言っているようなものだ。


 恐らく彼女たちは、その点に優越感を得ているのかとても満足そうな顔をしている。


(えぇ……なんでわたくしが絡まれているのかしら。早く食堂に行ってお昼ご飯を食べたいのだけれど)


「よっぽど貧しい子爵領なんでしょうね、ヴォルター家というのは」
「ほんと、あなたも貧相な身なりですものねぇ〜」
「勘違いしないで頂戴ね?アドルフ様はお優しいからあなたのような異国の方も気にかけていらっしゃるけれど、本来は会話することもおこがましいのですから!」


 ふむふむ。
 釘を刺しに来たと、そういうことかしら。


 先週はあの女の子、今週はわたくし。
 相手は殿下だろうとバートだろうと、とにかく良家の子息に他の女が近寄ることが許せないと、そういうことなのね、きっと。


「……心に留めておきますわ。ランベルト様にユエール王国でご一緒していたよしみで案内していただいたのですが、まさかあの方も身分差に厳しい方だったなんて思いもよりませんでしたわ。残念です」
「な……!」
「もうよろしいかしら?身分の卑しい者は、ランベルト様に近づいてはいけないと、そういう事でいいのですわよね?」


 あなたたちは分かっているのかしら。
 そういう発言をすること自体が、逆にバートを貶めているということに。


 わたくしが言外に示すと、意味が分かった者たちはハッとして息を呑む。








「ヴォルターさん、その辺にして早くお昼を食べに行きましょう?」


 そんな緊迫した空気の中、わたくしの肩に手を置いて親しげに声をかけてきたのは、同じクラスの女の子だった。
 翠のショートボブが優しく揺れている。
 髪が短いということは、貴族ではないということだ。


 今まで話したことはなかったけれど、この場を早く立ち去りたかったわたくしは、その少女の誘いに乗って教室を後にしたのだった。

「追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く