追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

3 町にいきました

「ディアナ様、本当に大丈夫ですか?何かあったらシルヴィオ様に申し訳が……」
「大丈夫よハンナ。このとおり、クイーヴも一緒に行くのだし。心配だったらあなたも来る?」


 休日のタウンハウス。
 この邸宅には、一緒にユエールから来た侍女のハンナと護衛兼侍従のクイーヴ、そして数名のメイドと料理人、庭師といった必要最低限の人員しかいない。


 尤も、庭師の皆さんは特別な訓練を受けているらしい。
 手配してくれたお兄様情報なので、詳しくは知らないけれど。




「まあまあ、お付きをぞろぞろ連れてると、逆にお嬢さまらしくなり過ぎて、輩に狙われやすくなるもんだ。俺ひとりだったら、嬢ちゃんひとり守る方が楽だし」
「クイーヴ!あなたまたディアナ様にそんな言葉遣いをして!いくらシルヴィオ様と仲良くなったからって――!」
「嬢ちゃん、ハンナが爆発しないうちに出発しよう」


 ぷりぷりと怒るハンナを避けるように、クイーヴと呼ばれた茶髪の護衛は、わたくしの後ろにさっと隠れた。


 仮にも護衛対象に隠れるって、どうなのかしら。




「クイーヴ、あんまりハンナを怒らせないでちょうだい。ハンナももうクイーヴなんかに怒ってもエネルギーの無駄よ。さらっと流さないと」
「……嬢ちゃん」


 ハンナはしてやったりとほくそ笑んでいて、クイーヴからはじとっとした視線を感じる。


 セドナの話だと、クイーヴはセドナと同じ年らしいのだけれど、セドナからぷんぷん感じるような大人の落ち着きを全く感じない。
 お兄様よりひとつ歳下らしいけど、あと1年であんな風にシャキッとしたいい大人になれるのかしら。


「おーい、失礼なこと考えてるでしょ〜」


 疑惑の目でクイーヴを見ていたら、考えていたことが顔に出ていたらしい。


「なんのことかしら?さあ、クイーヴ、はやく行きましょう。敵情視察へ!人気のお店はピックアップしてくれたかしら」
「……ま、そういう事にしときますよ。仕事はきっちりやってますんでご安心を〜。じゃあ行きますか」
「ええ!楽しみだわ!」




 ハンナに見送られながら、クイーヴと共に馬車に乗る。


 せっかく大国エンブルクに来たからには、机上の勉強だけでなく社会勉強も大切よね。
 やけに疲れる学院生活は予想外だったが、わたくしが満喫したいのはもっと別のこと。
 昨日何か面倒なことが始まりそうな予感がしたけれど、よその王子の揉め事は関係ないものね!


 馬車に揺られながら見る景色は、やっぱりユエールの王都のものとは全く違っていて。
 ますます楽しくなってくる。




「ねえクイーヴ!屋台が出てるわ!あれは何かしら?あとで行きましょう!」
「あーあれは、庶民の朝メシ替わりのパンみたいなもんですね。間に焼いた鶏肉とか野菜とか入ってます」
「じゃああの紅白シマシマの屋根のお店は?見るからに美味しそうだわ」
「あそこは菓子屋ですね。主に飴を売ってます」
「……クイーヴ、こういう所は優秀ね」
「嬢ちゃんはホントにお貴族様ですかってくらい庶民的ですね。というか、食いモンの事しか考えてないんですか、ぶはっ」


 向かいに座るクイーヴが、わたくしを見て堪え切れないといったように吹き出し、ふわふわとして柔らかそうな茶髪を揺らして笑っている。


 だってね、町に行くといったら食べ歩きじゃない?
 だから朝ごはん少なめにしたからもうお腹が空いているのよ!




「はー笑った笑った。セドナに聞いてはいたけど、本当に規格外のお嬢さまですねぇ」
  ひと通り笑ったあと、ようやく落ち着いたクイーヴがそう言う。


 普通のお嬢様だったら貴方みたいな失礼な護衛はすぐにクビになっていると思う。


「……わたくし、貴方はセドナと恋仲なのかと思っていたわ。娼館にも来ていたでしょう。離れて暮らすのは苦ではない?」


 このふわふわ茶髪の青年を、娼館で見かけたことがある。
 当時はセドナの客だと聞いていた。


 尤も、彼女の本職は情報屋だったようなので、彼女の元に出入りしていた人たちは皆仕事仲間らしいが。




「あーナイナイ。セドナとはただの仕事仲間……というか飲み仲間?あいつブランデーの趣味がいいんですよねー。別にあの国に特に思い入れも無いですし」


 出発の日、お兄様から護衛として紹介されたが、よくよく聞くとセドナ繋がりだったらしい。


 何故か3人で飲み明かし、意気投合。
 そのままクイーヴを引き抜いた、とお兄様は言っていた。


 セドナも店主代理兼アメティス侯爵家の諜報部員になったそうだし、知らないところで色々なことが起きていた。


 改装中のあの元娼館にもお兄様はちょくちょく顔を出して、セドナと打ち合わせをしてくれているらしく、ありがたい。
 あの2人も気が合うようだ。




 ガタン、と音を立てて馬車が止まる。


「着いたようですね。まずは一軒めです」


 先に降りたクイーヴの手を借りて馬車を降りると、水色の屋根の可愛らしいお店があった。
 焼けたバターの香りが鼻腔をくすぐる。


「まだ他にも行くところあるんで、食べ過ぎないでくださいよ」
「……分かっているわ」


 顔を見なくてもわかる。
 クイーヴはいま絶対ににやにやしているはず。



「追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く