追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

1 謎が解けました

 わたくし、ディアナ=アメティス改め、ディア=ヴォルター。
 ユエール王国から大国エンブルクの学院へと留学して来て、編入からはや1週間。


 前髪をもっさり下ろし、エンブルクに来てから購入した伊達眼鏡をかけ、長い銀髪はひとつに三つ編みをし、ディアという地味な少女への擬態は成功していた。


 そんなわたくしに対して同級生たちの興味も薄く、注目される事もないため、以前の学園生活としたら格段とのびのび生活出来ている。


 今日も経営学クラスの授業を終え、お天気がいいから図書室から借りた本をのんびりベンチで読もうと思い、裏庭に来たところだ。


 前の学校では殿下たちの密会場所になっていてなかなか使えなかったこともあり、憧れの場所でもある。


 当時は断罪の巻き添えが怖くて友人も作らなかったし、図書室でひっそりと本を読んでいた。


(そういえば、わたくしが図書室に行ったあとは、何故か他の生徒の皆さんは入って来なかったのよね……嫌われてたのかしら?)




「ディア様?」


 以前のことを思い出していた時だった。
 木陰のベンチで寛ぐわたくしの前に、人影が現れたのは。




「――アレク。ごきげんよう。特進クラスももう授業は終わりなの?」


 目の前に現れたその人は、元は貴族子息だが今はアレク=ブラウといういち平民としてこの国に来ることになったアレク様その人だった。


 以前はアレク様、と呼んでいたが、この国に来るにあたり『アレク』と呼ぶことになったのだった。まだ多少違和感がある。
 彼も律儀にわたくしのことを『ディア様』と呼ぶ。


「はい。来週からは授業数も増えるようですが。ディア様は相変わらず本がお好きですね」


 この学院に編入するにあたって、わたくしは経営学のクラスを選択した。バートからは特進クラスを勧められたけれど、勉強漬けになりたくないのでお断りした。


 わたくしの手元に視線を落としながら、アレクは穏やかに笑う。
 一緒に買いに行ったダサ眼鏡のおかげで、美男子の破壊力も減っていて目に優しい。


 ベンチの隣をポフポフ叩くと、アレクは遠慮がちにそこに座った。


(学校の裏庭で本を読んでいるときにアレクと会うなんて、まるで――)


「……なんだか、あの時のような状況ですね。ディア様は覚えていますか?以前あの学園でもこうして裏庭でお話をしたこと」
「わたくしも今そのことを考えていたわ。似ている状況よね、確かに」
「あの時、貴女はすごく慌てていましたね。一生懸命殿下たちの姿が見えないように僕の気を逸らそうとしたり、最終的には僕を励ましてくれましたが」




 アレクが言っているのは、以前殿下たちの密会現場で鉢合わせてしまった日のことだろう。




「『逆ハーエンド』、でしたか。今でも意味はわかりませんが、あの日あなたと話せて良かったと思っています」




 春風が吹き、風がざあっという緑を撫でる音が耳に心地いい。


「あの後、その言葉を調べたり貴女が狼狽する様子を思い出したりする内にやけに心が落ち着いて、今まで悩んでいた事がとても小さなことに思えたんです」
「そうだったのね。よく分からないけど、役に立てて良かったわ。……それって役に立ててるのかしら?」


 その会話の中に役に立つ要素があったかしら?
 わたくしが首を傾げると、アレクは眩しいものを見るように目を細める。


「はい。あの状況下で何故か僕の心配をするあなたのその寛仁さに、毒気を抜かれた気持ちになりました。ありがとうございます」


 ふ、と微笑んだアレクはとても美しく、まるでゲームの画面のような―――


 その表情を見て、理解するまでに時間はかからなかった。
 見たことがあったからだ。


 裏庭で遭遇、悩み相談、その後の好感度アップ。


 いやこれ、"アレク様"の攻略ルートだわ。
 そして今の表情は、好感度がMAXになった時にアレク様が見せてくれる特別なスチルだった、はず。




(なんでわたくしの味方になってくれたのかずっと謎だったけど、ようやく分かったわ……知らない間に彼の悩みを軽くしていたのね)


 もちろん当時のわたくしはただその場をやり過ごすために慌てて言葉を繋いだだけだった気がする。
 それで何故か彼の悩みが解決出来てるなんて誰が思うというのだろう。悩みを打ち明けられたわけでもないのに。


 宰相さまの息子として幼い頃から一癖も二癖もある大人たちに囲まれていた彼は、人が信用出来なかった。
 だからこそ1人で色々と抱え込み、その重責でどんどんと疲弊していく。


 そんな彼は偶然出会ったヒロインの裏表の無さに徐々に惹かれてゆき、徐々に癒され、人を信用できるようになって将来的にも立派な宰相になる……というのが大まかな流れだった。


「あの、アレク。参考までに聞きたいのだけれど……その後、ソフィア嬢と何かお話ししたりしなかった ?例えば、"あなたの悩み"がどうとか」


「ありましたね。あの翌日くらいでしょうか。不躾でしたし、彼女とは何も話していません」


「!……そうだったのね」


(ヒロインの逆ハーにならなかったのは、わたくしが先にやらかしていたからなのだわ)


 なんという事でしょう。
 あの時以来、こうしてゆっくりと話す機会も無かったから全く気がつかなかった。
 追放回避しか頭になかったわたくしが、まさか彼を攻略していたなんて。


「ディア様?どうしました?」
「な、なんでもありませんわ」
「顔が赤いですよ。熱でもあるのでは?貴女が倒れでもしたら、シルヴィオ様が飛んできそうなので今日は家に帰られたら如何ですか?」
「そ、そうね、ありがとう。そうするわ!」


 攻略済の事実に、急激に恥ずかしさが込み上げて来る。
 熱が一気に顔に集まったのが分かる。


「馬車の手配をしてきます。こちらでお待ちいただいてもいいでしょうか」
「アレクにそんな事させられないわ、わたくしが……」


 立ち上がろうとしたわたくしを、アレクが手で制する。
「お待ちくださいね?」といい笑顔で念押しされたわたくしは大人しく馬車の到着を待ち、お兄様が手配していたエンブルク王国のタウンハウスへと帰宅したのだった。





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