追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

番外編 アレクとバート その1

 


『アレクシス=ラズライトがディアナ様に接触しました』




 バートが王都のタウンハウスでそう連絡を受けたのは、ちょうど殿下の従者の仕事を辞めて、エンブルクに帰る準備が整いつつある時だった。


 今は昼過ぎ。
 この王都からディアナがいる隣の商業都市アルスターまでは馬車で半日の道のりだ。


 早馬を走らせてその半分程度の時間がかかる訳だが。


「アレクシス様……ね。おそらく殿下たちのような馬鹿ではないと思いたいが。一応釘をさしに行くべきか」


 バートは手にとっていた本を閉じると、すぐに出立の用意をした。
 もし何かあった時にディアナを連れ帰らることができるようコール子爵家の馬車も用意する。
 普段は城に行くだけなのでほとんどと言っていいほど使っていなかったが、手入れは行き届いている。


 馬車で行くため、到着は暗くなってからだろう。
 どうせ明日の朝にはディアナを迎えに行こうと思っていたため、バート側の準備はほとんど整っていた。
 少し早まっただけだ。


 ディアナがいる娼館にはコール子爵としての力を最大限に使い、密かに警備を張り巡らせ、ディアナ自身にも護衛をつけている。
 娼館に送り届けた日からずっとだ。
 陛下たちの帰還まで大っぴらに動けないため、全て秘密裏に行っている。


 殿下たちがこれ以上無体なことをしないか警戒しての事であったが、あれから変な奴が送られてくることも、側近たちが近づく事もなかった。


 殿下の動きには特に注視しており、自身が従者を辞した後も影達に動向を伺わせていたが、いまは例の男爵令嬢に夢中のようで、離宮に招いて殿下自身も入り浸っているようだ。


(全くもって理解できないな。あんな誰にでも愛想を振りまく女のどこがいいのか)


 またあの猫撫で声を思い出してバートは背筋を震わせる。




 (――さて、アレクシス様。あなたはどっちかな)




 そうしてバートは、従者をひとり連れてコール子爵邸を出立した。






 ◇◇◇




 アレクシスはディアナと別れた後、宿屋に戻って手紙を書いていた。
 ディアナの無事を確認出来たことを、ラズライト家の者に伝えるためだ。


 陛下や父である宰相には卒業パーティの日に緊急の書状を送っていたが、今は帰国中で連絡の手段がない。


 それに、帰りの旅程を早めて明後日の帰国予定が明日の夜になったことはここに来る前に連絡を受けていた。


 そのため、アレクシスからの連絡は、陛下たちが城に戻り次第すぐに伝えてもらうよう家の者には告げてある。


 パーティの日から、アレクシスは必死でディアナを探した。


 彼女を娼館に連れて行ったと思われる殿下の従者は翌日には姿を消しており詳細を聞くことは出来なかった。
 細かな情報を積み上げ、アレクシスはようやくアルスターの娼館にたどり着いたのだ。


 身請けされたと聞いて血の気が引く思いだったが、今朝偶然遭遇した彼女は、以前より格段に生き生きとしていた。




「……まさか、買収とは思いませんでしたが」


 半ば強引にディアナから聞き出したのは、予想外の返答だった。
 アレクシスが駆けずり回っている間、ディアナはすでに買収済みの娼館で貞操の危機もなくのんびり過ごしていたという。


 安堵したがそれと同時に、立つ瀬がないということはこういう事だとアレクシスは思った。




「お客さま」


 控えめなノックのあとに、宿屋の従業員の声がする。
 返事をすると、思いもよらないことを告げた。


「お客さまに会いたいという方がいらっしゃっていまして……貴族さまなのですが、ご存知でしょうか?」


(貴族?僕に何の用だと言うんだ。殿下の手の者か?)




「あ、あの……『従者のバート』と言えば分かると」
「!   分かりました。通していただいて大丈夫です」




 そうして顔を合わせたアレクとバートは、最初はお互い探り合いながらではあったものの、徐々に腹の中が同じものだと気が付き、最終的にはお互いの持ちうる情報を擦り合わせていた。




「買収……ディアナ嬢は一体なぜその事を」
「にこにこと微笑むだけで、事情は全く教えてくれませんでした。全て知っていたと、そういうことなのでしょうね」
「……そうか。彼女は最初からひとりで立ち向かうつもりだったんだな」


 バートは途中から従者ぶるのをやめ、本来のものと思われる話し方になった。彼の正体を今日まで知らなかったアレクシスは、その変化についていけないところもある。




「僕は、おそらく殿下たちと同じと思われているので、ディーには警戒されたままです」
「だが、アレクシスの立場では仕方がないだろう。城では執務の手伝い、学園では尻拭いでは、君がひとりでどうにかできる時間はない。ほかの側近たちが使えないならなおさら」
「……ありがとうございます」




 不思議な話だが、おそらく今後最も強敵になりうる男は、一番アレクシスのことを理解してくれていた。


「明日。再度ディーと会う時間を設けています。バート殿もお会いしたいのでは?」
「そうだな、影達から報告は受けていたが実際に無事を確認したい」
「……それでは」


 そうして次の日に3人で今後の話をすることを取り決め、日付けが変わる頃にバートは自らの宿に戻っていった。




("ディー"ね。よりによって一番厄介な男が彼女の味方だったのか。まあ、今後の裁定を思えば喜ばしいことではあるが……)


 黒髪の元従者は、そんなことを考えていた。




「アレクとバート その1」 おわり

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