追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

16 ひとつのゲームが終わりました

「どうしてここでアレクさまがディアナの味方をするの?!大体あのパーティーが終わったら、ヒロインは王妃になるはずでしょう?どうしてわたしが責められてるの?!悪役令嬢がちゃんとやらないから、わたしが自分でイベント起こすしかなくなったって言うのに……悪いのは、ディアナでしょう!」


「ソ、ソフィー、何を言っているんだ?」


「ディアナがちゃんと嫌がらせしてくれれば、わたしは攻略だけに専念できたのに!だからアレクさまとバートの好感度上げの時間が足りなかったんだ。そうよ、全部あの女のせい!」


 俯いていたソフィア嬢が顔をあげたかと思うと、その清廉で可憐な顔立ちは歪み、口からは暴言が飛び出す。
 その様子に、隣で彼女を守ろうとしていた筈の殿下も慄く。


 呆気に取られたのは周囲も同じで、彼女を愛していたであろう側近たちだけではなく、玉座にいる陛下たち、お父様たちを含む貴族たちも、その言い分に唖然としている。


「……まあでも、今さらどんなにあの女を庇ったって無意味よ!ねえ、サフィ」
「あ、ああ」
「どうせもう、どんなに頑張ったって貴族社会には戻って来れないもん。あははははは!」


 醜悪な顔で高らかに笑う彼女は、とてもじゃないけど天使と例えられた頃のあの子ではなかった。
 カラフルな男たちは、悪夢を見ているかのような面持ちで、興奮して喋り続ける彼女を見つめていた。


 うん。とりあえず、ヒロインが思ったよりヤバい奴だったってことと、バートが隠しキャラ確定ってことは分かった。
 怒っていたはずなのに、なんか、殿下たちに同情したくなってくるんだけれど。




 そこまで眺めたところで、わたくしとお兄様は陛下の指示で小部屋から移動し、先ほどのアレクさまたちが現れた扉の前に控えていた。






「――モルガナ男爵令嬢よ。アレクシスの発言内容を認めると言うことだな。アメティス侯爵令嬢を、貶めたと」


「仕方ないんです!わたしだって頑張ってシナリオ通りにやってて、逆ハーエンドなら、ディアナは娼館に追放って決まってるんですから!」


「「「!」」」


 娼館、ということに対して驚きの声がここまで聞こえる。追放先を聞かされていなかった貴族たちが、大いに慌てているようだ。




「……そうか。お主とは話しても無駄のようだな。サフィーロ、そんな女を王妃に迎えようだなどと、血迷ったな。愛妾すら相応しくない下劣な娘だ」
「…………」


 殿下はもう何も言えず、俯いてしまっていた。
 愛する可憐な少女が、とんでもないモンスターに豹変したのだ。百年の恋も冷めてしまったのだろう。真実の愛とやらは、脆かったみたいだ。側近レンジャーズも以下同文だろう。


「では次に、無罪の侯爵令嬢に、貴族籍の剥奪と娼館への追放を言い渡したことについて、話をしよう」


 陛下の発言とともに、目の前の扉が開かれる。
 導かれるように足を踏み出したわたくしは、会場の皆が息を呑むのを感じながら、陛下の前に行き、カーテシーをした。


「ディアナ……」


 この声は、殿下かしら。
 いつもの自信に満ちた俺様な呼び方ではない、今すぐ萎れてしまいそうなほど弱々しい声。初めて聞いたわ。


 陛下から顔を上げるように言われたわたくしは、その通りにしたあと、背中を向けていた殿下たち一同の方を振り返る。
 そして、今までそうしていたように、貴族令嬢としての矜持を胸に、口角をつりあげて微笑んだ。


「皆さま、ご機嫌よう。ディアナ=アメティスでございます」
「なんであんたがここに!」


 興奮してわたくしに飛びかかろうとしたソフィア嬢を、近くにいた騎士団長が拘束する。


 そしてわたしの傍には、「義姉さん!」と涙目で駆け寄ってきた第2王子のジェダイト殿下、アレクさま、バート、それからお兄様が左右に分かれて並ぶ。


 ……どこかで見たようなカラフルな布陣だわ。思いがけず、こちら側にも戦隊ヒーローを組織してしまった。


「ふん、そうやって澄ましてても、どうせもう前のあんたには戻れないのよ!娼館にいた女なんて見向きもされないんだから!!」


 吐き捨てるように言うソフィア嬢を見て、唐突に理解した。殿下エンドと逆ハーエンドの時だけ、悪役令嬢がやけに酷い目に遭う理由が。


「貴族籍の剥奪、娼館への追放……これらは全て、わたくしが二度と表舞台に上がれないようにする為でしたのね。ソフィア嬢が王妃となった時に、障害とならぬよう」


 侯爵令嬢であるディアナの貴族としての誇りと、女性としての尊厳を全て奪う。そうすることで、仮に処罰が取り消され貴族に戻ったとしても、醜聞に塗れたディアナは二度と社交界に出られないだろう。そしてソフィアは王妃教育を完璧にやり遂げたディアナと比較される事は無い。


 なんて短慮で、屑な作戦なんだろう。


 殿下を真っ直ぐに見てそう言うと、苦虫を噛み潰したような顔をして、わたくしから目を逸らした。


「なんとおぞましい……」


 場の空気を代弁するかのように、王妃が嫌悪感を示す。同じ女性でありながら、殿下の決定を止めもしないソフィア嬢も同罪だ。


「残念だったわねディアナ!第2王子に媚を売ったって、清くないあんたは、王妃にはなれない!」


 拘束されながらも、瞳のギラつきは失わないソフィア嬢が、そう吐き捨てる。本当に捻じ曲がった性格をしてらっしゃる。


「――陛下。少しよろしいでしょうか」
「ディアナ嬢、何かな」
「わたくし……皆さまに黙っていたことがありますの。ここでお話をさせて頂いても、よろしいでしょうか」


 見上げると、陛下はどうしたものかと隣にいる王妃や宰相、果てはお父様とお兄様にも視線を送る。


「ふ、陛下、大丈夫ですよ。ディアナ嬢の言いたいことは分かります。――概ね問題ないでしょう。何より本人が言いたいんでしょうから」
「……そうですね。ディアナ嬢も、色々と言いたいこともあるでしょうし」


 何やらバチバチと火花を散らしながら、わたくしを援護してくれるのは例の紺黒コンビだ。
 ふたりのお墨付きに安心したのか、陛下は鷹揚に頷いてくれた。




「実はわたくし、あの娼館のオーナーをやっておりますの。追放された後は我が家のような暮らしを満喫しておりましたわ。懇意にしてくださっているお客さまもいるようですし、この場でご挨拶させていただきますわね」


 広間をぐるりと見渡して、にっこり笑顔で一礼をする。顔を上げて陛下を見ると、寝起きの顔へ水をかけられたような顔をしていた。王妃も開いた口が塞がらないといった状況だ。
 気まずそうに顔を背けた貴族の皆さまもいる。


「――はい?アメティス嬢、どういうことですか」


 いち早くフリーズから復帰したのは宰相さまだ。


「殿下が日頃わたくしを疎ましく思っていることも、あの卒業パーティの日に冤罪で追放されることも、事前に把握しておりました。ですので、先に買収しておいたのですわ」


 ここがゲームの世界で、わたくしが悪役令嬢で、あの子がヒロインでそこのカラフルな皆さまが攻略対象者で……なんて言っても、ソフィア嬢みたいにヤバイ奴としか思われないので、怪しく濁しておく。


 事前っていっても10歳の時だし、買収計画に着手したのは学園に入学して割とすぐだけれど。
 堂々と述べれば、それっぽく聞こえるはずだ。


 驚きのあまり顔面蒼白になっている殿下に真っ直ぐと向きあう。この短時間ですっかり憔悴しきっている。


「殿下……こんなことをなさらなくても、わたくしは、婚約解消のお話を頂ければ、すぐに同意するつもりでしたのに」


「な……!お前は、ずっと王妃の座に執着していただろう!」


 確かにゲームのディアナはそうだったわ。だけど、この世界に生きるわたくしは、違うのよ?


「いいえ、全く。婚約が成立する前から、わたくしは嫌だと何度も言っておりましたの。ですけれど、一貴族は王家からの正式な打診は断れないのですわ」


「ディアナ!あんた何でシナリオと違う事ばっかりするのよ!まさかあんたも、わたしと同じ転生者なの!?」


 噛み付いてくるソフィア嬢を見つめて、わたくしはわざとらしく首を傾げる。


「てんせいしゃ?何のことですの?」
「ありえない、ありえない!ここはわたしの世界なの!わたしがこの世界のヒロインなんだからああああ」


 同類と思われたくないので、知らんぷりする事にした。
 ソフィア嬢は髪を振り乱し、半狂乱状態だ。そんな彼女に、誰も手を差し伸べられない。


 陛下が近衛に手で合図をすると、彼女は父親の男爵もろとも何処かへ連れて行かれてしまった。


 その背中を視線で追う殿下に、もう少し言っておく。
 もうすでに精神的に瀕死の状態だろうけれど。


「ええと、わたくしもあの子があんなにアレだとは思わなかったので……そこは同情しますが。わたくしたち、早く話し合えば良かったですわね。殿下のことは、全くお慕いしておりませんでしたので」
「な!」
「ですが、それでもやはり、7年も一緒にいたのです。罪を被せられ、娼館送りにされるなど、分かっていても悲しかったですわ」


 そして。


「……わたくしは申し上げたはずです。"神に誓って彼女をいじめたりなどしておりません"と」


 ここが、本当の幕引きですわね。








 そしてその後。
 ざわめきが再び静まりかえったこの大広間で。


 今回の一連の騒動について、陛下により関係者たちの裁定が行われた。


 当然ながらディアナ=アメティス侯爵令嬢に対する処罰は全て無効となり、冤罪に対する相応の賠償を行うことが宣言された。


 侯爵令嬢に対する断罪を容認した貴族子息たちは、揃って貴族籍を剥奪されたが、ほとんどが王子の独断である事が勘案され、刑は王都からの追放に留まった。今後、表舞台に出ることなく、庶民としてひっそりと暮らしていくことになるだろう。
 さらに、騎士団長は責任を取って団長の職を辞し、一族と共に地方領へと去っていった。
 また、王弟殿下であるアイドクレース公爵は領地の半分を国に返還し、今後跡継ぎは設けず、自らの没後は公爵領は全て国に還すとのことだ。
 なお、アメティス侯爵は今回の騒動を受けて家督を嫡男のシルヴィオに譲り、自らは地方の子爵領で暮らすという。


 ソフィア嬢の悪事に積極的に加担した商人子息は、1年の苦役刑及び国外追放を命じられた。商会自体も国内での取り引きは全て停止され、結果的にこの国から出て行く事となる。


 今回の騒動の核である第1王子 サフィーロ=ユエールは、一方的で悪質な断罪により王家の信頼を失墜させたことを鑑み、王子の身分剥奪及び苦役刑を課されることとなった。
 この決定に、貴族たちも驚愕の表情を浮かべていた。
 苦役刑はある意味死罪よりも重く、王族、貴族に適用することは稀である。農地開墾や道路開削、鉱山開発などの危険で過酷な仕事に従事しなければならない。刑期は5年。刑期を終えても、王子ではなく庶民だ。王になるべく、今まで輝かしい道を歩んできた彼にとって、堪え難い苦行だろう。
 もう1人の核、ソフィア=モルガナ男爵令嬢は、王族に対する不敬や侯爵令嬢への侮辱、王族、貴族子息への詐称行為などが重く見られ、生家の男爵家取り潰しが決定し、本人は隣国の娼館へと送られることとなった。身分制度が一層厳しいかの国の花街は独特で、花街自体が高い塀の中にあり、ひとつだけある門からしか外に出られない。自分の身を買える程稼ぐか、身請けされるか――いずれにしろ、一朝一夕には終わらない。
 2人への処罰については、何より王妃がその所業に憤慨しており、一切の情状酌量を認めなかったという。


 そして――――

「追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く