追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

15 みんなは知りました

「サフィーロ。早速だが、いま巷を騒がせていることについて、何か申し開きはあるか。私が不在の間、随分と勝手な事をしていたようだが」


「……陛下が何を仰っているのか、分かりません。当然のことをしたまでです」




 陛下の言に、サフィーロ殿下は周囲の貴族を一瞥したあと、飄々とそう答える。


 その答えに陛下と王妃は息を呑み、陛下は一拍おいてからまた話し出す。


「……そうか。ではまず順序立てて言おう。お前とディアナ=アメティス侯爵令嬢との婚約は、正式に破棄された」


 あんな学園の卒業パーティでの殿下のひと言だけで、王家と侯爵家の正式な婚約は破棄されない。
 国王陛下と侯爵家の当主であるお父様の了承のもと、書面を交わしてようやく成立するのだ。


 そのことを知っている貴族たちは、思い思いの表情で陛下のこの決定を受け入れる。


 やはりアメティス嬢に落ち度があったのか。
 この状況では婚約の維持は出来ないだろう。


 わたくしがいる場所から辛うじて聞こえたのは、これくらいだ。


 そうして大多数が陛下の次の言葉を待ち、まっすぐと玉座を見つめる。殿下とソフィア嬢を除いては。
 2人は陛下の言葉に弾かれたようにお互いを見つめ合い、手を取り合って喜んでいる。




「……チッ」
「お、お兄様、落ち着いてくださいませ。あの2人はいつもあんな感じですので」


 その様子を見ていたお兄様から、ぶわりと何か危険なオーラが発せられたような気がして慌ててフォローする。


「いつも?ディーはいつもアレを見せられていたのかい」


 失敗しましたわ。
 余計にお兄様の笑顔が黒くなり、なんとかして宥めようとしていると、落ち着き払った陛下の声がこの小部屋に届いた。




「そして――サフィーロ=ユエール第1王子よ。この婚約破棄の責任を取って廃嫡とする」
「な!!」
「このことにより、王位継承権第1位は第2王子のジェダイトとなる。ジェダイト、入れ」
「はい」


 玉座の間の側の扉が開き、陛下と同じ金髪に王妃と同じ翠色の瞳を持つ第2王子が入場して陛下の隣に控えると、集まった貴族たちは見るからに狼狽えているようだった。




「ジェダイトはまだこれから学園に入って学ぶ時期だ。卒業できれば、その際に立太子することとしよう。皆の者も、分かったな」


「な、何故ですか!ディアナと婚約破棄しただけで、何故私が廃嫡になるのですか。私はただ、ソフィアという真実の愛を見つけただけだ!そのソフィアに酷い嫌がらせをしていたのは、ディアナだろう!そんな女、王妃にふさわしくないんだ!」


「その件については、これから話す事としよう。集まった皆には事実を知り、その上で帰ってもらわねばならぬからな」


 先ほどジェダイト殿下が入ってきた扉の方向に陛下が目配せをすると、そこに控えていた騎士は再び扉を開いた。


「……アレクさまと、バートだわ」


 恭しく礼をしながらその場に現れたのは、その2人だった。
 アレクさまの事は皆知っているから驚きはないようだが、いつも従者の格好をして殿下の近くに控えていたバートを知る人からは、彼が"従者のバート"とは想像もつかないだろう。
 バートは、ランベルト=コール子爵という貴族然とした装いでそこに居たのだから。




「アレクシス……!それに、お前はバート、なのか?」


 サフィーロ殿下のその問いには答えず、2人は真っ直ぐに進み、玉座がある台座の下で立ち止まる。


 陛下が2人を見て無言で頷き、その合図をもってアレクさまが何やら話し出そうとした時だった。


「では――」
「良かったあ、アレクさまとバート、どこに行っちゃったのかと思ったんですよぉ〜。この場にいないから心配しちゃったけど、やっぱり全員いないと逆ハーじゃないもんっ」


 その場の雰囲気が、一気に凍りついたのは。








(ぎゃくはー?今、そう言ったの、あの子)




 確かにそう聞こえた。




「あのお嬢さんはなんなんだ?訳の分からない事を言っているし、陛下の御前だというのに礼儀のかけらもない。どうしてジュラルは……ディー?どうしたんだい、顔色が良くない」


 お兄様が話しかけてくれているのは分かっているけれど、わたくしの頭は別のことでフル回転していて、答えられない。


 逆ハーを知っていて、攻略対象者を把握している。
 そして、わたくしを故意に貶めた。


(彼女もわたくしと同じ……?)


 単にヒロインの性格が歪んでいるだけかと思っていたけれど、中の人格が本来の彼女ではない別人のものだとしたら。


 これまでわたくしが怯えていたゲーム通りの展開は、文字通り"ゲームを知る"彼女が起こしていた事になる。


 強制力でもなんでもない。


(わたくしが恐れていたものは、本当は何も存在していなかったなんて――)


 目の前がチカチカと点滅しているようだわ。
 考えたこともなかった、私以外にそんな人がいるなんて。


「ソフィー、君はバートがあの格好をしていることに違和感はないのか?」
「え?だってバートは……本当はランベルト=アドルフ侯爵令息でしょ?エンブルク王国の」
「な……!」


 殿下の問いに事もなげにそう答えるソフィア嬢に、再び広間に静寂が訪れる。
 他の側近たちも流石に驚いたようで、ソフィア嬢を見たまま目を見開いていた。


 さざ波のようなどよめきが、徐々に大きくなる。
 それもそうだわ。海の向こうの大国エンブルクは、このユエール王国よりも強大で、同盟国といっても力関係的には向こうが上だもの。
 それに恐らく、バートはこの国ではずっと身分を隠していた。そんな人物が殿下の従者だったことへの驚きもあるでしょう。




「なぜそれを?私は君に正体を明かした記憶はないが」


 いつもの丁寧なものとは違う、無愛想なバートの口調。
 おそらくこっちが地なんだと思う。




「それは、えーと、設定で……なんていうか、元々知ってるの。本当に良かったぁ、2人は難しいキャラだから、攻略出来てないのかと思って焦ってたの!ふふ」


 ソフィア嬢は可愛らしい笑顔を浮かべて、両の手を胸の前で組んでお祈りのようなポーズをとる。
 さすがはヒロイン、様にはなっているのだけれど。




「攻略……?話にならないな。君は我々が思うよりずっと、危険な人物のようだ。――アレク、話を進めよう」


「そうですね。ではまず、殿下が婚約破棄の原因として挙げていた嫌がらせについてですが……」


 そうしてアレクさまは、淡々とした口調で真実を全て白日の下に晒す。それは、あの話し合いの日にわたくしに教えてくれたことだった。


 物が隠される、ドレスが汚されるなどの嫌がらせは全て、各々の貴族子女が行ったものであり、わたくしの指示ではないこと。
 わたくしが言ったとされる罵詈雑言については、男爵令嬢の貴族としての振る舞いを窘めた程度のもので、王子の婚約者としての立場上問題はないこと。
 ……階段から突き落としたとされる日、わたくしは王妃教育のため、登城していたこと。そして、それはソフィア嬢の自作自演だったこと。


 どれも調べればすぐにわかることだった。
 だけど、殿下たちはそれをしなかった。ソフィア嬢自身も、わたくしが犯人だと彼らに告げていたという。




 アレクさまが話を進める内に、殿下たちの顔色がどんどん悪くなっていく。




「――これらの件については、全て証人がいます。ああ、それと、ポール。貴方が金で雇っていた噂好きな者たちや偽の証人についてはすでに捕らえてあります」
「な、何のことだか分からないよ」
「在学中から突き止めようとしていましたが、なかなか尻尾を出さないので見つけるのに時間がかかってしまいました。さすが商会お抱えのサクラたちは優秀ですね」
「っ!僕はただ、ソフィアの助けになりたくて……」


 アレクさまに話の矛先を向けられた橙商人子息ポールは、追及から逃れられないことを察したのか、愕然として膝をついた。
 わたくしがいくら否定しても噂は消えない。それは、悪い噂を流し続ける存在があったからだ。噂は増長し、いつしかそれが真実であるかのように語られる。


「ソフィア!どういうことなんだ?お前はいつも、ディアナ嬢にいじめられていると言って泣いていたじゃねーか!だから騎士として、俺は弱い立場のお前を守らねばと――!」


 今にもソフィア嬢に掴みかからんとする勢いで、赤髪騎士ブライリーは悲痛な表情でまくし立てる。
 熱血で愚直な彼のことだ。弱き者を守るという彼の中の脳筋騎士道で選んでしまった道なのだろう。


(いや、本当に悪役令嬢が悪さしてて、本当にヒロインが泣いてたらそれでも良かったんだろうけど)


「ソフィー……?泣く姿を見せまいと私の前では健気で気丈に振る舞う姿、あれは偽りだったのか……?」


 信じたくない、と。緑髪の彼エイブラムの顔にははっきりとそう書いてある。熱血赤と遊び人緑で相談する手法を変えるあたり、攻略法を知っているヒロインならではということなのかしら。


「滑稽ですね。僕たちはひとりの少女に、こんなに簡単に騙されて。――無実の姉上を陥れてしまうなんて」


 すでにお父様から話をされていたであろう銀髪弟ジュラルは、顔色は悪かったが、落ち着いていた。




「そんなはずはないっ!アレク、ソフィーを嵌めようとしているんだろう、お前はいつもディアナを擁護していたからな!どうせその証人とやらも、お前が金でなんとかしたんだろう!」


 金髪サフィーロ殿下は怒りも露わに大声で叫ぶ。周りの側近たちが言葉を失う中、彼の怒りの矛先はアレクさまに向いていた。
 断罪の元となった事柄が何も無いとすれば、彼が行った裁定は、ただの冤罪なのだから。


「殿下。僕は何度もご忠告申し上げていたはずです。ソフィア嬢の言うことだけを鵜呑みにしてはいけないと。確かに、ソフィア嬢は他の貴族から嫌がらせをされていた。その事は同情すべきです。しかし、それすらも利用して、彼女は僕たちに擦り寄り、無実の侯爵令嬢を貶めたのです」
「五月蠅いっ!」


 アレクさまの言に、殿下は顔をさらに真っ赤にして激昂する。


 取り巻く観衆たちは、その様子を冷ややかな目で見つめていた。

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