追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】
◇銀髪弟は知りました
「ディアナは、先ほどとある娼館に追放した」
ここは学園の卒業パーティーが開催された会場にある貴賓室。豪華な刺繍が施されたソファにどっしりと腰を下ろした殿下の言に、パーティーを中座して集まっていた僕たちは言葉を失った。
(なんだって……?)
一瞬で静まり返った室内に、まだ開催中のパーティーの賑やかな声が遠く聞こえる。
あんなことがあっても、皆は何とか楽しんでいるようだった。
パーティーの開始早々に、1人で入場してきた姉上を取り囲むように僕たちは糾弾したのだ。
殿下の隣に座って、うっとりと見つめ合うあの可憐な少女――ソフィア=モルガナ男爵令嬢を守るためという名目で。
ここに集まるよう殿下から指示を受けた僕たちは、出された軽食をつまみながらまずは世間話などをしていて。
そういえば、と切り出したのは、赤髪騎士のブライリー様だったか。
「サフィー、さっきアメティス嬢に"相応しい場所"って言ってたけど、あれってどこの修道院なんだ?いつから行くんだ?」
サフィーと呼ばれた殿下――サフィーロ=ユエール第1王子は、彼女と見つめ合う事をやめ、僕らをぐるりと見渡したあと淡々と娼館送りにしたことを告げたのだ。
「そうか、事前の話し合いの時も、お前たちには相応しい場所としか言わなかったな。まあ、あの女には相応しいだろう?逃げたりしないように、今日中に送ってやった」
そう言う殿下は、涼しい顔をしていた。
(あり得ない、あり得ない、あり得ないっ……!)
あまりの内容に、心臓が軋むように痛むのが分かる。
いくら貴族籍を剥奪したと言っても、元は侯爵家のひとり娘だ。ひどいことにはならないだろう、そんな気持ちが僕の中にあった。
そもそも貴族籍云々の話だって、あの場の殿下の言葉だけでは出来ないのだから、姉上はまだ侯爵家の人間だ。
どこかの修道院に一時的に送られて、そこで身分差を笠にきた自らの行いを悔い改めてくれればいい。その程度の認識しかなかったのだ。
「殿下、ご令嬢を娼館に送るとはどういうことですか。それに、もうアメティス嬢は出発していると……!?」
真っ青な顔をしたアレクシス様が、震える声で殿下を問い質す。その声に、金縛りにあったかのように黙っていた僕たちも現実に引き戻された。
「前から決めていたことだ。お前に口出しする資格はない」
「アレク様……?どうしたんですか?怖いですっ」
「可愛いソフィーが怯えているじゃないか。……アレク、お前はもういい。この部屋から出て行け」
「……っ!では、失礼いたします」
バタン、と大きな音を立てて、部屋の扉が閉まる。
アレクシス様が去った後も、この部屋の雰囲気は、まだ重苦しいままだ。
「でん、か……?僕は、修道院だと思っていたのですが……?」
ようやく絞り出した声は、掠れていたかも知れない。
「ジュラル、お前も言っていただろう。罰したのはディアナだけで、侯爵家としての責任は問わないんだ。甘いものだろう?」
――それから、どうやって家に帰り着いたのか覚えていない。
侯爵家に着いた時、出迎えた執事長に「ディアナ様は?」と厳しい顔で尋ねられて、一気に血の気が失せた。
父上と兄上が、姉上を大事に思っていたのは知っていた。
その姉上を、使用人たちも大切に思っていることも。
僕だって、綺麗で優しい姉上のことは大好きだった。
兄上に言われて、学園でソフィア様を見張ることにしたのも、姉上のためだ。
だけど、そんな姉上が、あの天使のようなソフィア様にくだらない嫌がらせをしていると聞いて愕然とした。
それに学園で見る姉上は、いつも無表情で冷徹な顔をしていて、家で見せる顔とは全く違う。
反対にソフィア様は、いつも無邪気で天真爛漫な少女で、いつからか目が離せなくなり、そんな彼女からある日泣きながら相談を受けたのだ。
――ジュラル君のお姉さんから、嫌がらせをされているの、と。
だから、思ってしまった。
姉上の家での姿は、みんなに可愛がられるための作られたもので、本性は冷酷で非道な人なんだと。
無表情の仮面の下で、殿下を取られまいと躍起になっているのだと。
この目の前の可愛い人を、守らねば、と。
――だけど、僕は……
◇◇◇
「……ジュラル様、お茶をお持ちしました」
「執事長……自ら別邸まで来るなんて、本邸で何かありましたか」
あのパーティの夜から、僕は別邸で過ごしている。
目の前の執事長が、有無を言わさぬ顔をして、幾人かの使用人と共に僕をここに連れてきた。
僕の質問には答えず、執事長は順序よくお茶の準備をする。特に喉が渇いていたわけではなかったけど、目の前に差し出された香り立つ紅茶をひとくち口にした。
「明日、旦那様がお戻りになります」
「!   明後日ではなく?」
「事情がありまして、早くお帰りになるそうです。もうあちらはすでに出立しているかと思いますが」
「っ、そうか」
「ジュラル様。旦那様はあなたではなく、私にこの屋敷での指揮権を与えてくださっていました。そのことの意味を、お考えください」
「……僕では、力不足だったと?」
「さあ、どうでしょう。実の姉よりも、他のご令嬢の為に動かれたのですから、旦那様の判断は正しかったのでしょうね」
正論で諭され、ぐうの音も出ない僕に執事長は去り際に言葉を残した。
その言葉は僕の中で何度も何度も繰り返される。
――ディアナ様は、最初から全て分かっていたようですよ――
ディアナ様は無事です。だからジュラル様も、今日からはしっかり食事を摂って、ちゃんと直接会って謝るのですよ。と。
その言葉を聞いた僕は、ただただ嬉しくて、情けなくて、鏡に映る顔色の悪い青年の目から、涙が溢れるのが見えたのだった。
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