追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】
12 色んなことを知りました
「バート……いや、コール子爵か。発言を許そう」
「はい。陛下もご存知のとおり、私は7年前から殿下の従者として側に控えておりました。当然ディアナ様とまみえることも多くありましたが……」
陛下にもこの場にも全く怯むことなく、流暢に話し出すバートに、わたくしは一片の違和感をもった。
(陛下は今、"コール子爵"と呼んだわ。子爵子息ではなく、子爵本人だというの?……それって)
わたくしの頭の中に、とんでもない仮説が立つ。
例に漏れず、設定盛り過ぎ説だ。
「恐れながら、これまで殿下の振る舞いは全くもって婚約者を慮るものではなく、あのような振る舞いをされては、ディアナ様も歩み寄るどころではないと思います。たとえば夜会では……」
なんとバートは殿下の夜会でのあの問題行動を暴露しだした。王妃さまの顔色も赤くなったり青くなったり忙しない。
お父さまも涙目でわたくしを見ていて、その潤んだ瞳が「事実なのか?」と語っているので、「はいそうです」の気持ちを込めて頷いておく。
その他にも、婚約者であるわたくしへの贈り物も途中からは従者任せだったことや、手紙の内容も全部彼が考えていたことなどなどわたくしも知らない事実もてんこ盛りにして洗いざらい話し切ってしまった。
「ですので、ディアナ様が気に病む必要は、微塵もないかと思います」
にっこりととってもいい満面の笑みを浮かべるバートを尻目に、オトナたちは心痛で瀕死の状態になっていた。
特にお父さまとお兄さまは、膝をついて項垂れてしまっている。何やらお兄さまがブツブツと呟いていて、うっすら「八つ裂きにしてやる……」とか物騒な言葉が聞こえる気がしますわ。
かく言うわたくしも、心に多少なりともダメージを負っている。
では、夜会の時にわたくしに贈られたドレスはダミーで、あの男爵令嬢が身につけていた空色のドレスや、アクセサリー類は殿下が選んでいたということなのね。
それにわたくしずっとバートと手紙のやり取りをしていたの?恥ずかしいわ……だからたまに手紙の内容について殿下とお話しても会話が噛み合わなかったのね。
(俺様殿下、なんて人なの。ゲームのディアナが怒るのは無理もない。そんなことされたら彼女のドレスにジュースくらいかけても悪くないと思う。むしろもっとやれって感じですわ!)
わたくしの中の申し訳ない気持ちは、あっという間に霧散していた。
「ありがとうバート。わたくし気にしないことにするわね」
わたくしを元気づけようとしたのよね、そうよね。諸刃の剣になって全員満身創痍になってしまってるけど、そうなのよね。
部屋中が居た堪れない空気になったところで、ごほん、と陛下がわざとらしく咳払いをした。
「――よく分かった。コール子爵。ディアナ嬢も、これまでよく耐えてくれたな……今日は急なことで疲れているだろうから、ゆっくり休みなさい。明日、また、玉座の広間に来てくれるか」
「はい、わかりました」
「皆の者も分かったな。今日はディアナ嬢への謝罪のために取り急ぎこの場を設けたが――明日の午前、玉座の広間にて正式な発表を行うものとする」
威厳を取り戻した陛下の言葉に皆が一様に返事をしたところで、若干足取りが重い陛下たちはこの部屋を出て行った。
昨日アレクさまに聞いた話では、陛下たちは隣国からの帰国予定を半日早め、昨晩遅くに到着していたらしい。
だからわたくしも、深夜にあの街を発つことになったのだけれど。
長旅の後にこの大惨事。疲労困憊でしょうね。
取り残されたのは、わたくしたち親子と、アレクさまとバートだ。バート以外、みんな顔色が悪い。
気になることがあったわたくしは、満足げなバートに聞いてみることにした。
「バート。あなた本人が子爵なの?」
「はい、そうです」
「……子爵家の者、だなんて勿体ぶった言い方をしてひどいわね。あなた、もっと身分の高い家のご嫡男様なのでしょう?」
なぜそんな家のご子息さまがよその国の王宮で下働きをするのかは分からないけれど、彼の盛り過ぎな設定からして、この仮説に間違いは無いと感じていた。
その証拠に、バートは否定をせずにわたくしを真っ直ぐに見ている。
高位貴族には爵位を複数持つ家もあり、その場合は元々の家名とは別の家名を嫡男が名乗ることもあるのだ。
現にうちのお兄さまも、正式に名乗る時はアメティス侯爵家ではない子爵を名乗っている。
「――ご明察です、ディアナ様。生家の名を名乗るならば、ランベルト=アドルフとなります。アドルフ侯爵家の長男です」
また新しい名前を告げられる。わたくしの仮説は見事に的中していたようだわ。
もうなんか、絶対この人隠しキャラだと思います。
疲労がまた積み重なったところで、お父さまとお兄さまに声をかけられ、わたくしは久しぶりに侯爵家へと帰ることになった。
お兄さま曰く、ジュラルはすでに別邸で軟禁されているそうだ。
「ディー、いえ、ディアナ嬢。これまで色々とありましたが、明日が最後になるかと思います」
お父さまたちは先に部屋を出たため、最後に部屋を出るのはわたくしとアレクさまになった。
ゆっくりと近づいて来たアレクさまは、憂いを帯びた表情で、わたくしの手をとる。
「――また明日、お会いしましょう」
「!」
その時わたくしは、颯爽と立ち去るアレクさまの背中を見ることなく、彼の唇が触れた掌を茫然と眺めていた。
「はい。陛下もご存知のとおり、私は7年前から殿下の従者として側に控えておりました。当然ディアナ様とまみえることも多くありましたが……」
陛下にもこの場にも全く怯むことなく、流暢に話し出すバートに、わたくしは一片の違和感をもった。
(陛下は今、"コール子爵"と呼んだわ。子爵子息ではなく、子爵本人だというの?……それって)
わたくしの頭の中に、とんでもない仮説が立つ。
例に漏れず、設定盛り過ぎ説だ。
「恐れながら、これまで殿下の振る舞いは全くもって婚約者を慮るものではなく、あのような振る舞いをされては、ディアナ様も歩み寄るどころではないと思います。たとえば夜会では……」
なんとバートは殿下の夜会でのあの問題行動を暴露しだした。王妃さまの顔色も赤くなったり青くなったり忙しない。
お父さまも涙目でわたくしを見ていて、その潤んだ瞳が「事実なのか?」と語っているので、「はいそうです」の気持ちを込めて頷いておく。
その他にも、婚約者であるわたくしへの贈り物も途中からは従者任せだったことや、手紙の内容も全部彼が考えていたことなどなどわたくしも知らない事実もてんこ盛りにして洗いざらい話し切ってしまった。
「ですので、ディアナ様が気に病む必要は、微塵もないかと思います」
にっこりととってもいい満面の笑みを浮かべるバートを尻目に、オトナたちは心痛で瀕死の状態になっていた。
特にお父さまとお兄さまは、膝をついて項垂れてしまっている。何やらお兄さまがブツブツと呟いていて、うっすら「八つ裂きにしてやる……」とか物騒な言葉が聞こえる気がしますわ。
かく言うわたくしも、心に多少なりともダメージを負っている。
では、夜会の時にわたくしに贈られたドレスはダミーで、あの男爵令嬢が身につけていた空色のドレスや、アクセサリー類は殿下が選んでいたということなのね。
それにわたくしずっとバートと手紙のやり取りをしていたの?恥ずかしいわ……だからたまに手紙の内容について殿下とお話しても会話が噛み合わなかったのね。
(俺様殿下、なんて人なの。ゲームのディアナが怒るのは無理もない。そんなことされたら彼女のドレスにジュースくらいかけても悪くないと思う。むしろもっとやれって感じですわ!)
わたくしの中の申し訳ない気持ちは、あっという間に霧散していた。
「ありがとうバート。わたくし気にしないことにするわね」
わたくしを元気づけようとしたのよね、そうよね。諸刃の剣になって全員満身創痍になってしまってるけど、そうなのよね。
部屋中が居た堪れない空気になったところで、ごほん、と陛下がわざとらしく咳払いをした。
「――よく分かった。コール子爵。ディアナ嬢も、これまでよく耐えてくれたな……今日は急なことで疲れているだろうから、ゆっくり休みなさい。明日、また、玉座の広間に来てくれるか」
「はい、わかりました」
「皆の者も分かったな。今日はディアナ嬢への謝罪のために取り急ぎこの場を設けたが――明日の午前、玉座の広間にて正式な発表を行うものとする」
威厳を取り戻した陛下の言葉に皆が一様に返事をしたところで、若干足取りが重い陛下たちはこの部屋を出て行った。
昨日アレクさまに聞いた話では、陛下たちは隣国からの帰国予定を半日早め、昨晩遅くに到着していたらしい。
だからわたくしも、深夜にあの街を発つことになったのだけれど。
長旅の後にこの大惨事。疲労困憊でしょうね。
取り残されたのは、わたくしたち親子と、アレクさまとバートだ。バート以外、みんな顔色が悪い。
気になることがあったわたくしは、満足げなバートに聞いてみることにした。
「バート。あなた本人が子爵なの?」
「はい、そうです」
「……子爵家の者、だなんて勿体ぶった言い方をしてひどいわね。あなた、もっと身分の高い家のご嫡男様なのでしょう?」
なぜそんな家のご子息さまがよその国の王宮で下働きをするのかは分からないけれど、彼の盛り過ぎな設定からして、この仮説に間違いは無いと感じていた。
その証拠に、バートは否定をせずにわたくしを真っ直ぐに見ている。
高位貴族には爵位を複数持つ家もあり、その場合は元々の家名とは別の家名を嫡男が名乗ることもあるのだ。
現にうちのお兄さまも、正式に名乗る時はアメティス侯爵家ではない子爵を名乗っている。
「――ご明察です、ディアナ様。生家の名を名乗るならば、ランベルト=アドルフとなります。アドルフ侯爵家の長男です」
また新しい名前を告げられる。わたくしの仮説は見事に的中していたようだわ。
もうなんか、絶対この人隠しキャラだと思います。
疲労がまた積み重なったところで、お父さまとお兄さまに声をかけられ、わたくしは久しぶりに侯爵家へと帰ることになった。
お兄さま曰く、ジュラルはすでに別邸で軟禁されているそうだ。
「ディー、いえ、ディアナ嬢。これまで色々とありましたが、明日が最後になるかと思います」
お父さまたちは先に部屋を出たため、最後に部屋を出るのはわたくしとアレクさまになった。
ゆっくりと近づいて来たアレクさまは、憂いを帯びた表情で、わたくしの手をとる。
「――また明日、お会いしましょう」
「!」
その時わたくしは、颯爽と立ち去るアレクさまの背中を見ることなく、彼の唇が触れた掌を茫然と眺めていた。
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