追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】
10 オトナたちに囲まれました
王宮の一角、豪華で厳かな雰囲気の廊下を、アレクさまの従者と思われる青年に先導されながらバートと並びたって歩く。
「なんだか、懐かしい感じがするわ」
「ふふ、あのパーティはほんの10日前のことですよ?」
「そうなのだけれどね。何故かしら。もうここには来ることはないと思っていたもの」
あの断罪の日まで王妃教育で通い慣れたこの宮殿も、娼館生活を満喫しているわたくしにとっては別世界のように感じる。
むしろ、娼館での普通生活がわたくしには合っていた。
普通の令嬢だったなら貴族生活が楽なのだろうけれど、前世日本人が頭の中で騒ぐわたくしは、違和感だらけで最初は馴染むのに大変だった。
(なんて貧乏性なの前世。せっかくお金持ち貴族生活が満喫できるチャンスだったのに……!)
そう考えても、前世も今世も含めて"わたくし"なワケだから、この性質は諦めるより他ない。どんまいだわ。
ふう、とため息をひとつついて顔を上げるとちょうど先導の従者がある重厚な扉の前で立ち止まったところだった。
コンコン、とノックしたあと、大きく扉が開く。
「ディーー!!!!」
そうして飛び出してきた人物は、息が止まるほどむぎゅうとわたくしを抱きしめた。
(一瞬だけ見えたけど、お兄様、かしら……)
確信が持てないのは、この人の動きが素早過ぎたのと、現在進行形でぎゅむぎゅむと腕に力を込めて抱きついてきているから、全く顔を上げられないからだ。苦しい。
「話はアレクから聞いているよ。大変な目に遭ったね」
「……っ、おにい、さま。あ、のっ」
もうお兄様ということにしておきましょう。
「知らせを受けたときは、途中で帰ろうとも思ったんだけどね。隣国なんてディーと比べたらどうでもいいし」
「そ、ですの」
未だに腕の拘束を緩めないお兄様らしき人のせいで、酸素が足りないのかどんどん苦しくなってくる。
「――シルヴィオ様。そのままではディアナ様は話せませんし、何より窒息してしまいます」
「ああ、そうか。すまないね、ディー。大丈夫かい?」
「な、なんとか……」
呆れた声で助け舟を出してくれたのは、バートかしら。
緩んだ腕の隙間から顔を上げると、わたくしと同じ銀色の髪を揺らすお兄様と目があった。
優しい目元が、さらにゆるゆると綻ぶ。
「顔色も良さそうだし、よく頑張ったね」
「はい……!」
どうしてこんなに素敵なお兄様が攻略対象ではないのかしら?ああでもお兄様が攻略対象だと、向こうのレンジャーズに入ってしまうからそれも嫌だわ。
とっくの昔に学園を卒業していて学園ラブストーリーに関わりがないからなのでしょうね。
アプリの運営に深く感謝したいですわ。
「どうしたんだい。私の顔に何かついている?」
「いいえ、少し感慨深いものがありましたの」
熱い気持ちでお兄様の綺麗な琥珀色の瞳を見つめていると、困ったように微笑まれてしまった。
そうしてわたくしとお兄様が落ち着いたところで、控えていた従者に「こちらへ」と促され、わたくしたちはようやく部屋の中に足を踏み入れた。
(なんだか、すごい顔ぶれだわ……)
てっきりお父さまとお兄様だけがいると思っていた室内には、なんと陛下以下オトナの面々がずらりと揃っていた。皆一様に神妙な顔をしている。
真ん中にいる陛下、陛下を挟んで宰相様と王妃様。
王妃様の横に、公爵さま、騎士団長さま、侯爵家のお父様。
そんな錚々たるメンバーと向かい合う形のわたくしは、怖気付きそうになる所をお兄様が隣にいることでなんとか平静を保っている状況だ。
バートはいつの間にか、宰相さまの後ろに控えるアレク様の元へ行ってしまった。
聞いていないわ、と恨みがましい気持ちでアレクさまを見つめると、わたくしの視線に気づいて軽く会釈してくれた。
どうして少し嬉しそうなのかしら。解せないわ。
「……ディアナっ」
わたくしが懐かしのカーテシーをして顔を上げた時、最初に声を発したのはお父さまだった。声もぶるぶる震えているし、見るからに涙ぐんでいる。
お父様は今は亡きお母様に似たわたくしをそれはもう可愛がってくださっていた。
きっと、これまで再三わたくしがお願いしていた婚約解消が出来ず、今回の事態になったことを後悔しているのでしょう。
ゲームでは10歳の誕生日パーティで王子に一目惚れしたディアナが、娘可愛さの親の権力ごり押しで婚約者になって――という展開だったのに、一目惚れしなくても、ごり押ししなくても婚約者になってしまった時は確かに死んだ目になった。
というか、ゲームの悪役令嬢があんなに我儘で傍若無人だったのって、溺愛お父様と盲愛お兄様のせいだったのでは……。
(王家からの命令に近い婚約を、よっぽどのことがないと解消出来なかったのは分かっていますわ。大丈夫よ、テンプレだったのですもの)
自分なりにふんわり微笑んで、お父さまに念を送る。
残念ながらテレパシー能力はないので、きっと伝わらないと思うけれど。
「――ディアナ嬢」
緊迫した空気の中に、落ち着いた威厳のある声がよく通る。
殿下と同じ海のような青い瞳を持つ陛下が、わたくしを真っ直ぐに捉えていた。
「なんだか、懐かしい感じがするわ」
「ふふ、あのパーティはほんの10日前のことですよ?」
「そうなのだけれどね。何故かしら。もうここには来ることはないと思っていたもの」
あの断罪の日まで王妃教育で通い慣れたこの宮殿も、娼館生活を満喫しているわたくしにとっては別世界のように感じる。
むしろ、娼館での普通生活がわたくしには合っていた。
普通の令嬢だったなら貴族生活が楽なのだろうけれど、前世日本人が頭の中で騒ぐわたくしは、違和感だらけで最初は馴染むのに大変だった。
(なんて貧乏性なの前世。せっかくお金持ち貴族生活が満喫できるチャンスだったのに……!)
そう考えても、前世も今世も含めて"わたくし"なワケだから、この性質は諦めるより他ない。どんまいだわ。
ふう、とため息をひとつついて顔を上げるとちょうど先導の従者がある重厚な扉の前で立ち止まったところだった。
コンコン、とノックしたあと、大きく扉が開く。
「ディーー!!!!」
そうして飛び出してきた人物は、息が止まるほどむぎゅうとわたくしを抱きしめた。
(一瞬だけ見えたけど、お兄様、かしら……)
確信が持てないのは、この人の動きが素早過ぎたのと、現在進行形でぎゅむぎゅむと腕に力を込めて抱きついてきているから、全く顔を上げられないからだ。苦しい。
「話はアレクから聞いているよ。大変な目に遭ったね」
「……っ、おにい、さま。あ、のっ」
もうお兄様ということにしておきましょう。
「知らせを受けたときは、途中で帰ろうとも思ったんだけどね。隣国なんてディーと比べたらどうでもいいし」
「そ、ですの」
未だに腕の拘束を緩めないお兄様らしき人のせいで、酸素が足りないのかどんどん苦しくなってくる。
「――シルヴィオ様。そのままではディアナ様は話せませんし、何より窒息してしまいます」
「ああ、そうか。すまないね、ディー。大丈夫かい?」
「な、なんとか……」
呆れた声で助け舟を出してくれたのは、バートかしら。
緩んだ腕の隙間から顔を上げると、わたくしと同じ銀色の髪を揺らすお兄様と目があった。
優しい目元が、さらにゆるゆると綻ぶ。
「顔色も良さそうだし、よく頑張ったね」
「はい……!」
どうしてこんなに素敵なお兄様が攻略対象ではないのかしら?ああでもお兄様が攻略対象だと、向こうのレンジャーズに入ってしまうからそれも嫌だわ。
とっくの昔に学園を卒業していて学園ラブストーリーに関わりがないからなのでしょうね。
アプリの運営に深く感謝したいですわ。
「どうしたんだい。私の顔に何かついている?」
「いいえ、少し感慨深いものがありましたの」
熱い気持ちでお兄様の綺麗な琥珀色の瞳を見つめていると、困ったように微笑まれてしまった。
そうしてわたくしとお兄様が落ち着いたところで、控えていた従者に「こちらへ」と促され、わたくしたちはようやく部屋の中に足を踏み入れた。
(なんだか、すごい顔ぶれだわ……)
てっきりお父さまとお兄様だけがいると思っていた室内には、なんと陛下以下オトナの面々がずらりと揃っていた。皆一様に神妙な顔をしている。
真ん中にいる陛下、陛下を挟んで宰相様と王妃様。
王妃様の横に、公爵さま、騎士団長さま、侯爵家のお父様。
そんな錚々たるメンバーと向かい合う形のわたくしは、怖気付きそうになる所をお兄様が隣にいることでなんとか平静を保っている状況だ。
バートはいつの間にか、宰相さまの後ろに控えるアレク様の元へ行ってしまった。
聞いていないわ、と恨みがましい気持ちでアレクさまを見つめると、わたくしの視線に気づいて軽く会釈してくれた。
どうして少し嬉しそうなのかしら。解せないわ。
「……ディアナっ」
わたくしが懐かしのカーテシーをして顔を上げた時、最初に声を発したのはお父さまだった。声もぶるぶる震えているし、見るからに涙ぐんでいる。
お父様は今は亡きお母様に似たわたくしをそれはもう可愛がってくださっていた。
きっと、これまで再三わたくしがお願いしていた婚約解消が出来ず、今回の事態になったことを後悔しているのでしょう。
ゲームでは10歳の誕生日パーティで王子に一目惚れしたディアナが、娘可愛さの親の権力ごり押しで婚約者になって――という展開だったのに、一目惚れしなくても、ごり押ししなくても婚約者になってしまった時は確かに死んだ目になった。
というか、ゲームの悪役令嬢があんなに我儘で傍若無人だったのって、溺愛お父様と盲愛お兄様のせいだったのでは……。
(王家からの命令に近い婚約を、よっぽどのことがないと解消出来なかったのは分かっていますわ。大丈夫よ、テンプレだったのですもの)
自分なりにふんわり微笑んで、お父さまに念を送る。
残念ながらテレパシー能力はないので、きっと伝わらないと思うけれど。
「――ディアナ嬢」
緊迫した空気の中に、落ち着いた威厳のある声がよく通る。
殿下と同じ海のような青い瞳を持つ陛下が、わたくしを真っ直ぐに捉えていた。
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