追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

9 黒髪元従者のことを知りました

 


 ――ガタン




 身体が大きく揺れて、目を覚ます。
 一瞬自分が何処にいるか分からなくて目を瞬かせると、カーテンの隙間から差し込む白んだ光が、うっすらとこの空間を照らしていた。


 そして、段々と目が慣れてきて、向かいに座る人物のシルエットがぼんやりと見えてくる。


 結構大きな揺れだったと思ったが、よほど疲れているのか目の前の人物は多少身じろいだくらいで、目を覚ますことはない。




(ああ、そうだわ。わたくし馬車に乗っているんだった)




 わたくしたちを乗せた馬車は、目的地に向かってゆっくりと進んでいく。


 今日は大変な1日になることは間違いない。
 もう一度目を閉じて、馬車の揺れに身を任せることにしたわたくしは、またすぐに眠りの海へと落ちていくのだった。














「……ナ様、ディアナ様」


 名を呼ぶ声と共に、肩を軽く揺すられる。
 その振動でうっすらと目を開けると、馬車の中はすっかり明るくなっていたようで、目の前の人物もハッキリと見える。




「申し訳ありません、お疲れですよね。……そろそろ到着します」


「わかったわ」


「タウンハウスに着いたら、朝食にしましょう。ディアナ様の好きなものを揃えてありますから。いちごもパンケーキもあります」




 そう言ってくすくすと笑うのは、艶のある黒髪をもつ元従者の青年――いえ、昨日聞いた話だと……




「ありがとう。……やっぱり、ランベルト様とお呼びした方がいいのかしら?」


「いえ、今までどおり、バートでいいですよ。ディアナ様」


「うーん、でも、わたくしはまだ庶民なわけだし、ランベルト様は貴族なのでしょう?」


「それはそうですが。というか、アレクシス様の話だと、そもそもあなたは一度も庶民になっていないはずです」


「……そうなのよねぇ」








 ――明日、王都に来てください。




 昨日のカフェで、アレクさまにそう言われた時は、思わず手に持ったティーカップを滑り落としそうになった。


 2人が言う大事な話、というのはそこから夕方近くまで続いたわけなのだけど。


 その内容にわたくしは驚かされっぱなしだった。


 特に驚いたのが、目の前のこの人が、実は貴族の子息さまだったということ。
 しかも名前まで偽っていたのだから驚きだ。
 それに出身はこの国ではなく、海を挟んだ隣国だというのだから、三重に驚いた。




(殿下の従者はゲームでもチラチラ出てきたけど、攻略対象キャラではなかったはず。でもこの意味深な設定は……)




 怪しい。とっても怪しい。
 この設定盛り盛りの優しげ美男子が、ただの一般人モブなのだろうか。


 これは、親友がかつて居酒屋で熱く語っていた、"乙女ゲームあるある、隠しキャラ"というやつなのかしら。
 でも、"私"がゲームをしていたときは、逆ハーが一番難しいエンディングだったはずで、だから躍起になって攻略しようとしていたのだけど。


 ……そういえば、攻略サイトに《近日中に大型アップデート予定!!!》という文字が踊っていたような気がする。もしかしたら、"私"が死んだ後に、アプリの大幅なアップデートがあったのかもしれない。


 殿下たちと色も被ってないし、あのレンジャーズの中に黒が入っても問題は無いように思う。従者キャラも被ってないし。


 問題は――……




「朝食後は、準備をしていただいて予定通り王宮に向かいます。アレクシス様の手配で、ある一室でディアナ様のご家族との面会があるかと思います。……ディアナ様?」


「え、ええ。分かりましたわ」




 ――なぜ、アレクバートがわたくしの味方なのかという点。


 紺を攻略した覚えはないし、そもそも黒の攻略法は知らない。
 なんだかヒロインの逆ハーエンドに歪みが生じてしまっているわ。






 馬車を降りて、少し中心から離れた場所にあるバートのタウンハウスに入る。


 そのまま朝食をとるために部屋に案内されてパンケーキを満喫した後、息つく間もなくメイドたちに捕らえられたわたくしは、あれよあれよと身支度を整えられてしまったのだった。




(今思い返しても、昨日の話し合いからずっと衝撃の連続だわ……)




 ◇◇◇






『私の本当の名前は、ランベルトと言います。ランベルト=コール。コール子爵家の者です』




 昨日のカフェで、バートがそう切り出したのは唐突だった。




『コール子爵?あまり聞かない家名ね。それに、ランベルト、と言うの?貴族なの?バート、ちょっと待って、理解が追いつかないわ……』


『ああ、出身は海の向こうの国ですので。こちらの国ではあまり馴染みがない家名でしょうね』


『えっ海の向こう?この国の貴族ではないということ?』


『そうなりますね』




 混乱しているわたくしを見て、バートはふっと優しく微笑む。ちらりと様子を伺ったアレクさまは動揺していないようだから、この話はきっと昨日済ませてあるのだろう。


 それか、前から知っていた可能性もある。




『ええと、ランベルト、様?なぜ隣国の貴族のあなたが、殿下の従者をなさっていたのかしら?』


『うーん、私は従者までするつもりは無かったのですけどね。うちの教育方針で、代々この国に留学も兼ねて身分を隠して王宮で働かせてもらうことになってるんですよ。陛下もご存知です』


『……殿下は?』


『殿下は知らないでしょうね。7年前に、たまたま王宮で目に付いた私を従者にすると宣言されて、そのままです』




 面倒だったので言ってないですし、とつけ加えて、バートは紅茶をひとくち飲んだ。










『――そういうわけですので、ディー。僕は事前に行くので、明日はランベルト殿と共に王宮に来てください』




 何だかんだあってそうアレクさまに締めくくられた話し合いの後、わたくしはげっそりとした気持ちで娼館おうちに帰ったのだった。




 そして、おうちに帰った後、セドナから聞いた"コール子爵"の話に面食らったのは言うまでもない。
 ……セドナはとっても興奮していたけれど。





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