追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

8 話し合いをしました

 


「ところでディアナ様」


 わたくしとアレク様の間の席に腰掛けたバートは、自分の分の紅茶を注いでいる。


 バートの分の紅茶を頼んだ時に併せて注文していたのか、わたくしたちの紅茶も新しくなり、テーブルの上にはサンドイッチやパンケーキやフルーツと言った軽食が並ぶ。


 このカフェは軽食のお店だったのね。


(どれも美味しそうだわ……)




 このカフェに来てから随分と話し込んでいたようで、すっかり昼食どき。散策をしたりしていつもより体力を使ったわたくしのお腹はペコペコだ。




「ディアナ様、聞いてます?」




 くすくすと笑うバートの声を聞いてはたと顔を上げる。 
 そこにはもともとの優しい目元をさらに柔らかくした黒髪の青年が微笑んでいた。
 アレクさまにも温かい目で見られている気がする。
  


「なんだかディアナ様を見ていると、深刻な状況だってことを忘れてしまいますね。アレクシス様もそう思いません?」


「ええ、そうですね。その意見には同意します。まずは食べましょうか。そこからまた話しましょう」


「……恐れ入りますわ」




 それからわたくしたちは、というか主にわたくしは、目の前のパンケーキやフルーツを食べることに専念した。


 蜂蜜がたっぷりかかったふわふわの生地と、甘酸っぱいいちごの組み合わせがたまらない。天才だわ。


 2人からのぬるい目はこの際もう気にしないことにする。




 それから、気になるサンドイッチをつまんだり、バートから紅茶のおかわりをついでもらったり、アレクさまからフルーツを取り分けてもらったり、ほくほく顔でランチタイムを満喫したわたくしだった。








 ーーーー
 ーー




 ようやくひと息ついたころ、「では」とアレクさまが始める。


 何の話になるのか分からないから、この機会に乗じて、改めてアレクさまをじっくり観察することにしましょう。


 学園では、氷の貴公子だとか呼ばれていた彼は、凍れるような冷たい美貌の持ち主だ。紺色の髪に、灰色の混じった藍色の瞳。顔つきは鋭く整っていて、甘さはない。
 そこに眼鏡がプラスされていて、一層近寄りがたい空気を漂わせている。
 インテリ眼鏡担当なだけあって、側近の中ではブレーンとしての役割を果たしていたはずだ。
 例に漏れず、学園の2年目に生徒会メンバーを殿下アンドゆかいなレンジャーズで占めたときも、アレクさまがその手腕を遺憾なく発揮していたように思う。


 "ように思う"とわたくしが回想するのは、他のメンバーが全く使いものにならない中で働いていたのが彼だけだったように思うから、比較対象がゼロなのだ。


 赤騎士は勢いだけだったし、緑公爵は年上だから卒業済み、橙商人はふわふわ〜とのんびりしてたし、銀色弟は年下だから正式な役員ではなかったし、金王子と桃少女はほぼほぼ2人の世界で楽しそうでした。




(……あれ、アレクさまって、実はかなり大変だったんじゃないかしら)


 わたくしが生徒会のお手伝いをしていたのは半年間だけ。
 それ以降は、殿下に顔を出さなくてもよいと言われたから、ありがたく欠席させてもらっていた。


 わたくしがいた半年間でもあの荒れ方だったのに、その後のお花畑メンバーが使いものになったとは思えない。


 あの子のことを好きだと思っていたから、そのためになら頑張れるのねと思っていたけれど、そうじゃなかったのならただただ苦行だったに違いない。


 それは辞めたくなるわ。ブラックだわ。




「ディー?僕の顔に何かついていますか?」




 憐憫の眼差しで彼を見ていたら、観察していたはずがしっかりバレてしまっていた。




「いいえ、見惚れてしまっていただけですわ!綺麗なお顔なので」
「っ!そうですか」




 ほんと、ゲームで見たままの姿形をしているわ。
 まあわたくしも見た目だけなら絶世の銀髪美女なのだけどね。
 少し吊り上ってはいるけど目は大きいし、まつげは長い。
 ゲームの時はがっつり盛っていてザ・悪役令嬢!なディアナだったけど、あんなにヘアメイクしなくても、充分綺麗なのだ。


 自画自賛になっててどうかと思うけれど。
  
 ただ、学園では8割無表情だったから、そうするとその顔立ちが元々の神秘的な雰囲気と相まって、冷酷非道なイメージに変わるのだから不思議だわ。




「は、話を進めましょうか。ディー、あなたの話なのできちんと聞いてくださいね?」


「分かりましたわ」


「……ディアナ様」




 アレクさまからはそう念を押され、バートからも疑いの目を向けられている気がする。




「大丈夫よ、ちゃんと聞くわ」




 そうして2人は、わたくしにとっては衝撃的な話を進めていくのだった――。












 ◇◇◇




「あら、オーナー。おかえりなさい」


 2人との話し合いを終えたわたくしは、娼館に帰って来ていた。たまたま裏口近くにいたセドナに「ただいま」と挨拶をする。


 朝方出かけたのに、すでに日は暮れかかっていて、歓楽街は徐々に灯りがともり、賑わい始めている。




「どうでした?デートは」


「あれはデートではないわ……途中から人が増えたし」


「あらあらあら、おもしろ……すごいことになったんですねぇ〜。そのお話もぜひぜひ聞きたいところですが、私、オーナーに話したいことがあってお待ちしてたんです」


「そうなの?わたくしもセドナに話があるわ。では、わたくしの部屋に来てもらえるかしら」


「ええ、すぐに」










 ――いよいよ、明日。




 アレクさまとバートと話したことや、セドナとの話。
 それに、学園での出来事や、あの断罪パーティのこと。


 1人になってようやく落ち着いたわたくしは、目を閉じてこれまでの事を思い返していた。




(もう、決めたのだから)




 徐ろに腰掛けていたソファーから立ち上がり、部屋に備え付けられているクローゼットを開ける。


 そこには、侯爵家から事前に運び込んでいたいくつかのドレスやワンピース、それに靴やアクセサリーなどが並んでいた。

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