追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

7 言いたかったことを言えました

 部屋に入って来た人物は、わたくしを真っ直ぐに見据えて恭しく礼をする。




「バート……?」


「ディアナ様、ご無事で何よりです」




 以前あった時よりも格段に明るく微笑むその人は、殿下の従者である黒髪の青年だった。




(むむ?どういうこと?)




 殿下の関係者がまた増えたわ。
 わたくしは紺と黒の青年たちを交互に見比べる。


 2人は目線を合わせたあと、何やら頷き合っている。


 この2人、仲良しだったかしら?
 学園の中には基本的に侍従は連れて行けなかったから、学園に入ってからは、従者である彼とわたくしは王宮の中で会うことが多かったように思う。


 まあそれも、わたくしが殿下とあまり関わらないようになったから、必然的にその従者とも会う機会が減っただけだけど。 


 殿下の側近であったアレクさまは、わたくしなんかより格段にバートとの関わりはあるわね。


 この従者の彼は、殿下と出席しなければならない夜会の時などに、最初の1曲だけ踊ってあの子の元へ立ち去る殿下に代わってよく話し相手になってくれたものだ。


 あれ、思い返してみると殿下ってほんとにひどい奴だわ。俺様っていうか鬼畜だわね。
 今何してるか知らないけど、急に呪いたくなってきたわ。




「ディアナ様……まさかあの娼館のオーナーになっておられるとは、驚きました」




 その言葉にこちらこそ驚いてアレクさまの方を見ると、アレクさまは訳知り顔でこくりと頷いた。




「バートも……知っているのね」


「はい。あの日から、なんとかしたいと思っていましたが、アレクシス様がディアナ様とお会いしたと聞いて、私も居てもたってもいられずにアレクシス様の所へ伺ってしまいました。その時に」


 事情を聞いたのです、とアレクさまを一瞥して、彼はわたくしにまた爽やかな笑顔を向けた。


 心なしか、アレクさまの顔色が曇った気がする。




「――昨夜遅くに、バート殿が僕が泊まっている宿にいらっしゃいまして。そこで昨日ディーから聞いた話をして、今日どうしてもあなたの無事を確認したいということでしたので、ここに招きました」


「まあ、そうだったのですね」




 彼らはさらっと笑顔で言っているが、所々気になる点がある。
 これは流しておくべきか、確認しておくべきか。


 とりあえず紅茶を飲んで落ち着こうと手元の紅茶を飲み干すと、流れるような所作で、バートにお代わりを給仕される。


 執事スキルも持っているようね。完璧だわ。




 そういえば、と思う。
 わたくし、バートにごめんと言う予定だったわ。
 予定よりだいぶ早くネタバラシすることになっててびっくりだけど。


 立ち上がって、彼の前に立つ。
 わたくしの行動が予想外だったのか、彼は鳶色の瞳を見開いている。




「わたくしあなたに謝りたいと思っていたの。娼館に来た日、とっても辛そうな顔をしていたでしょう?あのときに本当のことを言えなくてごめんなさい」




 言い切ってぺこりと頭をさげる。


 あの断罪の日。ずっとひとりだったわたくしのことを心配してくれる人がいることを感じて嬉しく思った。




「心配してくれてありがとう。……言ったでしょう?わたくしこう見えて丈夫なのよ」
  


 腕に力を入れて、力こぶを作るポーズをする。
 今世令嬢なわたくしの細腕では全く筋肉らしさを感じることは出来なかったけど、気持ちは伝わるといい。
 ただ、今度から少し鍛えようと思う。切実に。




「はは、相変わらずですねディアナ様」


「笑わないで。これから何とかなる予定ですの。そのうち、剣でも習うわ」


「何を目指してるんですか……」




 黒髪従者バートは怪訝な顔でわたくしを見る。
 今までもよくこんな目をされていた気がする。主人の手のかかる婚約者でごめんなさいね。今は他人だから安心してね。




「驚きました。おふたりは随分気安い会話をされるのですね」




 微笑みながら、アレクさまがそう言う。
 ぎこちなく見えるのは気のせいだろうか。




「まあ色々あって、バートはわたくしのおしゃべりによく付き合ってくれたものね」


「そうですね。諸事情で殿下の代わりを務めることが多かったですので。学園には行けなかったので悪い虫がつかないか心配でしたが、虫がついたのは殿下の方だったようですね」




 いつも柔和で穏やかなはずの彼が発する言葉の端々に棘を感じて彼を見ると、バートはアレクさまの方をじっと見ていた。


 その視線に気づいたアレクさまは、分かりやすく顔を顰める。




「バート殿、言葉が過ぎるのでは?」


「そうだわ。殿下に怒られてしまうわよ?」


「大丈夫です。私はもう彼の従者ではありませんし、ここでの会話は外に漏れることはありませんので」


「え……あなたも辞めてしまったの」


「元々近いうちに辞める予定だったので、それが少し早まっただけです。……早急にやらなければいけないことが出来たので」




 街はずれのこじんまりとしたログハウス風のカフェ。
 この部屋にいるのは、令嬢を辞めたわたくしと、側近を辞めたアレクさまと、従者を辞めたバートの3人。


(なんだかとってもカオスだわ……!)



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