追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

5 前世の夢を見ました

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 ざわざわと騒がしい店内。
 いつものカウンター席で"私"と並んで座っているのは、肩までの髪を揺らしながらクダを巻く、同い年の女。




『いやそれ、田中先輩ぜったいアンタに気があるでしょ!は?ただふたりで今度の課のイベントのために下見に行くだけってそんなわけないじゃん』


 ビールジョッキをだああああん!と居酒屋のテーブルに振り下ろしながら、"私"の親友はこちらを睨みつける。
 こいつ目が座ってやがる、ビール何杯飲んだんだ。




『いやいや、仕事でしょ仕事。それだけで気があるとか考えすぎだから』


『……まあ、アンタに言ってもしょうがないわ。恋愛偏差値が小学生以下だし。で、あたしが勧めた例のゲームの首尾はどうなのよ』


『ああ、アレね!今めっちゃハマってる』


『意外〜乙女ゲーとか絶対ハマんないタイプだと思ってた。自分の好みのタイプとか分かった?推しキャラどれ?』


『そっちが勧めといて何その言い草!?言われたとおり逆ハーエンドってやつを目指して攻略サイト見まくってるから抜かりはない。強いて言えば、早く攻略すすめたくて課金しそうになっててこわい……てか好みのタイプとか何の話?おしキャラとは何?』


『いやいやいやいや何かあたしが思ってた感想と違うわ……』


 はああと大きなため息をついて、唐揚げにかぶりつく親友は、その後も私に乙女ゲームのキャラクターについて熱く説明し続けるのだった。






 ◇◇◇◇◇◇◇◇




「懐かしい夢……」


 朝。カーテンから漏れる日光の眩しさに目を細めながら半身を起こす。


 その時にさらりと顔にかかった長い髪は銀色で、目に入る手の色は透き通るように白い。
 ここにいるのは、居酒屋で親友と飲んで騒いでいた黒髪黒目の日本人の"私"ではない。


 わたくしはディアナだ。ディアナ歴17年だけど、たまにこんな風にふと前世の思い出が夢となって蘇ることがあって、その時はちょっとだけ不思議な気分になる。


 まるでさっきまで、前世で生きていたような感覚に陥るのだ。




「俺様王子、インテリ眼鏡、熱血騎士、年上チャラ男、年下ツンデレ、腹黒わんこ……」




 夢の中で親友が熱弁していた内容を復唱する。
 攻略対象者の中で、どんな男が好みか、誰が推しなのかと、ビールをやめて日本酒をあおり始めた友人に絡まれたのはいい思い出だ。


 そもそもこの乙女ゲームを始めたのも、この酒癖が悪い友人のススメだったわけだけど。


 勝手に人のスマホにアプリをインストールしてたときは軽く引いたし、アプリはもっぱらパズルゲーム派で、人生初の乙女ゲームだったのだけど、やり始めたらずるずるハマってしまった。


 ゲームをしているときは、イベントを逃さないように、選択肢を間違えないように、スマホの充電を無くさないように、課金しないように、ということに夢中でどのキャラがどうとか考えたこともなかった。みんな一律攻略対象。


(好み……わたくしの好み……うーん、わからん)


 とりあえず、一番絡みのあった婚約者暦7年の金髪碧眼王子はナシ。
 わたくし俺様苦手だわ。何様って感じで。まあ何様ってかリアル王子様だから俺様でも仕方ないんだけど。わたくしの前世も拒絶してるわ。


 そこから行くと、満遍なく色んな性格の全てのメンバーを滞りなくリアルにおとしたあのピンクブロンド美少女は本当にすごいと思う。さすがヒロインということなのだろうか。


 ただ、ゲームでは成り立っていても、現実的には気になる点もある。




(逆ハーエンドだったとして……あの子は王妃になるのだろうけど、そうしたら他の攻略対象者たちはどうなるのかしら……)


 断罪の日の、殿下の後ろの取り巻きレンジャーズを頭に浮かべる。


 うちの銀髪おとうと――ジュラル以外は、みんなそれぞれ名家の跡取り息子だ。
 そんな彼らが、今後も王妃となったヒロインだけを想って独身で暮らす、そんなことってあるのかしら。


 それぞれのストーリーでは、ヒロインはハッピーエンドの後に、宰相夫人、騎士団長夫人、公爵夫人、商会長の妻としての立場が約束されていたわけだけど。
 うちのジュラルだけは、嫡男ではないから、ヒロインの男爵家に婿入りして家業を継ぐ展開だったわね、確か。




(お父さまたちの動向も気になるけど、逆ハーエンドの結末も気になる。まあ、その内わかるわね)




 そこまで考えて、腕に力を入れて伸びをする。


 そうしてベッドを降り、顔を洗ったり着替えたりと身支度を整える。窓の外を見ると、雲ひとつない青空で、太陽が眩しい。




 今日は1日何をしようか。
 娼館の裏にこっそり作った花壇でも手入れしてみようか、前世でも今世でもやったことないけど。


 それから、ゆっくりお茶でもして―――




「オーナー、ラズライト様がお見えです。応接間にお通ししてます」






 受付の女の子からそう告げられ、わたくしの現実逃避の時間はあっさり終わった。


 確かに昨日、約束してたわ。
 ええそうよ。一緒に町を散策しようってことになったわ。




「分かりました。先程起きたばかりだから、まだ準備が出来ていないの。急いで用意するから、少し待っていただけるように伝えてもらえる?」


「はい。あ、"朝食におすすめのお店があるから、何も食べないように"とのことです」


「……まあ。では急ぐわね、そんなにお待たせしないと思うわ」




 でもまさか、こんなに朝早くから出かけるとは思っていなかったわたくしは、急いでメイク道具を引っ張り出す。


 朝食も外で食べるの?一緒に?




 内心パニックになりながら、出かける準備をするわたくしは、心の中でセドナに助けを求めるのだった。











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