追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】
3 紺色眼鏡の青年と遭遇しました
本日は快晴。
夜はとってもイカガワシイ空気むんむんのこの街も、朝になればその様相をがらっと変えて、商業都市らしくとても賑やか。
街の広場には朝市が広がり、目移りするくらい色んな物が並んでいて、行き交う人々も活気に溢れている。
朝も夜も活気があるってこの街の人どうなってるのかしら。徹夜なの?昼に寝てるの?
この世界の朝市が物珍しいわたくしはキョロキョロとよそ見しながら歩く。
(お散歩がてらに朝市を覗こうと思ったわたくしってば冴えてる。いい判断をしたわ、とってもたのしい!)
――今朝目覚めたとき、わたくしは気づいてしまった。いえ、本当は少し前から気づいていたの。
お気に入りのワンピースを着て体を動かした時に、その衣服の動きの違和感に愕然とした。
断罪前のわたくしは、厳しい王妃教育やらお茶会やら夜会やらで無駄に忙しい日々を送っていた。
その反動からか、娼館に来てからはこの1週間部屋に引きこもってのんびりだらだら過ごしていたわけだけど。
(確実に太ったわ。ここなんて摘むとぷよっとしてる)
ダンスの練習もせず、ただひたすらに部屋にいてそのくせお菓子を食べまくったらどうなるかなんて火を見るよりも明らかじゃない。
いくら自由の身とはいえ、自堕落な生活に明け暮れている場合じゃないわ。
そこからのわたくしは早かった。
急いで薄化粧をし、もっさい眼鏡をかけ、髪をぐるぐるっとまとめて帽子にしまいこむと、娼館の裏口から飛び出していた。
後ろから「あ、こら、オーナー!」っていう店主代理のハニーブラウンの豊かな髪の美女――セドナの声が聞こえたけど、無視よ無視。
外の空気を吸って、お散歩してダイエットしなくては!
と、わたくし意気揚々としていたのだけれど――
(この果物は何だろう、あ、あっちのお店にあるあの飾りは何かしら。あれは――)
 
「わ!」
左右に目移りして、前を全く見ていなかったわたくしは、前に立っていた人に思いっきりぶつかってしまった。
身長差があったのか、わたくしは相手の胸元あたりにつっこんでいて、眼鏡をしていたせいで、金具がぶつかった鼻がジンジン痛む。でもきっと相手の方がびっくりしたわね、謝らなくっちゃ。
「ごめんなさい。わたくし前を良く見ていなくて」
「いえ、こちらこそ考え事をしていまして……」
謝りながら手でさすっていた顔を上げる。
わたくしがぶつかった相手は、どこかのおぼっちゃまなのか、綺麗な格好をしている。
眼鏡をかけていて、髪色が紺で――
「「え!」」
昨日セドナに追い返してもらった紺色眼鏡さまがそこにいた。こんな偶然いらないわ。これなんて乙女ゲー?
「ほ、本当に、アメティス嬢……なのですか……?」
そしてあっという間にこちらも身バレしている。
どうしてこうなったのかしら。数分前の自分を呪いたい。
眼鏡と帽子で変装は完璧のはずなのに。あっさり見破るなんてさすがは宰相子息だわ。
「今はただのディアナ、ですわ。庶民なのですから、家名はありませんの。こ……ラズライト様」
危うく紺色と言いそうになった。ギリギリで彼の家名を思い出せたことを誰か褒めて欲しい。
「では、ディアナとお呼びしても?ああ、僕のことはアレクシス、とお呼びください」
「え……いえ、わたくしには恐れ多く」
「それでは、アレク、とお呼びくださいね」
有無を言わさない圧力の笑顔の、紺色眼鏡のアレクさま。
何故か名前呼びのハードルがぐんぐん上がっている。
いや、前世で乙女ゲームやってる時は勝手にアレクさまって呼んでたけど、今世ではほとんど関わりないと思うんだけど。
(これ、従わないと消されるの?せっかく自由になったのに死んじゃうの?悪役令嬢って、結局そうなの?)
アレクさまがここにいる理由も目的も全く分からないし、ここは覚悟を決めて対応すべきだろう。わたくしの幸せのためにも。
「分かりました。アレクさまと呼ばせて頂きますわ。そうだわ、でしたらわたくしのこともディーとお呼びくださいませ」
「……!」
「あら、わたくし出過ぎたことを申しましたわね。庶民の分際で、アレクさまと親しく名前を呼び合うなんて」
「い、いえ、そんなことはありません。ディーと呼ばせて頂きます」
「まあ、お優しいのですねアレクさま」
こんな往来でディアナディアナ連呼されたら、せっかく変装してるのにわたくしが某元侯爵令嬢だって街中にバレてしまう。
それもアレクさまの作戦なのかもしれないけれど、わたくし負けないわよ。
あなたの考えていることは分かっている、と言う言葉を視線に込めて、彼ににっこりと微笑みかける。
アレクさまもそんなわたくしを凝視しているから、きっと気付いたに違いない。なかなかやるわね、さすが。
昨日は顔面蒼白で娼館から立ち去ったと聞いていたけれど、今目の前にいるアレクさまの顔色は特に悪くなさそうに見える。
むしろ、血行が良すぎるくらいじゃない?頰が桃色だし。
髪型や服装は、殿下の側近としていらっしゃる時としたら無造作でラフだから今までとは違う人のようにも感じる。
色々と探るように彼をじっと見ていると、アレクさまは思い出したかのようにキョロキョロとわたくしの周囲の様子を伺う。
「ディー、おひとりですか?」
「はい。お散歩ですの」
「ひとりで街中に?供の者や護衛はいないのですか?」
「アレクさまったら。庶民にそのようなものは不要ですわ」
「あ……いや、そうなのですが、でも、昨日、あれは……」
「?」
アレクさまはわたくしと周囲の様子を見比べながら、言葉尻を濁した。なにかしら……?
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