追放された悪役令嬢は断罪を満喫する【連載版】

うめ

1 娼館にやってきました

 


「……着いたようね」




 乗っていた馬車が徐々にスピードを落とし、ある建物の前でゆっくりと止まる。


 王都から半日かかる距離にあるこの場所。パーティの後すぐに乗せられてやってきたから、今はすっかり真夜中だ。


 いやホント、この扱いすごいわ。
 ちょっと前までわたくし王妃なるからね、ばあああん!って感じだったのに、雲泥の差。




「ディアナ様、お降りください。到着いたしました」




 馬車の扉があき、従者に差し出された手を借りて馬車を降りる。
 周囲は人払いされているのか、歓楽街なのに人の姿はなく、わたくしを出迎える娼館の入り口の前にだけほのかな街灯がついている。


「ありがとう。……あら、あなたが見送りに来てくれたのね」




 暗くて今までよく見えなかったけど、この仄かな灯のおかげでようやく見えたのは、わたくしもよく知っている黒髪の従者の顔だった。


 殿下の従者だわ。最後までしっかりエスコートってことね……俺様殿下、やるわね。わたくし逃げないのに。




「ディアナ様……こちらへ……」




 従者に手を引かれて、建物の中に入る。
 一見するとそんなイカガワシイ雰囲気が全くないエントランスに足を踏み入れたあと、黒髪従者はわたくしから離れて受付のような場所に控えていた美女と何やら書類を取り交わしている。


 大方、わたくしをきちんと送り届けたかどうか確認する書類を取って来いとでも主に言われているんでしょうね。
 大変ね、こんなお仕事彼もしたくなかったでしょうに。残業代や特別手当は出るのかしらね……殿下の従者って結構ブラックそうよね……




「ディアナ様。手続きは全て完了いたしました……ので、ただ今から、こちらでお過ごしいただくことに、なります」
「ええ。分かっているわ」
「……ディアナ様!」
「あら、心配してくれているの?まああなたともかれこれ7年ほどの付き合いですものね。今までありがとう。これからは殿下とあのお方を支えて差し上げてね」
「そんな……私は、」
「最後のお見送りがあなたで良かったわ。こうして御礼が言えるもの。体に気をつけてね、わたくしはこう見えて丈夫だから頑張るわ」




 なんだか泣きそうな黒髪従者ににこりと微笑みかけて、彼の手をぎゅっと握る。仕事ツライのね。あなたが責任感じることないからねーこれテンプレだからねーだいじょぶだいじょぶ!との念を込める。


 くっ……、と言葉にならない呻き声を出したあと、黒髪従者は名残惜しそうに去っていった。










 さて。
 これからあはんうふんな日々になると思った方、甘くてよ。




「オーナー、お疲れさまです。話を聞いたときはウソだろって思ってましたけど、本当だったんですねぇ〜」




 貴族のご令嬢をここに連れてくるなんて、そうわたくしに話しかけるのは、先程黒髪くんと書類のやり取りをしていたハニーブラウンの豊かな髪を持つ美女だ。お年頃なので年齢のことは伏せておきます。




「本当に決まってるじゃない。でもまさかこんな深夜に送り届けられるとはさすがのわたくしも思ってなかったわ。敵も本気ね」
「敵、だなんて。さっきの従者が聞いてたら不敬罪とかでまたまた罪が重くなっちゃいますよ。まあ、彼の様子だと、オーナーが不利になるようなことを王子さまには言わなさそうですけど」
「そうね、たしかにあの人はいい人だったわ。殿下がいない時によくエスコートしてくれたしお世話になったわ」
「ええーその程度の認識なんですねぇ……」




 ハニーブラウン美女と雑談しながら、建物の奥へと進み、階段を上る。
 最上階まで来て、重厚な扉を開けて中に入ってようやく、わたくしは一息つくことが出来た。


 もう今日のところは本当に疲れたし、さっさとお風呂に入って寝るに限るわね。


 そうしてわたくしはハニーブラウン美女におやすみを言ったあと、室内に設置された浴室へ向かう。
 お風呂を満喫したあとは、ふわふわのベッドに飛び込んであっという間に夢の世界へと誘われたのだった――










 ――せっかく前世の知識があるのに、婚約破棄までの道のりはどう抗っても変えられないのね。


 婚約そのものを回避しようとしたり、なんとか婚約解消しようと画策したけれど、曲げられなかったわたくしは、そう結論づけた。


 でも悪役令嬢って最後ヤバイことになるんだよね、なんとかしないと辛い……と涙目になっていた時、はたと気付いた。


 乙女ゲーム的には、学園の卒業パーティがエンディング。だけど実際に生きているわたくしたちはそこがゴールじゃない。


(断罪後の展開は変えられるんじゃない?)


 そう踏んだわたくしは、気付いた時からコソコソコソコソ資金を貯め、とある高級娼館を買い取り、オーナーになった。




 つまり。わたくしが連れていかれた娼館はわたくしのモノで。
 娼館送りになったものの、単に自分が経営するお店に来ただけなので、お姉さまがたとお茶をしたりしながら、前から用意していた店舗内の住居でのんびり過ごすことになりました。


  この娼館のエントランスが清潔感に溢れていたのも、現オーナーであるわたくしが前世の知識をここぞとばかりに使って、かつて旅行で訪れた素敵なホテルや旅館の雰囲気に改装したからなのよ。今のところ娼館関係にしか役立ってないわたくしの前世の知識、残念すぎる……!




 あの日、わたくしの将来を悲観して泣きそうだった黒髪従者にはいつかごめんと言いたいわ。








 そうして、あの断罪劇から何事もなく1週間が経過した。


 お父様や陛下たちが隣国から帰国されるのは、確か3日後。


 これからの展開は、ゲームには無かったものだから、もうわたくしにも分からない。


(さあ、どうなるのかしら……?)


 自室で大好きなチョコレートを食べながらのんびりと考える。まあ、どうとでもなるでしょう。
 だってわたくしは、自由だものね。

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