ウイニー王国のワガママ姫
マーガレットに秘めた想い 4
「おに…」
お兄様と言いかけて「シッ」とお兄様に唇を人差し指で制止される。
「こういう場所では正体を隠すのがルールだよ。お嬢さん?」
と、お兄様はおどけて私に言ってみせた。
いけないいけない。と私は言われて口元を抑える。
「天使みたいに綺麗なお嬢さん?一曲お相手願えないでしょうか?」
と、お兄様は仮面の奥にある漆黒の瞳を柔らかく細めて私に言った。
「でも…」
私は困惑してお姉様に視線を送ると、お姉様は苦笑しながらコクリと私に頷いた。
「私は挨拶周りで散々付き合わされましたから、変わって頂けると助かります」
「お嬢さんをお借りしても宜しいですか?」
と、お兄様は黒い仮面の彼に伺いを立てる。
すると彼もコクリと頷いて「どうぞ」と手を仰いだ。
「じゃあ、一曲だけ…」
と、私ははにかみながらお兄様に手を添える。
お兄様と踊るのはいつ振りだろうとワルツのリズムに合わせながら記憶を辿る。
物心つく頃にはレッスンでお兄様と良く踊っていた様な気がする。
でも、成長するに連れてこの手を取ることはほとんど無くなってしまった。
しんみりと物思いに耽っていると、視界に黒い仮面の彼とお姉様が楽しげに会話をしているのが目に入ってきた。
うん?彼、普通に話してないかしら?
訝しんで眉を顰めていると、耳元でクスリと笑う声が聞こえた。
「気になるのかい?」
と、お兄様がどこか寂しそうに私に言った。
「ええ、彼、普通に話してるわね?私とは話をしてくれないのよ。何故かしら?」
実はエスコートが不本意だったとか?
レイが無理やり連れて来ていたみたいだし…ありえるわね……
「あぁ、レティとは話せないだろうね。レイも酷い事するよなぁ…」
お兄様は私を見下ろしながら苦笑した。
んん?それはレイが私とは話すなとでも彼に命令したって事なのかしら?
私が訝しんでいるとお兄様は「違うよ」と更に苦笑を漏らした。
「レティ、僕はマリーを見つけたけどお前も大事な誰かを見つけたんだろう?父上や僕はもうレティには不要な存在かい?」
突然何を言い出すのかと私は驚いて目を見開く。
「そんな!お父様もお兄様もずっとずっと変わらずに大切な家族だわ。ベルンにいた時もウイニーを歩き回ってた時ももちろん今も、小さい頃から大事に思う気持ちは変わってないわ」
例え好きな人が出来たとしても。と私は呟く。
「それは僕も一緒なんだよレティ。勿論父上もね。いや、父上は尚更かな?レティはどんどん母上に似てくるし嫁いでしまえば会えなくなってしまうからね…」
お兄様の仮面の奥の瞳が寂しげに揺らめく。
「お兄様も、私が思ってるみたいに寂しいと感じているの?」
戸惑いながらお兄様を見つめていると「当たり前だろう?」とお兄様が答える。
「昔は家に帰れば真っ先に飛びついて来たのに、今ではまるで僕なんか目に入っていないみたいだ。毎日寂しくて堪らないよ」
「それは嘘よ!お兄様の方こそお姉様とセドリックやシミオンしか目に入っていないみたいだわ。お父様だって…」
そこまで言って、ふぅ…と私は嘆息する。
「2年も家を離れてこんなに後悔すると思わなかったわ。色んな所を見て回って、色んな事を知れた事自体に後悔はないけれど、なんだか知らない家に居るみたいですごく寂しいの。お兄様達はもう新しい家族の形を築いているんだわ」
そこに私が入る隙間なんて無いのだと思う。
だって私は結局家を継ぐ立場の人間ではないし、どちらかと言えば居候に近いような気がするんだもの。
お兄様はダンスを中断すると私をホールの隅へと誘導し、ギュッと私の両手を握りしめて真剣な表情で私に言った。
「父上も僕もレティに対して配慮が足りなかったと思ってるよ。もうお前が望む形にはならないかもしれないけれど、それでも大事な妹には変わりないんだ。僕達が一緒に過ごせる時間も限られている。帰ってきてはくれないかい?」
「お兄様…」
帰りたくない訳じゃない。私だってお父様やお兄様と一緒に居たいと思う。
「私は、あそこに居ても良いの?」
ポツリと俯きがちに呟くと、お兄様がギュッと私を抱き締めて「当たり前だろう!」と言った。
「レティが居ない屋敷の中は静かすぎてみんな落ち着かないんだ。なんならお嫁になんて行かなくたって良いんだからな」
私の頬に触れ、お兄様はそっと昔の様に私の頭にキスを落とした。
私は熱くなる目頭を堪えながら、
「お嫁に行けなくなるのは困るわ」
と、ぎこちない笑顔を作ってお兄様に答えたのだった。
お兄様と言いかけて「シッ」とお兄様に唇を人差し指で制止される。
「こういう場所では正体を隠すのがルールだよ。お嬢さん?」
と、お兄様はおどけて私に言ってみせた。
いけないいけない。と私は言われて口元を抑える。
「天使みたいに綺麗なお嬢さん?一曲お相手願えないでしょうか?」
と、お兄様は仮面の奥にある漆黒の瞳を柔らかく細めて私に言った。
「でも…」
私は困惑してお姉様に視線を送ると、お姉様は苦笑しながらコクリと私に頷いた。
「私は挨拶周りで散々付き合わされましたから、変わって頂けると助かります」
「お嬢さんをお借りしても宜しいですか?」
と、お兄様は黒い仮面の彼に伺いを立てる。
すると彼もコクリと頷いて「どうぞ」と手を仰いだ。
「じゃあ、一曲だけ…」
と、私ははにかみながらお兄様に手を添える。
お兄様と踊るのはいつ振りだろうとワルツのリズムに合わせながら記憶を辿る。
物心つく頃にはレッスンでお兄様と良く踊っていた様な気がする。
でも、成長するに連れてこの手を取ることはほとんど無くなってしまった。
しんみりと物思いに耽っていると、視界に黒い仮面の彼とお姉様が楽しげに会話をしているのが目に入ってきた。
うん?彼、普通に話してないかしら?
訝しんで眉を顰めていると、耳元でクスリと笑う声が聞こえた。
「気になるのかい?」
と、お兄様がどこか寂しそうに私に言った。
「ええ、彼、普通に話してるわね?私とは話をしてくれないのよ。何故かしら?」
実はエスコートが不本意だったとか?
レイが無理やり連れて来ていたみたいだし…ありえるわね……
「あぁ、レティとは話せないだろうね。レイも酷い事するよなぁ…」
お兄様は私を見下ろしながら苦笑した。
んん?それはレイが私とは話すなとでも彼に命令したって事なのかしら?
私が訝しんでいるとお兄様は「違うよ」と更に苦笑を漏らした。
「レティ、僕はマリーを見つけたけどお前も大事な誰かを見つけたんだろう?父上や僕はもうレティには不要な存在かい?」
突然何を言い出すのかと私は驚いて目を見開く。
「そんな!お父様もお兄様もずっとずっと変わらずに大切な家族だわ。ベルンにいた時もウイニーを歩き回ってた時ももちろん今も、小さい頃から大事に思う気持ちは変わってないわ」
例え好きな人が出来たとしても。と私は呟く。
「それは僕も一緒なんだよレティ。勿論父上もね。いや、父上は尚更かな?レティはどんどん母上に似てくるし嫁いでしまえば会えなくなってしまうからね…」
お兄様の仮面の奥の瞳が寂しげに揺らめく。
「お兄様も、私が思ってるみたいに寂しいと感じているの?」
戸惑いながらお兄様を見つめていると「当たり前だろう?」とお兄様が答える。
「昔は家に帰れば真っ先に飛びついて来たのに、今ではまるで僕なんか目に入っていないみたいだ。毎日寂しくて堪らないよ」
「それは嘘よ!お兄様の方こそお姉様とセドリックやシミオンしか目に入っていないみたいだわ。お父様だって…」
そこまで言って、ふぅ…と私は嘆息する。
「2年も家を離れてこんなに後悔すると思わなかったわ。色んな所を見て回って、色んな事を知れた事自体に後悔はないけれど、なんだか知らない家に居るみたいですごく寂しいの。お兄様達はもう新しい家族の形を築いているんだわ」
そこに私が入る隙間なんて無いのだと思う。
だって私は結局家を継ぐ立場の人間ではないし、どちらかと言えば居候に近いような気がするんだもの。
お兄様はダンスを中断すると私をホールの隅へと誘導し、ギュッと私の両手を握りしめて真剣な表情で私に言った。
「父上も僕もレティに対して配慮が足りなかったと思ってるよ。もうお前が望む形にはならないかもしれないけれど、それでも大事な妹には変わりないんだ。僕達が一緒に過ごせる時間も限られている。帰ってきてはくれないかい?」
「お兄様…」
帰りたくない訳じゃない。私だってお父様やお兄様と一緒に居たいと思う。
「私は、あそこに居ても良いの?」
ポツリと俯きがちに呟くと、お兄様がギュッと私を抱き締めて「当たり前だろう!」と言った。
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