ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ウイニーの親友 2【フィオ編】

「民に対してどうでもいいなどと思っていませんよ。そんなのエルネストや他の貴族達と何ら変わりありません。言い訳に聞こえるかもしれませんが、巻き込むつもりなどサラサラなかったです。まぁ、他国に侵略っていうのは言い過ぎました。そこはキチンと謝ります。すみませんでした」
 と、僕は改めてバシリーに深々と頭を下げる。


 するとバシリーとウルフは驚いた顔で僕を見つめ、我に返ったバシリーは顔を青くして、
「いえっ!私の方こそ殿下にとんでもない不敬を!!どんな処罰も甘んじて受ける所存にございます!!」
 と土下座を始めてしまった。


 バシリーのその姿に腹を抱えて必死で笑いを堪えているのは、狸老人と皮肉屋の我が夢想騎士団長殿で、僕はと言うと夢想には居ないこの真っ直ぐな彼の姿勢に頭を抱えた。


「いや…あのですね、明らかに僕が悪いですよね今の。頭をあげて下さい。処罰とか無いですから……雪狐の兵って皆こうなんですか?話し進まないですよ」
「殿下は本当に純粋な方に弱いですね」
 と、ゲイリーがボソリと呟くと、レムナフはさも楽しげにうんうんと頷いて同意した。


 バシリーが青い顔のまままた席に着くと、僕は再び話し始めた。
「そもそも僕の目的はですね、リン・プ・リエンの国王になる事ではないんですよ。僕は僕の手で開拓した土地の王になってリン・プ・リエンから独立するのが目的なんです」


 1から作る何者にも染められていない新しい僕だけの国。理想は勿論ウイニーの様に国民が笑って自由に街中を行き来出来る国にする事だ。そこに身分格差が無ければなおの事いいが、現状では難しいだろう。
 徐々に理想に近づけばいいと思う。


「開拓した土地の王にって、そんな土地何処に?アスベルグの周辺でも開拓なさるおつもりで?」
 と、ウルフはキョトンとしながら僕に問いかける。
 その疑問に答えたのは顔を青くしたままのバシリーだ。


「開拓した土地って…まさか、南の森の…?だって、あの森の開拓は失敗して計画が頓挫したままでは?」
「すみません。着々と開拓は進んで、規模だけで言えばリン・プ・リエンに負けずとも劣らない都市が幾つか既にあります」
「南の森って…あの魔の森!?あん中に国規模の街が!?」
 ウルフが目を見開いて唖然となると、僕やレムナフ、ゲイリーはウルフとバシリーにニッコリ微笑んで頷いてみせた。
 ゲイリーはどちらかと言うとニヤリなのだが。


「つまる所、僕があの地を独立させる為には現在国王のエルネストがどーーーしても邪魔なんですよ。その下にいる貴族も然りです。独立を宣言したところで進軍して来るのは目に見えてますから。で、エルネストの首を取った後は兄上に王座を押し付ける予定なのでリン・プ・リエンも悪くはならないと思いますよ」
 ニコニコと僕が言うと、ウルフが「あ、だから宣言云々にリオネス殿下が必要なのね」と納得して頷いた。
 そうですと僕は頷く。


「兄上なら嫌々ながらも路頭に迷う家臣や国民を蔑ろにしないでしょう。何しろ雪狐と自分の首のどちらを差し出すかと聞いた時、迷わず自分の首を選びましたからね」
 ハッとして顔を上げたバシリーに、僕はにっこり微笑んで頷いて見せる。
 バシリーは再び立ち上がると剣を床に置きその場に跪いて頭を垂れ、先程よりも深々と謝罪を口にし始めた。


「フィオディール様がそこまで考えておられたとは…浅はかな自分が恥ずかしいです。どうぞ何なりと処罰をお与え下さい。雪狐の騎士団長などやはり自分の身には余る様です…」
 いやいやいや!と僕は慌てて首を振る。
「まだその話終わってなかったんですか!?雪狐の騎士団長辞められても困ります!夢想から騎士団長出した所で雪狐はついてきませんよ!良くも悪くも貴方がたは兄上命でしょうに!いいですかバシリー、僕はそのリン・プ・リエンのチョットした不敬を働いた位で死罪同然みたいな体質凄く嫌なんですよ。悪い事をしたら例え王族であろうと貴族であろうと叱られるべきなんです!僕が目指すのはそういう国です」


 胸を張って僕が言うと、バシリーは困惑した目で再び顔を上げる。
 僕はバシリーの視線に耐えかねて照れながらポリポリと頬を掻いていると、後ろからゲイリーが茶々を入れてきた。


「殿下がそんな国を目指していたとは知りませんでしたね。そうなると独立後は殿下は毎日叱られ通しとなりますねぇ」
「それはゲイリーの方でしょう?貴方日頃僕にどれだけ不敬を働いていると思っているんです」
「私の趣味は殿下弄りですのでそこは諦めて頂かないと」
「お前は!そんな風に考えて殿下と接しているから、殿下がいつまで立っても王族らしく成られないのではないか!」


 ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた僕らを見て、ウルフは呆れた様に、
「なんとまぁ、仲のいい主従だな。王族ってのはもっとこう威張り腐った連中の事だと思ってたんだがなぁ」
 と、ポツリと言った。
 呆然としたままバシリーはウルフの言葉にコクリと頷いた。


「すみませんね。王族らしく無くって。話が脱線し過ぎましたが、僕は早急に兄上を迎えに行って来ます。今の所アスベルグに誰かが突撃してくるような事はないでしょうし、暴動による難民が押し寄せて今すぐに国境付近がどうこうなるとも思えませんが…念の為に巡回箇所を増やしておいて下さい。ウルフ達も加わって当面は警備をお願いします」
 御意に。と皆が頷く。


 僕が満足して頷くと、ゲイリーが見透かした様に、
「では私も着いて行きましょうかね。殿下が姫君に夢中になって帰らないと言い出しかねないですから」
 と、顎髭を撫でながら楽しそうに言うので、
「レムナフを連れて行くので結構です。ゲイリーはキチンと夢想をまとめて下さい。貴方まかりなりにも騎士団長なんですから」
 と、僕はニッコリ微笑んで丁重にお断りしてみせた。


 すると珍しくも「ッチ」とゲイリーは悔しそうに舌打ちを打った。
 僕は初めてゲイリーから戦勝を勝ち取り、喜びの余り思わずガッツポーズを掲げたのだった。

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