ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ノートウォルドを彷徨って 7

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 今までの話をリオがもう一度テディに説明する。
 するとテディは頷きながら「なるほど」と相槌をうって一通り理解すると、今度はテディが話を始めた。


「どおりでメルさんがあそこに居たわけですね。んーしかし困りましたね。今の話からするとおそらく、メルさんを人質に逃げる気かも知れません。僕のやろうとしている事はネグドールの男達との会話でバレているでしょうし」
 テディは悩むような仕草で腕を組むと、うーん…と目を閉じて唸った。
「えっ…メルを見たの?!メルは無事なの?」
 思わずテディの腕をガシッと掴むと、パッと目を開けてにっこり微笑みながらテディは頷いた。


「ええ。目は虚ろでしたが、お元気そうでしたよ。ピアさんに手を引かれてフラフラと彼らのアジトに入って行きました。僕はてっきりレティもあそこに居るものだと思ってたんですが…いえ、無事で何よりです」
 うんうんとテディは慌てて頷いた。


 目が虚ろでピアに素直について行ったって事はやっぱり操られてるって事よね…
 しかもアジトに連れて行かれたって事は本当にピアは私達を騙してたって事なのね。


 ほっとしたのも束の間、再び突き付けられた真実にギュッと胸を押さえる。
 私の気持ちを察知したのか、テディは腕を掴んだ私の手にそっと自分の手を添えた。


「ただ、問題なのはこれで彼らが何をするか予想出来なくなった事ですかね。僕の方で仕入れた情報では3日後が船出の予定だったんですが、こうなるといつ行動を起こしてもおかしく無いと思います」
 珍しく険しい顔でテディが言うと、リオがテディに質問をした。


「船の方はまだ準備が出来ていないのか?お前の話を聞いている限りでは今夜に出航しても不思議ではない気がするが」
 リオの言葉に今度はテディがコクリと頷く。
「こちらの方は全く問題ありません。ただ、メルさんを盾にされると少々厄介な気もします。商品の女性だけなら問題はないんですが、メルさんは男性ですからねぇ…」
「どういう事?」
 キョトンとしてテディに尋ねると、少々困ったようにテディは眉尻を落とした。


「かの半獣族は身体的には見た目通り女性で子供なんですよ。だから腕力が弱くって直接的な戦闘が弱点と言っていいんですが、その代わり男性を操ることが出来る。因みにお聞きしますが、メルさんも魔法を使えたりしませんかね?」


 メルも魔法を使えるかと言われれば、勿論それはイエスである。
 イスクリスの師匠の元で修行をしている内に、小間使いとして付き従っていたメルは必然的に魔法を使えるようになっていた。
 ただ、魔法薬の調合は苦手なようで、そっちの方はからきしだった。


「私よりは使えないけど、有る程度ならメルも魔法を使えるわ」
 頷く私に更に難しい顔でテディは問いかける。
「それってどんな魔法が使えるか判ったりします?出来れば全部です」
 全部と言われると難しいわね…身につけて思い出したように使ってるだけだから、ひとつひとつとなると…
 うーんと唸りながら何とか思い出そうと必死に記憶の中を引っ掻き回す。


「ええと…感知系と防御系は一通りでしょ。テディみたいな転送系は魔法使い便しか使えない。魔法薬はメルは苦手で調合は無理。後は補助系の呪文かしら」


 取り敢えず漠然と答えてみる。私達が覚えたのは基本的に身を守る為の魔法で、物語に良くありがちな炎を生み出したりとか雷を落としたりなんて魔法は私達には使えなかったりする。
 テディはふむふむと頷きながら、更に質問をしてくる。


「回復や攻撃系の魔法は使えないんですね?補助とか感知系の魔法の中に相手に不利になるような魔法はありますか?例えば相手を麻痺させるとか視界を奪うとか腕力を落とすとか」
「ええ、もちろん使えるわ。基本的には錯覚の…」
 と、言った所ではたと気がつく。


「ダニエル、ちょっとこっちに来てもらえる?」
「ん?なんだ?」
 私が手招きをすると、ずっと黙って何故か不機嫌そうにしていたダニエルは少し嬉しそうに私に近寄ってくる。
 そして私は訝しげに手を伸ばしてダニエルの腕にそっと触れた。


「うわっっつい!!」
 と私が触れた瞬間ダニエルは慌てて仰け反った。
 私は再び首を傾げてテディの腕に乗せた自分の手をじっと見る。


「ねぇテディ?私今、炎のように熱く感じる知覚魔法が掛かってる筈なんだけど、熱くないの…?」
 私の言葉にキョトンとしてたテディは、少しの間の後「ああ」と言って納得したように頷いた。
「なんか今日のレティあったかいなぁと思ってたんですよ。知覚魔法が掛かってたんですね。納得しました」


 あ、あったかいって…そう言えば2年前も閃光弾の麻痺効果に平気な顔して笑って歩いてた気がするわ。
 照れたようにニコニコ笑うテディをまじまじと見ていると、周りの人間も同じように疑問に思ったらしくテディを凝視した。
 テディはその視線に気がつくと、萎縮したように私達の疑問に答えた。


「あー…あのですね、僕には感知系とか幻術系の魔法はたいして効かないんですよ。余程強力なものならわからないですが、特殊な修行を積んでいるので基本無意味です。あ!因みにセイレーンの幻術も効かないと思いますよ?」



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