ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ノートウォルドを彷徨って 4

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 居間のテーブルは小さな円卓になっていて、少し詰める形で椅子に腰掛けた。
 私が座ると、兵の1人が「どうぞ」と言っておずおずとお茶を出してくれた。
 私はニコリと微笑んでお礼を言うと、兵士は頬を赤く染めて「い、いえ」と口ごもりながら自分の席につく。
 始終のやりとりを睨み付けるようにリオは観察していた。
 お互い第一印象が最悪になった事は明白だわ。


 ダニエルはリオと私を交互に見るとコホンと咳払いをして話し始める。
「っと、そうだな。俺はまぁ、さっきも言った通り半月程ここに潜伏して居たわけですが、数日前に殿下から帰還命令を受けて帰る筈だった所、さらに勅命が下って、こちらの噂を耳にして飛び込んでくるであろうと言われたこのお転婆な姫さんを連れて帰る予定だった」
 ここまでは良いですか?とダニエルがリオと私の機嫌を伺いながら説明をする。


 リオは憮然としながら、
「それがなんでここに連れて来る事になったんだ。とっとと連れて帰れ」
 と、さも迷惑そうに言い放った。


 色々と反論したい気持ちを押さえつけて、グッと拳を握り締めダニエルの言葉を素直に待った。
「まぁ、そう急かさなくても話しますよ。連れて帰りたいのは山々なんですがね、話を聞いた所、姫さんの従者が姫さんの命令で王都へ向けて例の・・半獣族と助けを求めて出発したらしいんですよ」


「なんだと?」
 ダニエルの話にリオと周りの兵士達にざわりと緊張が走った。
「姫さん曰く、逃げて来た半獣族の子を巻き込みたくないからって事だったんですが…」
 チラリとダニエルは私を見ると、参ったなぁという顔で頭を掻いている。
 兵達は私を見て気の毒そう目を向けて頭を抱え、リオに至っては「ッチ」と舌打ちをしてまた睨まれてしまった。


 周りの態度に不安を覚えおずおずと困惑しながら皆に尋ねる。
「な、なんなの?私間違った事はして無いでしょ?そりゃぁメル1人だと頼りないかもしれないけど、メルは逃げるのに慣れてるしそう簡単に人攫いに捕まったりはしない筈よ?」
 そう言うと、私の言葉にリオ以外の人間が「うっ…」と言葉を詰まらせた。


「その従者とは女か?身分は高いのか?」
 険しい顔でリオは問いただす。
 私が口を開く前にダニエルが答えた。
「男ですが、でも女みたいに綺麗な美少年です。身分は…」
「孤児だったから多分貴族ではないわよ?」
 と、ダニエルに補足するように私は答える。


 するとリオは俯きながら顎に手を当てて思案しだした。
「お前らどう思う?ヤツは戻ってくると思うか?それとも王都で獲物でも探してくると思うか?」
「そのまま逃げる可能性もあるんじゃないですか?」
「いや、でも流石に仲間を置いて1人だけ逃げるなんてあり得ますかね?」
「別の場所から更に仲間を連れて来る可能性も…」


 うーん…と私以外の全員が頭を抱えた。


 彼らは一体何の話をしているのかしら…
 不安を感じ、ギュッと胸を押さえながら皆の顔色を伺いつつ話に割って入った。
「ねぇ、一体何の話をしているの?私にも解る様に説明してくれない?」


 ハッとした顔で皆がこちらを見るものの、誰1人として口を開こうとしない。
 一体何を躊躇しているのかとダニエルを見上げると、彼までもバツが悪そうな顔をして目を合わせようとしない。


 彼らの様子を見て「ふん」と息を吐いたのはリオだった。
「あんたが命じて逃がした半獣族はあんたが思っている様な人間じゃないって事だよ」
「どういう意味?」
 怪訝に眉を顰めてリオに尋ねると、ダニエルが慌ててそれを制止しようとした。
「リオ様!それ以上は言わないでやって下さい!知らなくて良い事もあります!」
「そうですよ!レティアーナ様、お疲れでしょう?客間へご案内しますから後の事は我々に任せてお部屋の方へ…」


 バンッ!と私はテーブルを叩いて、何かを隠そうとする彼らに牽制をかける。
 しん…と静まり返ったところでリオに喰い掛かる様に説明を促した。
「ちゃんと説明して下さい。メルに命令したのはワタクシです。その事で迷惑を掛けているならばワタクシにはそれを聞く責任があります」


 毅然として言い放つと、リオは一瞬だけ目を見開いてから面白そうな顔で「いいだろう」と話を続ける。


「その前に確認だが、あんたここの噂はどういったものを聞いてここに来たんだ?まぁ、想像はつくが」
「どういったって…私はフェンスの知り合いから半獣族の女子供を売り飛ばす人身売買が行われていると聞いてここに来たのよ。半獣族の問題は私が取り組んでいる差別撤廃に直結するし放って置けないから…」


 私の言葉に「やっぱり…」とダニエルと兵士達は頭を抱え、リオは少し小馬鹿にしたように目を細めニヤリとしてみせた。
「フェンスか…伝言ゲームとは最終的に全く違う話になるものだと覚えておくといい」
「全く違う話?」


 それはつまり半獣族の女子供が売り飛ばされるという噂はデマって事なのかしら。
 でも現にピアは逃げてきていたし、お母さんが捕まってるとも言っていたわ。
 一体何が間違っているというんだろう…


 首を傾げ悩む私に更に面白そうに嫌な笑みでリオは衝撃的な事実を口にした。
「被害に遭ってるのは半獣族の女子供ではない。半獣族の子供のような女・・・・・・・の集団が人身売買を行っているんだ」

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