ウイニー王国のワガママ姫
交差する道 4
パチパチと火の粉が舞い上がる音が森に響き渡る。
握られた両手を見つめながら言われた事の重大さについて考えていた。
悪い人でも人は人だ。私はきっと襲い掛かられても自分から剣をとって斬りつけたり魔法を使って傷付けたり出来ないかもしれないってテディは判ってるんだ。
誰かが傷付くのは嫌だ。
傷付けるのも嫌だ。
そんなのただの綺麗事だわ…
じわりと目頭が熱くなる。
私では彼らを救えないの?散々修行してきたのに何も活かすことなくここで終わるの?
考えこんでいる私に、ぽんぽんとテディが優しく頭を撫でてきた。
「レティ、君は優しすぎます。それが君の良い所だと思うし、僕はそんな君だから辛い目に合わせたくないって思うんです。人を一度でも殺してしまえばその枷が一生ついて回るんです。僕は君にそんな業を背負って欲しくない」
見上げると、凄く苦しそうなテディの顔。
もしかして、テディはそういう思いを背負って生きているんだろうか。
そしてこの先も、ずっと…?
ぶんぶんと首を振って静かにテディを見つめ直す。
震える声を抑えながら、ポツリポツリと言葉を絞り出した。
「私は、確かに、人を殺す覚悟なんて無いかもしれない…でも、じゃあ、このまま諦めれば、私は後悔しないで済むのかしら…?ううん。きっとそれでも凄く後悔するわ。人を傷付けるのはとても恐いけど、必要なら、私は逃げない。絶対に!」
ジンと熱くなる目を堪えながら、必死にテディを見上げる。
テディは何か言いかけて、ギュッと口を噛み締めてから、フッと諦めたような力無い笑顔を私に向けた。
「仕方ありませんね。目的はどうせ一緒ですから。僕も君について行きます」
私はキョトンとしてテディを見上げる。
「えっ?目的が一緒って?」
「理由はレティとは全く違いますが、人攫いの集団を相手にしようとしている点では一致してます。現地には既に僕の…んー、昔からの取引相手?みたいな人が既に潜入してて、対策を練っている最中とでも言いますか。まぁ、そういう訳です」
うん?どういう訳なのかしら?
と首を捻っていると、ずっと黙ってこちらを見ていたメルも同じように疑問に思ったらしく、首を傾げておずおずとテディに尋ねた。
「あの、テディ…様?って武器商人で吟遊詩人なんですよね?何故そのような事を?」
うんうん。と私もメルに同意する。
テディはメルと私を交互に見てからニッコリと笑って、
「困ってる人を放って置くことなんて出来るわけないじゃないですか」
と、さも当然だと言わんばかりに答えた。
言ってる事は正しいと思うんだけど、なんか嘘くさいって思ってしまうのは気のせいなのかしら?
訝しげに首を捻っていると、メルもこめかみに指を当てて「うーん?」と唸りながらテディに問いかける。
「でもさっき、お嬢様とは別の理由でって…」
「あ、ほら!もう服乾いてますよ!そろそろ行きましょうか。あまり遅くなるとこの辺のモンスターは危険ですから」
さぁ、急いで急いで!とテディは私達を急かしたてる。
なんだかはぐらかされてしまったけど。
まぁ、人には人の事情があるし聞かれたくない事もあるんだろう。
メルも私も渋々ながら旅の準備を始めた。
=====
バラバラになった鞄の中身をかき集め、馬の準備をしていると、「あっ」とテディが声を上げた。
メルと私は馬に乗ろうとしていた手を止めて、テディの方を振り返る。
「どうしたの?」
とテディに声を掛けると、しまった!という顔をしている。
「そうか、お2人は馬を使ってるんですね。そうですよね、普通そうしますよね…僕ずっと徒歩でしたから…迂闊でした」
「えっ?ずっとって、まさかリン・プ・リエンからずっと歩いてここまで来たの?」
驚いてテディに聞き返すと、テディはバツが悪そうにコクリと頷いて答えた。
「品物の取り扱いとかない場合は基本的に徒歩なんですよ。短距離でしたら転移とか転送の魔法が使えるので、取り立てて馬が必要無かったんです」
転移魔法!そんなもの師匠は教えてくれなかったわ。
いや、あの人は教えるなんて甘い事はしないんだけど…
でもテディも魔法を使えるのね。
思い返せば、私は本当に殆どテディのことは何も知らないわ。
そう思って少しだけしょんぼりする。でも直ぐに、知らないならこれから知ればいいんだわ!とぶんぶんと首を振って気を取り直し、私はテディに声を掛けた。
「転移魔法ってテディって本当になんでも出来て凄いのね!でも、私達は習ってないから使えないわ。んー、じゃあ私メルと一緒に馬に乗るからこの馬テディが使って?」
「「えっ?!」」
と、驚いた声をテディとメルが上げる。
ん?私何か変な事を言ったかしら?
「だって、馬は2頭しか居ないし、折角なら一緒に行きたいし、メルとテディが一緒に乗るわけにもいかないでしょ?だから、ほら」
と言って私はメルに手を差し出す。
メルはと言うと、私を見て戸惑った後手を差し出したのだけど、ピタッと途中で手を止めてしまう。
「メル?」
メルの顔を見ると、私の背後に視線を向けていてなんだか少し顔色が悪い。何故か今にも泣き出しそうだし。そちらに振り返ると、テディがニッコリ微笑んでいる。一瞬の視界をかすめたテディの表情に私は首を傾げる。
今物凄く睨まれてた気がするんだけど…変ねテディがあんな顔するわけないのに。疲れてるのかしら?
「あっの…ええと、お嬢様の荷物重いですから!一緒だと流石に馬が疲れてしまいますよ!ですからボクが荷物を預かりますので、お嬢様はテディ様と一緒にあちらの馬に乗ってください!」
そう言って慌ててメルは私から荷物をむんずと掴んで奪い取る。
確かに色々入ってるけどそこまで重くは無いと思うんだけど…
首を捻っていると、今度は後ろからテディが声を掛けた。
「レティ、僕は構わないですからどうぞこちらに。それにこの子レティの馬ですし僕が占領してしまうのは忍びないです」
とニコリとテディが微笑んだ。
あれ、でも目が笑ってないような…前にもなんかこういう事なかったかしら。
考え込んでいる私を見て、何を思ったのかテディはシュンと肩を落としてしまった。
「レティは僕と馬に乗るの嫌ですか?」
その様子に私は慌てて首を振る。
「えっ?!そんな事ないわよ?テディが嫌じゃなければ別に…」
と、私が言うと、テディは心底嬉しそうに笑顔で私の手を引いた。
「良かった。じゃあとっとと乗ってください。急がないと本当に日がくれてしまいますから」
繋がれた手が少し熱を帯びつつも、心地よい感覚に支配される。
少しだけ落ち着かない擽ったいその感覚に戸惑いながら、私はテディと共に馬に乗ってノートウォルドを目指した。
握られた両手を見つめながら言われた事の重大さについて考えていた。
悪い人でも人は人だ。私はきっと襲い掛かられても自分から剣をとって斬りつけたり魔法を使って傷付けたり出来ないかもしれないってテディは判ってるんだ。
誰かが傷付くのは嫌だ。
傷付けるのも嫌だ。
そんなのただの綺麗事だわ…
じわりと目頭が熱くなる。
私では彼らを救えないの?散々修行してきたのに何も活かすことなくここで終わるの?
考えこんでいる私に、ぽんぽんとテディが優しく頭を撫でてきた。
「レティ、君は優しすぎます。それが君の良い所だと思うし、僕はそんな君だから辛い目に合わせたくないって思うんです。人を一度でも殺してしまえばその枷が一生ついて回るんです。僕は君にそんな業を背負って欲しくない」
見上げると、凄く苦しそうなテディの顔。
もしかして、テディはそういう思いを背負って生きているんだろうか。
そしてこの先も、ずっと…?
ぶんぶんと首を振って静かにテディを見つめ直す。
震える声を抑えながら、ポツリポツリと言葉を絞り出した。
「私は、確かに、人を殺す覚悟なんて無いかもしれない…でも、じゃあ、このまま諦めれば、私は後悔しないで済むのかしら…?ううん。きっとそれでも凄く後悔するわ。人を傷付けるのはとても恐いけど、必要なら、私は逃げない。絶対に!」
ジンと熱くなる目を堪えながら、必死にテディを見上げる。
テディは何か言いかけて、ギュッと口を噛み締めてから、フッと諦めたような力無い笑顔を私に向けた。
「仕方ありませんね。目的はどうせ一緒ですから。僕も君について行きます」
私はキョトンとしてテディを見上げる。
「えっ?目的が一緒って?」
「理由はレティとは全く違いますが、人攫いの集団を相手にしようとしている点では一致してます。現地には既に僕の…んー、昔からの取引相手?みたいな人が既に潜入してて、対策を練っている最中とでも言いますか。まぁ、そういう訳です」
うん?どういう訳なのかしら?
と首を捻っていると、ずっと黙ってこちらを見ていたメルも同じように疑問に思ったらしく、首を傾げておずおずとテディに尋ねた。
「あの、テディ…様?って武器商人で吟遊詩人なんですよね?何故そのような事を?」
うんうん。と私もメルに同意する。
テディはメルと私を交互に見てからニッコリと笑って、
「困ってる人を放って置くことなんて出来るわけないじゃないですか」
と、さも当然だと言わんばかりに答えた。
言ってる事は正しいと思うんだけど、なんか嘘くさいって思ってしまうのは気のせいなのかしら?
訝しげに首を捻っていると、メルもこめかみに指を当てて「うーん?」と唸りながらテディに問いかける。
「でもさっき、お嬢様とは別の理由でって…」
「あ、ほら!もう服乾いてますよ!そろそろ行きましょうか。あまり遅くなるとこの辺のモンスターは危険ですから」
さぁ、急いで急いで!とテディは私達を急かしたてる。
なんだかはぐらかされてしまったけど。
まぁ、人には人の事情があるし聞かれたくない事もあるんだろう。
メルも私も渋々ながら旅の準備を始めた。
=====
バラバラになった鞄の中身をかき集め、馬の準備をしていると、「あっ」とテディが声を上げた。
メルと私は馬に乗ろうとしていた手を止めて、テディの方を振り返る。
「どうしたの?」
とテディに声を掛けると、しまった!という顔をしている。
「そうか、お2人は馬を使ってるんですね。そうですよね、普通そうしますよね…僕ずっと徒歩でしたから…迂闊でした」
「えっ?ずっとって、まさかリン・プ・リエンからずっと歩いてここまで来たの?」
驚いてテディに聞き返すと、テディはバツが悪そうにコクリと頷いて答えた。
「品物の取り扱いとかない場合は基本的に徒歩なんですよ。短距離でしたら転移とか転送の魔法が使えるので、取り立てて馬が必要無かったんです」
転移魔法!そんなもの師匠は教えてくれなかったわ。
いや、あの人は教えるなんて甘い事はしないんだけど…
でもテディも魔法を使えるのね。
思い返せば、私は本当に殆どテディのことは何も知らないわ。
そう思って少しだけしょんぼりする。でも直ぐに、知らないならこれから知ればいいんだわ!とぶんぶんと首を振って気を取り直し、私はテディに声を掛けた。
「転移魔法ってテディって本当になんでも出来て凄いのね!でも、私達は習ってないから使えないわ。んー、じゃあ私メルと一緒に馬に乗るからこの馬テディが使って?」
「「えっ?!」」
と、驚いた声をテディとメルが上げる。
ん?私何か変な事を言ったかしら?
「だって、馬は2頭しか居ないし、折角なら一緒に行きたいし、メルとテディが一緒に乗るわけにもいかないでしょ?だから、ほら」
と言って私はメルに手を差し出す。
メルはと言うと、私を見て戸惑った後手を差し出したのだけど、ピタッと途中で手を止めてしまう。
「メル?」
メルの顔を見ると、私の背後に視線を向けていてなんだか少し顔色が悪い。何故か今にも泣き出しそうだし。そちらに振り返ると、テディがニッコリ微笑んでいる。一瞬の視界をかすめたテディの表情に私は首を傾げる。
今物凄く睨まれてた気がするんだけど…変ねテディがあんな顔するわけないのに。疲れてるのかしら?
「あっの…ええと、お嬢様の荷物重いですから!一緒だと流石に馬が疲れてしまいますよ!ですからボクが荷物を預かりますので、お嬢様はテディ様と一緒にあちらの馬に乗ってください!」
そう言って慌ててメルは私から荷物をむんずと掴んで奪い取る。
確かに色々入ってるけどそこまで重くは無いと思うんだけど…
首を捻っていると、今度は後ろからテディが声を掛けた。
「レティ、僕は構わないですからどうぞこちらに。それにこの子レティの馬ですし僕が占領してしまうのは忍びないです」
とニコリとテディが微笑んだ。
あれ、でも目が笑ってないような…前にもなんかこういう事なかったかしら。
考え込んでいる私を見て、何を思ったのかテディはシュンと肩を落としてしまった。
「レティは僕と馬に乗るの嫌ですか?」
その様子に私は慌てて首を振る。
「えっ?!そんな事ないわよ?テディが嫌じゃなければ別に…」
と、私が言うと、テディは心底嬉しそうに笑顔で私の手を引いた。
「良かった。じゃあとっとと乗ってください。急がないと本当に日がくれてしまいますから」
繋がれた手が少し熱を帯びつつも、心地よい感覚に支配される。
少しだけ落ち着かない擽ったいその感覚に戸惑いながら、私はテディと共に馬に乗ってノートウォルドを目指した。
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