ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

交差する道 3

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 それにしても…
 と、メルと一緒に火の準備をするテディをじっと見つめる。


 2年前よりなんだか何処か大人っぽくなったような気がするわ。
 背丈は変わってないと思うんだけど、肩幅とか、顔つきとかかしら…あ、後声も少しまた低くなってるような気がする。


「そうだ、レティ」
 と、言ってテディがクルリとこちらを振り向く。
「な、なに?」
 こっそり観察していた私は、急に声をかけられてドキッとして思わず顔を背ける。


「僕の服で良ければ、これ着て下さい。少し大きいかもしれませんが、その、それよりはマシだと思うので……あ、いやっ!似合わないとかじゃなくって!似合いすぎてて目のやり場に困るというか…」


 ううう…テディに言われるまでいかに酷い格好か気付かなかっただなんて…確かに浮いてるとは解ってたんだけど…


 真っ赤になりながらおずおずと、テディから服を受け取る。
「ごめんなさい。ありがとう…」
「い、いえ…」


 茂みに隠れて着替えをする。
 借りた服は魔法使いのローブのような真白な服で、少しだけ私には大きかった。
 微かに香ばしい紅茶とは別のお茶の香りがする。


 このままじゃ引きずっちゃうわね。と、イスクリスの衣装から替えの薄紫色の腰布だけを取り出して、少しだけ捲って結わえ付けた。


 濡れた服を手に取ると、焚き火の方へ近よった。
「お嬢様、そのままじゃ風邪ひきますから、コレで頭拭いてください」
 と、私の服を受け取りながら、メルは私にタオルを渡した。
「ありがとう」とタオルを受け取って焚き火の前に座り込む。
 テディもいつの間にか着替えていたらしく、焚き火の前に座って暖をとっていた。
 バチリっとテディと目が合う。
 するとテディは慌てて目を逸らしてしまう。


「テディ?」
「あ、はい、すみませんっ!レティは、その、随分変わりましたね」
 なんだかさっきっから謝られてばかりの様な気がするんだけど…
「そう、ね。イスクリスにいる間に背とか伸びたし。ウイニーにいた時は全然伸びなくて悩んでたのに嘘みたいにぐんぐん伸びたのよ?おかしいわよね」


 くつくつと喉を鳴らして笑ってしまう。
 家にいる時は毎日牛乳飲んでみたりとかいろいろ努力してたのに、ベルンで過ごしている間にこれだもの。本当自分でも信じられない。


 楽しげに笑う私を呆然と見ていたテディは、ハッとして首をぶんぶんと横に振る。
 焚き火の所為だろうか?少し顔が赤い気がする。
「全然おかしくなんてないです!昔は昔で凄く可愛かったですけど、今は…凄く綺麗になりました、ね」
「かっ…そんな……あ、ありがとう。その、テディも男らしくなったと思う、わ」
「そうでしょうか?そんなに変わってないと思うんですが…でも嬉しいです。ありがとう」
 にこっと少しだけハニカミながらテディは笑う。


 そこでまた私はドキッとしてしまう。


(あっれ……やっぱりなんか変じゃないかしら…なんで、こんな動悸が…)
 ギュッと胸を押さえて俯いていると、コホンっと隣から小さく咳払いをする声が聞こえた。


「あの、見ててこっちが恥ずかしいんで、少し自重してもらえるとボク助かるんですが」
 と、何故かメルも真っ赤になりながら言ってきた。


 なんとなくテディと顔を合わせると、お互いなんだか居た堪れなくなってそっと顔を背けた。


 暫くの沈黙の後、「えーっと…」と話を切り出したのはテディだった。


「レティはどうしてここに居るんですか?あ、そう言えば手紙にも北の方にって書いてありましたね」
 よかった、ちゃんと手紙届いてるんだ。自己流の習得みたいな部分があったからチョットだけ心配だったのよね。
「手紙ちゃんと読んでくれてるんだね。嬉しいな。うんっと、今私、半獣族の為に何か出来ないかなって色々やっている最中なんだけど、その過程で北の方でよくない噂を聞いてしまって、今からノートウォルドって所に行く予定なの」


 私がそう言うと、テディは少し眉間にシワを寄せた。
「それってまさか人身売買の件じゃないですよね?」
「え、うん。テディ!何か知ってるの?!知ってるなら教えて欲しいんだけど!」


 喰い掛かる様にテディの方に身を乗り出して見せると、テディは真面目な顔で首を横に振った。
「悪い事は言いません。関わらない方がいいです。僕も色々噂を耳にしましたが、割と巨大な組織が関わっているみたいなんです。2人だけでどうこう出来る規模じゃありませんし手を引いた方がいいです」


 その言葉を聞いてみるみる顔を青くしたのはメルだった。
「あわわわわ。お、お嬢様、やっぱり僕達の手には余りますよ!王子様やアベル様に任せて帰りましょうよぅ」
 それでも私は首を横に振って俄然として譲らなかった。
「嫌よ!言ったでしょ?レイ達を待ってたら絶対間に合わないって。それに私達が捕まるかもしれないなら内側から何とかできるかもしれないわ。逆に好都合よ!」
「レティ!」
 テディは少し怒った顔で私の両手をギュッと握りしめて窘める。


「捕まるのが好都合って安直過ぎます!連れて行かれるのは海の向こうです。しかもどこに連れて行かれるのかわからないんですよ?帰ってこれる保証も無いのに無謀過ぎます」
 言葉では怒っているけど、鳶色の瞳が心配そうに揺らいでいる。


 私また、皆に心配掛けてるんだ…
 でも、このまま何もしないなんてやっぱり出来ないわよ!
 私はテディの手をギュッと握り返しながら説得する。
「テディの言いたい事、凄く判るわ。でも、こうしている間に誰かが辛い目に合ってるのは嫌なの。無謀かも知れないけど、私だって全く何も出来ないわけじゃないわ。少しは成長してるはずだもの。だからーー」


 言葉を続けようとしたその時、テディと視線が交差した。
 心配そうだった瞳の色が鈍さを帯びて私に突き刺さり、一瞬にして言葉を失ってしまった。


「レティ、君は人を殺す覚悟はあるんですか?」
「えっ?」


 ヒトヲコロスカクゴ
 テディの口から思いもよらない言葉が発せられた。
 人を、殺す……?


「そんな、事…」
「出来ない。ですよね?僕もレティにそんな事しては欲しくない。でも、この件に関わるという事は少なからずそういう事になるんですよ?いくら戦闘技術が上がったとしても、人の死を背負う覚悟が無ければ何の意味も成しません。人に気を取られてしまえば自分の命が危ない。そこまでちゃんと理解していますか?」

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