ウイニー王国のワガママ姫
進む道歩むべき道 3
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朝起きると身支度をし、朝食を食べ、メルを連れて西側の庭園を散歩する。
庭園というよりも箱庭の中の小さな森というようなその一角には、まるで小人が住んでいるかのような手の平サイズの小さな木々が植えられており、中央には小川を模した小さな水盤が設置されていた。
ラハテスナの王宮に滞在するようになってから、これが私の日常となってしまっている。
(この水盤、まるであの時の小川みたいだわ)
朝の森でテディと一緒に見た妖精を思いだす。
この小さな森からもあの時の妖精が出てくるのではないかとつい錯覚してしまう程、あの森に似ていた。
テディはあの時本当に嬉しそうで、まるで私すら見えて無いみたいだったなと思わずくすりと笑みがこぼれる。
ーー私の心からの願い。
歪んだ運命を正しく導くために必要だと言われた。
私の今の願いは、半獣族が幸せに暮らせる事、テディの手助けがしたい事、テディに死んで欲しくない事。
でもきっと女王様が聞きたい願いではない気がする。
命が尽きても、生まれ変わっても、変わらない願いって一体なんだろう?
それはやっぱり私自身に対してなんだろうか?
それともこの世界に対してなんだろうか?
大きすぎる願いは身を滅ぼすとも言ってた。
いくら悩んでも答えは出ない。あまり長くここにお世話になるのも良くないことだと焦りも手伝って一向に答えが見つからない。
水面に映る自分の顔を覗けば、頬に手をついた浮かない顔のもう1人の自分が目に入る。
不意に、後ろから見慣れたワイルドな顔が映り込む。
後ろを振り向けばやはりダニエルがそこにいた。
「よぉ!浮かない顔だな。これ食うか?元気ない時は甘い物ってな!」
そう言ってダニエルは果皮が裂けた柘榴を私とメルに差し出す。
「ありがとう」と受け取り、柘榴の果実を口味少し含むと、驚くほど甘く爽やかな味が口に広がった。
「なぁ、後どれ位ここに居るんだ?いや、急かすわけじゃねぇけどよ、ダール出てから暫くは元気だったのに、ここに来てからまた元気なくなったなと思ってよ」
「心配してくれてるんだ?」
「まぁ、な。俺じゃ相談役には向かない、よな」
ボリボリと申し訳なさそうにダニエルは頭を掻き毟る。
王宮に来てからの彼は、以前の積極的な彼とは違い、何処かよそよそしさを感じていた。
いつも私に何処か遠慮しているような、自然と距離が出来ていた。
それがダールでの一件の所為なのか、ラハテスナの街で私が突き放してしまった所為なのか計れずにいたけど、結局の所私に原因があるのは間違いなかった。
「自分で出さなきゃいけない答えだから…でも、そうね。ダニエルは生まれ変わったとしても変わらない心から願いたいと思う事ってある?」
「んん?」と、ダニエルは豆鉄砲を食ったような顔で首を捻る。
「なんだそれ?考えた事もねぇな。うーん…そうだなぁ…またあの家族と過ごしたい。かな?」
「ええええ?!」
と声を上げたのは後ろに控えていたメル。
「ボクはてっきり女性関係の事を願うのかと思ってました…」
うんうん。と私もメルに同意する。
私達の反応に少し照れたようにダニエルは苦笑を浮かべた。
「やっぱ意外か?でもよぉ、勘当されたとしてもやっぱ生まれ変わったとしても親子であり兄弟でありたいって、やっぱ思うだろ?なんつーか。ああ、俺の親はこの人しかいないな。みたいな」
「なるほど、確かにそうかも」
私が腕組みして唸って見せると「だろ?」と言って、ニッと白い歯を出してダニエルは笑う。
確かにまた生まれ変わってもお兄様やお父様、お母様の家族で居られたら素敵だって思う。
でもそれはダニエルの願いであって私の願いではない気もする。
間違いなくそういう想いもあるけれども、心からとなるともっとーー
『レティアーナ様、こちらにおいででしたか。ウイニーから手紙が届いております』
不意に、背後から兵士に声をかけられる。
『ウイニーから、私に?』
そう言って兵士から手紙を受け取ると、裏には王家の印璽がついていた。
レイから?なんでここに居る事が判ったの?
………あ、そういえばレイがメルに逐一報告するように命令したって言ってたっけ。
お目付役だったこと忘れてたわ。
ジロッとメルを睨むと、慌てたように目を逸らされてしまった。
パラリと手紙を開くと、そこに書かれていたのは以前頼んだダニエルの素性についてだった。
実はダニエルの父親がリヴェル侯爵の知人だった事がダール滞在中に発覚して、ある程度の情報は侯爵様から聞かされてはいた。
しかし手紙に書かれていた内容はそれ以上に詳しいもので、予想外の内容も書かれていた。
険しい表情になった私をメルとダニエルは不思議そうに見つめてきた。
「何かありましたか?」
「…ええ」
そう言って手紙をしまうと、兵士に返事を送りたいので後で自室に来るように頼んだ。
そして直ぐに、ダニエルに向き直る。
「ダニエル、貴方は荷物を纏めたら私の部屋まですぐに来て。いいわね?」
「荷物を纏める?ここを経つのか?」
私はダニエルの疑問には答えず、今度はメルに命令した。
「メルはジャハー様に取り次ぎを頼んで!私は部屋に居るから!」
「は、はいっ!わかりました!あの、何を頼めば?」
「取り次ぎを頼むだけで多分大丈夫だから!頼んだわよ!」
それだけ言って私は急いで自室まで走った。
自室へ戻ると、手にしていた柘榴を机に置き、手紙を何枚かしたためる。
それぞれ封筒へ収めると、ビセット家の正式な印璽でシーリングを施す。
それだけでは心許ないので、鞄の中からリヴェル侯から預かっていた小さな指輪を取り出す。
ダールを経つ際、レイの紹介状無しでもダールに直ぐに入れるようにと侯爵から渡された指輪だった。
一通り準備を終えると、外で待っていた兵士にレイへの返事を託した。
暫くすると、今度はダニエルがやって来た。
朝起きると身支度をし、朝食を食べ、メルを連れて西側の庭園を散歩する。
庭園というよりも箱庭の中の小さな森というようなその一角には、まるで小人が住んでいるかのような手の平サイズの小さな木々が植えられており、中央には小川を模した小さな水盤が設置されていた。
ラハテスナの王宮に滞在するようになってから、これが私の日常となってしまっている。
(この水盤、まるであの時の小川みたいだわ)
朝の森でテディと一緒に見た妖精を思いだす。
この小さな森からもあの時の妖精が出てくるのではないかとつい錯覚してしまう程、あの森に似ていた。
テディはあの時本当に嬉しそうで、まるで私すら見えて無いみたいだったなと思わずくすりと笑みがこぼれる。
ーー私の心からの願い。
歪んだ運命を正しく導くために必要だと言われた。
私の今の願いは、半獣族が幸せに暮らせる事、テディの手助けがしたい事、テディに死んで欲しくない事。
でもきっと女王様が聞きたい願いではない気がする。
命が尽きても、生まれ変わっても、変わらない願いって一体なんだろう?
それはやっぱり私自身に対してなんだろうか?
それともこの世界に対してなんだろうか?
大きすぎる願いは身を滅ぼすとも言ってた。
いくら悩んでも答えは出ない。あまり長くここにお世話になるのも良くないことだと焦りも手伝って一向に答えが見つからない。
水面に映る自分の顔を覗けば、頬に手をついた浮かない顔のもう1人の自分が目に入る。
不意に、後ろから見慣れたワイルドな顔が映り込む。
後ろを振り向けばやはりダニエルがそこにいた。
「よぉ!浮かない顔だな。これ食うか?元気ない時は甘い物ってな!」
そう言ってダニエルは果皮が裂けた柘榴を私とメルに差し出す。
「ありがとう」と受け取り、柘榴の果実を口味少し含むと、驚くほど甘く爽やかな味が口に広がった。
「なぁ、後どれ位ここに居るんだ?いや、急かすわけじゃねぇけどよ、ダール出てから暫くは元気だったのに、ここに来てからまた元気なくなったなと思ってよ」
「心配してくれてるんだ?」
「まぁ、な。俺じゃ相談役には向かない、よな」
ボリボリと申し訳なさそうにダニエルは頭を掻き毟る。
王宮に来てからの彼は、以前の積極的な彼とは違い、何処かよそよそしさを感じていた。
いつも私に何処か遠慮しているような、自然と距離が出来ていた。
それがダールでの一件の所為なのか、ラハテスナの街で私が突き放してしまった所為なのか計れずにいたけど、結局の所私に原因があるのは間違いなかった。
「自分で出さなきゃいけない答えだから…でも、そうね。ダニエルは生まれ変わったとしても変わらない心から願いたいと思う事ってある?」
「んん?」と、ダニエルは豆鉄砲を食ったような顔で首を捻る。
「なんだそれ?考えた事もねぇな。うーん…そうだなぁ…またあの家族と過ごしたい。かな?」
「ええええ?!」
と声を上げたのは後ろに控えていたメル。
「ボクはてっきり女性関係の事を願うのかと思ってました…」
うんうん。と私もメルに同意する。
私達の反応に少し照れたようにダニエルは苦笑を浮かべた。
「やっぱ意外か?でもよぉ、勘当されたとしてもやっぱ生まれ変わったとしても親子であり兄弟でありたいって、やっぱ思うだろ?なんつーか。ああ、俺の親はこの人しかいないな。みたいな」
「なるほど、確かにそうかも」
私が腕組みして唸って見せると「だろ?」と言って、ニッと白い歯を出してダニエルは笑う。
確かにまた生まれ変わってもお兄様やお父様、お母様の家族で居られたら素敵だって思う。
でもそれはダニエルの願いであって私の願いではない気もする。
間違いなくそういう想いもあるけれども、心からとなるともっとーー
『レティアーナ様、こちらにおいででしたか。ウイニーから手紙が届いております』
不意に、背後から兵士に声をかけられる。
『ウイニーから、私に?』
そう言って兵士から手紙を受け取ると、裏には王家の印璽がついていた。
レイから?なんでここに居る事が判ったの?
………あ、そういえばレイがメルに逐一報告するように命令したって言ってたっけ。
お目付役だったこと忘れてたわ。
ジロッとメルを睨むと、慌てたように目を逸らされてしまった。
パラリと手紙を開くと、そこに書かれていたのは以前頼んだダニエルの素性についてだった。
実はダニエルの父親がリヴェル侯爵の知人だった事がダール滞在中に発覚して、ある程度の情報は侯爵様から聞かされてはいた。
しかし手紙に書かれていた内容はそれ以上に詳しいもので、予想外の内容も書かれていた。
険しい表情になった私をメルとダニエルは不思議そうに見つめてきた。
「何かありましたか?」
「…ええ」
そう言って手紙をしまうと、兵士に返事を送りたいので後で自室に来るように頼んだ。
そして直ぐに、ダニエルに向き直る。
「ダニエル、貴方は荷物を纏めたら私の部屋まですぐに来て。いいわね?」
「荷物を纏める?ここを経つのか?」
私はダニエルの疑問には答えず、今度はメルに命令した。
「メルはジャハー様に取り次ぎを頼んで!私は部屋に居るから!」
「は、はいっ!わかりました!あの、何を頼めば?」
「取り次ぎを頼むだけで多分大丈夫だから!頼んだわよ!」
それだけ言って私は急いで自室まで走った。
自室へ戻ると、手にしていた柘榴を机に置き、手紙を何枚かしたためる。
それぞれ封筒へ収めると、ビセット家の正式な印璽でシーリングを施す。
それだけでは心許ないので、鞄の中からリヴェル侯から預かっていた小さな指輪を取り出す。
ダールを経つ際、レイの紹介状無しでもダールに直ぐに入れるようにと侯爵から渡された指輪だった。
一通り準備を終えると、外で待っていた兵士にレイへの返事を託した。
暫くすると、今度はダニエルがやって来た。
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