ウイニー王国のワガママ姫
恋とか愛とか 5
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ラハテスナの王宮は街の一番奥にあり、白を基調とした壁には一面花柄のモザイクがびっしりと描かれていた。
日の光で青白く浮き上がる不思議な壁画は、観光客も思わず立ち止まる程神秘的な美しさだ。
私は王宮の前ということもあって、何時もの口上は省き、ゆったりと静かな曲を選んで演奏する。
城を観にきていた観光客が多い所為か、さっきの広場よりも立ち止まる人は少ないものの、通りすがりにコインを投げ入れてくれる人が多かった。
場所を移動して正解だったと言える。
ただ、私の今の目的はお金を稼ぐことではない。
日もそろそろ傾き始め、今日はもう無理かな?と諦め掛けたその時、王宮から兵士がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
(もしかしてもしかするかも…!)
はやる気持ちを隠しながら、兵士に気付かない振りをして演奏を続ける。
兵士は観光客の邪魔にならない位置で立ち止まり、私の演奏が終わるのを待っている様子だった。
「五月蝿いから止めろ!」と注意してくる訳でもない。となると、いよいよ確信を得る。
演奏を終え片付けを始めると、案の定兵士が声をかけて来た。
ただ、発せられた言葉は私の予想を遥かに上回るものだった。
『ハニエル・エボンスキン様、でございますね?』
「!?」
私はこの国に来て、宿帳に名前を書く以外で名乗った覚えはない。
それなのに王宮から出てきたこの兵士は私の偽名を的確に言い当てた。
『確かに、私がハニエルですが…何故私の名前を…?』
『我が国の陛下が貴女様にぜひお会いしたいと申しております。宮殿へお越し頂ければ、あなたの疑問に答えることが出来るでしょう。と』
私は更に大きく目を見開いた。おそらくこの兵士が言っている"私の疑問"というのは、兵士が名前を言い当てたことに対する疑問とは別のものを指している筈だ。
「おい、どうしたんだ?こいつはなんて言ってるんだ?」
ダニエルは警戒しつつ私に耳打ちをしてくる。
ダニエルもメルもこの国の言葉は判らないのだ。
「宮殿へ…陛下がお待ちだと」
「なんだって?!ハニーはこの国の国王とも知り合いなのか?!」
唖然としながら答えた私にダニエルも驚愕して仰け反る。
「そんなわけないじゃない!この国に来るのは初めてよ!とにかく、返事をしないと…」
訝しげにこちらを見ていた兵士にクルッと向き直り私は兵士に答える。
『今すぐでないとダメですか?格好もその、ちゃんとした格好ではないですし、もう1人連れが宿で待機しているので後日改めての方がいいかと思うのですが』
戸惑いつつ返事をすると、兵士は恭しく丁寧に私に対応した。
『客室も服も全てこちらで既に準備が整っております。宿には此方から兵を送りましょう』
客室も服も準備が整ってるってどういうことなの?!
まるで私が来ることが分かっていたみたいな……
いえ、分かっていたからこそって事なんだわ。
混乱しつつも、神獣の話を知って体験している私にとっては何ら不思議ではない筈だと何とか納得する。
今必要なのはこの事態に冷静に対処できるかどうかだわ。
私はダニエルに向き直り、まずはダニエルに話すことにする。
「ダニエル、これから兵が宿に行ってメルを迎えに行くらしいから貴方ついて行ってメルに事情を説明して。私はこのまま彼と宮殿に入ります」
「え、おい、ちょっと待て!1人で行く気か?!」
慌てるダニエルを宥めながら私は首を横に振る。
「大丈夫よ。流石に王宮で不測の事態になったりはしないと思うし、貴方とメルも客人として扱ってくれる筈だから。貴方まで連れて一緒に王宮に入ってしまったら迎えに行った兵を見てもメルは警戒するだけだわ。そうなった方が厄介でしょ?」
「そりゃ、そうかもしれないが…」
躊躇しているダニエルを横目に、私は再び兵士に向き直る。
『宿にはこのものも連れて行って貰っても構わないですか?それと、2人ともベルンの言葉は話せないので、ウイニー語が判る方が居てくれると助かるのですが』
私がそう言うと、兵士は快く頷いてくれた。
『ではそのように手配致します。ハニエル様は私と一緒にご同行願います』
私もコクリと頷いて、
「じゃ、ダニエル。あとは頼んだから!」
とダニエルに手を振り、颯爽と宮殿の中に入って行った。
ラハテスナの王宮は街の一番奥にあり、白を基調とした壁には一面花柄のモザイクがびっしりと描かれていた。
日の光で青白く浮き上がる不思議な壁画は、観光客も思わず立ち止まる程神秘的な美しさだ。
私は王宮の前ということもあって、何時もの口上は省き、ゆったりと静かな曲を選んで演奏する。
城を観にきていた観光客が多い所為か、さっきの広場よりも立ち止まる人は少ないものの、通りすがりにコインを投げ入れてくれる人が多かった。
場所を移動して正解だったと言える。
ただ、私の今の目的はお金を稼ぐことではない。
日もそろそろ傾き始め、今日はもう無理かな?と諦め掛けたその時、王宮から兵士がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
(もしかしてもしかするかも…!)
はやる気持ちを隠しながら、兵士に気付かない振りをして演奏を続ける。
兵士は観光客の邪魔にならない位置で立ち止まり、私の演奏が終わるのを待っている様子だった。
「五月蝿いから止めろ!」と注意してくる訳でもない。となると、いよいよ確信を得る。
演奏を終え片付けを始めると、案の定兵士が声をかけて来た。
ただ、発せられた言葉は私の予想を遥かに上回るものだった。
『ハニエル・エボンスキン様、でございますね?』
「!?」
私はこの国に来て、宿帳に名前を書く以外で名乗った覚えはない。
それなのに王宮から出てきたこの兵士は私の偽名を的確に言い当てた。
『確かに、私がハニエルですが…何故私の名前を…?』
『我が国の陛下が貴女様にぜひお会いしたいと申しております。宮殿へお越し頂ければ、あなたの疑問に答えることが出来るでしょう。と』
私は更に大きく目を見開いた。おそらくこの兵士が言っている"私の疑問"というのは、兵士が名前を言い当てたことに対する疑問とは別のものを指している筈だ。
「おい、どうしたんだ?こいつはなんて言ってるんだ?」
ダニエルは警戒しつつ私に耳打ちをしてくる。
ダニエルもメルもこの国の言葉は判らないのだ。
「宮殿へ…陛下がお待ちだと」
「なんだって?!ハニーはこの国の国王とも知り合いなのか?!」
唖然としながら答えた私にダニエルも驚愕して仰け反る。
「そんなわけないじゃない!この国に来るのは初めてよ!とにかく、返事をしないと…」
訝しげにこちらを見ていた兵士にクルッと向き直り私は兵士に答える。
『今すぐでないとダメですか?格好もその、ちゃんとした格好ではないですし、もう1人連れが宿で待機しているので後日改めての方がいいかと思うのですが』
戸惑いつつ返事をすると、兵士は恭しく丁寧に私に対応した。
『客室も服も全てこちらで既に準備が整っております。宿には此方から兵を送りましょう』
客室も服も準備が整ってるってどういうことなの?!
まるで私が来ることが分かっていたみたいな……
いえ、分かっていたからこそって事なんだわ。
混乱しつつも、神獣の話を知って体験している私にとっては何ら不思議ではない筈だと何とか納得する。
今必要なのはこの事態に冷静に対処できるかどうかだわ。
私はダニエルに向き直り、まずはダニエルに話すことにする。
「ダニエル、これから兵が宿に行ってメルを迎えに行くらしいから貴方ついて行ってメルに事情を説明して。私はこのまま彼と宮殿に入ります」
「え、おい、ちょっと待て!1人で行く気か?!」
慌てるダニエルを宥めながら私は首を横に振る。
「大丈夫よ。流石に王宮で不測の事態になったりはしないと思うし、貴方とメルも客人として扱ってくれる筈だから。貴方まで連れて一緒に王宮に入ってしまったら迎えに行った兵を見てもメルは警戒するだけだわ。そうなった方が厄介でしょ?」
「そりゃ、そうかもしれないが…」
躊躇しているダニエルを横目に、私は再び兵士に向き直る。
『宿にはこのものも連れて行って貰っても構わないですか?それと、2人ともベルンの言葉は話せないので、ウイニー語が判る方が居てくれると助かるのですが』
私がそう言うと、兵士は快く頷いてくれた。
『ではそのように手配致します。ハニエル様は私と一緒にご同行願います』
私もコクリと頷いて、
「じゃ、ダニエル。あとは頼んだから!」
とダニエルに手を振り、颯爽と宮殿の中に入って行った。
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