ウイニー王国のワガママ姫
決意表明 1
あれから更に2週間以上が過ぎた。
旅程は大幅に遅れ、やっとの思いでダールに着いたというところだった。
別にダニエルが朝起きてこない所為ではない。
砂嵐の所為でもない。
グルグネストであの夢を見てから、私は体調を崩しがちになっていたのだ。
メルやダニエルが体調が良くなるまで宿に…と、止めようとしたが、一刻も早くダールに行きたいと焦っていた。
あの時の夢が嘘だと確信したかったのだ。
それはあの夢がグルグネストを出てからも毎晩のように続いていた所為もあった。
「やっと着いた…」
青い顔をしながら私はダールの街の門の前に立ち尽くした。
ダールは山脈を中心として王都側の街とベルン側の街と別れている。
街の中央の山脈の中腹に城があり、王都側とベルン側を行き来したい場合は城の中を経由しなければ通れない構造になっていた。
城は一見すると王都側とベルン側に一つづつ城があるように思えるが、山をくりぬいてトンネルで続いているのだ。
つまりここを落とさない限りは、どちらにも陸路からの侵攻はほぼ不可能なのである。
「お、おいっ!大丈夫か?お前グルグネスト出た辺りから変だぞ?暫くここに世話になった方がいいんじゃねぇか?」
ふらふらっと倒れそうになった私をダニエルが支えた。
メルもその言葉に激しく頷いた。
「そうして下さい!ボクもう見ていられませんよ!やっぱり知らない国で慣れない旅ですから疲れが溜まってるんですよ」
メルは悲痛な面持ちで綺麗な緑色の瞳を揺らめかせている。
ああ、私また迷惑かけてるわ…
「ごめんなさい。ありがとう。ホントに大丈夫だから。でも、ダールには少し滞在する予定よ。侯爵様にお会いしたいし」
その言葉に驚いたのはダニエルだった。
「こここここ侯爵?!って辺境伯リヴェルだよな?!赤獅子王と呼ばれたあの!そんなのにおいそれと会えるわけねぇだろう?!」
赤獅子王?侯爵様にそんな通り名があったの?知らなかったわ。
…まぁ、勘当された男爵家の放蕩息子じゃ無理ね。
しかも傍若無人で礼儀が出来ないんだから、私も会わせたくない。
具合が悪い所為もあって力なく肩を落とす。
「安心して貴方を連れて行く気は無いから。勘当されたとはいえ男爵家なんでしょうけど。紹介しようにも貴方の振る舞いは恥ずかしすぎて、私の顔にも貴方のお父様にも泥しか塗れないわ」
「んな!」っとダニエルは声を上げる。
そして珍しく顔を真っ赤にして怒り始めた。
「お、俺だってやる時はやるんだぞ?!そんなこと言ってハニーはまた俺から逃げ出すつもりだろう!そうはいかねぇからな!城に忍び込んででも追いかけてやる!」
本当にやりそうだからこの男は困るわ…
「そんな事をしてみなさい。貴方、捕まった上でお父様は爵位剥奪されて、一家共々国外追放されてしまうわよ。家族にそこまでの迷惑をかけることもちゃんと考えられないなら、本当にここでお別れするわ」
と言ったところで、私はメルにじとぉーーっと睨まれる。
「なにかしら?メル。言いたいことがあるならはっきりおっしゃいなさい?」
ニッコリとメルに微笑みかける。
「いいえぇ〜べつにぃー。なんでもありませんっ」
メルもニッコリ私に返してきた。
メルの癖に生意気なっ!
一方、「ぐうぅ…」と唸っているのはダニエル。
で、相変わらずどういう神経しているんだか判らない言葉が返って来た。
「俺はそもそも勘当されてるんだから、忍び込んでも恥さらしにはならない筈だっ!連れてかないってんなら俺は本気でやるぞ!そんなフラフラしてて、お前が心配なんだよ!そうじゃなきゃ、俺はお前をここから離さないぞっ」
私の肩をがっしり掴んで、ジッと真剣に見つめてダニエルは言う。
しかも、門兵が見ている前で、だ。
かぁぁっと私は顔を赤くして、ダニエルを見上げながら睨みつける。
「なんでそんな大きな声を出すの?!すごい見られてるでしょ!貴方って本当に最悪ね!心配してくれるのはありがたいけど、貴方のその傍若無人な振る舞いと、非常識な思考を治してくれない事には貴方のご両親だけでなく、私が、いい?、わ・た・し!が、恥をかくの!」
「…じゃあ城に行くのは無しだ」
憮然としてダニエルが言う。
「却下よ。私はリヴェル侯にはお世話になっているの。貴方の都合でご挨拶に行かないなんて事出来ないわ」
毅然としてダニエルに今までにない強い口調で言ってやる。
「一緒に行けないから忍び込む?一緒に行けないから離さない?子供なの?貴方は。まず、どうして連れて行って貰えないのかを良く考えなさい。私が逃げるかもしれないと思うなら、それが何故かをキチンと考えなさい。髪を染めて、表面上だけ取り繕っても何も解決しないわ。…一番逃げているのは誰なのかしら?」
「なっ!!」
ダニエルはとうとう絶句して押し黙ってしまった。
「メル」
「はい」
私はそっとダニエルの手を払いのけながら、目線はダニエルを見つめたままメルに命令した。
「暫くダール城でお世話になります。貴方はダニエルと一緒に街の宿で待機なさい。この男が城に忍び込むなんて事あってはなりませんから。監視しといて」
「はい」
メルが神妙に返事をするのを確認して私はクルリと踵を返し、2人から離れると門兵に以前レイから貰った身分証を提示して、ダニエルには聞こえないように、それでも毅然とした態度で言った。
「ウイニー王国ビセット公の娘、レティアーナ・ビセットです。前回の騒動では大変ご迷惑をお掛けしました。リヴェル侯爵様にお取り次ぎをお願いしたいのですが、侯爵様はいらっしゃいますでしょうか?」
「ウイニーのレティアーナ様………?」
門兵は身分証を確認しながらも、訝しんでいる。
まさかベルンから公爵令嬢が供2人で、しかも1人はやたら怪しい男を連れて来るなんてあり得ないといったところかしら。
否定できないから困るわ。
「その身分証が本物であるかどうかは、侯爵様に確認して頂ければわかるかと思います。それまで此方で待機させて頂きますわ。それと、前回同様、突然の訪問で申し訳御座いませんと侯爵様にお伝え下さいませ」
私はニッコリ笑いながら優雅にお辞儀した。
旅程は大幅に遅れ、やっとの思いでダールに着いたというところだった。
別にダニエルが朝起きてこない所為ではない。
砂嵐の所為でもない。
グルグネストであの夢を見てから、私は体調を崩しがちになっていたのだ。
メルやダニエルが体調が良くなるまで宿に…と、止めようとしたが、一刻も早くダールに行きたいと焦っていた。
あの時の夢が嘘だと確信したかったのだ。
それはあの夢がグルグネストを出てからも毎晩のように続いていた所為もあった。
「やっと着いた…」
青い顔をしながら私はダールの街の門の前に立ち尽くした。
ダールは山脈を中心として王都側の街とベルン側の街と別れている。
街の中央の山脈の中腹に城があり、王都側とベルン側を行き来したい場合は城の中を経由しなければ通れない構造になっていた。
城は一見すると王都側とベルン側に一つづつ城があるように思えるが、山をくりぬいてトンネルで続いているのだ。
つまりここを落とさない限りは、どちらにも陸路からの侵攻はほぼ不可能なのである。
「お、おいっ!大丈夫か?お前グルグネスト出た辺りから変だぞ?暫くここに世話になった方がいいんじゃねぇか?」
ふらふらっと倒れそうになった私をダニエルが支えた。
メルもその言葉に激しく頷いた。
「そうして下さい!ボクもう見ていられませんよ!やっぱり知らない国で慣れない旅ですから疲れが溜まってるんですよ」
メルは悲痛な面持ちで綺麗な緑色の瞳を揺らめかせている。
ああ、私また迷惑かけてるわ…
「ごめんなさい。ありがとう。ホントに大丈夫だから。でも、ダールには少し滞在する予定よ。侯爵様にお会いしたいし」
その言葉に驚いたのはダニエルだった。
「こここここ侯爵?!って辺境伯リヴェルだよな?!赤獅子王と呼ばれたあの!そんなのにおいそれと会えるわけねぇだろう?!」
赤獅子王?侯爵様にそんな通り名があったの?知らなかったわ。
…まぁ、勘当された男爵家の放蕩息子じゃ無理ね。
しかも傍若無人で礼儀が出来ないんだから、私も会わせたくない。
具合が悪い所為もあって力なく肩を落とす。
「安心して貴方を連れて行く気は無いから。勘当されたとはいえ男爵家なんでしょうけど。紹介しようにも貴方の振る舞いは恥ずかしすぎて、私の顔にも貴方のお父様にも泥しか塗れないわ」
「んな!」っとダニエルは声を上げる。
そして珍しく顔を真っ赤にして怒り始めた。
「お、俺だってやる時はやるんだぞ?!そんなこと言ってハニーはまた俺から逃げ出すつもりだろう!そうはいかねぇからな!城に忍び込んででも追いかけてやる!」
本当にやりそうだからこの男は困るわ…
「そんな事をしてみなさい。貴方、捕まった上でお父様は爵位剥奪されて、一家共々国外追放されてしまうわよ。家族にそこまでの迷惑をかけることもちゃんと考えられないなら、本当にここでお別れするわ」
と言ったところで、私はメルにじとぉーーっと睨まれる。
「なにかしら?メル。言いたいことがあるならはっきりおっしゃいなさい?」
ニッコリとメルに微笑みかける。
「いいえぇ〜べつにぃー。なんでもありませんっ」
メルもニッコリ私に返してきた。
メルの癖に生意気なっ!
一方、「ぐうぅ…」と唸っているのはダニエル。
で、相変わらずどういう神経しているんだか判らない言葉が返って来た。
「俺はそもそも勘当されてるんだから、忍び込んでも恥さらしにはならない筈だっ!連れてかないってんなら俺は本気でやるぞ!そんなフラフラしてて、お前が心配なんだよ!そうじゃなきゃ、俺はお前をここから離さないぞっ」
私の肩をがっしり掴んで、ジッと真剣に見つめてダニエルは言う。
しかも、門兵が見ている前で、だ。
かぁぁっと私は顔を赤くして、ダニエルを見上げながら睨みつける。
「なんでそんな大きな声を出すの?!すごい見られてるでしょ!貴方って本当に最悪ね!心配してくれるのはありがたいけど、貴方のその傍若無人な振る舞いと、非常識な思考を治してくれない事には貴方のご両親だけでなく、私が、いい?、わ・た・し!が、恥をかくの!」
「…じゃあ城に行くのは無しだ」
憮然としてダニエルが言う。
「却下よ。私はリヴェル侯にはお世話になっているの。貴方の都合でご挨拶に行かないなんて事出来ないわ」
毅然としてダニエルに今までにない強い口調で言ってやる。
「一緒に行けないから忍び込む?一緒に行けないから離さない?子供なの?貴方は。まず、どうして連れて行って貰えないのかを良く考えなさい。私が逃げるかもしれないと思うなら、それが何故かをキチンと考えなさい。髪を染めて、表面上だけ取り繕っても何も解決しないわ。…一番逃げているのは誰なのかしら?」
「なっ!!」
ダニエルはとうとう絶句して押し黙ってしまった。
「メル」
「はい」
私はそっとダニエルの手を払いのけながら、目線はダニエルを見つめたままメルに命令した。
「暫くダール城でお世話になります。貴方はダニエルと一緒に街の宿で待機なさい。この男が城に忍び込むなんて事あってはなりませんから。監視しといて」
「はい」
メルが神妙に返事をするのを確認して私はクルリと踵を返し、2人から離れると門兵に以前レイから貰った身分証を提示して、ダニエルには聞こえないように、それでも毅然とした態度で言った。
「ウイニー王国ビセット公の娘、レティアーナ・ビセットです。前回の騒動では大変ご迷惑をお掛けしました。リヴェル侯爵様にお取り次ぎをお願いしたいのですが、侯爵様はいらっしゃいますでしょうか?」
「ウイニーのレティアーナ様………?」
門兵は身分証を確認しながらも、訝しんでいる。
まさかベルンから公爵令嬢が供2人で、しかも1人はやたら怪しい男を連れて来るなんてあり得ないといったところかしら。
否定できないから困るわ。
「その身分証が本物であるかどうかは、侯爵様に確認して頂ければわかるかと思います。それまで此方で待機させて頂きますわ。それと、前回同様、突然の訪問で申し訳御座いませんと侯爵様にお伝え下さいませ」
私はニッコリ笑いながら優雅にお辞儀した。
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