ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ベルンで見る夢 4

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 私の計算ではケザスを出て3日後に東の隣国グルグネストへ入る予定だったのだけど、結局は5日掛かってしまった。


 ベルンは大抵の国が荒野に囲まれていて、ケザスもグルグネストも例外ではなかった。


 砂嵐が頻繁に発生する土地だった事が5日も掛かった原因の1つだが、ダニエルの寝起きの悪さも足を引っ張っていた。


 この地の旅ではフード付きの外套とゴーグルは必需品と言えるようだ。


 グルグネストの宿に着くと早速湯浴みを手配しようとしたが、驚いたことにこの地では湯に浸かるという風習は無いらしく、皆泉や川、街であればサウナで汚れを落とすそうだ。


 宿の裏手にある土で作ったドーム型の小さいサウナは、中に焼き石を入れて水を掛け蒸気が充満したところで、中に入るという仕組みになっていた。


 サウナというものに慣れていない私は、すぐに根を上げて外に出てきた。
 外で待機していたメルが、慌てて私に大きなバスタオルを肩からかけてくれた。


「はー…。息ができるわ〜。皆よくあんなものに入っていられるわね」
 暫くすると、スーッと汗が引く感覚がして気持ちが良くなった。


「そんなに苦しいんですか?ボクもサウナは入ったこと無いですが、旦那様は好んで毎回入ってますよ」
 うちの浴場にも一応サウナはあるけど、お父様とお兄様しか使わない。


 特にお父様はサウナが大好きで、家にいる時はサウナに入った後、アルコールを飛ばしてから冷やしたトップルを一杯飲むのが日課になっている。


「メルも入ればわかるわ。でも、出た後は気持ちいいわね。髪を洗えないのが残念だけど贅沢は言えないしね」


 私が出た後は、メルとダニエルが続いて入ったらしい。


 夕食を終え客室へ入ると、最近日課になっているテディへの手紙をしたためて、ベッドの中へ潜り込んだ。






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 その日、不思議な夢を見た。


 私は空の雲の上からしたを覗き込んでいた。
 眼下には大きな大陸が広がっていて、色んな物や人が見えた。


 ウイニーではお屋敷でお父様が家を出て城へ向かう様子が見えたし、ダールの西にある山脈付近の村ではお兄様やクロエ,レイが、何やら集まって真剣に話し合っている様子が見えた。


 そういえばもうすぐ秋の軍事演習があるってお兄様が言ってたなと思い出す。


 ふと、ダールの北にある森に目をやる。
 ウイニーの王都とダールの間にあるあの森は、リン・プ・リエンにも繋がっていることに気がついた。


 あの森があんなに大きな森だったなんて驚きだ。
 そしてよく見ると、森の中に不規則に村や町らしきものがあることに気がついた。
 こんな所でも生活している人がいるのね。と感心する。


 森から目を外し、今度は北東に目をやる。
 1番奥にはリン・プ・リエンの首都があった。
 街の入り口に人が集まっている様子が伺えた。


(あれは、なにかしら?パレードでも始まるのかしら?)


 じっと観察していると町の外から肩を落とした身なりのいい男性が兵を引き連れ入ってくるのが見えた。
 パレードにしてはその数はあまりにも少ない。
 よく見ると、負傷した兵が何人もいる。


(何処かと戦争…?でも、そんな話、新聞には載ってなかったわ)


 兵士が半分位まで街の中に入って来た時だった、一際ひときわ厳重に兵が囲っている担架が目に映った。
 上には白い大きな布が覆い被さっている。


(誰か、偉い方が、亡くなった…?)


 何故かいいしれぬ不安が押し寄せてくる。


 私は何故、今、こんなものを見ているんだろうか?
 ウイニーではなくリン・プ・リエンの行ったこともない街の風景だ。
 でも鮮明に、そこがリン・プ・リエンであることがわかる。


 ドクン、ドクンと心臓が大きく音を立てる。


 不意に、担架を担いでいた兵士の1人がガクッと足を挫いてしまう。
 その時、担架の中から、白く、生気の感じられない人の手が、力なく垂れ下がる。




 ーースルリと、見覚えのあるキャスケットが地面に落ちたのが見えた。






「テディ!!」




 身を乗り出して叫んだ瞬間、私は雲から落下した。






 バチッと目を覚ます。
 起き上がることすら出来なかった。
 体が硬直して、心臓は早鐘のように鳴っている。


 やけに生々しい夢だった。


 あの手は本当にテディ?
 顔を見てないもの。そうとは言い切れないわ。
 帽子だって何処にでもあるような帽子よ?
 大体、夢であってホントの事じゃないわ!


 冷え切った体をゆっくりと起こし、深呼吸する。
 起き上がると、服の中にしまっていたテディの懐中時計を取り出した。
 蓋を開けるとカチコチと規則的な音を立てて時計は動いていた。
 時刻は午前5時になる前だった。


 時計のネジを回し、蓋を閉め、ギュッと握りしめる。


「ただの、悪い夢よ。テディは強いんだから、死んだりしないわ…」


 言霊を紡ぐ様に、私は誰もいない広い客室でポツリと呟いた。

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