ウイニー王国のワガママ姫
名も無き森 6【フィオ編】
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あれからどれ位進んだだろうか、モンスターの気配は幸か不幸か全くしない。
クジ運の悪さがここに来て発揮されたのかと呪うばかりで、少々焦ってくる。
不安になりゲイリーをチラッとみる。
ゲイリーは気にする様子もなく、ただひたすら前を向いて歩いていた。
(どういうつもりだ?そろそろ決行されててもおかしく無い筈だが)
「フィオ、そろそろ昼になる。休憩を取った方が良くないか?」
兄上は懐中時計を確認して僕に振り返る。
その言葉に僕は顔を顰める。
「休憩を取るのは構いませんが、食べるものはありませんよ?」
その言葉に兄上と雪狐兵は愕然とする。
「冗談だろ?あの量の朝食だけで、この先持つわけがないだろ。大体食料無しで遭難したらどうするんだ」
「水で我慢して下さい」
しれっと僕は真顔で答える。
その言葉に夢想以外の兵士が不満を漏らした。
「フィオディール様は本気で死ぬおつもりなんですか?!それとも私達を何か罠に嵌めて、亡き者にしようとでも!?」
1人が漏らすと次々に騒ぎ出す。
振り回されているのはこちらだろうと言ってやりたくなる。
「黙れっ!!」
と、苛立ちも混じっていつになく強い口調で僕は牽制する。
「もし、食料を持ってきた者が居るならば忠告しておく。死にたくなければ食料は出すな。そしていちいち騒ぐな。水で我慢しろ。いいな?」
おそらくこの場にいるゲイリー以外の人間は、僕の冷酷とも言える表情と口調に驚いただろう。
息を飲んで誰も動けなくなっているのが判った。
しん…と辺りが静寂に包まれる。
ふぅ…と僕は息を吐き出すと、
「こういうのは慣れてないんで疲れました。10分休憩します。兄上は先に進むか戻るか考えといて下さい」
と言って地面に何もないことを確認して座り込んだ。
「座るとき気をつけて下さいね。虫とか妙な生き物とか踏んだりすると危ないですから。木に寄りかかったりも駄目です」
雪狐の兵士達と兄上はゴクリと息を飲み、おそるおそる地面に座って休憩をとった。
「どうするんですか?私はてっきり貴方が懐中時計を持っている事を想定して計画を練ってたんですよ?このままでは計画以前に今の状況自体がマズイです」
ゲイリーが僕に近寄りこそっと耳打ちする。
「知りませんよそんな事。どうせ保険程度の想定でしょう?あんなもの当てにしないで下さい。あーあ、僕もう彼女に会えないのかなぁ…運命を感じたのに」
くすんと鼻を啜って拗ねてみせる。
ゲイリーは「付き合ってられません」とその場から離れてしまった。
それから五分程度経った頃だろうか?
周囲の空気が微かに変わったのを感じた。
ゲイリーと僕、そして何人かの夢想兵がピクリと反応する。
(いるな……数は…………少し多い、か?)
僕はゲイリーをチラリと見る。
するとゲイリーは小さく首を横に振った。
嫌な汗が頭から噴き出す。微かに震え、無意識に口角が上がる。
(この状況は、想定外…不測の事態だ!)
奥にいるであろうソレがこちらに気が付かない様にゆっくりと腰を上げ、ローブの内側から小さな斧を取り出すと、呪文を唱え、柄の長い斧に変える。
ベルン連邦の中の一国ケザスで仕入れたマジックウェポンの一つだ。
もっとも、抜刀呪文を唱えると武器から音がするのであまり使いたくは無いのだが…
ーーこの状況では敵に見つかったとしてもコレを使うしか今は選択肢がない。
僕やゲイリーが警戒態勢を取っている事に気がついた他の兵たちも、そっと剣を引き抜いて立ち上がる。
「いる…のか?何の気配も感じないが……」
兄上は訝しげに剣を抜く。
「後退した方がいいです。なるべくゆっくりです。まだ奴らは気付いていない。おそらく、兄上達の剣では倒せないと思います」
だらだらと尋常じゃない汗を流している僕の様子に、皆が息を飲む。
「ゲイリー、先に雪狐を逃がします。兄上、絶対に走らないように。道、覚えてますね?迷ったら終わりです」
こくりと兄上は頷き、ゆっくりと歩き出す。
すると、奥でチラリと白い影が見えた。
(ああ、やっぱり一番厄介なのがいるな。せめて魔導師が1人でも居れば大多数は助かるのに)
「ひっ!」と何処からか兵の悲鳴が聞こえた。
「い、今…目があって………う、うわあああああ!!」
「「!!」」
「ッチ!」
パニックを起こして叫んだ兵士のお陰で、一斉に奥にいた複数のソレがこちらに敵意を向けて近寄ってくる気配を感じた。
「殿下!」
ゲイリーが叫ぶ。
「雪狐は白い影に絶対に触れるな!道を間違えないように確実に拠点へ迎え!夢想は陣を取って雪狐を護りながら後退しろ!」
僕が叫ぶと夢想兵達は半円を描くように陣をとる。
雪狐兵達は実態のない白い影に慌てふためきながらパニックを起こしている。
相手が普通のモンスターや人間ならば、彼らもここまでは理性を失うことは無かっただろう。
夢想でも実践を経験した者で無ければ、訓練は積んでいても姿を見ただけで精神力が病んでしまう事がある。
「落ち着け!フィオディールの言う通りに俺たちは撤退するぞ!隊列を崩すな!」
「ゲイリー!兄上の護衛を!」
とうとうソレは茂みから姿を現す。
斧で弧を描き、疾風を生み、襲いかかってくるソレを可能な限り切り捨てる。
ーー死霊レイス。その地に無念を残して死んでいった者達。
触れてしまえば待つのは死。
倒せるのはマジックウェポンと魔法のみである。
あれからどれ位進んだだろうか、モンスターの気配は幸か不幸か全くしない。
クジ運の悪さがここに来て発揮されたのかと呪うばかりで、少々焦ってくる。
不安になりゲイリーをチラッとみる。
ゲイリーは気にする様子もなく、ただひたすら前を向いて歩いていた。
(どういうつもりだ?そろそろ決行されててもおかしく無い筈だが)
「フィオ、そろそろ昼になる。休憩を取った方が良くないか?」
兄上は懐中時計を確認して僕に振り返る。
その言葉に僕は顔を顰める。
「休憩を取るのは構いませんが、食べるものはありませんよ?」
その言葉に兄上と雪狐兵は愕然とする。
「冗談だろ?あの量の朝食だけで、この先持つわけがないだろ。大体食料無しで遭難したらどうするんだ」
「水で我慢して下さい」
しれっと僕は真顔で答える。
その言葉に夢想以外の兵士が不満を漏らした。
「フィオディール様は本気で死ぬおつもりなんですか?!それとも私達を何か罠に嵌めて、亡き者にしようとでも!?」
1人が漏らすと次々に騒ぎ出す。
振り回されているのはこちらだろうと言ってやりたくなる。
「黙れっ!!」
と、苛立ちも混じっていつになく強い口調で僕は牽制する。
「もし、食料を持ってきた者が居るならば忠告しておく。死にたくなければ食料は出すな。そしていちいち騒ぐな。水で我慢しろ。いいな?」
おそらくこの場にいるゲイリー以外の人間は、僕の冷酷とも言える表情と口調に驚いただろう。
息を飲んで誰も動けなくなっているのが判った。
しん…と辺りが静寂に包まれる。
ふぅ…と僕は息を吐き出すと、
「こういうのは慣れてないんで疲れました。10分休憩します。兄上は先に進むか戻るか考えといて下さい」
と言って地面に何もないことを確認して座り込んだ。
「座るとき気をつけて下さいね。虫とか妙な生き物とか踏んだりすると危ないですから。木に寄りかかったりも駄目です」
雪狐の兵士達と兄上はゴクリと息を飲み、おそるおそる地面に座って休憩をとった。
「どうするんですか?私はてっきり貴方が懐中時計を持っている事を想定して計画を練ってたんですよ?このままでは計画以前に今の状況自体がマズイです」
ゲイリーが僕に近寄りこそっと耳打ちする。
「知りませんよそんな事。どうせ保険程度の想定でしょう?あんなもの当てにしないで下さい。あーあ、僕もう彼女に会えないのかなぁ…運命を感じたのに」
くすんと鼻を啜って拗ねてみせる。
ゲイリーは「付き合ってられません」とその場から離れてしまった。
それから五分程度経った頃だろうか?
周囲の空気が微かに変わったのを感じた。
ゲイリーと僕、そして何人かの夢想兵がピクリと反応する。
(いるな……数は…………少し多い、か?)
僕はゲイリーをチラリと見る。
するとゲイリーは小さく首を横に振った。
嫌な汗が頭から噴き出す。微かに震え、無意識に口角が上がる。
(この状況は、想定外…不測の事態だ!)
奥にいるであろうソレがこちらに気が付かない様にゆっくりと腰を上げ、ローブの内側から小さな斧を取り出すと、呪文を唱え、柄の長い斧に変える。
ベルン連邦の中の一国ケザスで仕入れたマジックウェポンの一つだ。
もっとも、抜刀呪文を唱えると武器から音がするのであまり使いたくは無いのだが…
ーーこの状況では敵に見つかったとしてもコレを使うしか今は選択肢がない。
僕やゲイリーが警戒態勢を取っている事に気がついた他の兵たちも、そっと剣を引き抜いて立ち上がる。
「いる…のか?何の気配も感じないが……」
兄上は訝しげに剣を抜く。
「後退した方がいいです。なるべくゆっくりです。まだ奴らは気付いていない。おそらく、兄上達の剣では倒せないと思います」
だらだらと尋常じゃない汗を流している僕の様子に、皆が息を飲む。
「ゲイリー、先に雪狐を逃がします。兄上、絶対に走らないように。道、覚えてますね?迷ったら終わりです」
こくりと兄上は頷き、ゆっくりと歩き出す。
すると、奥でチラリと白い影が見えた。
(ああ、やっぱり一番厄介なのがいるな。せめて魔導師が1人でも居れば大多数は助かるのに)
「ひっ!」と何処からか兵の悲鳴が聞こえた。
「い、今…目があって………う、うわあああああ!!」
「「!!」」
「ッチ!」
パニックを起こして叫んだ兵士のお陰で、一斉に奥にいた複数のソレがこちらに敵意を向けて近寄ってくる気配を感じた。
「殿下!」
ゲイリーが叫ぶ。
「雪狐は白い影に絶対に触れるな!道を間違えないように確実に拠点へ迎え!夢想は陣を取って雪狐を護りながら後退しろ!」
僕が叫ぶと夢想兵達は半円を描くように陣をとる。
雪狐兵達は実態のない白い影に慌てふためきながらパニックを起こしている。
相手が普通のモンスターや人間ならば、彼らもここまでは理性を失うことは無かっただろう。
夢想でも実践を経験した者で無ければ、訓練は積んでいても姿を見ただけで精神力が病んでしまう事がある。
「落ち着け!フィオディールの言う通りに俺たちは撤退するぞ!隊列を崩すな!」
「ゲイリー!兄上の護衛を!」
とうとうソレは茂みから姿を現す。
斧で弧を描き、疾風を生み、襲いかかってくるソレを可能な限り切り捨てる。
ーー死霊レイス。その地に無念を残して死んでいった者達。
触れてしまえば待つのは死。
倒せるのはマジックウェポンと魔法のみである。
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