ウイニー王国のワガママ姫
名も無き森 4【フィオ編】
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「お待たせしました。兄上」
僕とゲイリーは駐屯所に入り、兄上に声をかけた。
兄上は雪狐の兵士と一緒にコーヒーを嗜んでいた。
「意外と早かったな。乗り気ではない様子だったから、もっと時間がかかるかと思ったが」
「乗り気に見えますか?僕は今こんな突発的な事で命をかけるくらいなら、国を捨てて彼女の所に逃亡したいくらいです」
ガックリ肩を落として嘆息すると、ゲイリー含めその場にいた人間全てがギョッとした。
「フィオディール様は、どなたかお慕いしている方がいらっしゃるのですか?」
兄上の後ろに控えていた雪狐の兵士が、おそるおそる僕に尋ねてきた。
僕はパァッと笑顔を綻ばせ頬を染めてみせる。
「聞いてくれますか?もう、運命の出会いとしか思えないんですよ!この間、武器を仕入れに行った時なんですけどねーー」
「フィオ!その話は帰ってきてからいくらでもしていいから、今はこっちに集中しろ!」
僕が惚気ようとすると、兄上は苛立たしげに制止した。
やはりおかしい。
全面的な協力者ならば判るのだが、元々開拓には乗り気でない兄上にしては不自然すぎる。
だからこそ、僕のやる気が無いからイライラしているとは考えにくい。
森に行かなければならないという様な苛立ちにしか見えない。
しん…とした室内で、僕はガックリとまた嘆息をしてみせる。
「生きて帰って来れたらそれも出来るんですけどね…因みに今回兄上の隊は総勢何人連れてきてるんです?」
「50人だ。本当はもっと連れて来る予定だったが、こちらの食料の備蓄量が判らなかったからな。まぁ、俺の騎士団なら多少進むくらいなら問題無いだろう?」
流石に我が兄の言葉に愕然とする。
どうするんだ?とゲイリーを見ると、ゲイリーも顔を顰めている。
その様子に気付いた兄上が眉間にしわを寄せる。
「なんだ?初回の時は15人で半数を失ったから倍よりも多い数だぞ?確実に進めるだろう」
僕もゲイリーも顔を青くして首をブンブンと横に振る。
「無理です。50名全員で森の中に入るなら少しは生き残れるでしょうが、隊の半分はこちらに残しておかなければならないので死ねます」
その言葉に兄上はますます眉間にしわを寄せる。
「なら、50名全員連れて行けばいいだろう?何故半数も残す?」
「あにうえ……」と僕は少し大袈裟に頭を抱える。
「ちゃんと聞いてましたか?50名全員で森に入って、帰ってこれるのは少しです。初回15名で半数生き残ったのは奇跡だったんですよ?あの時はまだこの場所に拠点なんてなかったですよね?森の奥に進もうとするとそれだけ強敵が潜んでいるんです。たかだか50人で攻略出来るなら、陛下に人員要請なんてしませんよ」
普通に攻略するならば決して嘘は言っていない。
生きて帰りたいなら最低300名は必要だ。
無論そこまでの備蓄は今のこの拠点には無い。
兄上は訝しげに首を捻る。
「雪狐が白兵戦に長けているのはお前も知っているだろう?お前の夢想が弱いと言う訳では無いが、夢想は白兵より隠密・奇襲に特化した騎士団だ。根本的に比べようが無いと思うが?」
兄上のこの脳筋思考はある意味弱点かもしれない。
それとも本当にそれだけの実力があるのだろうか…?
いや、まさかと内心こっそり首を振る。
「ゲイリー…僕、本当に彼女の所に逃げてもいいですか?」
「…今なら止めませんと言いたいですね。まぁ、いざという時はリオネス様と雪狐騎士団の皆さんを盾にして、うちの騎士団は逃げればいいんじゃないですか?うちの騎士団は少人数な分、基本隠密・奇襲が得意なのも事実ですし、逃げ足も速いですよ」
ゲイリーがしれっとそう言うと、兄上と雪狐兵達は目を見開いた。
僕はパァッと笑ってゲイリーに同意する。
「ゲイリー、冴えてますね。それ採用です。兄上、死なないように頑張ってください。あ、僕の隊は今、人員調達や物資調達や情報収集の為に森以外で主な活動を行っている最中なので、砦には非戦闘員を覗いて25名前後しかいませんから、本当にちゃんと半数をここに残して下さいね?ここの警備が手薄になるのはシャレになりませんから」
ニッコリ笑って兄上に言う。
が、内心本気で生きて帰れるか不安で仕方なかった。
兄上は少々怯んだが、言い出した手前引けないのかそれとも疑っているのか神妙な面持ちで頷いた。
「いいだろう。雪狐の実力をお前に見せてやる。で、どの方向に進むつもりだ?」
兄上は机の上にドカリと足を乗せて腕を組む。
やはり別の拠点の存在を疑っている様な気がする。
問題はそれがバレた時にこの兄がどう出るか。なのだが…
僕は「そうですねぇ…」と腕を組む。
「結局どの方向へ進んでも同じような気はしますが…僕はあまりクジ運とかいい方では無いので、兄上にお任せします。その代わり迷わないように進んでくださいよ?」
僕がそう言うと兄上は、一瞬だけ吃驚した表情を覗かせた。
その顔は僕が確信を得るのに十分な表情だった。
と、同時に鎌をかけるのが下手だなぁと内心苦笑した。
「では、お前は前回どちらに進んだ?」
おっと、そうきたか。と驚いたが、顔には出さないでとぼけて答える。
「前回、ですか?はて…南、でしたか?」
と、ゲイリーを見る。
するとゲイリーもとぼけて、
「西…だったような気もしますが?なにぶん、だいぶ前ですので私も覚えていませんよ」
と、答える。
「まぁ、東、でないのは確かですね。」
僕とゲイリーのやり取りに、兄上の目が少し光った。
「何故、曖昧な記憶で東じゃないと言い切れる?」
僕とゲイリーは意味深に顔を見合わせてから、ニッコリ兄上に笑いかける。
「東は無理なんです。兄上が初めてここを攻略して暫くした後、何度か色んな方向を試しましたが、モンスターの他に瘴気が充満してて長く居る事が出来ないんですよ」
ふーん。と兄上は目を細める。
「じゃあ南か西にしか進めないということか」
「いえ、瘴気対策さえ出来れば進めるとは思いますが、今の所そこまでのリスクを背負える力が無いと言わざるを得ないです。もっとも瘴気がある場所に住もうと思う人は居ないでしょうが」
僕は、別に構わないですが?と、いった体でしれっと言う。
そのまま続けて「どうします?」と、笑顔で兄上に問いかける。
兄上は顎を撫でながら暫く思案した後、ニヤリと笑って口を開いた。
「西へ進む」
僕とゲイリーは兄上の言葉にホッと息をついてみせた。
「お待たせしました。兄上」
僕とゲイリーは駐屯所に入り、兄上に声をかけた。
兄上は雪狐の兵士と一緒にコーヒーを嗜んでいた。
「意外と早かったな。乗り気ではない様子だったから、もっと時間がかかるかと思ったが」
「乗り気に見えますか?僕は今こんな突発的な事で命をかけるくらいなら、国を捨てて彼女の所に逃亡したいくらいです」
ガックリ肩を落として嘆息すると、ゲイリー含めその場にいた人間全てがギョッとした。
「フィオディール様は、どなたかお慕いしている方がいらっしゃるのですか?」
兄上の後ろに控えていた雪狐の兵士が、おそるおそる僕に尋ねてきた。
僕はパァッと笑顔を綻ばせ頬を染めてみせる。
「聞いてくれますか?もう、運命の出会いとしか思えないんですよ!この間、武器を仕入れに行った時なんですけどねーー」
「フィオ!その話は帰ってきてからいくらでもしていいから、今はこっちに集中しろ!」
僕が惚気ようとすると、兄上は苛立たしげに制止した。
やはりおかしい。
全面的な協力者ならば判るのだが、元々開拓には乗り気でない兄上にしては不自然すぎる。
だからこそ、僕のやる気が無いからイライラしているとは考えにくい。
森に行かなければならないという様な苛立ちにしか見えない。
しん…とした室内で、僕はガックリとまた嘆息をしてみせる。
「生きて帰って来れたらそれも出来るんですけどね…因みに今回兄上の隊は総勢何人連れてきてるんです?」
「50人だ。本当はもっと連れて来る予定だったが、こちらの食料の備蓄量が判らなかったからな。まぁ、俺の騎士団なら多少進むくらいなら問題無いだろう?」
流石に我が兄の言葉に愕然とする。
どうするんだ?とゲイリーを見ると、ゲイリーも顔を顰めている。
その様子に気付いた兄上が眉間にしわを寄せる。
「なんだ?初回の時は15人で半数を失ったから倍よりも多い数だぞ?確実に進めるだろう」
僕もゲイリーも顔を青くして首をブンブンと横に振る。
「無理です。50名全員で森の中に入るなら少しは生き残れるでしょうが、隊の半分はこちらに残しておかなければならないので死ねます」
その言葉に兄上はますます眉間にしわを寄せる。
「なら、50名全員連れて行けばいいだろう?何故半数も残す?」
「あにうえ……」と僕は少し大袈裟に頭を抱える。
「ちゃんと聞いてましたか?50名全員で森に入って、帰ってこれるのは少しです。初回15名で半数生き残ったのは奇跡だったんですよ?あの時はまだこの場所に拠点なんてなかったですよね?森の奥に進もうとするとそれだけ強敵が潜んでいるんです。たかだか50人で攻略出来るなら、陛下に人員要請なんてしませんよ」
普通に攻略するならば決して嘘は言っていない。
生きて帰りたいなら最低300名は必要だ。
無論そこまでの備蓄は今のこの拠点には無い。
兄上は訝しげに首を捻る。
「雪狐が白兵戦に長けているのはお前も知っているだろう?お前の夢想が弱いと言う訳では無いが、夢想は白兵より隠密・奇襲に特化した騎士団だ。根本的に比べようが無いと思うが?」
兄上のこの脳筋思考はある意味弱点かもしれない。
それとも本当にそれだけの実力があるのだろうか…?
いや、まさかと内心こっそり首を振る。
「ゲイリー…僕、本当に彼女の所に逃げてもいいですか?」
「…今なら止めませんと言いたいですね。まぁ、いざという時はリオネス様と雪狐騎士団の皆さんを盾にして、うちの騎士団は逃げればいいんじゃないですか?うちの騎士団は少人数な分、基本隠密・奇襲が得意なのも事実ですし、逃げ足も速いですよ」
ゲイリーがしれっとそう言うと、兄上と雪狐兵達は目を見開いた。
僕はパァッと笑ってゲイリーに同意する。
「ゲイリー、冴えてますね。それ採用です。兄上、死なないように頑張ってください。あ、僕の隊は今、人員調達や物資調達や情報収集の為に森以外で主な活動を行っている最中なので、砦には非戦闘員を覗いて25名前後しかいませんから、本当にちゃんと半数をここに残して下さいね?ここの警備が手薄になるのはシャレになりませんから」
ニッコリ笑って兄上に言う。
が、内心本気で生きて帰れるか不安で仕方なかった。
兄上は少々怯んだが、言い出した手前引けないのかそれとも疑っているのか神妙な面持ちで頷いた。
「いいだろう。雪狐の実力をお前に見せてやる。で、どの方向に進むつもりだ?」
兄上は机の上にドカリと足を乗せて腕を組む。
やはり別の拠点の存在を疑っている様な気がする。
問題はそれがバレた時にこの兄がどう出るか。なのだが…
僕は「そうですねぇ…」と腕を組む。
「結局どの方向へ進んでも同じような気はしますが…僕はあまりクジ運とかいい方では無いので、兄上にお任せします。その代わり迷わないように進んでくださいよ?」
僕がそう言うと兄上は、一瞬だけ吃驚した表情を覗かせた。
その顔は僕が確信を得るのに十分な表情だった。
と、同時に鎌をかけるのが下手だなぁと内心苦笑した。
「では、お前は前回どちらに進んだ?」
おっと、そうきたか。と驚いたが、顔には出さないでとぼけて答える。
「前回、ですか?はて…南、でしたか?」
と、ゲイリーを見る。
するとゲイリーもとぼけて、
「西…だったような気もしますが?なにぶん、だいぶ前ですので私も覚えていませんよ」
と、答える。
「まぁ、東、でないのは確かですね。」
僕とゲイリーのやり取りに、兄上の目が少し光った。
「何故、曖昧な記憶で東じゃないと言い切れる?」
僕とゲイリーは意味深に顔を見合わせてから、ニッコリ兄上に笑いかける。
「東は無理なんです。兄上が初めてここを攻略して暫くした後、何度か色んな方向を試しましたが、モンスターの他に瘴気が充満してて長く居る事が出来ないんですよ」
ふーん。と兄上は目を細める。
「じゃあ南か西にしか進めないということか」
「いえ、瘴気対策さえ出来れば進めるとは思いますが、今の所そこまでのリスクを背負える力が無いと言わざるを得ないです。もっとも瘴気がある場所に住もうと思う人は居ないでしょうが」
僕は、別に構わないですが?と、いった体でしれっと言う。
そのまま続けて「どうします?」と、笑顔で兄上に問いかける。
兄上は顎を撫でながら暫く思案した後、ニヤリと笑って口を開いた。
「西へ進む」
僕とゲイリーは兄上の言葉にホッと息をついてみせた。
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