ウイニー王国のワガママ姫
名も無き森 3【フィオ編】
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兄リオネスが滞在して3日が過ぎた。
今までなら視察の翌日には帰って居いたのに、今回に限って既に3日もいるのだ。
やはりこれは何かあると僕は思案する。
兄上の言い分では、
「今までサボり過ぎてお前に負担をかけ過ぎた事を少し後悔したから」という事らしいが、兄王エルネストと仲の悪い、開拓に乗り気でない兄上がそんな事を言うなんてあり得ないのだ。
これは長期戦になるかもしれない。
第一地区は王都から殆ど真南の位置にあり、主要な地区からはかなり離れている。
これは主要拠点の存在を、兄王エルネストは勿論、リオネスにも気付かれないようにする為だ。
リオネスが全面的な協力者ならばこのような事をする必要は無いのだが、エルネスト以上に腹の読めない兄だと最近では思うようになった。
野心が無い。のはおそらく間違いない。
しかし、保身に関しては人一倍神経を使う人だ。
確実に味方につけられれば雪狐を手に入れたのも同然なのだが、敵にするとなると雪狐ほど厄介な敵はいないのだ。
「何か確実な取り引き材料さえあれば…」
僕は苛立ち爪を噛む。
雪狐は襲わない。などという曖昧な協定では納得しないだろう。
兄上は騎士団の運営さえ出来れば基本満足なのだ。
生産性のない事は嫌いだが、戦闘自体は嫌いではない。
部下を何より第一に考え、また部下の信頼も厚い。
鯨波や夢想のそれとは比べものにならない位だ。
堂々巡りの思考回路に嫌気がさした頃、自室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ?」
と僕は声を掛ける。
入って来たのは件の兄リオネスだった。
「お前、飯も食わずに朝から何してんだ?兵の奴らはとっくに飯食って遠征の準備に取り掛かってるぞ」
兄の言葉に顔を顰める。
そんな指示は出していない。
出したとすればこの兄なのだろうが…
はぁ…と僕は溜息をつく。
「遠征なんて、僕はそんな指示出してないですよ?それに彼女からの返事が来るかもしれないのに、そんな暇無いです」
僕はこの兄が来てから直ぐに、ウイニー王国に住むレティに手紙を送っていた。
これを理由にやる気を潜め、兄上の出方を待つ。
…もっとも、返事が待ち遠しいのは嘘じゃないけど。
「なにバカなことを言っているんだ。一体お前はどうしちゃったんだ?たかだか女にそこまで骨抜きになって、お前の腹黒い野心は何処に行ったんだ」
「…そういう兄上こそ、どうして急にそんなにやる気なんです?それに無計画に遠征をしても、この地では良い事ないですよ」
「ふん」と兄上は鼻で息を吐く。
「そういって燻っているから開拓が一向に進まないんだ。ガンガン進んで少しでもモンスターを倒して行けば数も減るだろう」
あながち間違ってはいない。が、方法として正しいとも言い切れない。
雪狐の実力を見るにもいい機会かも知れないが、
さて、どうしたものか…
はぁ〜と僕は嘆息をついてみせる。
「じゃあ、一応準備しますが、雪狐の皆さんもある程度僕の指示に従ってもらいますよ?後、ご飯ぐらいは食べさせて下さい。空腹で外出たら僕、確実に死にます」
兄上が満足するまでその辺を適当にブラブラすれば良いかと少々安直に考えた。
とは言っても、本当に空腹で外へ出たら冗談抜きで死ぬことになる。
おそらくこの兄は解っていないのだろうが…
僕がそう言うと兄上は満足そうに頷いた。
「それで構わない。俺は外壁の近くの駐屯所で待っている」
兄上はそれだけ言うとあっさり外へ出て行った。
僕はノロノロと着替えを始める。
僕の夢想騎士団の正装は、ダークオリーブグリーンの裾の短いローブとスロップスに内着はタートルネックと、一見すると魔導師のような格好だ。
これは夢想騎士団が得意とする隠密・奇襲に由来していて、重い鎧を好ましく思わないからだ。
環境によって服の色も変わる為、団員は複数のローブを所持している。
兄王は度重なる兵士の要請で消えた兵力の所在を気にしている筈だ。
自分の王位が脅かされる事に敏感なエルネストなら確実だ。
そして野心がないとはいえ、リオネスも同じ様に消えた兵力の所在が気になっている筈だ。
それが保身の為なのか、兄王の為なのかはこの際置いておく。
しかし、兄上は僕の指示には従うと言った。
という事は、他に地区があると仮定して遠征に行きたいと言い出した訳では無いという事か?
それとも僕の出方を見て、それを判断しようとしているんだろうか。
コンコンとまた扉からノックの音がしたかと思ったら、返事をする前にゲイリーが中に入ってきた。
「…君は僕の着替えに興味があるんですか?」
「冗談を言ってる余裕があるなら私は必要ありませんね?」
僕はゲイリーをジトリと睨みつける。
「そんな顔をしてもいい案は見つからないでしょうに。ここは私めに任せて頂けますか?」
何故この男はこうもタイミングが良いのだろうか?
僕はそのうちゲイリーに寝首でもかかれるんじゃないかと本気で心配になる。
「何か良い案があると?」
僕の言葉にゲイリーはニヤリとほくそ笑む。
「ええ。雪狐の実力を見ることが出来て、尚且つリオネス様にこの地がいかに過酷で兵士が不足していると信じ込ませることが出来る……と思います」
ゲイリーの自信なさげな最後の一言にガクッと肩を落とす。
「なんです?その曖昧な作戦」
「いえ、リオネス様が冷静さを保っていられたらおそらく見抜かれてしまうので。その辺りは殿下次第ではないでしょうか?」
僕次第?と眉間にしわを寄せ首を傾げる。
「時間もないですし、詳しく話して下さい」
僕の言葉にゲイリーは楽しそうに頷くと詳細を話し始めた。
兄リオネスが滞在して3日が過ぎた。
今までなら視察の翌日には帰って居いたのに、今回に限って既に3日もいるのだ。
やはりこれは何かあると僕は思案する。
兄上の言い分では、
「今までサボり過ぎてお前に負担をかけ過ぎた事を少し後悔したから」という事らしいが、兄王エルネストと仲の悪い、開拓に乗り気でない兄上がそんな事を言うなんてあり得ないのだ。
これは長期戦になるかもしれない。
第一地区は王都から殆ど真南の位置にあり、主要な地区からはかなり離れている。
これは主要拠点の存在を、兄王エルネストは勿論、リオネスにも気付かれないようにする為だ。
リオネスが全面的な協力者ならばこのような事をする必要は無いのだが、エルネスト以上に腹の読めない兄だと最近では思うようになった。
野心が無い。のはおそらく間違いない。
しかし、保身に関しては人一倍神経を使う人だ。
確実に味方につけられれば雪狐を手に入れたのも同然なのだが、敵にするとなると雪狐ほど厄介な敵はいないのだ。
「何か確実な取り引き材料さえあれば…」
僕は苛立ち爪を噛む。
雪狐は襲わない。などという曖昧な協定では納得しないだろう。
兄上は騎士団の運営さえ出来れば基本満足なのだ。
生産性のない事は嫌いだが、戦闘自体は嫌いではない。
部下を何より第一に考え、また部下の信頼も厚い。
鯨波や夢想のそれとは比べものにならない位だ。
堂々巡りの思考回路に嫌気がさした頃、自室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ?」
と僕は声を掛ける。
入って来たのは件の兄リオネスだった。
「お前、飯も食わずに朝から何してんだ?兵の奴らはとっくに飯食って遠征の準備に取り掛かってるぞ」
兄の言葉に顔を顰める。
そんな指示は出していない。
出したとすればこの兄なのだろうが…
はぁ…と僕は溜息をつく。
「遠征なんて、僕はそんな指示出してないですよ?それに彼女からの返事が来るかもしれないのに、そんな暇無いです」
僕はこの兄が来てから直ぐに、ウイニー王国に住むレティに手紙を送っていた。
これを理由にやる気を潜め、兄上の出方を待つ。
…もっとも、返事が待ち遠しいのは嘘じゃないけど。
「なにバカなことを言っているんだ。一体お前はどうしちゃったんだ?たかだか女にそこまで骨抜きになって、お前の腹黒い野心は何処に行ったんだ」
「…そういう兄上こそ、どうして急にそんなにやる気なんです?それに無計画に遠征をしても、この地では良い事ないですよ」
「ふん」と兄上は鼻で息を吐く。
「そういって燻っているから開拓が一向に進まないんだ。ガンガン進んで少しでもモンスターを倒して行けば数も減るだろう」
あながち間違ってはいない。が、方法として正しいとも言い切れない。
雪狐の実力を見るにもいい機会かも知れないが、
さて、どうしたものか…
はぁ〜と僕は嘆息をついてみせる。
「じゃあ、一応準備しますが、雪狐の皆さんもある程度僕の指示に従ってもらいますよ?後、ご飯ぐらいは食べさせて下さい。空腹で外出たら僕、確実に死にます」
兄上が満足するまでその辺を適当にブラブラすれば良いかと少々安直に考えた。
とは言っても、本当に空腹で外へ出たら冗談抜きで死ぬことになる。
おそらくこの兄は解っていないのだろうが…
僕がそう言うと兄上は満足そうに頷いた。
「それで構わない。俺は外壁の近くの駐屯所で待っている」
兄上はそれだけ言うとあっさり外へ出て行った。
僕はノロノロと着替えを始める。
僕の夢想騎士団の正装は、ダークオリーブグリーンの裾の短いローブとスロップスに内着はタートルネックと、一見すると魔導師のような格好だ。
これは夢想騎士団が得意とする隠密・奇襲に由来していて、重い鎧を好ましく思わないからだ。
環境によって服の色も変わる為、団員は複数のローブを所持している。
兄王は度重なる兵士の要請で消えた兵力の所在を気にしている筈だ。
自分の王位が脅かされる事に敏感なエルネストなら確実だ。
そして野心がないとはいえ、リオネスも同じ様に消えた兵力の所在が気になっている筈だ。
それが保身の為なのか、兄王の為なのかはこの際置いておく。
しかし、兄上は僕の指示には従うと言った。
という事は、他に地区があると仮定して遠征に行きたいと言い出した訳では無いという事か?
それとも僕の出方を見て、それを判断しようとしているんだろうか。
コンコンとまた扉からノックの音がしたかと思ったら、返事をする前にゲイリーが中に入ってきた。
「…君は僕の着替えに興味があるんですか?」
「冗談を言ってる余裕があるなら私は必要ありませんね?」
僕はゲイリーをジトリと睨みつける。
「そんな顔をしてもいい案は見つからないでしょうに。ここは私めに任せて頂けますか?」
何故この男はこうもタイミングが良いのだろうか?
僕はそのうちゲイリーに寝首でもかかれるんじゃないかと本気で心配になる。
「何か良い案があると?」
僕の言葉にゲイリーはニヤリとほくそ笑む。
「ええ。雪狐の実力を見ることが出来て、尚且つリオネス様にこの地がいかに過酷で兵士が不足していると信じ込ませることが出来る……と思います」
ゲイリーの自信なさげな最後の一言にガクッと肩を落とす。
「なんです?その曖昧な作戦」
「いえ、リオネス様が冷静さを保っていられたらおそらく見抜かれてしまうので。その辺りは殿下次第ではないでしょうか?」
僕次第?と眉間にしわを寄せ首を傾げる。
「時間もないですし、詳しく話して下さい」
僕の言葉にゲイリーは楽しそうに頷くと詳細を話し始めた。
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