ウイニー王国のワガママ姫
ワガママ同盟 1
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昼食を終えると、テディが用意してくれていた馬に乗って、再び南下を開始した。
昼食後、会計の時に自分の財産を全て野盗に渡してしまった事をすっかり忘れていて、
クロエにこっそりお金を貸して欲しい
と、真っ赤になりながら催促する羽目になった。
するとクロエは、
「いえ、殿下からある程度預かってきましたから、気になさらないで下さい」
といい、サッと支払いを済ませようとしたのだが、
テディがそれを制止して、
「いやいや、僕の所為で財産を手放す事になってしまったのですから、僕が奢ります」
とサッサと会計を済ませてしまった。
自分のワガママでここまで人を振り回したのは、
流石に初めてだったので、いたたまれない気持ちになった。
距離を稼ぐために馬をひたすら走らせる。
テディが用意してくれた馬は、王都側で使用されている馬とは違い、
体高は低いものの、足が長く、速度に優れた馬だった。
その分体への負担も掛かるので、休憩しつつではあったけど、
それでも予定より早く、ダールに辿り着く事が出来た。
日はまだ少し高い位置にある。
ダールは街というより要塞そのもので、緑に囲まれた山の中腹にそれはあった。
金城湯池と唱われるだけあり、
容易に侵入を許さない高い城壁と、複雑な街路が訪れる旅人を拒んでいる。
外壁から街へ入るには、多額の通行料を要求される事になったが、
レイから手渡された手紙を門兵に見せると、慌てたように中に通された。
 中に入ると、その場で待つように言われ、暫くすると1台の馬車が到着した。
「どうぞ」と御者に案内され、乗ってきた馬を降り、3人で馬車に乗りこんだ。
「あの、良いんですかね?僕まで」
と向かいに座るテディは、少し困惑したように尋ねてきた。
「いいんじゃない?テディにはお世話になったし、騎士団に御用があるなら侯爵様に会うのが早いもの」
ね?っと横を見上げると、微妙な顔でクロエに見つめられた。
「姫は少し、警戒心というものを身につけられた方が…」
嘆息をつきながら、諦めたとでも言うような言い方でクロエは言った。
「どうして?テディが侯爵様に何かするとは思えないわ。いっぱい助けて貰ったし、お礼になるかは分からないけど、私に出来ることなら何でもするわ」
私がそう言うと2人はピクッと何かに反応した。
クロエはテディを、じっと無表情のまま見つめ、
テディは、「いやぁ…」と呟いて、ほんのり頬を染めながら窓の外を見ている。
「…ではもし、テディ殿が何処かの…敵国のスパイで、何か国家に関わる機密を集めるために、姫に優しくしていただけ…だったらどうなさるのですか?」
クロエはテディを見つめたまま、私に言葉を投げかけてくる。
テディはというと、慌てたようにブンブンと首を横に振って私に答えた。
この2人、やっぱり仲が良くないのかしら?
「んー?敵国…ってウイニーに今、敵対する国家は無いと思うけど…」
「表面だけで見ていても、腹の中は分かりません。それにもしもの話です」
もしも…ねぇ?
首を傾げながら、「うーん」と腕を組む。
「テディに初めて会った時の状況とか考えても、そんなことする人とは思えないわ。何か思惑があって近づいてくる人の目をしているとは思えないもの」
流石にそれくらいは判るわよ。と、にっこりテディに笑いかける。
するとテディも嬉しそうに、ニコニコ顏で返して来た。
クロエは呆れた顔で私を見ている。
「それに、リン・プ・リエンは一応同盟国だから、何かしでかそうとして、スパイを送って来るなんてあり得ないわ。近隣諸国と均衡が取れてない状態なら疑うけど、今はそんな時勢でもないし…それにスパイだけなら、どの国も抱えている筈だもの。勿論ウイニーもね」
各国の情勢に首を突っ込みたがるのは、どの国も同じと言える。さして珍しい事ではないと私は思う。
問題は情報を手にしてどうやって使うか。なのだ。
私がそう言った後、2人はギョッとした顔で、私に目を瞠った。
…何かおかしいこと言ったカナ?
不安な顔で2人を交互に見ていると、おそるおそるテディが口を開く、
「レティ?どうしてリン・プ・リエンが出てくるんですか?」
私は言葉の意味がよく理解できず、眉を顰めてテディを見る。
「だって、テディってリン・プ・リエンの人でしょ?」
私がそう言うと、テディは表情を一瞬だけ硬くしてからニッコリ笑って、
「何故、そう思ったんです?」
と問いかけてきた。目は笑ってない。
「何故って…だって、テディが昨日歌ってた童謡って、リン・プ・リエンの歌だし…それに時々、独特の訛りがあるわ」
にっこり微笑んで返すと、
ほぉー…っとそれはそれは大きな溜息を2人は吐き出した。
「訛り…ですか。ウイニー語は大分発音も練習したんですが…ショックです」
とテディはガックリ肩を落とした。
「姫はよく人を見ておられるのですね…」
失礼致しました。と何故かクロエに謝られた。
四半刻ほど進むと、馬車が城の前に到着した。
城門をくぐりエントランスの奥へ進むと、目的の侯爵様と夫人がそこに立っていた。
あの晩、ダンスに誘われその手を取った、
白髪の混じった、赤銅色の屈強な中年の紳士。
ーークリストファー・ユハ・リヴェル辺境伯だ。
昼食を終えると、テディが用意してくれていた馬に乗って、再び南下を開始した。
昼食後、会計の時に自分の財産を全て野盗に渡してしまった事をすっかり忘れていて、
クロエにこっそりお金を貸して欲しい
と、真っ赤になりながら催促する羽目になった。
するとクロエは、
「いえ、殿下からある程度預かってきましたから、気になさらないで下さい」
といい、サッと支払いを済ませようとしたのだが、
テディがそれを制止して、
「いやいや、僕の所為で財産を手放す事になってしまったのですから、僕が奢ります」
とサッサと会計を済ませてしまった。
自分のワガママでここまで人を振り回したのは、
流石に初めてだったので、いたたまれない気持ちになった。
距離を稼ぐために馬をひたすら走らせる。
テディが用意してくれた馬は、王都側で使用されている馬とは違い、
体高は低いものの、足が長く、速度に優れた馬だった。
その分体への負担も掛かるので、休憩しつつではあったけど、
それでも予定より早く、ダールに辿り着く事が出来た。
日はまだ少し高い位置にある。
ダールは街というより要塞そのもので、緑に囲まれた山の中腹にそれはあった。
金城湯池と唱われるだけあり、
容易に侵入を許さない高い城壁と、複雑な街路が訪れる旅人を拒んでいる。
外壁から街へ入るには、多額の通行料を要求される事になったが、
レイから手渡された手紙を門兵に見せると、慌てたように中に通された。
 中に入ると、その場で待つように言われ、暫くすると1台の馬車が到着した。
「どうぞ」と御者に案内され、乗ってきた馬を降り、3人で馬車に乗りこんだ。
「あの、良いんですかね?僕まで」
と向かいに座るテディは、少し困惑したように尋ねてきた。
「いいんじゃない?テディにはお世話になったし、騎士団に御用があるなら侯爵様に会うのが早いもの」
ね?っと横を見上げると、微妙な顔でクロエに見つめられた。
「姫は少し、警戒心というものを身につけられた方が…」
嘆息をつきながら、諦めたとでも言うような言い方でクロエは言った。
「どうして?テディが侯爵様に何かするとは思えないわ。いっぱい助けて貰ったし、お礼になるかは分からないけど、私に出来ることなら何でもするわ」
私がそう言うと2人はピクッと何かに反応した。
クロエはテディを、じっと無表情のまま見つめ、
テディは、「いやぁ…」と呟いて、ほんのり頬を染めながら窓の外を見ている。
「…ではもし、テディ殿が何処かの…敵国のスパイで、何か国家に関わる機密を集めるために、姫に優しくしていただけ…だったらどうなさるのですか?」
クロエはテディを見つめたまま、私に言葉を投げかけてくる。
テディはというと、慌てたようにブンブンと首を横に振って私に答えた。
この2人、やっぱり仲が良くないのかしら?
「んー?敵国…ってウイニーに今、敵対する国家は無いと思うけど…」
「表面だけで見ていても、腹の中は分かりません。それにもしもの話です」
もしも…ねぇ?
首を傾げながら、「うーん」と腕を組む。
「テディに初めて会った時の状況とか考えても、そんなことする人とは思えないわ。何か思惑があって近づいてくる人の目をしているとは思えないもの」
流石にそれくらいは判るわよ。と、にっこりテディに笑いかける。
するとテディも嬉しそうに、ニコニコ顏で返して来た。
クロエは呆れた顔で私を見ている。
「それに、リン・プ・リエンは一応同盟国だから、何かしでかそうとして、スパイを送って来るなんてあり得ないわ。近隣諸国と均衡が取れてない状態なら疑うけど、今はそんな時勢でもないし…それにスパイだけなら、どの国も抱えている筈だもの。勿論ウイニーもね」
各国の情勢に首を突っ込みたがるのは、どの国も同じと言える。さして珍しい事ではないと私は思う。
問題は情報を手にしてどうやって使うか。なのだ。
私がそう言った後、2人はギョッとした顔で、私に目を瞠った。
…何かおかしいこと言ったカナ?
不安な顔で2人を交互に見ていると、おそるおそるテディが口を開く、
「レティ?どうしてリン・プ・リエンが出てくるんですか?」
私は言葉の意味がよく理解できず、眉を顰めてテディを見る。
「だって、テディってリン・プ・リエンの人でしょ?」
私がそう言うと、テディは表情を一瞬だけ硬くしてからニッコリ笑って、
「何故、そう思ったんです?」
と問いかけてきた。目は笑ってない。
「何故って…だって、テディが昨日歌ってた童謡って、リン・プ・リエンの歌だし…それに時々、独特の訛りがあるわ」
にっこり微笑んで返すと、
ほぉー…っとそれはそれは大きな溜息を2人は吐き出した。
「訛り…ですか。ウイニー語は大分発音も練習したんですが…ショックです」
とテディはガックリ肩を落とした。
「姫はよく人を見ておられるのですね…」
失礼致しました。と何故かクロエに謝られた。
四半刻ほど進むと、馬車が城の前に到着した。
城門をくぐりエントランスの奥へ進むと、目的の侯爵様と夫人がそこに立っていた。
あの晩、ダンスに誘われその手を取った、
白髪の混じった、赤銅色の屈強な中年の紳士。
ーークリストファー・ユハ・リヴェル辺境伯だ。
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