ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

ワガママの精算 6

 ヒースが去ると、
「助かったあぁ〜」
 と私は思わず、ヘナヘナとその場に座りこんでしまった。


「有難う御座いました」
 とクロエが彼に頭を下げるので、私も慌てて立ち上がり、
「ありがとう!助かりました」
 と助けてくれた男性に頭を下げた。


「いえ、大変でしたね?」
 彼の顔を見れ上げば、くすくす楽しそうに笑っていた。
 あ、今度は本当に笑ってる。


「悪い人じゃないんだけど…あの一家は本当に、勘違いが激しくて…」
 ううう〜と私は頭を抱える。


「そうなんですか?僕が昨日伺った時は、普通でしたが」
 と、彼は不思議そうに言った。


「少なくとも、奥方とヒース様はそうなんです!」
 ぐっと力説して見せる。すると彼は、また楽しそうに笑った。


「よかったら、ご一緒しても宜しいですか?ずっと一人で旅をしていて、食事もいつも一人で味気なくて」
「ええ、もちろん!助けてもらったし、奢ります!いいよね?クロエ」
 私がそう言うと、クロエは黙って頷いた。




 =====




「自己紹介が遅れてしまいました。私は…レティアーナと申します。こっちはクロエ」
 私がそう言うとクロエは軽く会釈をした。


 あれだけの立ち回りをしておいて"ダニエル"と名乗るのもなんか変だなと思い、
 名字は告げず名前だけ名乗った。
 彼は私の名前を聞くと、おや?という顔をしてから、ニッコリ笑って自己紹介した。


「そうですね、申し訳ないのですが、僕は……テディと名乗ることにします」


 なんだか妙な自己紹介だ。私が訝しげにテディを見ていると、
 困ったように彼は言った。


「ちょっと、事情がありまして、名を名乗るわけにはいかないのですよ。あ、テディが気に入らなければ、好きなように呼んでもらって構わないです」


 好きなように、と言われても…と私は困惑する。
「えっと、テディさん?はどうして侯爵様のところへ?」


 彼はお茶を飲みながら、
「テディで結構ですよ」
 と返事をした。


「私は、武器や防具といった物を扱っていまして、様々な国へ赴いては、仕入れたり売ったりしているのですが、たまにこういった軍事施設があるような所に、どのようなものが需要があるのか、領主に直接伺ったりもするんですよ」


 昨日はなかなかいい商談が出来ました。
 とテディはニコニコと答えた。
 へぇー。と私は感心してテディを見た。
 私とあまり変わらなそうな年齢なのに色んな国へ行ってるのか。


「クロエもね、色んな国で武者修行してたのよ!ね?」
 と私が言うと、少々困惑したように、クロエは「ええ…」と答えた。
 言ったらまずかったのかな。


 それを聞いたテディは目を輝かせ、
「素晴らしい!」
 とクロエを見た。


「僕の国は、貴方のような武人が居ないので、なかなか護衛を頼める人がいないのです。レティアーナ様が羨ましい」
 とテディは嘆息を漏らした。


 それを聞いたクロエは喫驚きっきょうし、立ち上がり、
「そんなことはないでしょう!」
 と大きな声を上げた。


 あまりの驚きように、私はクロエを見て驚いた。
「クロエ?」
 と私が呼びかけると、ハッとしてクロエは、
「いえ、すみません」
 と何事もなかったかのように、そっと席についた。
 なんだったのだろうか。


 テディはというと、気にした様子もなく、ハハハっと笑って答えた。


「いや、ほんとに頼める人がいないんですよ。僕はどうも人に縁が無い様で」
 困ってるんですよ。と言うけど、
 顔はニコニコ笑っているので、まったく困った風に見えない。
 よく笑う人だなぁ。


「レティアーナ様達は、どうしてイオドランへ?」
 そう聞かれて「うっ…」と詰まってしまう。


 さっきのヒースとのやり取りで、ある程度私の身分は割れてそうだからなぁ。
 どうしたものか。


 そんな私の様子に気がついたのか、
「あ、無理に教えて頂かなくても結構ですよ。何かご事情があるんですね」
 とテディはあっさり引き下がった。


「ごめんなさい。えっと…テディはこれからどうするの?」
 ホッと息をついて、テディに質問する。


「行き先は特に、決まってはいないのですが…そうですね、南のダールにも騎士団があったと記憶しているので、そこを目指そうかと」


  私は驚いてクロエと目配せする。
 ダールの騎士団が目的地なら、侯爵にも会うだろうし、はてさて…


「どうかしましたか?」
 と不思議そうにテディが訪ねてきた。


「私たちも目的地はダールなの。侯爵様に急ぎの御用があって」
 どうせバレるだろうし、そこは素直に答えることにした。
 するとテディは目を輝かせて、私たちに尋ねる。


「本当ですか?!迷惑でなければご一緒しても?」
 人に縁がないって本当の事なのかな?
 目的地が一緒ってだけでも、すごく嬉しそうだった。


 クロエの方をチラッとみると、目を伏せてお茶を楽しんでいた。
 顔は無表情だけど、意外にも反対している。といった態度は見受けられない。


「ええっと、クロエさえ良ければ、私は別に」
 クロエはチラッとテディを見てから、再び目を伏せる。


「…姫が宜しければ、私も依存ありません」
「んじゃ決まり!ヨロシクねテディ」


 私がそう言って手を差し出すと、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 と、テディは嬉しそうに握手をした。

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