デール帝国の不機嫌な王子
王子の愛執、親子の妄執 2
いい加減この茶番にはウンザリだ。
ライマールはとうとう耐え切れずに声を上げる。
睨めつけてくる無礼な騎士の言葉に親子は一層警戒を強め、トルドヴィンは小さく嘆息をした。
「元から居たとはどういう意味でしょうか? まさか城の者を疑っておいでなのですか?」
「疑うだと? 疑いようがないだろう。動かぬ証拠が浴室にあったというのにまだしらばっくれる気か? いい加減正体を現したらどうだ!」
鬼の形相で立ち上がったライマールに、シルディジア親子は目を見開いて身を竦める。
トルドヴィンは殿下にしてはまぁ耐えた方なのだろうと頭を抱えつつ、立ち上がりはしなかったものの密かに腰の帯剣へと、そっと手を伸ばして警戒体制に入った。
「ま、まさかライム様は私たちをお疑いなのですか? あんまりです!! 私たちにはそのような術など使うことなどできません!!」
「そうですわ! いくら陛下の恩人といえどあまりに無礼ではありませんか! 何の証拠があって私たちをお疑いなのです!」
「ライム殿、恩人と言えど流石に私も叔母を疑われては黙っている訳にはまいりません」
シルディジア夫人に続く様にエイラが凛として立ち上がって言えば、ライマールはギロリとエイラを睨みつけて歩み寄る。
ライマールはその腕を乱暴に掴むと、憎悪を剥き出しにして瞳を金色へ、姿を白へと変化させていった。
その目を見て、エイラだけでなくシルディジア親子は顔を青ざめ硬直する。
それはエイラの形をしたソレが本能的にライマールが何者なのかを正しく理解した瞬間だった。
『証拠がないだと? ではこいつはなんだというんだ。古よりの理を破り、のうのうとここに存在するだけでなく、リータの形まで真似ている。アレを庇いだてするというのであれば容赦はしない』
「あ、あっ……違います! 私は…………私の意思でここにいる訳では…………」
『…神の裁きを』
ライマールが言葉を放った瞬間、掴んでいた腕から真っ黒な"呪"が溢れ、霧散する。
すると青い顔で許しを求めていたエイラは瞬きを止め、人形のように崩れ落ちる。
ライマールはそのままそれを床へと投げ出すと、シルディジア親子へと振り返り言い放った。
『お前が求めていた"証拠"だ。答えろ。リータを何処へやった』
シルディジア親子は顔を青ざめたまま動けずに、ただジッと崩れ落ちたソレを見つめていた。
トルドヴィン警戒しつつも席を立ち、倒れたエイラの方へと歩み寄りその顔を確認する。
「これは……っ!?」
ライマールの足元に横たわっていたのは、エイラと似ても似つかない白髪の老女だった。
額然とするトルドヴィンにライマールは吐き捨てるように言い放つ。
『幻術だ。忌々しい。操られていたならまだ救いようがあったが、こいつの瞳は黒ではなく白い濁りだったからな。そう、お前達と同じだ』
シルディジア親子を睨みながらライマールが言えば、夫人とソルテが真っ青なままワナワナと唇を震わせながら口を開く。
「貴方は……なんなのですか?! 私達はただ取り引きに応じただけですわ!!」
「そ、そうよ!エイラ様さえ手懐けることができれば、またお父様と一緒に暮らせるからって! このまま何も伝えずにまた死ぬなんていやっ!!」
「……あーあ、まさかデールの魔術師がこんな所まで来るとはね。ねぇ、怯えるとかもういいからあいつ殺してよ。女でも二人もいれば何とかできるでしょ? そっちの騎士は僕が何とかするからさぁ?」
不意に、身を寄せ合って訴える母と娘の横から、今まで黙っていたロアがおどおどとした態度を一変して頬杖をつきながら辟易した様子で母と姉に命令をする。
変声期前のあどけない少年の口から発せられたのは無慈悲な言葉だった。
表情は何処か冷たく、その瞳は何も映していないかのように凍りついている。
(やはり、この少年こそがネクロマンサーだったのか!!)
トルドヴィンの半信半疑だった推測が、確信へと変わり剣を静かに引き抜く。
会食際、ただ一人濁った瞳をしていなかった人物はこの少年以外にいなかった。
ライマールもこの部屋に入った瞬間に気付いていたのであろう。
思い返せば始終ロアを睨みつけていたような気がする。
「無理ですわロア様……動きたくても動けないんです。あの者ただの魔術師ではありません。何かもっと大きな逆らってはいけない……そんな気がしてならないんです」
「怖い! こっちに来ないで!! 助けてお母様!!」
戦意を完全に喪失して、ブルブルとソファーの上で震える親子にロアは呆れたような溜息を吐き出す。
「やっぱ女は使えないな〜。まぁ、お前達もうそろそろ限界だったし、いい夢見れただろ? お詫びに解放してやるよ」
「限界……? ロア様? 一体なんの話を……」
「わっかんないかなぁ? もう用済みってことだよ『アヴェノーシュ・ウ・シェアーブ・ラハーン・リル・イ・ソルテ』さ・よ・う・な・ら」
ロアは呪文らしき言葉を口にしながら屈託のない笑顔を浮かべ、ヒラヒラとシルディジア親子に向かって手を振って見せる。
すると何処からともなく真っ黒な炎が現れ、シルディジア夫人とソルテの身体を包み、燃え広がった。
ライマールはとうとう耐え切れずに声を上げる。
睨めつけてくる無礼な騎士の言葉に親子は一層警戒を強め、トルドヴィンは小さく嘆息をした。
「元から居たとはどういう意味でしょうか? まさか城の者を疑っておいでなのですか?」
「疑うだと? 疑いようがないだろう。動かぬ証拠が浴室にあったというのにまだしらばっくれる気か? いい加減正体を現したらどうだ!」
鬼の形相で立ち上がったライマールに、シルディジア親子は目を見開いて身を竦める。
トルドヴィンは殿下にしてはまぁ耐えた方なのだろうと頭を抱えつつ、立ち上がりはしなかったものの密かに腰の帯剣へと、そっと手を伸ばして警戒体制に入った。
「ま、まさかライム様は私たちをお疑いなのですか? あんまりです!! 私たちにはそのような術など使うことなどできません!!」
「そうですわ! いくら陛下の恩人といえどあまりに無礼ではありませんか! 何の証拠があって私たちをお疑いなのです!」
「ライム殿、恩人と言えど流石に私も叔母を疑われては黙っている訳にはまいりません」
シルディジア夫人に続く様にエイラが凛として立ち上がって言えば、ライマールはギロリとエイラを睨みつけて歩み寄る。
ライマールはその腕を乱暴に掴むと、憎悪を剥き出しにして瞳を金色へ、姿を白へと変化させていった。
その目を見て、エイラだけでなくシルディジア親子は顔を青ざめ硬直する。
それはエイラの形をしたソレが本能的にライマールが何者なのかを正しく理解した瞬間だった。
『証拠がないだと? ではこいつはなんだというんだ。古よりの理を破り、のうのうとここに存在するだけでなく、リータの形まで真似ている。アレを庇いだてするというのであれば容赦はしない』
「あ、あっ……違います! 私は…………私の意思でここにいる訳では…………」
『…神の裁きを』
ライマールが言葉を放った瞬間、掴んでいた腕から真っ黒な"呪"が溢れ、霧散する。
すると青い顔で許しを求めていたエイラは瞬きを止め、人形のように崩れ落ちる。
ライマールはそのままそれを床へと投げ出すと、シルディジア親子へと振り返り言い放った。
『お前が求めていた"証拠"だ。答えろ。リータを何処へやった』
シルディジア親子は顔を青ざめたまま動けずに、ただジッと崩れ落ちたソレを見つめていた。
トルドヴィン警戒しつつも席を立ち、倒れたエイラの方へと歩み寄りその顔を確認する。
「これは……っ!?」
ライマールの足元に横たわっていたのは、エイラと似ても似つかない白髪の老女だった。
額然とするトルドヴィンにライマールは吐き捨てるように言い放つ。
『幻術だ。忌々しい。操られていたならまだ救いようがあったが、こいつの瞳は黒ではなく白い濁りだったからな。そう、お前達と同じだ』
シルディジア親子を睨みながらライマールが言えば、夫人とソルテが真っ青なままワナワナと唇を震わせながら口を開く。
「貴方は……なんなのですか?! 私達はただ取り引きに応じただけですわ!!」
「そ、そうよ!エイラ様さえ手懐けることができれば、またお父様と一緒に暮らせるからって! このまま何も伝えずにまた死ぬなんていやっ!!」
「……あーあ、まさかデールの魔術師がこんな所まで来るとはね。ねぇ、怯えるとかもういいからあいつ殺してよ。女でも二人もいれば何とかできるでしょ? そっちの騎士は僕が何とかするからさぁ?」
不意に、身を寄せ合って訴える母と娘の横から、今まで黙っていたロアがおどおどとした態度を一変して頬杖をつきながら辟易した様子で母と姉に命令をする。
変声期前のあどけない少年の口から発せられたのは無慈悲な言葉だった。
表情は何処か冷たく、その瞳は何も映していないかのように凍りついている。
(やはり、この少年こそがネクロマンサーだったのか!!)
トルドヴィンの半信半疑だった推測が、確信へと変わり剣を静かに引き抜く。
会食際、ただ一人濁った瞳をしていなかった人物はこの少年以外にいなかった。
ライマールもこの部屋に入った瞬間に気付いていたのであろう。
思い返せば始終ロアを睨みつけていたような気がする。
「無理ですわロア様……動きたくても動けないんです。あの者ただの魔術師ではありません。何かもっと大きな逆らってはいけない……そんな気がしてならないんです」
「怖い! こっちに来ないで!! 助けてお母様!!」
戦意を完全に喪失して、ブルブルとソファーの上で震える親子にロアは呆れたような溜息を吐き出す。
「やっぱ女は使えないな〜。まぁ、お前達もうそろそろ限界だったし、いい夢見れただろ? お詫びに解放してやるよ」
「限界……? ロア様? 一体なんの話を……」
「わっかんないかなぁ? もう用済みってことだよ『アヴェノーシュ・ウ・シェアーブ・ラハーン・リル・イ・ソルテ』さ・よ・う・な・ら」
ロアは呪文らしき言葉を口にしながら屈託のない笑顔を浮かべ、ヒラヒラとシルディジア親子に向かって手を振って見せる。
すると何処からともなく真っ黒な炎が現れ、シルディジア夫人とソルテの身体を包み、燃え広がった。
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