デール帝国の不機嫌な王子
不器用な思いやり 7
おもいおもいに落ち込む二人をなんとか宥め、落ち着いたところでクロドゥルフは、秘伝のほうじ茶を二人に炊き入れ腰かける。
初代皇帝が広めたと伝わるこのお茶は、先祖の血のせいなのか、バルフ・ラスキン家に生まれた人間は皆このお茶を好んで嗜んだ。
お茶を口に含み、ゴクリと飲み干せば、父子共々ホッと息をつく。そんな二人の様子にクロドゥルフは苦笑しながら、同じようにお茶をすすった。
「すまなかった」
カップをテーブルへ置きながら、ライマールの父である皇帝は改めて呟く。
「お前が誰よりも優しい子であることに、エイラ様に教えられるまで気づくことができなかった。王である前に親であるというのに、お前の抱えている悩みに気づくどころか、沢山辛い思いをさせてしまったな……本当にすまなかった」
「……やめて下さい」
顔を歪ませ、そっぽを向くライマールの姿に、皇帝はまたじわりと涙を滲ませ、慌てて引っ込める。
ライマールはまた瞳の色を金色に変えると、しばらくなにかを探るように瞳を揺らめかせた後、溜息をついて口を開いた。その表情はどこか諦めた様子だった。
「心配することは何もありません。この先クロドゥルフが必ず帝位を継ぎますし、極力迷惑がかからないように努めます」
「ライマール……」
突き放すようにライマールが言えば、皇帝はとうとう言葉を失う。
ここまで頑なに拒まれるほどに、息子との間にできてしまった溝は深かったのだと、改めて思い知らされる。
理解しようとすることさえ、もう許されないのかと皇帝は瞳を揺らし、口を開き掛けた。
しかし皇帝が声を発する前に、ライマールがヤケ気味に口を開いた。
「心配をお掛けしているのは理解しています。俺のやり方が正しいわけではないことも承知の上です」
「せめて事前に相談……」
「無理だ。約束は出来ない。そもそも相談する前に結果は分かっている。正しい事後報告も出来ないことだってある」
「そん……」
「"そんなに父や兄が信用出来ないか?"……ある一点では信頼しています。だからこそ話せないことだってあります。それに家族である前に、皇帝と皇太子だ。知らない方がいいことだってある」
まるで心を読むかのように、先手先手で答えてくるライマールに、皇帝とクロドゥルフは困惑する。
嘲笑気味に二人を見ながら、ライマールの瞳が再び金色に輝く。
何処か悲しそうに二人を見つめてくるライマールの瞳に、父兄は思わず息を飲んだ。
「……心が読めるわけではない。でも、俺がとった行動の後に、父上達がどんな行動を起こすのかくらいは分かるんですよ」
「ライマール、それは一体……」
どんな力なのかと口にしかけて、皇帝は言葉を失う。
ハッキリと告げようとはせずに、言葉の端々に答えが埋まっていることに、皇帝は気がついたのだ。
クロドゥルフも同じように言葉の意味に気がつき、口元を押さえる。
ますますもって青ざめる父と兄の姿に、ライマールは少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「……やはりそうゆう顔をするんだな」
ポツリと呟き、そのまま部屋を出て行こうとするライマールの姿に、ハッとして二人は顔を上げる。
チラリと見えたライマールの横顔が、傷ついたように歪んでいるのを目にし、しまったと思い、声を掛けようと口を開くが、どちらも最早かけるべき言葉も浮かばなかった。
なにか弁解をと思えば思うほどに、また傷つけるだけなのではという思いと、自分達が使う神獣の力よりも、明らかに強い絶対的な力を目にし、本能的に畏怖を感じたのもまた事実だったからだ。
しゅんと気落ちした背中が部屋から出て行くのを茫然と見送った後、皇帝とクロドゥルフは、ただただ後悔するしかなかった。
初代皇帝が広めたと伝わるこのお茶は、先祖の血のせいなのか、バルフ・ラスキン家に生まれた人間は皆このお茶を好んで嗜んだ。
お茶を口に含み、ゴクリと飲み干せば、父子共々ホッと息をつく。そんな二人の様子にクロドゥルフは苦笑しながら、同じようにお茶をすすった。
「すまなかった」
カップをテーブルへ置きながら、ライマールの父である皇帝は改めて呟く。
「お前が誰よりも優しい子であることに、エイラ様に教えられるまで気づくことができなかった。王である前に親であるというのに、お前の抱えている悩みに気づくどころか、沢山辛い思いをさせてしまったな……本当にすまなかった」
「……やめて下さい」
顔を歪ませ、そっぽを向くライマールの姿に、皇帝はまたじわりと涙を滲ませ、慌てて引っ込める。
ライマールはまた瞳の色を金色に変えると、しばらくなにかを探るように瞳を揺らめかせた後、溜息をついて口を開いた。その表情はどこか諦めた様子だった。
「心配することは何もありません。この先クロドゥルフが必ず帝位を継ぎますし、極力迷惑がかからないように努めます」
「ライマール……」
突き放すようにライマールが言えば、皇帝はとうとう言葉を失う。
ここまで頑なに拒まれるほどに、息子との間にできてしまった溝は深かったのだと、改めて思い知らされる。
理解しようとすることさえ、もう許されないのかと皇帝は瞳を揺らし、口を開き掛けた。
しかし皇帝が声を発する前に、ライマールがヤケ気味に口を開いた。
「心配をお掛けしているのは理解しています。俺のやり方が正しいわけではないことも承知の上です」
「せめて事前に相談……」
「無理だ。約束は出来ない。そもそも相談する前に結果は分かっている。正しい事後報告も出来ないことだってある」
「そん……」
「"そんなに父や兄が信用出来ないか?"……ある一点では信頼しています。だからこそ話せないことだってあります。それに家族である前に、皇帝と皇太子だ。知らない方がいいことだってある」
まるで心を読むかのように、先手先手で答えてくるライマールに、皇帝とクロドゥルフは困惑する。
嘲笑気味に二人を見ながら、ライマールの瞳が再び金色に輝く。
何処か悲しそうに二人を見つめてくるライマールの瞳に、父兄は思わず息を飲んだ。
「……心が読めるわけではない。でも、俺がとった行動の後に、父上達がどんな行動を起こすのかくらいは分かるんですよ」
「ライマール、それは一体……」
どんな力なのかと口にしかけて、皇帝は言葉を失う。
ハッキリと告げようとはせずに、言葉の端々に答えが埋まっていることに、皇帝は気がついたのだ。
クロドゥルフも同じように言葉の意味に気がつき、口元を押さえる。
ますますもって青ざめる父と兄の姿に、ライマールは少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「……やはりそうゆう顔をするんだな」
ポツリと呟き、そのまま部屋を出て行こうとするライマールの姿に、ハッとして二人は顔を上げる。
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なにか弁解をと思えば思うほどに、また傷つけるだけなのではという思いと、自分達が使う神獣の力よりも、明らかに強い絶対的な力を目にし、本能的に畏怖を感じたのもまた事実だったからだ。
しゅんと気落ちした背中が部屋から出て行くのを茫然と見送った後、皇帝とクロドゥルフは、ただただ後悔するしかなかった。
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