デール帝国の不機嫌な王子
不器用な思いやり 4
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予想はしていたものの、まずは皇帝とクロドゥルフの謝罪から始まり、エイラがさらに訂正するように謝罪を返すというやり取りが交わされた。
やはりというべきか、どうやらまたライマール自身に非があるという説明がなされていたようだった。
ライマールの気持ちはありがたかったが、やはり溝を深めるべきではないと、エイラは自分が少しはしゃぎ過ぎたせいだと訂正ずる。
皇帝はどこか訝しげに、クロドゥルフは考え込む様に眉を顰めたが、エイラが更に口を開くよりも先に、クロドゥルフが口を開いた。
「失礼を承知でエイラ様に少し伺いたいことがあるのですが、お聞きしても宜しいでしょうか?」
「私にですか? なんでしょう?」
「昔の話を掘り返すのは心苦しいのですが……エイラ様と私との間に婚約の話が持ち上がっていた期間か、もしくはそれ以前にお忍びで帝国に訪問されるような機会はございましたでしょうか?」
思いもよらないクロドゥルフの質問に、エイラはその意味を理解できずにキョトンとしてしまう。
「いいえ、貴国へ訪れたのはこれが初めてですが……」
困惑気味にエイラが答えれば、何故か今度は皇帝が身を乗り出してエイラに詰め寄ってくる。
「それは本当でございますかな? 今は家臣もおりませんし、私に遠慮なさることは無いのですよ? よく思い出して頂きたい。例えば、とても小さな頃にお父君に連れられて来た記憶などありませんかな?」
「父上、それではまるで誘導尋問です」
何処か焦った様子で言う皇帝に、クロドゥルフが半ば苦笑しながらそれを窘めた。
皇帝はハッとして「おお、すまん」と、また椅子に深く座り直す。
何故そこまで必死になってそんな事を聞きたがるのか解らなかったが、エイラはやはり首を横に振って「いいえ、ありません」と答える。
「国外へ訪問となると、成人した人でないと徒歩では不可能ですし、ドラゴンを使用するとなると、国王か皇太子がその場に居なければ不可能です。そのドラゴンにも一定の年齢以上でなければ乗ることは出来ませんし……そもそも父が私をドラゴンに乗せて、貴国へ赴くということ自体あり得ない話です」
丁寧にエイラが答えれば、皇帝もクロドゥルフもまた難しい顔をして「そうですか……そうですよね」と、どちらともなく呟いた。
「では、ライマールが城を抜け出して……?」
「まさか! ありえん! 徒歩で、ドラゴンなしで、どれだけかかると思っているんだ。そんなに長い間城から離れていたら大事になっている! エイラ様も仰ったが、そもそも子供の足であの山を越えるのは不可能だ!」
「しかし……あの子は魔法が使えますし、移動手段など幾らでもあるのでは……」
「お前とエイラ様の婚約期間中、ライマールは何才だったと思っているんだ。余も褒められた親ではないかもしれんが、流石に十にも満たない我が子を、乳母も兵士も付けずにその辺をウロウロさせるような親ではないぞ」
唐突に問答を始めた二人に、ますますエイラは困惑し「あの……?」と声をかける。
すると二人はハッとして、コホンと咳払いをし、「これは失礼を」と謝罪した。
訳の解らないエイラにキチンと説明をと、皇帝が改めてエイラに向き直り、口を開いた。
「じつのところ、今回のうちの愚息とエイラ様の婚約の件に関しまして、どうも腑に落ちない点がありましてな……あのバカ息子……っと失礼。うちの愚息がエイラ様に…その…懸想しているのは、流石に我が子のことなので嘘偽りないことぐらいは、まぁ……なんとなくは判りはするのですが、それが何故なのかがどうも判らなくてですなぁ……」
「実は……エイラ様との最初の謁見の後、私はライマールの元を訪れたんですよ。その時私は、あのライマールの宣言がなにか意図があるのではないかと疑い……本人に直に尋ねたんです」
クロドゥルフの"意図がある"という言葉に、エイラの心臓がドキリと跳ね上がる。
それを必死に隠す様に、エイラは恐る恐る話を促した。
「それで、ライマール様は何と仰ったのですか?」
ライマール自身が考えた策だ。まさかそこで手の内を明かしているということはないであろうが、なにか勘ぐられるようなボロが出てしまったのではないかと、エイラの背中にじんわりと冷や汗が浮かび上がる。
エイラの内心を知ってか知らずか、クロドゥルフはエイラすらも知らなかった予期せぬ事実を、難しい顔つきで、しかしあっさりと口にした。
「うーん……それが、イルミナ……私の妻との話を持ち出されまして、始めは私もその意味が解らず、誤魔化されたと思ったのですが……話を聞けば、どうもエイラ様と婚約したいがためにイルミナを私に押し付け……ううーん。紹介したらしいんですよ。言われてみれば思い当たる節は幾つかありましたし、あの子の行動に納得はできるのですが、流石にそこまでエイラ様のことを想っていたのかと驚きましてね」
いともあっさり衝撃的な真実を告げられ、エイラはこれでもかと言わんばかりに目を見開く。
物心ついた頃からずっとエイラを視て来たと告げたライマールの言葉が、ここに来てようやく現実味を帯び、エイラの心にズシリとのし掛かってきた。
自覚した途端、エイラの顔がボッと火を吹く。
ライマールの言っていたことを信じていなかったわけではないが、当人以外の人間から聞かされた真実は、思いの他、妙に説得力があったのだ。
居た堪れなくなり、そのままエイラが身を竦めて俯けば、年相応の反応をする目の前の女王に、クロドゥルフは思わず苦笑した。
「その後のライマールの態度を見て、それが嘘ではないと私も納得はできたのです。が、ただ……」
と、クロドゥルフはまた思案顔を覗かせる。
「私はあの子にエイラ様の話を聞かせたことはありませんでしたし、それならば何故、どうやってエイラ様のことを知って、いつ好きになったのか? 時が経てば経つほどにそんな疑問が浮かび上がってくるようになりました」
クロドゥルフの疑問にエイラが再び顔を上げれば、皇帝とクロドゥルフは神妙な顔つきでエイラを見つめていた。
予想はしていたものの、まずは皇帝とクロドゥルフの謝罪から始まり、エイラがさらに訂正するように謝罪を返すというやり取りが交わされた。
やはりというべきか、どうやらまたライマール自身に非があるという説明がなされていたようだった。
ライマールの気持ちはありがたかったが、やはり溝を深めるべきではないと、エイラは自分が少しはしゃぎ過ぎたせいだと訂正ずる。
皇帝はどこか訝しげに、クロドゥルフは考え込む様に眉を顰めたが、エイラが更に口を開くよりも先に、クロドゥルフが口を開いた。
「失礼を承知でエイラ様に少し伺いたいことがあるのですが、お聞きしても宜しいでしょうか?」
「私にですか? なんでしょう?」
「昔の話を掘り返すのは心苦しいのですが……エイラ様と私との間に婚約の話が持ち上がっていた期間か、もしくはそれ以前にお忍びで帝国に訪問されるような機会はございましたでしょうか?」
思いもよらないクロドゥルフの質問に、エイラはその意味を理解できずにキョトンとしてしまう。
「いいえ、貴国へ訪れたのはこれが初めてですが……」
困惑気味にエイラが答えれば、何故か今度は皇帝が身を乗り出してエイラに詰め寄ってくる。
「それは本当でございますかな? 今は家臣もおりませんし、私に遠慮なさることは無いのですよ? よく思い出して頂きたい。例えば、とても小さな頃にお父君に連れられて来た記憶などありませんかな?」
「父上、それではまるで誘導尋問です」
何処か焦った様子で言う皇帝に、クロドゥルフが半ば苦笑しながらそれを窘めた。
皇帝はハッとして「おお、すまん」と、また椅子に深く座り直す。
何故そこまで必死になってそんな事を聞きたがるのか解らなかったが、エイラはやはり首を横に振って「いいえ、ありません」と答える。
「国外へ訪問となると、成人した人でないと徒歩では不可能ですし、ドラゴンを使用するとなると、国王か皇太子がその場に居なければ不可能です。そのドラゴンにも一定の年齢以上でなければ乗ることは出来ませんし……そもそも父が私をドラゴンに乗せて、貴国へ赴くということ自体あり得ない話です」
丁寧にエイラが答えれば、皇帝もクロドゥルフもまた難しい顔をして「そうですか……そうですよね」と、どちらともなく呟いた。
「では、ライマールが城を抜け出して……?」
「まさか! ありえん! 徒歩で、ドラゴンなしで、どれだけかかると思っているんだ。そんなに長い間城から離れていたら大事になっている! エイラ様も仰ったが、そもそも子供の足であの山を越えるのは不可能だ!」
「しかし……あの子は魔法が使えますし、移動手段など幾らでもあるのでは……」
「お前とエイラ様の婚約期間中、ライマールは何才だったと思っているんだ。余も褒められた親ではないかもしれんが、流石に十にも満たない我が子を、乳母も兵士も付けずにその辺をウロウロさせるような親ではないぞ」
唐突に問答を始めた二人に、ますますエイラは困惑し「あの……?」と声をかける。
すると二人はハッとして、コホンと咳払いをし、「これは失礼を」と謝罪した。
訳の解らないエイラにキチンと説明をと、皇帝が改めてエイラに向き直り、口を開いた。
「じつのところ、今回のうちの愚息とエイラ様の婚約の件に関しまして、どうも腑に落ちない点がありましてな……あのバカ息子……っと失礼。うちの愚息がエイラ様に…その…懸想しているのは、流石に我が子のことなので嘘偽りないことぐらいは、まぁ……なんとなくは判りはするのですが、それが何故なのかがどうも判らなくてですなぁ……」
「実は……エイラ様との最初の謁見の後、私はライマールの元を訪れたんですよ。その時私は、あのライマールの宣言がなにか意図があるのではないかと疑い……本人に直に尋ねたんです」
クロドゥルフの"意図がある"という言葉に、エイラの心臓がドキリと跳ね上がる。
それを必死に隠す様に、エイラは恐る恐る話を促した。
「それで、ライマール様は何と仰ったのですか?」
ライマール自身が考えた策だ。まさかそこで手の内を明かしているということはないであろうが、なにか勘ぐられるようなボロが出てしまったのではないかと、エイラの背中にじんわりと冷や汗が浮かび上がる。
エイラの内心を知ってか知らずか、クロドゥルフはエイラすらも知らなかった予期せぬ事実を、難しい顔つきで、しかしあっさりと口にした。
「うーん……それが、イルミナ……私の妻との話を持ち出されまして、始めは私もその意味が解らず、誤魔化されたと思ったのですが……話を聞けば、どうもエイラ様と婚約したいがためにイルミナを私に押し付け……ううーん。紹介したらしいんですよ。言われてみれば思い当たる節は幾つかありましたし、あの子の行動に納得はできるのですが、流石にそこまでエイラ様のことを想っていたのかと驚きましてね」
いともあっさり衝撃的な真実を告げられ、エイラはこれでもかと言わんばかりに目を見開く。
物心ついた頃からずっとエイラを視て来たと告げたライマールの言葉が、ここに来てようやく現実味を帯び、エイラの心にズシリとのし掛かってきた。
自覚した途端、エイラの顔がボッと火を吹く。
ライマールの言っていたことを信じていなかったわけではないが、当人以外の人間から聞かされた真実は、思いの他、妙に説得力があったのだ。
居た堪れなくなり、そのままエイラが身を竦めて俯けば、年相応の反応をする目の前の女王に、クロドゥルフは思わず苦笑した。
「その後のライマールの態度を見て、それが嘘ではないと私も納得はできたのです。が、ただ……」
と、クロドゥルフはまた思案顔を覗かせる。
「私はあの子にエイラ様の話を聞かせたことはありませんでしたし、それならば何故、どうやってエイラ様のことを知って、いつ好きになったのか? 時が経てば経つほどにそんな疑問が浮かび上がってくるようになりました」
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