デール帝国の不機嫌な王子
自意識過剰に罰当たり 4
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謁見中にもなんとなく感じ取ってはいたが、アダルベルト以外にも実の父である皇帝や兄であるクロドゥルフとの間にも、ライマールなにかわだかまりを持っているようだ。
三五〇年前の戦争で、デール国内での魔術師の立場はかなり悪くなり、孤立した組織となってしまっていることは聞き及んでいたが、親兄弟との間でもとなると、なにか別の理由があるような気がしてならない。
皇帝は先程、"ツェナ"という名を口にしていたが、それが関係あるのだろうか?
記憶が確かならば、"ツェナ"様は、クロドゥルフ様やライマール様の妹姫に当たる人物だった気がする。
……そういえば、皇后にならんで彼女ともまだ顔を合わせていない。
エイラが自室でそんなことを考えあぐねていると、侍女がエイラを呼ぶ声が聞こえてくる。
寝室の隣にある面会室へと赴けば、城の案内をと迎えに来ていたのは、ライマールではなくやはりメルだった。
とても申し訳なさそうに頭を下げるメルに、エイラは苦笑しながら黙礼を返す。
「すみません。ボクも説得はしたんですが……一度なにか始めるとどうしても周りが見えなくなってしまうんですよ。せめてクロドゥルフ様にお願いすべきでしたよね?」
「いいえ、たった一日でしたが、随分とメルさんとお話ししていなかったように感じますから、私もメルさんに案内して頂けるのは嬉しいです」
おずおずとこちらの機嫌を伺うメルに、エイラが微笑を浮かべれば、メルは照れ臭そうに頭を掻いた。
「でもあの、ホントにライマール様は忙しいんですよ? 決してエイラ様のお相手をしたくないとかそういうわけではなくて……エイラ様が帰るまでに済ませないといけない研究があると仰ってました。その……きっと、なにか対策を練っておられるのだと思います」
メルの弁明にエイラはハッとして息を飲む。
既に対策が練り終わってるなどとは流石に思っていなかったが、ただ、まさか既にライマールがそこまで考えてくれていたと思い至ることができていなかった。
もしかしたら、相談した時から、エイラが及びもつかないくらい様々なことをライマールは考えてくれていたのかもしれない。
今朝の自分の振る舞いはあまりにも身勝手だったのではと、エイラは今頃になって反省した。
「私は……ライマール様に任せきりでなにをしているんでしょうね。今回ほど自分が情けないと思ったことはありません」
「そんな事ないですよ! ボク、エイラ様は凄く頑張っていらっしゃると思いますよ? 本来なら普通の姫君でしたのに、お一人でよくこれまで国を治めてきたなって尊敬します! それに魔法のことは仕方ないですよ。ライマール様の研究って、ボクですら助手としてしか役に立ちませんから」
「そう、なんですか?」
助けてもらった時から二人は腕の立つ魔術師だろうとは思ってはいたが、ライマールがそこまで難しい研究をしているとは思っていなかった。
クロドゥルフが騎士団長ならば魔術団長はライマールなのだろうと予想はしていたが……。
エイラの驚いた反応がよほど嬉しかったのか、メルはどこか誇らしげに頷く。
「そうなんですよ。ああ見えてすごい発見とか、新しい魔法とかいっぱい見つけてるんですよ? 魔法に関しては国内一でしょうね。他国はわかりませんが、ボクとしては世界一と豪語したいですよ!」
えっへんと自分のことのように胸を張るメルの姿が、エイラはなんだか微笑ましく思い、思わずクスリと笑みを漏らす。
彼のような家臣が近くにいたから、彼はきっと今まで頑張ってこれたのだろう。
「ライマール様がそこまで凄い方だとは思いませんでした。……お仕事をしている所にお邪魔してはご迷惑でしょうか?」
どのようなことをしているのか、少し興味が湧いてエイラはメルに尋ねる。
するとどういうわけかポカンと口を開けてエイラを見つめていたメルが、ハッと我に返ってまた慌てて返事を返した。
「そ、そうですねぇ……一通りお城を案内した後で良ければ聞いてみます。大人しくしていれば基本的に無害ですから、大丈夫ですよ、きっと!」
「無害、ですか?」
「ええ無害です!」
キョトンとしてエイラが問えば、また胸を張ってメルが言う。
自分の主人をそのように言うのは、きっとメルさんぐらいだろうと、エイラはそれがおかしくなって、またクスクスと笑い声を漏らす。
「そのような顔もなさるのですねぇ……」
心なしか頬を染めて、メルが感心したようにぽそりと呟く。
エイラはその呟きには気付かないまま、しばらく楽しそうに笑い続けた。
謁見中にもなんとなく感じ取ってはいたが、アダルベルト以外にも実の父である皇帝や兄であるクロドゥルフとの間にも、ライマールなにかわだかまりを持っているようだ。
三五〇年前の戦争で、デール国内での魔術師の立場はかなり悪くなり、孤立した組織となってしまっていることは聞き及んでいたが、親兄弟との間でもとなると、なにか別の理由があるような気がしてならない。
皇帝は先程、"ツェナ"という名を口にしていたが、それが関係あるのだろうか?
記憶が確かならば、"ツェナ"様は、クロドゥルフ様やライマール様の妹姫に当たる人物だった気がする。
……そういえば、皇后にならんで彼女ともまだ顔を合わせていない。
エイラが自室でそんなことを考えあぐねていると、侍女がエイラを呼ぶ声が聞こえてくる。
寝室の隣にある面会室へと赴けば、城の案内をと迎えに来ていたのは、ライマールではなくやはりメルだった。
とても申し訳なさそうに頭を下げるメルに、エイラは苦笑しながら黙礼を返す。
「すみません。ボクも説得はしたんですが……一度なにか始めるとどうしても周りが見えなくなってしまうんですよ。せめてクロドゥルフ様にお願いすべきでしたよね?」
「いいえ、たった一日でしたが、随分とメルさんとお話ししていなかったように感じますから、私もメルさんに案内して頂けるのは嬉しいです」
おずおずとこちらの機嫌を伺うメルに、エイラが微笑を浮かべれば、メルは照れ臭そうに頭を掻いた。
「でもあの、ホントにライマール様は忙しいんですよ? 決してエイラ様のお相手をしたくないとかそういうわけではなくて……エイラ様が帰るまでに済ませないといけない研究があると仰ってました。その……きっと、なにか対策を練っておられるのだと思います」
メルの弁明にエイラはハッとして息を飲む。
既に対策が練り終わってるなどとは流石に思っていなかったが、ただ、まさか既にライマールがそこまで考えてくれていたと思い至ることができていなかった。
もしかしたら、相談した時から、エイラが及びもつかないくらい様々なことをライマールは考えてくれていたのかもしれない。
今朝の自分の振る舞いはあまりにも身勝手だったのではと、エイラは今頃になって反省した。
「私は……ライマール様に任せきりでなにをしているんでしょうね。今回ほど自分が情けないと思ったことはありません」
「そんな事ないですよ! ボク、エイラ様は凄く頑張っていらっしゃると思いますよ? 本来なら普通の姫君でしたのに、お一人でよくこれまで国を治めてきたなって尊敬します! それに魔法のことは仕方ないですよ。ライマール様の研究って、ボクですら助手としてしか役に立ちませんから」
「そう、なんですか?」
助けてもらった時から二人は腕の立つ魔術師だろうとは思ってはいたが、ライマールがそこまで難しい研究をしているとは思っていなかった。
クロドゥルフが騎士団長ならば魔術団長はライマールなのだろうと予想はしていたが……。
エイラの驚いた反応がよほど嬉しかったのか、メルはどこか誇らしげに頷く。
「そうなんですよ。ああ見えてすごい発見とか、新しい魔法とかいっぱい見つけてるんですよ? 魔法に関しては国内一でしょうね。他国はわかりませんが、ボクとしては世界一と豪語したいですよ!」
えっへんと自分のことのように胸を張るメルの姿が、エイラはなんだか微笑ましく思い、思わずクスリと笑みを漏らす。
彼のような家臣が近くにいたから、彼はきっと今まで頑張ってこれたのだろう。
「ライマール様がそこまで凄い方だとは思いませんでした。……お仕事をしている所にお邪魔してはご迷惑でしょうか?」
どのようなことをしているのか、少し興味が湧いてエイラはメルに尋ねる。
するとどういうわけかポカンと口を開けてエイラを見つめていたメルが、ハッと我に返ってまた慌てて返事を返した。
「そ、そうですねぇ……一通りお城を案内した後で良ければ聞いてみます。大人しくしていれば基本的に無害ですから、大丈夫ですよ、きっと!」
「無害、ですか?」
「ええ無害です!」
キョトンとしてエイラが問えば、また胸を張ってメルが言う。
自分の主人をそのように言うのは、きっとメルさんぐらいだろうと、エイラはそれがおかしくなって、またクスクスと笑い声を漏らす。
「そのような顔もなさるのですねぇ……」
心なしか頬を染めて、メルが感心したようにぽそりと呟く。
エイラはその呟きには気付かないまま、しばらく楽しそうに笑い続けた。
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